五十五話 魔竜王討伐の決起集会
まじか、あの高飛車風の女……。
ファダイク近郊の廃墟で俺を襲った側にいた貴族だ。
姫の誘拐に絡んでいる貴族の一人。
ヘカトレイルの貴族だったのかよ。
と考えながら壇上を見ていると――。
「グオォォォォン」
獣の声の重低音が空から響く。
その声の主はグリフォン。
グリフォン二匹が声を響かせながら壇上に降り立った。
観客席からは歓声があがった。
ずいぶんと派手な登場だな。
茶色毛のグリフォンに騎乗した騎士がそのグリフォンから降りる。
二人は深緑で統一された防具だ。
鎧や盾の一部分に竜を支える翼を持つライオンの絵、正にグリフォンだろう。
竜とグリフォンだし、強い軍隊としての絵柄。
その騎士の一人が兜を脱ぐと、さらりと金の長髪が揺れ、綺麗な女顔が晒された。
観客席にいた男共から歓声が挙がった。
もう一人の深緑騎士は体格の良いイケメン男性だった。
女性の黄色い声も混ざった歓声に変化。
わかりやすい。
深緑の鎧を着た二人の騎士は、女貴族の前で膝を折り一礼。
女貴族への挨拶を終えた騎士たちは、青い鎧を着た騎士たちと同列の椅子に座った。
一通り揃った感じだが。
そのタイミングで、女貴族は隣の紺色の外套を着る老人との会話を止める。
と、壇上の真ん中に向かう。
白髪の老戦士と侍女獣人も一緒に歩く。
女貴族と侍女獣人は、会場に集まる兵士、冒険者たちを見据えた。
白髪の老戦士は背後から見守る体勢だ。
侍女の女獣人が前に出ると、物怖じせず、
「――皆様、この度は戦神ヴァイスの広場にお集まりくださりありがとうございますっ! では、今から、オセベリア第三軍団最高司令官で在らせられる、ヘカトレイル領主、アナハイム侯爵家御当主シャルドネ・フォン・アナハイム様から、皆様にお話がございます」
女獣人の声は大きい。透き通った声が会場に響いた。
彼女はくるりと身を翻して、すたすたと女貴族の背後へ移動していた。
紹介されたシャルドネは一歩前に進む。
「――皆様、わたくしがシャルドネ・フォン・アナハイムですわ」
観客席から一斉に拍手が巻き起こる。
静まると、シャルドネはゆっくりと小さい口を開き、
「今回は皆さんもご存じの通り、ワイバーンの群れの攻撃により【ヴァライダス蠱宮】の天蓋が破壊され、多数の冒険者たちが巻き込まれて亡くなりました。これは魔竜王バルドークが原因です。近年、魔竜王バルドークは山から降りては近隣諸国を襲い、そこに住む人々を恐怖に陥れています。そして、ここヘカトレイルも、いつ本格的に襲われるか分かりません」
シャルドネはそこで少し間を空ける。
やっぱり、隣国の姫誘拐に協力していた貴族の女だ。
この依頼に参加するのはまずかったか? まさかここの侯爵とはなぁ……。
あの時の会話を思い出すと……。
国と国との争い事だけではなく、裏と表で複雑怪奇な権力争いが微妙に絡んでいそうだ。
まぁ、今となっては推察することしかできないが。
そしてシャルドネの話は続く。
「……ですので、わたくしは先手を打つことにしました。ヘカトレイル冒険者ギルドのギルドマスターであるカルバン氏にもご協力をお願いしまして、ここに、大規模な未探索地域開拓ミッションを兼ねた魔竜王討伐を行いたいと思います!」
観客はざわめく。
そんな観客へ語りかけるように細い腕を斜め上へあげ、二の腕に小さい力瘤を作りながら、シャルドネは話を続けた。
「――更に、オセベリア王国最強部隊とされる【竜魔騎兵団】の一角を成す精鋭たち、グリフォン部隊の一部も、今回の戦いに参加することが決定していますのよっ」
シャルドネは背後を振り返る。
力瘤を作っていた細い腕を新緑の鎧に身を包む者たちへ向けた。またどっと歓声が沸く。
