二百四十二話 ヒュプリノパスの尾
「続いて、紅いインク瓶はユニーク級。名前はトニクラインの紅。魔力が微上昇し、塗ると、皮膚の乾燥を防ぐ効果があります」
「それは使えそうね」
「乾燥、化粧以外にも応用が利きそう。魔力も少し上がるようだし」
ミスティは欲しいようだ。
「……次は、このベージュを基調とした魔道具の絵の具。ユニーク級。名はアマードのアイズですね。肌を健康に保ち魔力を微上昇させる効果があり、色合い的に落ち着いた印象を持たせるようで、それらの効果によりマダム貴族たちの間では天使のベール並みに人気の品とか。あまり市場には出回らないかと」
肌を健康に保ち、魔力も上がるコンボか。
そりゃ人気出そうだな。
「アルコーニ商会がこの種のアイテムを集めていたから、店主じゃなくて、そこに売れば高く売れるかも?」
「貴族御用達の商会ね。規模は小さいらしいけど」
レベッカとミスティは語る。
「ん、売らない。化粧は女の武器」
「でも、化粧の必要がないぐらい、エヴァの肌はツルツル~」
「ん、ユイも、白い肌で綺麗」
「ふふ、ありがと」
「ユイとエヴァも肌が綺麗よねぇ……」
レベッカが羨ましそうに語る。
だが、俺には全員の肌が綺麗に見える。
女にしか分からない世界があるのか?
「これを魔導人形の肌に……」
ミスティは呟く。
まさか、兄のゾルのように人工生命体の皮膚を……。
「ミスティ、研究熱心ね。でも、あの鉄人形に肌なんて必要なの?」
「必要かは微妙だけど、可能性は無限大よ?」
そうだな、オレたちの螺旋のパワーは無限大。
「それは冗談半分だけど、勿論、自分にも使ってみたい」
「……次のアイテムを説明致しますが、よろしいですか?」
店主がまだ説明予定の品は一杯あるんだよ。
と、言いたげに語る。
「どうぞ」
「はい。では……」
アイペンシルのような筆も同様だった。
アンチエイジング的な効果と温かみと柔らかさを持った肌色になる。
唇に塗る場合は独特のオイルで光沢を生み出し、女性の魅力度を数段引き上げるうえに、魔力を僅かに上昇させるとか。
「このミステリーカラー色の液体瓶ですが、ユニーク級、名はジェペイルの爪液。これは爪専用。爪に塗れば素早さが微上昇します。さらに、周囲へリラックス効果を齎す匂いを発します」
爪以外は意味がないのか。どういう理屈なのか分からない。
しかし、リラックス効果はいい。
「爪専用なんてあるのね。これらのアイテムを使えば、大貴族たちの舞踏会に呼ばれても大丈夫かも」
レベッカが楽し気に語る。
「ん、舞踏会にはあまり興味ないけど、シュウヤが気に入るなら化粧する」
エヴァは健気だ。
「化粧かぁ。シュウヤの場合、素の顔が好きだ、と、よく聞くけど」
ユイは俺を見つめながら語る。
「あ、それ、わたしにも話していた。そんなシュウヤへわたしたちの本気の化粧を見せて……びっくりさせるのも面白いかもしれない」
小悪魔的な笑顔を見せるレベッカ。
「素の顔が好き、と、わたし、まだ言われたことがない……だから、化粧を頑張ろうかな。魔力も上がれば金属同士の合成にも役に立つし……」
今度、彼女にも言わないと……。
ミスティは美人の先生だし、化粧は元から上手いような気がするけど。
<筆頭従者長>たちは、仲良く話し合う。
じゃんけんはせず。
化粧品類を分け合い、皆で使っていこうと談合。
ユイ、ミスティ、レベッカ、ヴィーネ、エヴァ、五人で、紅茶の誓いではないが、スロザの誓いを立てていた。
「ゴホンッ……では、次の品を。この血塗れた巻物は魔造書です」
怪しい巻物は魔造書か。
「伝説級、名はミドルガの書。使用者の魔力、血、体力を犠牲に魔界からミドルガと呼ばれるモノを召喚できる魔造書。教会勢力が煩い禁忌魔道具の一つになります。……この魔造書は巨大冷蔵庫と共に買い取りをお願いしたい品ですね」
俺たちが使ってもいいが、王子に売るのも手かな。
「……店主、悪いが売る予定の相手はいるんだ」
「そうですか……残念です」
「ねね、そのミドルガの書、この間、戦った相手が使っていたのと同じ物かしら」
「ん、ドワーフの?」
「そう、メルが回収していたけど」
レベッカとエヴァはそんな会話をしている。
魔造書を使った相手と戦ったことは話には聞いていたが。
「では、次の品を説明します。この額縁はユニーク級。魔法絵師専門の品で名はハイデークの額縁。モンスターを封じ込めやすくする効果があるようです」
店主の説明に頷いていたレベッカ。
白魚のような手を額縁へ当てている。
ハイデークの額縁を指で撫でるように触り入念に調べていたが、その途中で俺の方へ振り向く。
