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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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270/2104

二百六十九話 サジハリの領域

 

 どこかの空島を目指すように、凄まじい加速で澄みとおった青空を進む。

 千切れ雲が走るように消え、そびえた巻き雲を突き抜ける。


 サジハリさんの赤き竜も速度が速い。

 アフターバーナーを意識して追い抜いたと思ったら、並行してついてきた。

 しかし、目的地を知らぬロロディーヌが先頭に立ってどうするよ? と反省。


 ロロの嬉しく楽しい空を飛ぶ気持ちが、俺の心に伝播して爆発してしまった。

 跨っている神獣の黒毛背中を猫でも扱うように優しく撫でてから、少し後方に下がる。


 カレウドスコープの視界は鮮明だ。

 ズームアップも可能。

 横で飛んでいる赤き猛る竜の姿も実にリアル。


 鱗の形一枚一枚が微妙に異なり、表面に傷かと思ったら細かく凹凸された紋章が刻まれている鱗もあった。

 骨が出っ張り先端が武器のような形になってる部位もある……面白い。

 体長もワイバーンが四体ぐらい合体したような大きさだ。

 魔竜王よりも一回り大きい。

 やはり、古代竜より一ランク上な“高”なだけはある。


 ということで、逞しいサジハリさんを縁取っている線にある▽マークを意識してステータスを出してみた。


 ――――――――――――――――

 ナパーム高生命体exKi7?###

 脳波:安定

 身体:高揚

 性別:雌

 総筋力値:3210

 エレニウム総合値:8924933

 武器:あり

 ――――――――――――――――


 すげぇ、数値とはいえ、凄いもんは凄い。

 断定するのはまだ早いが、この惑星、この世界で最強クラスの生物か?

 エレニウムも高いけど、筋力が前代未聞だ。


 スキャンされていく映像の内臓も、また凄い……。


 至るところにびっしりと骨と筋肉が詰まっている。 

 人型の場合だと極端に筋力は下がりそうだけど。 

 邪神ヒュリオクスの使徒である蟲と同一化したパクスでさえ、筋力はもっと低かった。


 今までの最高は……確か魔界のシクルゼ族のルリゼゼ。

 でも、彼女はあくまでも人型だからなぁ。

 表面を覆っている鱗群も筋力に加味された数値なのかもしれないが、やはり素の個体最強は古代竜……。


 こんな相手に俺は冗談を……背筋が寒くなった。

 死力を尽くして戦えば勝てると思うが、対邪神の一部、対魔竜王戦のような痛い思いはしたくない。

 いや、案外、防護服ハルホンクの防御能力、神槍と魔槍と導想魔手を用いた四槍流or三槍とムラサメブレード、遠距離ならば、鎖、光鎖、古代魔法、氷魔法があるからいけるか?


 いやいや、戦うのは脳内だけに留めておこう。


 サジハリさんはバルミントの師匠だ。

 そして、このレーレバの笛にあるように……俺は彼女と繋がってしまった。

 結婚風の契約をしちゃったようだし仲良くしたい。


 美人でお婆竜だが、おっぱい委員会の幅は広い。

 新しい歴史を教典の頁に刻むべきか。


 そこで右目のアタッチメントを触り、カレウドスコープを止めて視界を元に戻す。

 普通の空の光景を楽しみながら、サジハリさんの後頭部で、ちょこんと乗っているバルミントの姿を見ていく。


 バルは、背中に生えた四枚の翼を忙しなく動かしている。

 サジハリさんが飛んでいる姿から、自身の四枚翼で空を飛ぶイメージを重ねているのだろうか。

 竜同士が持つテレパシー能力のコミュニケーションを取りながら動かしているのかもしれない。


 すると、赤竜サジハリは両翼の形をコンコルドの翼のような形に変えて身体を螺旋させながら上昇していく。

 神獣ロロディーヌも負けじと速度を出してついてった。

 そのタイミングで、レーレバの笛をアイテムボックスに仕舞ってから、左手で血文字を中空に描く。


 <筆頭従者長>たちと連絡を取った。


 『バルミントをサジハリさんに紹介し、バルの面倒を見てもらうことなった、心配なのでついていく』 

 と、そんな感じで最後に『近いうちに帰る』と伝えた。


 『へぇ、さすがは竜族! バルミントの新しい母になってくれそうなのね。淋しいけどよかった。バルちゃん竜なのにおっとりしすぎて心配だったし、あ、それより、クルブル流拳術を習っていたら、「歩き方からしてバランスが悪い!」ってサーニャさん、ううんサーニャ師範に注意されたの。だから、師範から歩き方を習って練習しているの。これは歩法? という武術の基本らしいんだけど……』