拍手が鳴りやむのを待ってから、シャルドネは大きく頷き、
「――討伐成功者の方には魔竜王の素材を、と考えておりますの。ですから頑張ってくださいませ。尚、討伐作戦に関しては、ここの守備部隊統括者でもあり、わたくしの部下でもある【第三青鉄騎士団】の団長ロッド・オドネルが答えます――では、皆さん、わたくしの話はここで終えたいと思います。皆さんに戦神ヴァイスの加護がありますように……ありがとうございました」
シャルドネと侍女獣人がスカートの端を持ち可愛らしくお辞儀をして離れていった。
そこでまた歓声が上がる。それが収まると、青い鎧を着た騎士二人が前に進む。
先に初老のベテランとわかる騎士が大声で、
「侯爵閣下よりお話があった通り、わたしが【第三青鉄騎士団】団長ロッド・オドネルである。今回の遠征にあたり、連隊を組み進撃を開始する予定だ。直接の指揮は青鉄騎士団鋭鬼隊隊長である、ガーネス・ブロガインが執ることになっている。――ガーネスッ」
名前を呼ばれた後ろに控えていた騎士将校の一人が前に出て、観客へ向けて軍礼ポーズを取った後、頭を下げてから説明を始めた。
将校たちが身に着けている青い鎧の左胸には馬が王冠を支えるようなエンブレムが描かれている。
「団長が話された通り、今回の指揮を任されたガーネス・ブロガインだ。今回は我々兵士だけでなく命令系統のない冒険者クランも数多く参加してくれている。そこでだが、冒険者の方々は我々の指揮権から外れて、遊撃隊として活躍してほしい」
ていのいい厄介払いに聞こえる。
ざわざわと冒険者たちが騒ぐが、ガーネスは無視して話を続けた。
「……我々、魔導人形を含めた兵士たちは、もう既に南門に集結している。これからすぐに魔竜王討伐へ向かうことになるだろう。【バルドーク山】は長らく未探索地域に指定されていた危険な地域だ。だがわたしたちは恐れないっ! オセベリア王国のために、青鉄騎士団として全力を尽くす予定だ。そして、空からグリフォン部隊八十騎が、君たち冒険者と我ら青鉄騎士団の地上部隊を支援、及び制空権を支配する予定である。空は彼らに任せたまえ。――共に力を合わせ、必ずドラゴン共を殲滅しようぞっ! では皆、進もう!!」
ガーネスは片腕を上空へ挙げてから、胸にあるエンブレムを触る。
高らかに宣言してから演説を終えた。
すぐに青い鎧に身に包む騎士たちが立ち上がり、野太い声を張り上げていく。
「おおおっ!!」
「おおおぉっ」
「おぉぉっ!」
冒険者たちの一部も大声を張り上げる。
そうして、騎士将校たちは壇上から降り、会場から退出していった。
グリフォン隊の面々も空へ去っていく。
会場は暫く歓声や気合いの声で満たされていた。
報酬か、俺も貢献したら貰えちゃうのだろうか。
周囲の冒険者たちを見渡すと、馬に乗る人や魔獣に乗って進んでいる集団も見かけた。
ポポブムに乗っていった方が楽だけど……。
乱戦になるかもしれないから、必要ない。
このまま行くとしますか。
「わたしたちも向かうとしよう」
「わかった」
キッシュと共に南門へ向かう。
冒険者の列が暫く続いていた。
そこに、女性の声が響く。
「シュウヤじゃないか」
「あ~、シュウヤさんだ」
「やっぱり。この依頼、受けているわよね」
紅虎の嵐だった。
「よぉ、紅虎の嵐じゃないか。ま、実はさっき会場で見掛けたけどね」
「それならその時に話しかけてくれればよかったのに」
「いや、あのお偉いさんが壇上にいる時だぞ? 無理無理」
と片手を振って答えた。
「それもそうだな」
サラは綺麗な笑顔を見せて頭に生えるネコミミをピクッと動かす。
「シュウヤさん、その方は?」
サラの隣に居たルシェルが興味ありげに聞いてくる。
