五十七話 激戦・魔竜王との死闘
2021/02/05 17:50 修正
休憩中、突然魔素を感知した。
なんだ? うへぇ、でか、巨大な魔素の塊が来る――。
あ、あれは、ぬぉぉ、で、でけぇぇぇぇ。
野営陣を覆い尽くすように巨大な竜が出現していた。
頭部にある紅色に輝くトサカが不気味に光を発している。その下にある強烈な怒気を発している猛禽類のような一対の冷えた蒼い眼。
全身を紫色の鱗が覆い、ワイバーンを二、三体合体させたぐらいある巨大な竜。
ダイダロスより大きいあれが魔竜王バルドークか。
「キッシュッ、アゾーラッ、起きろっ」
俺が警告している最中にも、魔竜王は二本の前足に生えた巨大な鉤爪を振り回し、兵士たちが寝ているテントや荷車を一瞬にして潰す。
そのまま背を伸ばしたかと思うと、鋭そうな牙が目立つ大きな口を広げ雄叫びをあげた。
――空気が弾けるような轟々とした地響きと振動が起きる。
雄叫びを終えた魔竜王は前脚を下ろし、四肢をくねらせながら四つ脚で突進してきた。鉤爪の生えた巨大な脚で踏みつけられた地面にひびが走る。
尋常ではない速度で走る魔竜王に対して、勇気ある青い鎧の騎士が迎え討とうとするが、魔竜王の鉤爪にあっさりと貫かれた。
太く長い鉤爪が金属の胸当てを突き破って背中にまで達している。
魔竜王は獲物を自慢するかのように貫いた騎士を高々と持ち上げた。騎士の体からは血が止め処なく流れ、篝火に落ちて火花が散る。
更に、魔竜王は絶命した騎士を周りの兵士たちを巻き込むように荷車へ投げ捨てた。
魔竜王は嗤うように大きな口を広げる。
口の奥に大きな口蓋垂が見え隠れしていた。
また、雄叫びかと思ったが……。
口の中にエネルギーが溜まった? その瞬間、中から溶鉱炉のような光と火花が混じった燐光を起こす。燐光は口の前で大きく成長し、火焔の巨大球体となった。
尾獣玉かよっ。巨大火球を連続で撃ち放ってくる。
「竜、魔竜王が出たぞぉぉぉぉ」「強襲だ」「うあああああぁぁ」「火の玉だッ」「ひぃぃあぁぁ」「でけぇぇぇぇぇぇ」
連続の火球が野営地を火の海に変えた。
青鉄騎士団の面々や冒険者たちは口々に叫び逃げ惑う。
魔竜王の急襲で完全に混乱していた。
グリフォン部隊の面々が素早く反撃に転じているが、魔竜王は意に介さず、巨大な尻尾を振るい、地上にいる兵士や冒険者たちを薙ぎ払っている。
――こちらにも来た。
あまりにも速い、キッシュは盾を構えている。
アゾーラはパウに乗って後方に下がっていた。
俺は黒猫を肩に乗せた状態で<鎖>を反対側へ射出――脱出した。
巨大な尻尾はキッシュを含め多数の冒険者たちを飲み込んでいく。
「キッシュッ!」
叫ぶが間に合わない……。
そこで、魔竜王の下に魔法陣が発生――。
あれは紅虎の、ルシェルの麻痺魔法っ。
魔竜王は光の筋に捕らえられ動きが止まる。チャンスと見た冒険者たちが一斉に魔竜王バルドークへ攻撃を加えていく。
サラだ。ブッチの姿も見えた。
それぞれ魔竜王の脚に斬撃と衝撃を与えた。
ヒット&アウェイの動きを繰り返している。
続いて、重低音を轟かせる爆炎が魔竜王を包んだ。
上空にいるグリフォン部隊からだ。
絨毯爆撃のような火炎爆発。
上級魔法だろうか。
その間にキッシュを探す。
「おいッ、キッシュッ! どこだ!」
魔竜王の凄まじい攻撃を物語る、
瓦礫や多数の兵士たちの亡骸があった。
が、キッシュの姿は見えなかった。
