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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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四十六話 魔界セブドラの神絵巻

2023年8月11日 16時10分 修正

 路地から続く下町を何時間も走り続けていた。

 そろそろ大丈夫かな。と、大通りが視界に入ったところで足を止める。

 角から通りの行き交う人々を確認しながら頭巾を被る。すると、談笑しながら歩く集団が目の前を通る――紛れよう。集団の最後尾についた俺は、そのまま集団の人々とあーでもこーでもカトちゃんぺ、と話をするように歩いていく。


 黒猫(ロロ)も俺の足にくっつくようについてくる。

 もう夕闇の時間か……オレンジ色の影を踏みしめながら、戦った相手を思い出していく。


 カリィの<導魔術>、歩法は中々に洗練されていた。

 片腕に怪我を負った状態であれだけの小剣術を使いこなすんだから、凄まじい腕前だ。技巧派の飛剣流、またはその流れを汲む未知の流派かもしれない。

 と、腹の虫が鳴った。


「腹が減ってきた……」

「にゃにゃぁん」


 相棒も腹が減っているらしい。

 その黒猫(ロロ)は右前足と左前足を交互に上げて、肉球を見せてくる。

 今日は色々ありすぎた。そりゃ腹も減るか。

 この間、酒を飲んだ店を探すとしますか。通り沿いにあった店――。

 宿屋近くの食事処が集まる横丁通りへ向かった。


 その横丁通りを歩く。

 キッシュとチェリとえっちを繰り返した酒場に到着――。

 繁盛しているなあ、座る席がないぐらいに客が入っているや。ソバカス顔の酌婦チェリも、可愛い笑顔を客へ振り撒きがんばっている。


 ……忙しそうだな。

 少し挨拶でも……いや、仕事の邪魔になるし、今日は違う店に行こうか。

 今はガッツリと肉系を食いたい気分だ。酒場には行かない――。


 通りを歩いていく。


 今の時間帯は食事を求める人が多い、渋谷の駅前や年末のアメ横のように混雑している。

 そんな行き交う人々を観察しつつ、美味そうな料理を出す店はないか……と飲食店の外観をチェック――。


 黒猫(ロロ)が、匂いに釣られて頭部をあちこち向けていた。

 時折、俺の耳朶を叩く黒猫(ロロ)さんをなだめるように首根っこを掴んであやしてあげたりしてあげた。しかし、入り口に料理の見本があれば分かりやすいんだがなぁ。


 そして……この通りを行き交う人々を見ていると、俺と同じように美味しそうな店を探しているように見えてくる。


 なんとも言えない肉の焼けた匂いが漂ってきた。

 いいねぇ、たまらん。

 自然と笑顔になった。

 匂いに足が釣られたように横歩き。

 匂いの元に近付くと、焼ける肉の香ばしい匂いが腹に染みてきた。

 ごくっと生唾を飲み込む。

 自然と口の中に唾が溢れてきた。


 くぅ〜食欲をそそるぜ。

 肉、肉だ、焼き肉ぅ。頭巾から顔を出す。

 この店に決めた。


 檜の外観も中々だ。

 看板にはルンガ肉専科店、

 焼き肉ルンガルンガと彫られてあった。

 いいね、木造で渋い店構えだ。


 そんな扉を横へ動かす。

 さっそく店内へ入った。


 ――おぉっ。


 焼き肉と酒の匂いに煙たい空気が俺を出迎えた。

 壁に飲み込まれた気分だ。

 一瞬、濃厚な饐えた匂いに圧倒されて、戸口で止まってしまったが、目の前のカウンター席に腰を下ろした。

 しかめっ面の店主へと、メニューの木札にある焼き肉と酒を指しながら常連風に注文。

 黒猫(ロロ)の分もちゃんと注文してやった。そうして、暫くして運ばれてきたのは……鉄板に載ったサイコロステーキのように四角く切られた肉。

 そのほどよく焼けた肉に纏わり付く透明のタレが鉄板に垂れてジュウジュウと音を立て、これでもかと鉄板の上で跳ねる。


 その食欲をそそる音と魅惑の肉ダンスは、まさにタレと肉が溶け合うハーモニー。


 うまそうだ! テンション上がるぅ!