「あぁ、こないだ知り合った冒険者で、友だ。キッシュ、紅虎の嵐のリーダーとそのメンバーたちだよ」
「あっ、はい。わたしはキッシュ・バクノーダ、冒険者です。紅虎の嵐の名前は聞き及んでいます」
キッシュは緊張しているのか、固い口調だ。
「そうですか、光栄です。キッシュさん、わたしは【紅虎の嵐】で代表を務めているサラ・フロライドと言います」
「こんにちは、わたしはルシェル・アドキンス、紅虎の嵐の副長です」
「わたしはベリーズ・マフォンよっ。綺麗な同族ね。でも出身部族が違うわ。蜂のマークはあまり見たことがない」
ベリーズは少し睨みを利かせるように話す。
頬のマークにはそんな意味があったのか。
キッシュは騎士のように左手を胸に添えて畏まった挨拶をしながら、
「はい。家族、部族たちは魔竜王に……親戚たちはバラバラに散っている状況ですが、魔竜王を倒せたら、皆を呼び戻して集落を復興したいと思っています」
「魔竜王に……そうだったの、ごめんなさい」
ベリーズは気まずそうに謝っていた。
「いえ、いいんです。紅虎の嵐のような有名なクランが参加するならば、魔竜王討伐も素早く達成できるでしょう」
「……ふふ、ありがとう。キッシュさんも見たところ重騎士ですし、強そうですね」
サラがベリーズの失言を取り持つように持ち上げる。
「はい。盾の扱いには自信があります」
「うん。でも、同じ冒険者なんですから、そんなに畏まらなくても……」
「はは……そうですね。高ランクで有名な冒険者クランの方とは会話をしたことがなかったもので。それにしても、シュウヤ、紅虎の嵐と知り合いなのだな」
キッシュは頬を赤らめて答えていた。
途中で逃げるように俺に話を振ってくる。
「そうだよ。意外だったか?」
「いや、うん、まぁ、シュウヤの強さならあり得るか」
「そうよ、シュウヤは強いわ。キッシュさんの言う通りなんだから。彼とは緊急依頼の時に知り合ったの」
「緊急依頼と言うと、確か、僅か二日で完了したという?」
「そうそう、シュウヤがその依頼でね、個人で大活躍したのよ。わたしたちも助けられたわ」
「にゃっ」
黒猫が『わたしもいたにゃ』的に鳴いて俺の肩を叩いていた。
「あっ、フフ、ごめんね。ロロちゃんも活躍したわね」
「ロロは褒められたいらしいな」
「ははっ、ん、ロロ、小さいかわいい舌が口から出っ放しだぞ?」
キッシュが指摘していた。
確かにロロさん、ピンクの舌が戻っていない。
面白い。
「あはは、可愛いぃぃ」
「ロロちゃん、わたしの胸の中にくる?」
ベリーズがおかしなことを言っているが、指摘はしなかった。
「はは」
皆が笑っていると、その場にいなかったブッチが南門辺りから走ってきた。
「団長~~、もうクランのリーダーたちが集まってますよ~。お、シュウヤじゃないか。やっぱ団長の言ってた通り、お前も参加してたんだな」
ブッチは急ぎ走ってきたようで、肩で息をしている。
「そりゃそうさ、魔竜王討伐なんてイベントはそうそうないからな。参加するに決まってる」
「はは、確かに。お前なら、もしかすると……」
「ブッチ、もう集まってるんだな?」
「あっ――はい。行きましょう」
「わかった」
サラはブッチの言葉に頷くと、俺たちに振り向いた。
「それじゃ、シュウヤとキッシュさん、お互いに頑張りましょう。わたしたちはクランなので別行動だけど、魔竜王討伐の際はどうなるかわからないわ。だから――シュウヤ、期待してるわよ?」
「おう、お互いにな」
「うん」
「戦神のご加護を」
キッシュは軽い会釈をしながら剣を握り、そう返す。
サラは俺の顔とキッシュの顔を交互に見る。
――どことなく、
俺を見るサラの視線が厳しく感じるのは気のせいだろうか?
自意識過剰?