すると、アゾーラを乗せたパウが駆けよってくる。
「キッシュさんはっ」
俺は黙って頭を左右に振った。
「そうですか……」
今はあの魔竜王を倒す――。
俺は……怒りの沈黙を続けながら……。
黒猫へと視線を送る。
頷くと、黒猫は肩から降りた。
相棒も怒りを顕わにするように毛を逆立てながら――。
姿を少し大きくした。
そうして魔竜王に突っ込もうとした時、
「――待ってください。魔法をかけます」
アゾーラに止められた。
あの魔法か。
「わかった、頼む」
と返した。
――アゾーラに注目する。
アゾーラの白い兎耳がぴくぴくっと動く。
長くて白い睫毛が目立つ茶色い目は一点を見つめている。
集中しているようだ。
大きなタラコ唇から詠唱文が紡がれていった。
「風の精霊ロード・オブ・ウィンドよ。我が魔力を糧に風の衣をここに示し……現れよ――《風の疾駆》!」
アゾーラの周りに薄い雲のような物が発生。
その雲が螺旋の動きを繰り返し、白い靄となって俺に纏わりついてきた。
黒猫にも纏わりついている。
これが回避と速度アップ効果のある魔法。
それにしても、他人が使う言語魔法の詠唱をフルで聞くのは初めてかも。
「ありがと、突っ込む」
「はい、パウも行かせます」
「ガフゥッ」
パウは鋼の爪を伸ばし、口を広げて嗤ったように見えた。
臨戦態勢といった感じだ。
魔竜王はグリフォン部隊、青鉄騎士団、冒険者たちから多数の魔法や物理攻撃を受けながらも、鱗には一切の傷がついていなかった。
ただ一つ、紅虎の嵐のルシェルが使用した敵を麻痺させる魔法だけが効いている。
しかし、これも一時的に動きを止めているに過ぎない。
その魔法も効果が切れたのか、動きを止めていた魔竜王は麻痺から回復すると、怒りの咆哮と同時に反撃に出た。
魔竜王は両前脚から鋭そうな鉤爪を何本も生やしている。
その前脚を引っ掻くように動かして空へと振り回した。
空に舞うグリフォン部隊を蝿のように打ち落としていく。
あの鉤爪、一つ一つがロングソードのようだ。
俺はタイミングを見計らい、一気に間合いを詰めて、魔竜王の足目掛けて薙ぎ払うが――ガァンッと、今まで味わったことのない硬質な感触。
か、かたすぎるだろ。
古代竜の鱗はとんでもない硬さを誇る鱗だった。
黒猫も触手を伸ばし骨剣を突き刺そうとするが、当然のように弾かれている。
鎧将蟻の甲殻にさえ弾かれたんだ、しょうがない。
確実に鎧将蟻よりも硬い、これ……タングステンかよ。
だが諦めない。魔竜王バルドークの脚を何回も薙ぎ払う――硬質な音が響き腕が痺れる。
タンザの槍が全く通用しない――硬すぎる。
パウも鋼鉄の爪で反対側の脚を攻撃していたが、紫の火花を散らすだけで全く通じていない。
それなら、魔竜王の背後、下っ腹ならどうだ?
俺はそう考え、魔脚で内腹へ潜り込んだ。
尻尾の根本、魔竜王の臀部へ向けて<刺突>を撃ち放つ。
――が、またも硬質な感触。
――全く通じなかった。
しかも、まじか……タンザの槍の穂先が少し変形していた。
あれほどの強度を誇ったタンザの槍が……。
糞がっ、なら、最強の技を放つ!
――<闇穿・魔壊槍>を発動。
<闇穿>で黒槍の穂先は更に曲がってしまう。
チッ、だめか。
と思ったら、召喚された壊槍グラドパルスは紫の鱗を削るどころか鱗を突き抜け内腹に深々と食い込んでいった。
紫の血肉を捻り飛ばすように外へ散らす。
おおおおおおおぉぉぉっ、すげぇ、やった! 効いた!!