 黒猫(ロロ)に至っては、椅子に可愛い後ろ脚を残して、上半身をぬっと前に出して両前足を机につき、クンクンと鼻を小刻みに動かして匂いを嗅いでいる。

 早くくれと言わんばかりの顔つきだ。

 興奮しているのか、紅と黒の瞳孔が若干広がっている。


「ロロ、もっと小さく切り分けてやるから待っとけ」

「にゃぁぁ」


 小皿に切り分けた肉を出してやると、鳴き声の途中からガルゥッと短く唸りながら食べていた。


「はは、そんながっついて食わんでも、逃げないぞ」


 と、俺もこんがり焼けたサイコロ肉をがぶっと噛み、食う――。

 最初の一噛み目は、確かな肉の厚みを感じられた。

 歯応えがある。だが、二噛み、三噛みすると、すぐに口の中で溶けるようになくなっていく。


 くぅぁぁ、うめぇぇ。

 柔らかいし、肉が溶けてタレと合わさるとまた違うな。

 肉とタレのハーモニーが舌の上で奏でられて、脳汁がドバッと出る。


 幸せを感じる旨さだ。

 ――このタレと肉の相性は抜群だ。

 なんなんだ、このタレ。透明だが……塩ダレではない。

 レモンでもない。少しの甘くて、見た目と違う濃厚な味わい。


 最後に来るピリ辛の風味が、また肉を口へ運びたくなる。

 異世界なだけあって、未知なる香辛料に違いない……。

 辛めの果実酒も肉をより美味しく感じさせてくれて、あっという間に鉄板の上にあったサイコロ肉はなくなった。


 鉄板上にある残りのタレも木製のスプーンで掬い、口へ運ぶ。

 そんな肉料理を最後まで堪能した。

 師匠やラグレンが食べさせてくれた野性味溢れるルンガとはまた違うな。

 異世界の定食屋、侮りがたし。

 さすがはルンガ専科と書かれているだけはある。


 食った食った。と残りの酒を飲んでいると、同じように食い終わった冒険者たちの話し声が聞こえてきた。


「おい、聞いたか? ヴァライダス蠱宮上域にワイバーンの群れが出て大惨事だったらしいぞ」

「聞いたぞ。今日はもうずっとその話で持ちきりさ。ワイバーンが蟻だけじゃなく冒険者たちも喰いまくったとか」


 物騒な話題だな。

 しかし大声だから、ついつい聞き耳を立ててしまう。

 俺は酒をちびちびと飲みながら、耳をピクピク動かすように話を聞いていく。


「俺も聞いた。蠱宮の一部が崩れ落ちて、下にいた冒険者数人が巻き込まれて一瞬であの世行きだってよ」

「ワイバーンと近衛大蟻(インペリアルアント)の戦いも壮絶だったとか」


 冒険者の目からは恐怖が滲んで見えた。


「……ワイバーンの群れと巨大蟻の群れの戦いか、見たかったような、見たくなかったような……」


 少し見たいかも。


「ぷ、何言ってんだ、高ランク冒険者の台詞ならいざ知らず、お前みたいなぺーぺーが言えることじゃないだろ」

「そういうお前だって、見たら驚いて舌を噛み切っちまうだろうよ」

「がははは、そりゃ確かに」

「それで、その戦いのせいで例の緊急依頼が発生したんだろ?」


 俺が魔迷宮にいた頃にそんなことがあったのか。

 あ、そういや……今日のギルドはやけに忙しそうだったし、かなりゴタゴタしていたな。


「そうらしい。もう何組かのクランはその緊急依頼に向かったらしいな」

「にしても、あの竜種共が纏まって他の種を襲うって滅多にないぞ? 個々になら日常茶飯事だが……」


 ワイバーンか。竜種が蟻をねぇ……。

 バルドーク山にいる魔竜王バルドークと関係があったりするんだろうか。


「バルドーク山の魔竜王がまた暴れてるらしいし、それの余波かもな」


 やはりそうか。


「それが一番可能性が高い。山間を含めた未探索地域の周辺も被害が大きいし、近隣の村や町は焼け野原だからな」