サラはそのままキッシュへ笑顔を向け、
「……貴女にもご加護を、それじゃ――」
サラは紅い髪を揺らして踵を返す。
冒険者たちが集まっている方へ走っていく。
紅虎の嵐のメンバーたちも俺たちに軽く頭を下げてから彼女を追っていった。
「少し緊張してしまった」
「態度からわかったよ。それよりも、クランはクラン同士連携して進むようだな、青鉄騎士団とは連携が取れそうもないからだと思うが」
「騎士団とは分かれた方が戦略上楽だからだろう。命令系統が混乱すると大変だからな」
「それもそうか。俺たちのような個人参加で、果たしてどこまで貢献できるか」
「……シュウヤのような猛者が言う言葉じゃないな」
何気無い言葉だったが、キッシュには嫌味に聞こえてしまったようだ。
「済まん、俺が魔竜王を倒してやるさ」
「ふふ、シュウヤのその目、嫌いじゃない」
キッシュの透明感のある笑顔で言われると嬉しいね。
「おっと、本格的に惚れちゃったか?」
「バッ、バカ、今はバルドーク山に向かうことに集中しろっ」
「ははっ、分かってるさ。個人参加枠で活躍したら目立つだろうし、頑張っちゃうよ」
「そうだそうだ。個人参加枠も人数が多い。中にはシュウヤのような隠れた実力者がいるかも知れない。だから、連携が取れなくても、意外に楽に進めるかもしれないぞ」
「なるほど――」
――そこに頭上から獣の声が響く。
グリフォン部隊が空を駆けるように飛んでいるのが見えた。
いやぁ、壮観だな。
ブルーインパルスよろしく的な隊列を組んでるし。
そんな光景を見上げながら進むうちに南門に到着。
ここでは空のグリフォンだけでなく、地上の部隊もそうそうたる光景を俺たちへ見せつけていた。
馬が王冠を支える軍旗があちこちで靡き、群青色に彩られた青鉄騎士団の兵士たちが歩む。
その中で、三体ほど目立つ存在がいた。
なんだあれ……。
機械の人形のようでもある、
背が高い寸胴の鉄の鎧に鉄仮面姿の異形な甲冑戦士だ。
体重が重いのか動きが鈍い。それらが鉄の軍靴から音を響かせて進む。
荷馬車に乗せられている木製の軍太鼓がリズムよく叩かれ、銅鑼もゴーンッと腹に響く低音を周りに響かせていた。
音楽隊というより、銅鑼の音と太鼓で戦術確認を行いながら進んでいるらしい。
上空から見れば、バルドーク山へ続く蜿蜒たる行軍隊列が伸びていることだろう。
「何を見てるんだ?」
「あぁ、あの一際大きい鉄の人形はなんだろうと思ってな」
「あれは魔導人形だよ。戦争に投入されたりするゴーレムとも言われているな。鉄、革、木、魔晶石にマジックアイテムを組み合わせて作られているとか。貴族の象徴でもある」
その言葉に、魔霧の渦森で対決した魔術師ゾルが話していた内容が脳裏に過る。
実際に目にするのはこれが初だ。
「ほぉ、あれがね……数は少ないが、戦力にはなりそうだな」
「強いことは強い。だが、竜相手では果たして……それに作成するのに金がかかりすぎてあまり意味がないとか。更にスキルや莫大な魔力も必須らしい」
スキルや魔力が必須か。
「金かぁ、あんなのが作れるとなると、どこぞの貴族様でないと無理そうだな」
「それはそうだろう。作れる職人は専門技師として国家に秘匿される。昔から貴族としての力の証明になっているものでもあるからな」
「なるほどなぁ……」
「さぁ、見てないで行くぞ」
「にゃ、にゃ、にゃおん」
黒猫も気合いを入れるように俺の肩を何度も前足で叩く。
「あぁ、行こう」
俺たちも兵士や冒険者たちに続きバルドーク山へ向けて出発した。
その途中で山林を打ち倒すように出現する竜種たち。
青鉄騎士団は二列横隊で迎え討つように進撃。
前列に重騎士が並び、後列に弓士や魔法士たちが並ぶ。
そして空からグリフォン部隊が急襲する形だ。
「射撃、魔法、用意っ、うてぇぇっ!」
隊長格の人が叫ぶ。
一斉に弓矢隊、魔法士隊の攻撃が前衛を越えて弧を描きながら竜種たちへ向かう。
大型の竜種であるドレイク、ワイバーンに次々と矢や魔法が直撃、竜たちは傷付き倒れていった。
「怯んだぞ! 鋭鬼隊進めぃ!!」
「オオォォォォッ」
「突撃ぃぃぃっ」
別の隊長の大声が響くと、兵士たちの気合い声が魔法のように竜たちを貫いた。
槍衾を形成した横隊が大型竜たちを屠っていく。
空からはグリフォン隊が魔法や急降下攻撃で確実にワイバーンやドレイクを仕留めていった。
一方で、遊撃を任されている俺たち冒険者は、その兵士たちが撃ち漏らした小さい竜のソニックバーンを退治していくだけ。
「そっちに竜が回ったぞ――」
ん、近いか?