紫の血がシャワーのように噴出。
「ニャャッ!」
黒猫がそんな俺に向けて、珍しく注意を呼び掛けるように強声を発し、俺に向けて強烈な体当たりをした後、触手を右端の地面に突き刺して移動して離れていく。
どうした? んぁ、しまった――。
気付いた時には魔竜王の太い尻尾の反撃を喰らっていた。
槍で衝撃を殺そうとするが、タンザの槍は完全に折れ曲がってしまい、手から飛んでいってしまう。
俺も衝撃で吹っ飛ばされしまった。
後方の瓦礫を打ち倒しながら、もんどり打って横転を繰り返す。
木片や鉄屑が身体に突き刺さり、背曩もちぎれ、中身もろともどこかへ飛んでいく。懐からは使わなかったスクロールが飛んでいった。
――途中から<導想魔手>を発動。
歪な魔力の手で包むように体を支えて、<鎖>を地面に突き刺し、威力を減退させてようやく止まった。
いっ、いてぇぇぇ、痛い、痛い。痛い。
ひさびさに体の至るところから出血している。
新品だった鎧が傷だらけになって穴も空いてしまった。
足が捻れ曲がって、腰も変な方向に曲がっている。肋骨、腕、足も折れたか……。
体に刺さった木片と鉄屑を引き抜いていく。
再生に時間がかかりそうだ。
……時間が惜しいのに、ふぅ……。
尻尾の反撃を繰り出してきた魔竜王へ視線を戻す。
そこではパウがドレイクを殺ったように魔竜王の前脚に向けて突進していた。
パウの全体重が乗った攻撃は魔竜王の鱗を削り取るような勢いだ。それは物凄い衝撃を伴う熾烈な連撃。
絶え間なく両熊手に装備された鋼の爪でアッパーカットやフックの攻撃を行っている。
鋼の爪が紫の鱗にぶつかるたびに紫の火花を散らしていた。
太い熊手のアッパー、なんかシュールだ。
イグナイトファング?
だが、俺のその冗談めいた感想など、すぐに吹き飛んだ。
魔竜王には全く効いていない。
パウの攻撃は一切通じていなかった。
そこにアゾーラも加わる。
右手に握られた長槍で突きを放つが、同じように鱗に弾かれていた。そんなアゾーラへ向けて、魔竜王は頭の紅い鶏冠を当てようとしているのか、亀が甲羅から伸ばすように首を伸ばしていた。
「アゾーラ――離れろっ」
俺の声は届かない。
――そんなアゾーラを庇うようにパウがアゾーラに体当たり。
アゾーラはパウに助けられる形で横に飛ばされ、腰に付けていたアクセサリーの兎の尻尾が宙に舞う。
白熊パウは魔竜王の頭にある紅角鶏冠に噛みつき、巨大角の攻撃を一匹の熊の口で防いでいた。
凄い、体格差でいったら倍以上だぞ。
しかし、魔竜王の攻撃を上手く防いだかに見えたが……煙が、熊の口周りから発生している。
白熊パウは苦しいのか身悶えるように呻き声を出していた。
やべぇ、やべぇぞ。
やがて、白熊パウの口が焼け爛れて上半身の白毛が燃えだしてしまう。
魔竜王パルドークの一対の蒼い眼は、キラリと光る。
ゴミでも踏み潰すかのように巨右足の爪を前へ、突き出していた。
――ロングソードのような鉤爪が踏ん張る白熊パウの胴体を、深く、深く貫く。
白熊は赤く染まり……魔竜王はそのまま鉤爪を左に引っ掛けるように動かし、白熊の体を引き裂いてしまった。
熊の胴体は半分になり左右へ分かたれていく。
アゾーラは立ち上がり、悲鳴もあげられずに転がっていくパウを見つめていた。
その隙は致命的だ。
「アゾーラッ、逃げろ!!」
だが、俺の声は届かない。
足が曲がり、傷が塞がっていないが、構わない。
<脳脊魔速>を発動――。
全身から凄まじい痛みと血が流れ出るが、走る。
まにあっええええええええぇぇ
だが――魔竜王が短く咆哮。
上空に蒼眼を向けていた。
そのまま、魔竜王は巨体に見合わない、俺の切り札よりは遅いが異常な速度を出して前進。