 焼け野原……。


「だなぁ。そのうち、この城塞都市にもドラゴンたちを引き連れた魔竜王が襲来するかもな」

「おいおい、冗談でも聞きたくないな。だけど、もう大丈夫だろ」

「おっ? またホラ吹きか? ククク」


 髭もじゃの冒険者は仲間を馬鹿にするように笑う。


「いやいや、そうじゃなくてだな、ここの侯爵様が先手を打つらしいぞ。ギルドに侯爵様がいたからな。近くで見てたし。んで、その侯爵様が『わたしが魔竜王討伐を行うわ』と高らかに宣言してたんだ。近日中に南の戦神ヴァイスの広場で大々的に兵を募るとか、国からも青鉄騎士団だけでなく竜魔騎兵団の一部を借り受けるとか、威勢よく声を張り上げてたよ」


 魔竜王討伐……。


「ほう、そいつは初耳だ。竜魔騎兵団かよ。竜騎士隊かグリフォン隊かどっちが来るんだろうな。でも、本当に来たらすげぇな」


 そんな部隊があるのか。


「あぁ、確かに」

「しかし、あの永らく未探索地域だった山間部に国が派兵を決めるとはな? オセベリアはルルザック交戦で勝利したとはいえ、五十年も帝国と戦争を続けている状態なのに、そんな余裕があるのかねぇ」

「だからこそだろ。西部戦線は余裕があるんだろうよ。守護聖獣、竜魔騎兵団、ホワイトナインの竜騎士たちもいるから平気なんじゃねえか?」


 守護聖獣? ホワイトナイン? 

 竜騎士かぁ、いつか間近で見てみたい。


「ふむ。だが軍隊の一部を動かすんだ。侯爵家が本腰を入れるなら、報酬もそれなりにありそうだな」

「そりゃそうだろ。たぶん報酬は魔竜王その物になるだろうな……」


 髭面の冒険者は沢山の報酬を想像しているのか、どこか呆けた顔をしている。


「……なるほど。もし魔竜王を倒せれば大金持ちか。夢がある。ワイバーンやドレイクとは違い、鱗、爪、角、骨、肉、内臓と、全部が宝だ。迷宮に入り浸っているSやAの高ランク冒険者たちもそれなりに集まるかもな」

「【迷宮都市ペルネーテ】や不窟の塔からも、報酬目当てに出張してくる冒険者が多くなるってことか」


 高ランク冒険者たちか。

 どんな強者たちなんだろう。興味が出てきた。


「優秀なのが集まるだろうけどよ、相手はあの巨大な魔竜王と竜種の群れだろう? 死傷者がどれほど出るか……」

「それはしょうがないだろ。俺やお前が参加すれば、その死傷者の列に加わることは確実だろうけどな、ガッハッハッハ」

「違いねぇ、アハハハ」

「……だがよぉ、もし、もしだぞ? そこで手柄を上げたら、金だけじゃなく、国からスカウトされる可能性も……」

「はっ、さっきから何夢見てんだか……そんなスカウトが来るのはBランク以上の強者だけだっての……」

「お、おれ、その竜退治に参加して報酬を得たら、レミちゃんと結婚するんだ……」

「ハハッ、おいおい、お前本当に参加する気だったのかよ」


 何か一人死亡フラグを立てているが、気にしない……。


 それにしても、魔竜王討伐か。

 恨んでいたキッシュも参加するんだろうな。

 報酬も良さそうだし、ドラゴンとの対決か。

 俺も、そのドラゴン退治とやらをがんばっちゃおうかなぁ。


 そんなことを考えながら、旨かった肉料理の代金を払い、その店を後にした。


 ……食った食ったと、夜の居酒屋通りの雑踏を歩きだすと、突如警戒を促すような鐘の音が遠くから響いてくる。


 なんだ?


「――火事だぞぉぉぉ」


 男がそんなことを叫んで走り去っていく。

 一瞬、酒場で冒険者たちが話していた内容が頭を過った。

 もしや竜たちの襲撃!?


「歓楽街で火事だぁぁ」


 火事だけか?