 と、レベッカは長々と武術のことを話してきた。

 彼女は将来、近距離、遠距離をこなす武術魔道家になりそう。


 『ご主人様、了解しました。わたしは、一通りの訓練を行なってから、色々な市場調査と大騎士が行う捜査の手伝いを兼ねた商店街の散歩、テンテンデューティーのような飲み物、この間、手に入れたご主人様があいす作りに利用なさっていた魔法瓶探し、ドワーフ語の本と珍しい古い言語の本を探しに魔法街の方まで探索を広げてみます』


 と、ヴィーネがメッセージを返してくる。

 本探しか。趣味は大事だ。ヴィーネにも自分だけの楽しいライフワークはあるだろう。

 自分の時間を自分のためだけに使う。これは重要なこと。

 それもまた素敵な女で、毅然とした強さを持つ尊敬できる女性だ。愛とは、代償なしに与えるもの。彼女からは十分受け取っている。

 俺のために魔道具を探そうと、市場調査は趣味もあるだろうけど色々と調べてくれるし。


 『ん、古代竜さんに宜しく。バルちゃん頑張れ、わたしたちは大草原で食材集め中。ここで、シュウヤの戦闘奴隷に喧嘩を仕掛けてきたマナーの悪い冒険者が居た。だから、わたしがトンファーで成敗した。でも、カルードが怒って相手の武具を全て破壊して、その冒険者の頭部の天辺を剃って、「誰の戦闘奴隷に手を出したか分かっているのか?」と、わたしも恐怖を覚えるほどの血の形相で相手を懲らしめていたから少しスッキリとした。ユイが途中で止めていなかったら相手は死んでいたかもしれない』


 エヴァはシンプルだ。

 というかそんな事件があったのか。

 見たかった。 


 『了解。バルちゃんによろしくね。将来、ルシヴァル家の守護竜になりそう。で、今、わたしは聞いているように大草原でエヴァのお店用に扱う食材集めに協力中。その途中で、父さんがチンピラ冒険者相手に切れたりして色々と大変だったけど……肝心の食材集めはすこぶる順調だから安心してね。モンスター戦は、対人戦と違って戦闘奴隷たちから学ぶところが多い。で、その狩りの話とは全く関係がないのだけど……今日、ヴェロニカから血魔力のことを聞いたんだ。なんでも、第二関門を覚えるには「様々な血を吸収しフェロモンズタッチを繰り返して己の武と魔を高めていくしかない」と教わったの。「とにかく、成長を促すスキルがあるなら別だけど、普通は時間が掛かるから焦っちゃだめ」とね。だから、この新しい刀でモンスター狩りと武術の稽古を頑張るから』


 ユイはヴェロニカと連絡を取り合っているんだな。


 『マスター、高・古代竜の鱗が欲しいかも。どんな生態か気になるわ。あぁ、でもこっちはこっちで色々とあるから……少し愚痴を聞いてね。学生のミアが怪我をしてしまったのよ。回復ポーションが間に合ったから大丈夫だったけど。模擬戦なのに相手を殺そうとする学生が居るなんて……その相手は、黒髪の天才と呼ばれて名がシルヴィ。大貴族の娘で美人な女生徒だけど……可愛がっている生徒を殺そうとするなんて許せない。と、思わず、わたしがルシヴァルの血を使ってぶん殴ってやろうかと思ったわ。武術指導の教員も倒しちゃうから調子に乗っているのよ。マスターが臨時講師にきてくれれば、武術指導の名目で、調子に乗ってるシルヴィとその取り巻きにキツイ教育が行えそうなんだけどなぁ……あ、わたしがやれかといわないでね。わたし、本の虫とか、おしとやかな可憐な先生で通っているから。それに、動きが素人なのに変に目立つ行動しちゃうとね……貴族の娘も多い学園だし、ただでさえミスティ。という名前だから……ヘカトレイルの昔を知っている子も居るかもしれない。だから、余計なことをして過去を詮索されたくないもの。ま、ばれたらばれたで、屋敷に篭ることに専念できるのだけど、で、その屋敷、学院以外の話だと、ザガ&ボン君と一緒に行なう予定の魔導人形(ウォーガノフ)作りもある。そのためのムンジェイの心臓を組み込む設計図をこれから仕上げないと……白の謎肉とわたしの血と魔力を除々に浸透させながら水晶粉を混ぜる実験もやりたい……だから、忙しいわたしの代わりに「悪戯するバルちゃん! 怒っていたけど本当は大好きなんだからね!」と、伝えておいてね。もう工房で悪戯をしないと思うと……とっても淋しい。今だって涙が……けど、バルちゃんのためだからね。あの子が残してくれたおしっこで加工した謎の竜金属の研究も進めておく。最後に、成長したバルちゃんと一緒に空を飛びたいな』