地を這う巨躯。
三秒経過――。
アゾーラが目の前にっ――腕を伸ばす。
アゾーラの虚ろな目と目が合った瞬間――魔竜王の爪が目の前を通り過ぎていった。
アゾーラの首がスパッと斬られていく。
兎耳の生えた四角い顔が、空中に舞っている……。
魔竜王はもうアゾーラのことなど眼中に無いようで、上空から魔法攻撃を繰り出しているグリフォンに鉤爪を突き刺し、仕留めていた。
刺されたグリフォンは乗っていた騎士と共に墜落。
――間に合わなかった。
「う――」
まじかよ、アゾーラ……うっぷ。
胃の中が動いて吐き気が。
どうやら、俺もまだまだ人間だったらしい。
少しの期間とはいえ、共に戦ってきた仲間の死は胃にくるものがあった。
いくら人を殺そうが、今までこんなことはなかったのに、親しい知り合いの死を間近で見るのは違うようだ。
気付けば周りに残っているのはグリフォン部隊数十騎と青鉄騎士団数百名に、冒険者も少数になっていた。
俺はアゾーラが落とした兎の尻尾を拾い、即座に魔竜王から距離を保った。
こりゃ、感傷に浸る暇なぞない。
口の中は血と逆流した胃の内容物の臭いが充満していた。
そこに黒猫が走って戻ってくる。
怪我はない。魔竜王の攻撃を上手く躱せたようだ。
すまねぇな。先ほどは助けようと体当たりをしてまで、俺を助けようとしてくれた。
俺の体重が重くて意味が無かったが……。
相棒は俺が不死身な事は分かっているはずなのに助けようとしてくれた。そんなことは今まで一度も無い。
それほどに相手は強いと言うこと。
つえぇな、あの糞魔竜。
そんな糞魔竜相手に、グリフォン部隊が頑張っている。
少し様子を見るか。
撤退も可能なはずだが、セシリーさんを中心としたグリフォン部隊は撤退はしないらしい。
上空から魔竜王バルドークに攻撃を加えては退いての牽制をずっと繰り返している。
地上の部隊は……。
撤退……できそうもないな。
地上部隊は逃げられそうもなかった。
後ろに退こうにも魔竜王の尻尾や鉤爪の攻撃がそれを防ぐように行動してくる。
急襲に加えて、逃がさないようにか。
あいつは知能があるのだろう。
魔女サジハリさんの言葉が甦る。
性格は獰猛で勇猛貪欲そのモノだろう。
あれほどの強さを誇った冒険者たちがゴミのように死んでいく。
紅虎のメンバーが誰一人死んでいなかったのが救いか。
他にも、背が小さい魔法使いの二人組は生き残っている。
前の緊急依頼の時に一緒になった竜殺しの斧を持つドワーフ戦士が率いる戦士団も生き残っているようだ。
どうやら、あの辺りに居る一部の冒険者たちは協力して動いているようだな。
そこに、冒険者たちの反対側にいた兵士たちの中から声が響く。
「――この、ガーネス・ブロガインッ、撤退もままならぬならば、一太刀いれてやるっ! 突撃のみだ!! 皆、青鉄騎兵団の誇りっ、日頃の訓練を思い出せっ! 鋭鬼隊、我に続けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その隊長であるガーネスの必死めいた言葉が届いたのか、魔竜王バルドークが頭を動かし青鎧の兵士たちへ凶悪な顔を向ける。
一対の蒼眼がギョロりと動き、兵士の集団を捉えた。
鋭鬼隊の面々は迫力ある魔竜王の動きをみても、怯まずに吶喊。
それぞれに武器を掲げて、凶悪な魔竜王に立ち向かっていく。
魔竜王は勇気ある兵士たちの行動を嘲嗤うように口を広げると、吠えた。
――ゴォォォォっとした空気が振動する声が響く。
耳をつんざく高音へ変化して轟くと兵士たちは次々と耳から出血し、片膝をついたり、耳を押さえて動けなくなっていた。