声が聞こえた方を見ると、おかしなことが起きていた。
ソニックバーンを大きな白い獣が上からのし掛かって押さえつけていたのだ。
――白熊!?
しかもその白熊の上には人が乗っている?
白熊も鎧を着込み、熊手には鉤爪のような武具を装備しているし……。
俺は一瞬デゴザベアを思いだし、槍を構えようとしてしまった。
その白熊によって押さえつけられたソニックバーンの頭二つは細長い槍に突かれていた。そのソニックバーンは動きを止めて倒れる。
白熊の上に跨がり細長い槍で攻撃していた人物は、ローブ系の頭巾を被っているので顔の判別はできなかった。
謎の人物は槍を竜の頭蓋から引き抜くと、血を払い背中へ収めている。
そのまま太くたくましい腕を伸ばし、よしよしと白熊の頭を撫でていた。
「あれは……」
「<使い魔使い>や<獣魔使い>だろう」
「へぇ……」
「シュウヤも使い魔である黒猫がいるじゃないか」
キッシュはそう言うが……。
「あっ、あぁ、確かに。だが、白熊だぞ?」
「確かに、熊に乗って戦うなんて見たことがないな」
その白熊が謎の人物を乗せながら威勢のいい足どりで近寄ってきた。
少し迫力を感じる。
「聞こえていましたよ?」
熊に乗っている謎の人物は、笑みを含む声質でそう言いながら頭巾を脱いで顔を晒す――ほぉ、長い兎耳か。
四角い顔のずんぐりむっくりした女獣人だった。
「ンン、にゃっ」
その姿に黒猫が最も早く反応した。
俺の肩から跳躍して白熊の肩へ移動すると、その兎獣人の膝に頭を擦り付けている。
ロロさん。
早速やることは匂い付けですかい。
何回か頭を擦り付け、満足したのか、また俺の肩に戻ってきた。
「可愛いねこちゃんですね。あっ、貴方も獣魔使いなのですね。わたしの名はアゾーラと言います。個人参加枠で今回の依頼に参加しました。よろしく」
声質は高い。その兎耳のアゾーラは白熊から降りると、ひょこっと挨拶してきた。
俺は獣魔使いではないが、
「あぁ、よろしく。俺はシュウヤ・カガリ。シュウヤと呼んでくれ」
「わたしはキッシュ・バクノーダだ。キッシュと呼んでくれ。同じく個人参加枠で参加した。よろしくな」
「はいっ、わたしもアゾーラと呼んでください」
「フガッ」
白熊も、主人が挨拶をしたからか、挨拶っぽい声を出していた。
「白熊を従えているのは初めて見る。特別な熊なのか?」
「はい、聖獣プルントベアですから。名前はパウと言います。自慢の相棒でありペットです」
アゾーラは誇らしげな顔を浮かべて生き生きとした瞳を見せる。
片方はやや斜視気味だな。
「聖獣?」
「わたしも聞いたことがないな」
「そうですね。わたしの出身は遠い遠い東にあるレリックの一地方ですし……」
そういや、師匠から貰った地図の東の端っこにレリックと書かれていた……。
「遠いところから……レリックか」
「はい。陸路はこのパウに乗るので楽なんですけど、船旅は大変な時もありました」
若い獣人女性が一人で白熊を連れて船旅を含めた旅をするとは。
このヘカトレイルまで何千~何万キロはあるだろうに……。
母を訪ねて三千里じゃないが、凄い旅をしてきたんだなぁ。
それに船、何か憧れる。俺もいつか乗ってみたいかも。
異世界の船旅……海賊王のような存在もいたりするんだろうか。
考えるだけでわくわくする。
「……そりゃすごい冒険だなぁ、船旅かぁ」
「はは、冒険だなんて。でも船旅はきつかったですけど楽しいことも多かったんですよ。パウも泳いで魚を捕ったりしてましたし」
まぁ白熊だからな。
「パウは優秀そうだ」