 ミスティは学校と研究と暇がなさそう。

 その黒髪の天才と呼ばれている女生徒が気になる……。

 いつか、その学院に武術指導がてら、美人な女子を見に行くのもいいかもしれない。


 『ふーん、高・古代竜なんて、どうして知り合えたのかしらァ? 昔、オセベリアの王太子が乗っている古竜の姿なら遠くから見た事あるけど……ところで、わたしの眷属の件なんだけど……メルとベネットに血のことを告白したの! そしたら、わたしの眷属に入ってもいいって。だから、今度わたしの眷属にするつもり♪ 別に話さなくてもいいと総長が言ってたけどォ、一応報告しておきます。やっぱり、わたしの愛しいルシヴァル神だしね♪ ま、これは、今さっきヴィーネから何回か眷属について聞かれた面もあるからメッセージを送っているのだけど、でもそのヴィーネが神聖ルシヴァル帝国? の参謀にメルがいいとか……総長は本当にそんな国を作る気なの?』


 ヴェロニカの女帝化か。

 しかし、ヴィーネ……俺に対して、そんなことは一言もなかったが……ヘルメから影響を受けていたか。

 そんな調子で、眷属たちと血文字のやり取りを終えた直後。


 大鯨、クラゲ、秋刀魚、恐ろしいほど毛深い長方形の物体、丸い目を持つ狸かムササビを巨大化したような背に六枚羽根を持つ生物の群れ、翼を生やした岩巨人が数体、田螺のような眼を持つドラゴン、ワイバーン、小型ドラゴンの多数のモンスターたちが争う、生存競争の現場に遭遇した。


 それらの空中でサバイバル活動中のモンスターたちへ、サジハリさんが凄まじい唸り声を上げて、突進。 

 狙った獲物を飲み込むように喰い付き、食べていく。

 興味ない物は無視するように体当たりを行い、ムササビの形をしたモンスターを潰すように吹き飛ばしていた。

 赤竜の硬い鱗は武器になる。

 しかし、空を飛ぶモンスターたちは赤き竜が現れても逃げることをせず、立ち向かっていくし……。


 度胸がいいモンスターたちなのだろうか。

 匹夫の勇、無鉄砲のような気がするが……。


 そして、サジハリさんは、そんなモンスターたちに向かい容赦なく咆哮をあげる。

 ロロディーヌのような火炎息吹を口から発生させていた。

 火炎の海を感じさせる紅蓮の炎が一帯を支配。左辺のモンスター群を消滅させていた。

 続けて、自身の鱗を先が尖る杭に変化させると、それを前方の大鯨目掛けて大量に射出。

 一方的に岩杭で押し潰すように大鯨を圧殺したり、翼から指向性のある旋風を岩巨人へ放っては、鋭利な刃物でスライスした切り口を見せて岩巨人を切り刻んでいた。


 一方的にモンスターたちを蹂躙していく光景を見せ付けてくる。


 まさに空の王。空の覇者としての姿だ。


 赤き猛る竜のサジハリさんは凄まじい戦闘機真っ青な機動で空中を動いているのに、後頭部にちょこんと乗っているバルミントは強力な磁石でお尻がサジハリの鱗とくっ付いているように落ちる気配がない。


 ここからじゃ見えないけど、サジハリさんから見えない触手か透明な紐でもバルミントの身体に巻き付いているのだろうか? 