あんな鼓膜、脳へダメージを与える攻撃もあるのかよ。
それと同時に魔竜王は蒼眼を光らせる。
一対の巨大な瞳から蒼い光線を発した。
蒼い光線は動けない兵士たちに命中していく。
兵士たちは次々と凍り、動かぬ氷の彫像と化していく。
そして魔竜王は前脚を薙ぎ払う――。
凍っている兵士たちに鉤爪や足の鱗が衝突。その場で粉々になるか、強大な重機にぶつかったように肉片になって撥ね飛ばされていった。
蟻が象に潰されるようにあっけなく殺されていく。
そんな兵士たちの中には指揮官のガーネスも含まれる。
そんな悲惨な状況下で、一筋の光が地面から灯った。
――仲間の魔法だ。
ルシェルの魔法が発動した。
魔法陣が敷かれて、魔竜王は光の檻に囚われている。
これで二度動きを止めたことになるな。
攻撃力はないが、あの魔法は現時点で最高戦力なのは間違いない。
好機とみたグリフォン部隊数騎が一斉に急降下。
ダイダロスを一刀両断したように騎士たちが攻撃を加えていく。
連携が取れているのはグリフォン隊と一部の冒険者のみとはな……しかし、グリフォン隊が織り成す光景はカッコいい。
「流石だ、緑の流星連武」
近くで生き残っていた兵士がそう呟く。
スキルか渾名か、確かにそんな感じだ。
大剣の重力を生かした一撃。
しかし、ダイダロスの首をあっさり切り落とした大剣使いの攻撃は魔竜王には効かなかった。
鱗を削ることには成功していたが、肉には至らず。
グリフォン部隊もダメか……と思いかけた時、
次の騎士の攻撃は違った。
――あの魔剣を持つ騎士。
セシリー・ファダッソだ。
その一撃は魔竜王の腕の鱗を削り、紫の肉を斬っていた。
紫色の鮮血が周囲に散る。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」」
その一撃を見た他の兵士や冒険者たちが唸るような重低音の雄叫びを響かせる。
士気が上がった兵士や冒険者たちが次々と声をあげて斬りかかっていく。
おっ、あのドワーフもやるな。
名前は完全に失念したが。
斧の攻撃により魔竜王の左の胴体の鱗を削り取り、紫の血を噴出させていた。
竜殺しの斧か。確かに竜特効なのだろう。
そこに、二本の極太の螺旋した氷柱が魔竜王の翼に直撃。
魔竜王は翼が凍り付き、直撃した部分が白くなって吹雪が吹き荒れたようになっている。
その螺旋氷柱の魔法を放ったのは誰だろう。
二本の太い螺旋氷柱は空中に生えた巨樹のように枝が幾つも繋がっているので、その氷の巨樹を辿る。
氷の巨樹の根本にいたのは二人の子供。
二人組の背の小さい魔法使いが放った大魔法か。
王級、皇級か、規模は分からないが、際立つ魔法であることに変わりはない。
その魔竜王の凍った部位にサラの紅い毛が目立つ巨大化した腕に握られた巨大剣による二連撃がヒットしていた。
凍っていた部位は大きく凹み、鱗が潰れて紫の肉を見せている。
凍った部位はカチカチと割れるように音がなり、氷が剥がれていった。
傷を受けた魔竜王は痛がりもしない。
あんな強力無比な攻撃を喰らってもたいした事がないようだ。
硬いの一言。
俺はそんな魔竜王を一瞥し、黒猫に厳しい目線を向けて、
「ロロ、俺のことはよく分かってるな? ここからは俺一人で突っ込むから、今は牽制、逃げに徹してろ」
「にゃっ」
黒猫は軽く返事をして距離をとった。
魔法陣を発動させる。
あの<古代魔法>なら効くかもしれない。
魔力を指に纏わせ急いで構築していく。
今は基本的なことだけで、余り弄らない。
急ぎながらもミスが無いように魔法陣を描く。
基本である黒き塊の魔法陣を完成させた。
――魔竜王め、喰らえっ!