 逃げてきた人を捕まえ聞いてみた。


「火事って、何があったんだ?」

「――ん? 闇ギルドの抗争だよ。急に血だらけのドワーフが店内に駆け込んできたと思ったら……火球魔法も飛んできやがった。それも何個も同時にな。俺はちょうどその鈴鳴り亭で仲間とラッシュをやってた時でなあ、しかも勝ちが多くなってきてたってのに、はぁ……」


 ラッシュって何だろうと思ったが、違うことを聞いた。


「……そりゃ災難だったな。抗争か」

「まあな。賭け場がある場所は闇ギルドの縄張り。あいつらにとっても旨味があるから抗争は絶えないんだよ。【白鯨の血長耳】と【宵闇の鈴】の抗争だそうだ。賭博の客である俺らが言えたことじゃないが、派手に争わないで欲しいもんだ」


 逃げてきた男は嫌そうにそう言うと、

 じゃあな、と片手を振って走っていった。


 鈴鳴り亭って確か……。

 チェリが言っていた、近づいてはダメな店だったはず。

 気になるが、見に行ったら抗争に巻き込まれそうだし、止めておこう。

 抗争は放っておいて、宿屋へ戻る。


 宿屋の狭い部屋に戻ってきた。

 黒猫(ロロ)はさっそく固い寝台へジャンプ。

 枕元を占領して丸くなっている。


 そんな黒猫(ロロ)を微笑ましく見ながら、黒槍を寝台近くの壁に立て掛けた。

 腰から太ももに繋がる帯を緩める。

 背負っていた背曩も寝台の下に置いた。

 水でも浴びよっと。ジャケットに皮服を脱ぎ、桶に湯を注いでいく。

 桶風呂に入り、黒猫(ロロ)も綺麗にしてやった。

 体に残っていた血の匂いを消し、さっぱりとする。


 濡れた髪を皮布でふきながら寝台に座り、そこで改めてアイテムボックスである腕輪を見た。


 さてさて、このクナが持っていたアイテムボックスをチェックしますか。

 入っているのは秘蔵っぽいアイテム類だと思うが。

 その前にアイテムボックスを操作、格納を押す。


 前掛けベルトのポケットに入れて置いた鍵束とトラペゾヘドロンの球体をアイテムボックスの中へ格納しておく。


 そして――。


「オープン」


 ◆:人型マーク:格納

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 35/85


 中級回復ポーション×154

 中級魔力回復ポーション×110

 高級回復ポーション×43

 高級魔力回復ポーション×44

 金貨×25→39

 銀貨×88→310

 new:大銅貨×240

 月霊樹の大杖×1

 祭司のネックレス×1

 魔力増幅ポーション×3

 闇言語魔法闇壁(ダークウォール)の魔法書×1

 暗冥のドレス×1

 帰りの石玉×11

 紅鮫革のハイブーツ×1

 雷魔の肘掛け×1

 宵闇の指輪×1

 古王プレモスの手記×1

 ペーター・ゼンの断章×1

 ヴァルーダのソックス×5

 魔界セブドラの神絵巻×1

 暁の古文石×3

 闇紋章魔法闇枷(グラバインド)の魔法書×1

 ロント写本×1

 十天邪像シテアトップ×1

 new:パレデス・一の鏡×1

 影読の指輪×1

 火獣石の指輪×1

 ルビー×1

 翡翠×1

 new:風の魔宝石×1

 new:火の魔宝石×1

 魔剣ビートゥ×1

 鍵束×1

 古魔書トラペゾヘドロン×1

 new:第一級奴隷商人免許状×1


 ―――――――――――――――――――――――――――


 気になっているアイテムを次々と出していこ。


 古王プレモスの手記、魔界セブドラの神絵巻。

 ペーターゼンの断章、暁の古文石、ロント写本。

 闇言語魔法闇壁(ダークウォール)、闇紋章魔法闇枷(グラバインド)の魔法書。

 最後に十天邪像シテアトップ。


 寝台上に無造作に置く。


 最後のは……なんだこれ。

 形が非常に気になるが……。

 まずは、古王プレモスの手記を手に取る。

 一枚の古い紙片で、所々字が抜け落ちているという手記だった。



 □■□■



 我はプレ……ス。古から……赤……弓と青の髪……一族

 ……剣がここに書……弓……大いなる湖……遥か……地



 □■□■



 たったこれだけだった。

 この大いなる湖ってとこに、弓や剣があるってことか?