 何かしら落ちない竜独自の仕組みでもあるのかもしれない。

 そんなサジハリさんの凄まじい戦いっぷりに触発されたわけじゃないが、俺とロロディーヌも空中戦に混ざった。


 飛んでいるロロディーヌからスカイダイビングを楽しむように離れる。


 下降中の重力を身に感じながら<導想魔手>の歪な魔力の手を足元に生成。

 その透明な魔力の手を足場に利用して、宙をホップ、ステップ、ハイジャンプを行なうが如く空中を掛けながら、視界に捉えていた大鯨と、争う秋刀魚型の不思議な鳥の群れとを狙いに定めていく。


 右手を標的に伸ばすと同時に右肩の竜頭金属甲(ハルホンク)の蒼眼を意識。

 竜頭の目玉の一つである蒼眼が煌いているかもしれない。


 次の瞬間、魔力を盛大に込めて――《氷竜列(フリーズ・ドラゴネス)》と念じた。


 一瞬で周りの空気中の温度が下がると共に、腕先から“龍頭”を象った列氷が生まれ出る。

 ところが、いつもと違う。

 俺が魔力を込め過ぎたのか、或いは成長の証か、分からないが、生まれ出た龍頭たちは一つに集結しアジア風の氷の尾ひれを作る龍ではなく、多頭を持った成竜姿へ変化を遂げていた。


 生成されたのは、多頭氷竜。

 全身から硝子を鋭くさせたような氷牙を無数に伸ばす。

 そして、その氷牙群を生かすように自ら螺旋回転しながら標的目掛けて空中で弧を描く機動で飛んでいく。


 標的の大鯨に激しく衝突した氷竜。

 衝突音がけたたましく空中に轟いていた。

 竜の形は瞬時に凍てつく大気となり氷の世界を空中に作り出す。

 それを壊すように、極寒の雪、鏡のように磨かれた氷、千万本の針のような霜柱が周囲に弾け飛ぶ。


 凍り壊れた大鯨の破片も混ざっている。

 秋刀魚型の鳥は見る影もない。

 この圧倒的な氷の絶景ともいえる光景を目にした赤竜ことサジハリさんも、口に獲物を含んだまま動きを止めて見ていた。


 そして、赤い竜の頭を、その魔法を作り出した俺に向けると、首を伸ばし獲物を飲み込んだ仕草を取りながら、『やるじゃないか!』といった感じの咆哮を飛ばしてくる。


 風がここまで届く。凄い挨拶だ。 

 その強烈な咆哮に対して、俺の代わりに神獣のロロディーヌが「にゃおおおおぉぉん」と返事をしていたが、サジハリさんは、見向きもせず、他のモンスターに襲い掛かっていた。