「ありがとう。シュウヤさんも、その黒猫ちゃんを従えているのですね」
「あぁ、名前はロロディーヌ。ロロと呼んで――」
黒猫は話の途中でいたずらをするように口を遮ってきた。
触手で体を支えながら、右肩から歩き出し、頬へ小さい頭を擦りつけながら鎖骨を伝い左肩へ歩いていく。
その時、ふさふさの尻尾で口が塞がってしまった。
ロロさん、尻尾が……。
「あははは、可愛い、愛されてますねぇ。その子、ロロちゃんって言うんですね」
「そそ」
アゾーラは長い兎耳を揺らして楽しそうに笑っている。
「そうだ。シュウヤさんにキッシュさん、この際です、個人参加枠同士で一時的に組みませんか? 青鉄騎兵団やグリフォン部隊がいるのであまり活躍はできそうにありませんが、一緒に竜種を倒せばスムーズに進めるはずですし」
「あぁ、俺は構わんぞ」
「わたしもだ。改めてよろしくな、アゾーラ」
キッシュも同意していた。
「ハイッ」
アゾーラは長い兎耳を動かして笑う。
四角い顔だが、素直な気持ちが伝わるような笑顔だ。
「頑張ろうか」
「はい、頑張りますっ」
アゾーラは気合いを入れるように腕を掲げる。
「アゾーラはさっき槍を使っていたが、前衛なのか?」
重装備のキッシュは槍が気になるらしい。
アゾーラの背中に収まった細長い槍を見ながら聞いていた。
「前衛もできますが、わたしの戦闘職業は<魔法槍士>なのでどっちでも大丈夫です。冒険者ランクはDですが、パウが強いのでどんな状況でも対応できますよ」
アゾーラは肉づきのいい手をパウへ当てながら自信ありげに話す。
「そうか。流石に長旅を続けているだけはありそうだ。俺もDランクで、槍の腕には自信がある。黒猫も俺と同じぐらいかそれ以上の動きをしてくれるはずだ」
「わたしの冒険者ランクはCだが、このメンバーだと一番弱そうだな」
「えぇ? キッシュさん、Cランクなのに?」
「ふむ。しかし、そろそろ行かないか? 前線から離れすぎているようだ」
キッシュは気まずそうにそう話すと、上空を指差す。
そこには空を飛ぶグリフォン部隊がいる。
高い位置から地上へ攻撃を加えているのが見えた。
空から放たれている魔法の嵐によって山肌が燃えて火災が発生している。
「あそこは激しそうだ」
「そうですね、行きましょう」
「進むぞ」
キッシュが先頭を進む。
俺たちは小型の竜を倒しながらバルドーク山の麓近くまで進出して山林地帯を通りすぎ、竜種によって討ち滅ぼされた村々を歩いていった。
ここでは討伐軍と竜種たちの戦った跡が生々しく残っている。
血と肉が焼けた臭いが充満していた。
青い鎧が切り裂かれた兵士の死体。
冒険者と見られる骸。
鉄製の太い矢が頭に刺さったワイバーンの死骸。
壊れた魔導人形。
その魔導人形は鉄の胴体が潰れて、中から産業廃棄物的な銀色の液体が滲み出ている。
この魔導人形は竜と相討ちかな。
その竜の死骸から爪や牙を回収!
アイテムボックスに格納していく。
そうして俺が回収していると、
「くそっ、竜共め」
キッシュの怒った声だ。
彼女の顔を見ると、その瞳の奥底に火焔が浮かんで見えた気がした。
無惨に放置された村の残骸を見て……。
過去の出来事を思い出しているようだ。
アゾーラも顔を顰めながら燃えかすを触る。
「この燃え方は、竜のブレスですね……」
そこに魔素の反応が――。
「敵だっ」
現れたのはドレイクだった。
小説版「槍使いと、黒猫。」1~11巻発売中。
漫画版「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