 解らない……。


 次に魔界セブドラの神絵巻を手に取った。


 この本、魔力が渦を巻いて宿っている。

 表紙の紙質も羊皮紙ではない。

 見たことのない堅く確りとした厚い皮で作られていた。

 更に黒い額縁のような金属でしっかりと装丁されている。


 グリモワール的な魔術書のようにも見えた。

 全体的に黒色で統一された暗い色調。

 タイトルは白く滲んだ文字。


 魔界セブドラの神絵巻と書かれていた。


 その絵巻を捲る。

 最初は薄い油取り紙のような透明な白紙。

 次の頁を捲ると、子供が油絵の具で塗り潰したような黒煙が描かれていた。


 その黒煙の上方に闇神リヴォグラフとグラフィカルな色調の紫色の文字で書かれている。


 黒煙の中心部には赤黒い長剣が描かれていた。

 更に背景には巨大な一対の赤い双眸があり、こちらを睨んでいる。

 絵を見ている者へ恐怖を抱かせるほどの視線。

 二つの目はしっかりと描かれている。


 目以外の絵柄は雑なので絵本のようにも見えるのが不思議だ。

 全部の頁がそうなのかなと思いながら次の頁を捲るが、違っていた、驚き。


 次の絵は微細な筆で描かれた美しい絵だった。

 血を流す真っ白な双眸。白黒の布を頭に被る綺麗な女性のシルエット。

 血だけに色がついている。

 繊細な淡いタッチで描かれていて、水墨画に近い。


 一番下に死神ベイカラと和風テイストな墨文字で書かれている。


 この神様が、ユイの瞳に宿る力の源?

 確かに白い双眸は似ている。

 が、凄い絵だ。先ほどとは正反対といっていい。

 古風な絵。

 琳派や古き日本画家たちが描いた絵にも見えた。

 博物館に展示するようなレベルといえよう。


 絵の出来映えに感動しながら頁を捲る。

 次の絵は打って変わって酷い絵。

 アメーバのようなモノが描かれているだけ。


 名前は黄色で悪神デサロビアと書かれている。


 気持ち悪いのでさっさと次のページに移行――。


 おお、美しい女性の絵だ。

 文字は黒色で、宵闇の女王レブラと書かれている。


 女王と書かれているだけあって、まさにグラビア女王という感じだ。

 周りには金粉が舞っている?

 女王はアラビアン風の長椅子に座り、悩ましい尊大な格好でこちらを見つめていた。

 真っ黒な長髪に、額には血の色の六芒星の印。

 凄烈な美貌を持ち、妖艶な笑顔を浮かべている。

 眼窩に覗く瞳には特殊な六芒星、蜘蛛の複眼を宿し、深淵の闇と星の煌めきが混ざり、魔法陣が現れたり消えたりしている。

 笑顔は動いているようにも見えて――え? 特殊な目が動いた? 


 微妙に長髪も風で揺れ靡いている、動く絵か……。


 細長い腕を悩ましく伸ばし、その白い手には大杖が握られ、魔法を放つようなポーズを取っている。

 大杖の先端には菱形の黒曜石のような綺麗な大きい宝石が見えた。


 おっぱいからのくびれラインが良い感じに描かれていて美しい。

 もっとこの美しい女神を見ていたい気分になるが……。


 絵の出来に感心しながら次に移る。


 次はうって変わって、黒い派手なランスを右手に持つ胸板の厚い男の絵だった。

 名前は暴虐の王ボシアドと書かれている。


 綺麗な絵だけど、裸で髭のダンディー男なんてみたくない。

 男の裸を見てテンションダウン。


 だるくなったので次を捲る。


 次は鉛筆のような線の薄い筆で描かれた動物型。

 ケンタウロス的な怪物が描かれている。頭の左右には巨大なヘラジカ角が生え、額にはユニコーンのような螺旋状の角が生えている。

 長方形の顔には眼が六つもあり、上半身には腕が四つ、馬型の胴体には脚が八つもあった。


 名前は茶色で狩魔の王ボーフーン。

 こんな怪物のような神もいるのか。


 そんな短い感想を持ち、頁を捲る。


 次は赤のクレヨンで描かれた蛸のような丸っこい形のもの。

 これ、軟体? スライム?