 と、俺も見ている暇はない。

 ここは三百六十度の空中戦。


 氷魔法の範囲外に居た狸型モンスターが、無防備に見えたであろう俺に対して攻撃を仕掛けようとしていた。

 狸型は下半身から足先にかけての部位を硬そうなドリルの形に変えている。

 そのドリル足から茶色の骨牙のドリル型の物体を無数に放出――俺に攻撃してきた。


 右手に魔槍杖を召喚しながら<導想魔手>を発動。

 その<導想魔手>を足場に使い、空中を舞うように、その骨ドリル群をギリギリの距離で避けていく。


 身に纏うハルホンクが擦れて緑の火花が散った。

 避けている俺の代わりに、神獣ロロディーヌが全身から触手を無数に伸ばし、狸型へ反撃。

 骨ドリルを放った六枚羽根を持つ狸型生物の全身に触手骨剣が突き刺さった。


 蜂の巣だ。しかしまだ生きていた。タフだ。

 血だらけで羽根が貫かれても、辛うじて飛んだ状態を維持している。


 だが、丁度いい。 

 視界にふらふら千鳥足のように飛んでいる俺に攻撃を仕掛けてきた空飛ぶ狸の姿を睨むように捉えた。

 その瞬間、魔闘術を足に溜めてからドゴッと鈍い音が周囲に聞こえるほどの勢いで<導想魔手>を蹴る――。


 血だらけの狸のもとへと急加速だ。


 加速中に魔槍杖を握る右手に力を込めながら身体を捻り、トルネード投法を行なうが如く背中の筋肉を意識。

 そして、俺の視界が狸に埋まるように間近に迫った空飛ぶ狸の頭部を確認してから縦回転。


 その回転力を魔槍杖に乗せた<豪閃>を発動させる。

 空飛ぶ狸の頭へ回転する紅斧刃を喰らわせた。

 狸型モンスターの頭から身体を、縦に真っ二つに両断。


 二つの肉塊となった離れ離れになる狸の死骸から茶色の血が周囲に弾け飛ぶ。


 俺は空中に作った<導想魔手>を足場に片膝をつけるように着地。


 さすがに迷宮世界と違い、倒しても都合よく魔石は出ない。


 だが、舞っている血は頂こう。

 足場にしている<導想魔手>を蹴り、血が舞う空中へ跳躍。

 視界が血に染まる中<血道第一・開門>を意識して、周りの血の全てを身体に吸収させた。


 よし、と周囲を見る。空飛ぶ狸かムササビ型モンスターの一体は倒したが、まだまだ周辺のモンスターは多い。

 神獣ロロディーヌは、まだ他にも飛んでいた秋刀魚型モンスターの群れが気になるらしく……。


 群れの行動を見て、口から覗かせる鋭い牙から唾を垂らして頭をきょろきょろさせると、俺から離れて追い掛けていった。


 気持ちは分かる。

 見た目が魚だし、美味しそうに見えるのだろう。


 ……俺もやるか。反対の方向に居るあいつらかな。

 恐ろしいほど毛深い長方形の物体生物と、色違いの空飛ぶ狸が争っている現場に狙いを定める。


 今度は、光と闇のコラボといこうか。

 普通の<鎖>は使わない。


 遠距離から<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を順次、五発発動。

 続いて<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を無数に発生させた。


 恐ろしいほど毛深い長方形の物体は、見た目通り、毛が武器らしい。

 その大量の毛を迫った五発の<光条の鎖槍シャインチェーンランス>の全てに巻き込ませて途中で止めてきやがった。

 止められた光槍の後部がイソギンチャクのように分裂しながら光鎖になるが、それも、無数の毛が絡まる形で封じられる。


 だが、少し遅れた闇杭の群れは毛が絡もうとも無駄だった。


 最初は光槍と同様に毛が絡んで勢いを止めていたが、絡まろうとする毛に何度も闇杭が衝突していくので、その度に毛が摩擦で燃えるように消滅していく。

 次々と、闇杭と衝突する度に、毛が削れるように消滅。

 長方形の毛が集合した形が除々に崩れていく。

 空飛ぶ狸の方にも、無数の闇杭が突き刺さり、羽根の一部が破けると動きを鈍くしていた。


 ここらで終いにするか。

 魔力をかなり消費するが……。 

 その二匹を含めて周りのモンスターを纏めて一網打尽にするつもりで<闇の千手掌>を発動。


 黒い千手観音像の千手と化した闇杭たち。

 掌底の闇杭の多連撃が、弱った二匹のモンスターだけでなく周辺のモンスターを巻き込みながら潰していった。


 これで大半のモンスターの姿は消えた。

 サジハリも最後の大鯨を食べるように倒すと、先へ飛んでいく。


 置いてかれたと思ったのか、ロロは秋刀魚型モンスターを追うのを止めて戻ってきた。

 俺の顔を見て、「にゃああ」と『速く戻ってこいニャ』と思われる気持ちで鳴いてくる。


 ――言われなくても移動中だ。

 旋回しながら寄せてくるロロディーヌの背中の上に飛び乗った。


 俺を乗せた神獣は凄まじい速度で空を飛ぶ。

 赤き竜サジハリを追い掛けていく。



 ◇◇◇◇



 眼下に見える景色の移り変わりが激しい。

 既に荒野は過ぎ去り、見知らぬ丘の稜線を越え、斜面に鳥の群れのように集まっている白い家々が目立つ何処かの都市と思われるところを過ぎ去っていた。


 標高の高い山が見えてきたところで……。

 速度を落としたサジハリさん。

 太陽が山の端に隠れて、星が輝きを見せる夜となったのを合図にしたかのように山間の中へ急降下していく。

 その際に山の一部から雲雀の鳥がぴいぴい囀る音が耳に届いた。


 上にスキー場のような平たい斜面を持った崖が見えてきた。

 赤竜姿のサジハリさんは、斜面がある上ではなく、黒い輪郭を星空に刻む断崖絶壁と化している崖側の下へ回り込むと、足先から魔力を出して静かに地面に着地している。


 俺はロロの触手手綱を斜めに傾けながら、そそり立つ崖下へ向けて旋回。

 神獣ロロディーヌを崖下の前の地中へ横合いから滑らせるように着地を行なった。

 その際にロロの四肢から伸びた爪先が地面を滑りながら削り取り、ブレーキ跡のような線を地面に作ってしまう。


 サジハリさん、怒らないかな?


「――こっちだ」


 サジハリさんは人型に戻っていた。

 踵を返して、足元に居るバルミントを連れて崖下の中へ歩いていく。

 ロロが地面に作った爪跡は特に指摘されなかった。 


 すると、歩いているサジハリさんの頭上から明かりが自動的に照らされていく。

 サジハリさんに反応しているのか?