「 《闇弾》 !!」
俺は叫ぶように発動させる。
魔法陣へ魔力が吸い取られる感覚を得ながらも、その魔法陣から歪な黒い塊が出現。
黒い塊は魔竜王の胴体へ飛翔していく。
ところが、魔竜王はその塊へ向けて紅い鶏冠を向けて頭から突進。
黒い塊を紅い鶏冠でぶった斬った……俺の<古代魔法>を両断しやがった。
マジで?
俺は気を取り直すように、魔竜王へ向けて<鎖>を射出。
<鎖>を斜めに少し弧を描くように飛ばしていく。
クソッ、魔竜王の頭を直接狙うが、器用に避けやがる。
しょうがない、魔竜王の大きい背中を狙う。
魔竜王は流石に避けきれず、<鎖>の先端が背中に突き刺さった。
感触から鱗を突き破り、肉に到達していると分かる。
よし、刃は効きにくいが、鎧将蟻同様、やはりこの特別な<鎖>なら通用する。
魔法でダメなら直接やるしかねぇっ。槍がなくとも意地だ。
<導想魔手>を発動して、魔剣ビートゥを左手に出現させる。
「この、糞魔竜がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
怒りを込めながら叫ぶ。
<鎖>を左手の<鎖の因子>のマークへ収斂させて、一気に魔竜王の背中へ飛び乗った。
皆、その場にいた冒険者とグリフォン騎士たちは唖然とした表情で俺を見る。
そんな視線なぞ構わずに、魔竜王の紫の鱗に魔剣を振り下ろしていく。
両手に持ち変え勢いをつけて叩きつける――硬質な音がして刃が跳ね返される。くそ硬いが、かまわねぇ、何回でも何回でもっ、<魔闘術>で腕を強化し、みんな、キッシュを、ころしやがってぇぇぇぇぇっ、ガンッガンッ! と怒りを込めた魔剣ビートゥを撃ち込んでいった。
しかし、びくともしない……。
剣は槍と違い、<闇穿・魔壊槍>のような特別なスキルがない……。
俺の剣では通用しない。
そうこうしてる内に、麻痺魔法が切れて魔竜王が動き出してしまった。
一斉にその場から離れていく冒険者たち。
俺は構わず、撃ち込んだ<鎖>を支えに魔剣を撃ち込んでいく。
<導想魔手>も使う。
透明な拳による打撃も同時に撃ち込んでいくが、紫の鱗が軋む音を立てるだけで、まるで効いてない。
そんな攻撃を繰り返していた時、
魔竜王は俺が背中に居るのに気付いたらしい。
頭をぐるりと回し、口を広げて噛み付いてきた。
げぇ、背中だぞ?
――そんなに首が柔らかいのかよっ。
魔竜王バルドークの大きな口が迫り、喰われてしまった。
臭い乱杭歯に咀嚼される。
い、いてェ、イテェェェェェェ、いたいいたいいたい、痛すぎるっ。
糞が、やり返す。
魔剣を魔竜王の口の中に突き刺し、舌に穴をあけてやった。
ここは柔らかい。
だが、俺の体の至るところに牙が突き刺さり、血が噴出している。
痛くて痛くて仕方ねぇが――。
痛いのは魔竜王も同じなのか、呻くように口蓋垂を震わせて頭を揺らし続けていた。
強引に俺の体を噛み続けて、血が噴出している穴だらけの舌を使い、俺を強引に喉へ押し込んでくる。
舌と唾に巻き込まれて飲み込まれてしまった。
噛まれ飲み込まれても、魔剣は離さない。
鮮血が迸る中、痛みに耐えていた。
俺は死ねないし、死なない体、
「――不死なんだよっ!!」
強く叫び――魔剣を降り下ろす。
食道の中を切り裂いて、また魔剣を振るう――。
ははは、内部は切り刻み放題だ。
喉元を切り裂きながらも、蠕動運動で胃に運ばれていった。
胃の中に突入だ。
ぐつぐつ、じゅあじゅあと何かが溶ける音が響く。
胃の中は酸の沼だった。
強烈な胃酸のせいか、鼻腔が焼けつくほどの異臭が漂っている。
胃酸の沼の底には、肉片、骨片、鉄屑、木片やら何やらが、沢山転がっていた。
ん、肉の溶ける臭い?