 蛸坊主的な絵。

 だけど、真ん中には一対の鋭い黄色い眼を持つ。


 名前は憤怒のゼア。

 鋭い視線は名前通り、まさに怒りって感じだ。


 次の頁に移る。


 ん、破壊された山々があるひび割れた真っ暗な世界?

 その一番下に破壊の王ラシーンズ・レビオダと白色の文字で書かれていた。


 たったこれだけ?

 疑問に感じながら次を捲る。

 今度の絵は名前が一番上に書かれていた。


 十層地獄の王トトグディウス。


 こいつは、ザ・悪魔の代表といった感じだ。


 血色の骨の玉座に座り、愉快そうに嗤っている。

 基本は人型の男だが、その頭には黒々として丸みを帯びた長い巻き角が左右に生え揃い、凶悪そうな白目と黒目を持つ。

 真っ赤な皮膚なので、強烈で凶悪そうな印象だ。

 その皮膚と同色のローブのような物を背中に羽織るように着ている。

 左手には黄色の長杖を持ち、右手には金の縁で整えられた血が滴る本を持っていた。


 こいつも動いている? 動く絵ってリアルだな。

 ゲームのラスボスにいる魔王のようだ。


 そこで次を捲る。


 お、今度の絵はカッコいいかも。


 勇敢そうな女性戦士が描かれていた。


 額の所々に刀傷がある金色のコーンロウの髪型に、顔は小さく、赤目と錦目という色違いのオッドアイを持つ。

 どこか凛々しさがある。綺麗な鋼色の甲冑に四本の長腕を持ち、その腕には綺麗な赤い宝石が散らばったようなギザギザ刃が目立つ長剣を持って構えていた。


 名前は闇遊の姫魔鬼メファーラ。


 よく見たら、狂暴そうな顔だ。

 次の頁に移る。


 今度も女神か。名前は魔命を司るメリアディ。

 黒髪ロングの髪型。目が三つもある。双眸と額の中央に一つ。

 額にある目は赤く充血し血の涙を流していて、優しい表情を浮かべているが、どこか冷然とした雰囲気を持つ、ホラーの要素を含んだ絵だ。

 右手には血濡れた長杖を持って、誰かを治療をしているような感じに描かれている。


 この神様のことはゾルの日記に少し記述があった。


 そこで次の頁を捲る。


 おっ、樹木だ。名前は知記憶の王樹キュルハ。

 こいつは、名前的に玄樹の光酒珠とかに関わりがありそうな予感。

 全く関係ないかもしれないけど……。


 絵の中心部に描かれた巨大樹。

 リアルな油絵で印象派が描いたような感じだが、所々に欠損かクレヨンで塗り潰したようにぼやけて見える箇所があった。


 なんか中途半端な絵だなぁ。と、頁を捲る。


 次の絵は……。

 薄暗い緑の靄に包まれる中、黒っぽい濃緑色の巨大な薔薇を背景に立っている美女?