「はい」


 と、返事をしながらも周囲を確認……。


 サジハリさんとバルミントが歩いている崖下は奥に進むほど先が窄まる形の洞窟。

 崖下は全体的に卵型を縁取る岩壁で形成されている。

 その色合いは黒曜石。

 その黒曜石を工具で規則正しく削り作られたデザイン性のある壁となっていた。

 樋から流れた雨滴の跡から続く下に美しい形の水溜め場所があり、今もそこに水が落ちていた。

 さっきまで雨でも降っていたのか、ささやくような水音が洞窟内を木霊していく。


 その水溜めに、スライムらしき物体が浮いてるけど……。


 ぷかぷかと浮いているスライムを無視して、新しく点いた明かりを注視。

 滑らかそうな曲線で縁取られたアルコーブの根元から、新しい明かりは発生していた。


 壁の隅に、使い古された香木、大皿、花瓶、羊皮紙の束、本が乱雑に置かれてある。

 香木の上に積もり積もった埃と塵が重なっているので、永らく放置されていた時間を感じさせた。

 そこで……崖から外へ視線を動かす。

 山の形が闇に溶けて稜線が見えない。

 カレウドスコープの方がよく見えるけど<夜目>を発動させる。


 緑豊かな山々が屏風のように立ち並んでいるのが見えた。


 まさに、隠者が住んでいそうな雰囲気。

 魔素の気配はあるが、人の気配はない。あの山の向こうに現地民が居るかもしれないが……。


「……安心しろ、エイハーンの砂漠騎士、砂漠のムリュ族、ゼルビアのグリフォン隊、竜騎士、雇われ冒険者も都市近辺と違いここではあまり見たことがない。しかし、亜神ゲロナスを信仰する教徒たち、アブラナム系の荒神ゲシュミュルを信仰する教徒たち、特にこの荒神ゲシュミュルはアズラ側だから要注意だ。寺院圏内に入ったら問答無用でゼルビア、エイハーン、構わず攻撃される。それら宗教とは全く関係ないリザードマン、セブプーン、マーメイドたち、わたしが時々助けてやっているハザーンと主に対決をしている黒髪の魔術師と不可思議な使い魔たちが住んでいる地下迷宮がそれぞれにあるが、わざわざ、わたしの領域に近寄ることはないはずだ」


 振り返っていたサジハリさん。

 俺が周りを窺う様子を見ていたのか、今の状況を分かりやすく語ってくれた。


 俺は跨いで乗っていた神獣のロロディーヌから鞍馬競技を行なうように足を揃えながら地に着地。


 助けてあげている黒髪の魔術師も気になるが、やはり、荒神ゲシュミュルとアズラ側……か。

 アズラ側につかないでくれと、カーズドロウの言葉が呪文めいた声で脳内に反響した。


 そんなことを考えた直後。

 神獣の姿から身体のサイズを大きく縮小させて黒猫の姿に戻ったロロ。


「ンン、にゃお」


 黒猫(ロロ)は珍しく俺の肩上に乗ってこない。

 足元の位置から前に居るサジハリさんのことを興味深い視線で見上げながら、鳴いていた。


 サジハリさんは笑顔でロロの挨拶に応えている。

 彼女の顔にある皺が少しずつなくなっている? 

 美人度が上がっているような気が……。

 契約した効果だろうか。

 俺の好みが笛を通して伝わっていたりして……。

 その笛はアイテムボックスの中だけど。

 少し、ドキドキしてきた。<夜目>を解除しておく。


 その気持ちは表に出さず、気になることを聞く。


「……荒神ゲシュミュルの名は聞いたことがないですが、過去に荒神同士が二つの陣営に分かれて争っていたと、聞いたことがあります」


 俺の言葉を聞いたサジハリさんは美人顔から一転。

 視線を鋭くさせてきた……。


「……ほぅ、古の荒神たちが起こしたアブラナム大戦を知っていたのか、ホウオウとアズラの争いを」


 単刀直入に聞くか。


「はい、サジハリさんはどちら側ですか?」

13日まで、0時更新予定です。

出版社ホビージャパンのレーベル、HJノベルス様より書籍版「槍使いと、黒猫。1」2017年2月22日(水)発売予定です。各書店様、Amazon様で予約出来ます。


活動報告に口絵と挿絵を載せました興味ある方はどうぞ。特典情報もあります。

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