「げっ、ぐあぁっ、足がぁ、があああっ、いてぇぇぇェッ!」
ゾルの家で手に入れ履いていた魔法の靴は完全に溶けていた。
足が焼かれていく痛みが全身を駆け抜ける。
手、腹にも酸が掛かっていた。
いてぇぇ、痛すぎるっ、足が爛れ焼けていくのは嫌過ぎる。
血が噴出しては再生を繰り返している状態だ。
胴体にも胃酸を浴びて、新品だった鎧は牙で穴が空き、擦り切れて完全にボロボロ……師匠のジャケットの一部とボンのエンチャントが掛かった場所だけが無事だった。
それより、いくら俺の不死身の肉体とはいえ危険すぎる、全身穴だらけで、胃酸により、足、腹、手の肉が溶け、骨が見えているし。
だが、俺の身体は再生も速い。
あちこちで大量の血を噴出させながらも回復していく。
いてぇ、身体中がいてぇが……ここは最大のチャンスだ。
物凄い激痛だが……我慢はできる。
さて、魔竜王よ、逆にお前は何処まで痛みに耐えられるかな?
俺は邪悪な笑みを浮かべながら、あるスキルを発動した。
――<血鎖の饗宴>。
全身にある傷口から絶賛噴出中の血が、一斉に血鎖へ変質。
俺はスキル発動と同時に全身から放出されている血鎖により、自然と胃の中で浮かんでいた。両腕両足を広げの大の字に、身体のあちこちから三百六十度に無数の血鎖が針鼠の針の如く伸びている。
全身から放出された血鎖が魔竜王の胃袋を食べるように四方八方へ駆け巡り、大きな穴を複数作り上げていた。
――胃を削り取ってやろう。
一瞬で魔竜王の胃をめちゃくちゃに破壊。
外からは魔竜王の悲鳴の雄叫びが聞こえていた。
「どうだ魔竜王っ、痛いだろうっ!! お前が、お前がっ、糞がっ」
胃袋の中で叫ぶ。
そこでアゾーラとキッシュの笑顔が過る。
愛嬌のあるアゾーラ、透明感のあるキッシュ。
――済まない、俺がもっと速く食われていれば……。
最初から上手い具合に俺が食われていれば、結果は変わっていただろうに。
だが、自己憐憫したところで時間は戻らない。
と言うことで、魔竜王よ。仲間、好きな女である友の仇は取らせてもらう。
「死ね――」
無数の血鎖によって胃を完全に破壊。
胃から飛び出た血鎖の群れは、内臓を侵食するウィルスのように各所へ突き進む。
俺自身は魔剣ビートゥを握り、魔剣を振るい――破れた胃を突き斬り、肉という肉を切り刻んで胸の位置へ目指した。自らの口でも、紫肉に噛みつき血肉を食べながら、血をどっぷりと飲み込む。
そのせいか体は完全回復。
血鎖も消失してしまう。だが、血鎖によって魔竜王の内臓という内臓に大穴が空いているし、致命的だろう。
更に、心臓と見られる巨大な臓器を発見。
その心臓へ魔剣を突き刺し、紫の血を噴出させる。
噴出した血をごくごくと飲みながら、頭を魔竜王の心臓へ突っ込み、むしゃむしゃと直接心臓を食ってやった。
プハァァァッ、血が滾るっ、うめぇぜ!