 美女だが、両肩から首に巻き付いた巨大な蛇が存在感を示していて、なんと、頭の毛が全て灰色の蛇だった。


 まるでメデゥーサ。


 双眸の目も瞳が縦に割れた錦の色彩なので、爬虫類のような怖さがある。

 頭はメデゥーサだが、首に巻き付いている巨大な蛇はマフラーのように見えるし、肩にも透けたスケルトン風の薄黒い天鵞絨のような服を羽織っていて、似合っている。

 更に透けた服の下にはビキニアーマーよろしく的な巨乳が目立つ軽鎧を装備していて、臍出しルックのくびれたウエストに青白い肌を持つ、美しい女神だった。


 股間には肌にピッタリとフィットしている蛇と蝙蝠型のパンツか貞操帯のような防具を身につけている。

 しかし、よく見ると、背中からうっすらとした透明に近い蜘蛛か蠍の足のような物も生えていた。

 この少し怖くも美しい女神の名前は魔毒の女神ミセア。


 スタイルの良さに感動しながら頁を捲る。


 うへ、今度のも正反対だ。

 でっぷりと太った怪獣の絵。

 顔も大きく、眼も大きい。太った蛙が仁王立ちしている。

 名作映画の宇宙戦争の敵にそっくりだ。


 名前は欲望の王ザンスイン。


 キモいので次っと。

 おぉ、これは、いかにも神を感じさせる壮観な絵画だ。


 名前は狂気の王シャキダオス。


 頭髪は蜂蜜色。長い毛先が小さい蛇のようにくねっている。

 狂気という名前通りの、赤い光線でも撃ってきそうな真っ赤な双眸で眼下を睨んでいる。

 大柄で人型の男のようだが、背には無数の黒翼が生え、ゆっくりと動いていた。

 空に浮かび上がっている状態か。

 羽織っている外套が下から風を受けて布が捲れ上がっているので、そうなのだろう。

 胸の辺りからは風を受けて揺れ動く外套から伸びている長い腕が六つもある。

 その六つある手の内、四つの腕先の掌には不気味な目があった。

 その掌の目からは血の涙が流れている。


 何か意味があるのかな?

 血を流す目はとある方向を向いている。

 二つの腕の掌には目がなく、血だらけの状態で傷を負っていた。

 下半身はイエス・キリストが十字架に磔にされた時の足のようだ。

 両足が一つに重なっていた。

 その重なった両足はグリーブを履いている。

 グリーブの表面は水溶液が膜状に展開している魔法の防具と分かるが……。

 更にその下では、浮いている狂気の神を見ている複数の種族が野原で机を並べて食事を取っている。


 これ、凄いな。絵的にはレベルが一番高い。

 かの天才発明家でもあった有名画家レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたような絵。

 素晴らしい出来映えだ。


 神秘的で、『最後の晩餐』にも似ている。

 美術館に行った気分になった。


 次はどんな絵だろうとわくわく期待して頁を捲る。


 名前は悪夢の女王ヴァーミナ。

 と、悪夢の女神ヴァーミナにも変化した。

 更に、白濁の女神ヴァーミナ、ハイグラシャス? 

 厖蝕の魔植物使いヴァーミナ……なんとうりかあるのか。



 大きい背凭れ付きの黒椅子に手足を縛られ、目隠しされて座らされている貴族風の女性?


 うはっ、よく見たら首が半分ちょんぎれて血が流れ、ネックレスの飾りの三つの玉に血が集まっている……。


 コワッ、次の頁を見よ。

 うへ、こいつもホラー系かよ。


 スキンヘッドの頭。名前は恐王ノクター。


 目がくり貫かれているのか? 灰色の布が頭に巻かれ、目隠しになっている布がちょうど双眸の位置で眼窩にのめり込んでいた。

 その布からは大量の血が滴り落ちている。

 だが顔は笑っていた。

 見た目的には長身の人族で、神々しい黒と金を合わせた重ね礼の鎧(スプリントメイル)一式を着込む戦士風の男。

 その背中からは黒いオーラの渦が発生していた。


 次が最後らしい。

 覚悟して頁を捲った。

 お、普通だ。見た目は人型で、黒騎士のような格好。


 名前は吸血神ルグナド。


 口から飛び出した鋭い犬歯が目立つ。

 背後にある影がゆらめき、霧のように消えたり現れてたりしていた。

 その黒い霧は不気味に蠢き、赤く眼が光る蝙蝠や同じく赤く眼が光る鴉へ変わったりしている。


 これが吸血鬼(ヴァンパイア)の神?

 そういえば、転生時に説明が出ていたな。

 まだページはあったが、余白ばかりで文字も薄くて見えなかったので閉じた。


 と、かなりの数に及ぶ神々の絵を見てきたわけだが……。

 この魔界セブドラの神絵巻に描かれている神々がタイトル通りに魔界セブドラに住まう神々だとして、全部で十八神? もしくは最低、力を持った神が十八柱いるということかもしれない。


 師匠や沸騎士たちが話していた通り、この世界には違う次元、影響を与えている世界があるということだろう。

 肝心の中身の絵だが、幼児が描いたような絵からプロが魂を込めたような絵画まであったのには何か意味があるんだろうか。

 中には動いている絵もあったし……力を持っていると、ハッキリとした絵になるとか? ま、そんなことを考えたところで、何も起こらないし、正解かも分からない。

 さっさと次のアイテムに移ろう。

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