※ピコーン※称号:古竜ヲ食イ滅セシ者を獲得※
※神獣ヲ従エシ者と古竜ヲ食滅セシ者が統合サレ変化します※
※称号:超越者を獲得※
おぉ、称号をゲット。
んじゃ、そろそろ戻るか。
心臓を食い潰した後は、食道まで適当に斬りつけながら戻っていく。
食道に戻ると、そこで<導想魔手>を発動。
歪な魔力の手で紫の肉を掴んだり、空中で歪な魔力の手を足場の代わりにして、<鎖>や魔剣ビートゥを突き刺しながら昇っていく。
そこでどどおおんっという音と共に巨大な横揺れが発生。
揺れるっ――ぬおぉぉぉっ。
急ぎ食道に刺してある<鎖>で身体を支えた。
どうやら魔竜王が倒れたらしい。更に振動が響く。
俺は構わず登りきった。
食道の蠕動運動は完全にストップしているし、流石に死んだはずだ。
口元まで登り、強引に大きな乱杭牙が生える口を開けて外へ出る。
「あっ――」
目の前には武器を構えた女騎士がいた。
この女騎士、口を開けてびっくりしてるけど、もしや、グリフォン隊の隊長セシリー・ファダッソか?
そこに歓声が轟き始める。
「何だ?」
俺は血だらけの格好のまま立ち上がってみる。
「ドラゴン殺しの英雄」
「グリフォン隊っ、万歳――」
「バンザイーッ」
「セシリー・ファダッソは英雄だっ、あの魔竜王を斬り伏せたっ!」
周りで生き残っていた兵士たちが、その女騎士に群がって喜びあっていた。
あれ、俺が倒したんだけど? その後も怒濤のような歓声に包まれていく。
女騎士はそんな周りの騒ぎには同調せず、俺のことをずっと見つめていた。
俺は呆然とそれを見守っていく。
そこに黒猫が走ってきた。
「にゃッにゃぁぁ」
黒猫は興奮しているのか、頭を俺の足で擦っては足元をいったりきたりしている。
肩へ登ってくると、俺の頬にも小さい頭を擦りつけてから触手を伸ばしてきた。
気持ちを伝えてくる。
『不安』『臭い』『嬉しい』『信じた』『嬉しい』『遊ぶ』『信じた』
ロロは一心不乱にペロペロと俺の首を舐めてくる。
「ははっ、わかったからロロ。くすぐったい」
「君が倒したのか?」
黒猫と戯れていると、祭り上げられている女騎士が観衆たちを押し退けて話し掛けてきた。
その女性騎士に返事をしようとしたら――。
「――シュウヤぁぁぁぁ」
おっ、紅虎のサラだ。
彼女に抱き締められてしまった。
「サラ、どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないわよっ、シュウヤが叫んで突撃してたのは見ていたんだから、それで喰われて……」
サラは涙目だし。
でも良いか。抱き締めちゃおっ。
汗の匂い。鼻腔に女の汗の匂いが充満した。
「そうですよ、シュウヤさん、心配したんですよ。飲み込まれたと思ったら、魔竜王の口の中から出てくるなんて」
サラの独特の匂いを満喫していると、ルシェルが横で心配そうな顔を浮かべながら言ってきた。
「わたしは完全に死んだと思ったわよ」
べリーズらしい。
彼女は笑いながらも、赤い革鎧の膨らんだ胸の上辺りで腕を組んでいる。
「あぁ、俺もだ」
ブッチも生き残ってたか。
筋肉マンは無事だった。
キッシュは、キッシュは生きているだろうか……。
「サラ、キッシュは見かけなかったか?」
「キッシュ? あぁ、あの一緒にいた重騎士のエルフね。重傷らしいけど、回復魔法で生き延びてるはず」
おおっ、生きてたのか。
「よかったぁ……」
彼女だけでも生きていてくれた……本当に良かった。
俺は自然と涙が溢れ出ていた。
「……ねぇ、周りではグリフォン隊が魔竜王を退治したと騒いでいるけど……」
俺は涙を拭いながら周りを見る。
確かに、さっきより騒がしい。
「だなぁ……しょうがない」
「本当の討伐者はシュウヤなのに……ったくあの兵士たちは……最後まで近くで戦っていた冒険者たちは分かっているからね」
サラはそう言って誉めてくれる。
ま、サラの体を抱き締められたし、痛い思いをしただけはあるかな?
「……あぁそうだな。だが、皆のお陰だよ……」