顔には残念という文字が浮かんでいた。
<筆頭従者長>になり戦闘職業も進化したレベッカだが、使えるわけではないらしい。
「……わたしが使えたらなぁ。魔法絵師は憧れなんだけど。ロロちゃんみたいなスーパー猫ちゃんを使役して……」
レベッカは妄想タイムへ突入。
金色の髪を揺らし、蒼い瞳を左右へ向ける。
小柄で超絶した美人さんなので、一々、絵になる。
あの魔法の額縁の中にハイエルフの彼女の絵が飾られていてもおかしくない。
と、考えながら、
「……残念だが、使えないなら店主行きだな」
「うん、新しい目標もあるし気にしない」
レベッカは自分に言い聞かせるように話す。
羨ましそうに額縁を見つめて、頷いていた。
「では、次の品を……」
店主は、徐に特殊な手袋を嵌めてから黒人形を触って持ち、慎重にカウンターの端に置く。
「この黒人形は呪いの品。どこぞの……呪神か、分かりませんが、第一種危険指定アイテムに分類されます。鑑定が普通ではない弾かれ方をしました。特異なる物、特別な方以外……直に触ることは止めた方がいいレベルの品物ですね。わたしのように呪われたくなければ」
こえぇ、店主はマジだから怖い。目が光ってるし。
「……店主が言うと余計に怖いわね」
レベッカも恐怖の顔色だ。
「うん、売ろう……店主、買い取りは可能ですか?」
「わたしで宜しいのですか? 先ほどお話をされていた売るお相手も、この品ならば、きっと喜ぶと思われますよ? かなりの呪いの品ですからね」
店主のいう通り王子に売ってもいい。
しかし、呪いで被害がでるかもしれない。
その場合、俺が責められるからな。
ここは店主に売った方が無難ともいえる。それに呪いの品の市場価値の詳細は判断しかねるが、渋い店主も喜ぶと予想。
「……いいんです。店主との付き合いも大事にしたいですから」
「それは嬉しいですな。分かりました、高価買い取りさせていただきます」
店主は声音を高くして、人形を掴み、背後にある棚に置いている。
続いて、野球の帽子、鉛筆、青白い釣り竿、旗布、などを説明された。
帽子は視力が上がるのみ。鉛筆は珍しい筆記道具。
要するに、ただの鉛筆。旗布は切れにくい布が使われ、魔力を送ると自動的に縮む効果だった。
釣り竿は餌が要らずに、魚を捕まえることができるらしい。
ルアーみたいなもんか。
帽子と青白い釣り竿はザガとボンへのお土産だな。
その他は買い取ってもらった。
「この眼鏡ですが、普通のマジックアイテムですね。視力が上がるようです」
視力が上がる……普通の眼鏡だった。
「マスターに貰ったものだから大切にする」
普通の品だけど、彼女は嬉しいようだ。
店主はその様子を眺めてから石板を鑑定していく。
「この魔法印字が刻まれた石板は墓標のようですが、読み取れないですね。魔法効果も不明です」
店主は悔しそうに語り、カウンターの端へ石板を乗せる。
石板の文字をよくみてなかったが、アンコ・クドウ、ケイコ・タチバナ、ケイティ・ロンバート、ジョン・マクレーンと刻まれてあった。
もしかしたら転生者の墓標か。
名前的に日本人とアメリカ人かな?
これも何かの縁だし、中庭の端に墓でも作ってお祈りでもするか。
「この五つの鋼球ですが、伝説級、名はサージロンの球。五つの鋼球は魔力により繋がっているようです。導魔術系、或いは、それに近いスキルを持つ方専用の、珍しい武器。金属、出所は不明です。効果は魔力操作の効率が上がり、特殊スキルの効果を倍増させるとあります」
これはエヴァにいいんじゃないか?
俺の導魔術の<導想魔手>のが使い勝手はいい。
その<導想魔手>の発展も今後、修行に組み込むか?
ま、槍をメインに、気楽にのんびりだな。
少し脱線した、この武器はエヴァへ勧めとこう。
「……エヴァが使うべき道具だと思う。武器にも使えるし、エヴァの力も伸ばせる」
「ん、でもいいの?」
「皆もいいよな?」
そう言って、皆を見ると、
「うん、構わないわ」
「そうですね。わたしでは<投擲>に使うぐらいになりますし」
「ヴィーネ殿と同じく。我々では使い方が限定されるでしょう」
「父さんと同意見」
「賛成。金属仲間としてエヴァが強くなるのは嬉しい」
視界にいる小型ヘルメが頷きながら、
『閣下の案は理に適っています。エヴァの手数がより増えますね』
また、エヴァを見て、
「ということだ。これはエヴァの装備」
「ん、ありがとう」
店主は次の品を手に取る。
「……次の品は丸い専用箱に納められている不思議と生きた心臓です。ランクは不明、名はフィフィンドの心臓。効果も不明。司令室にて納めることが可能と記されているのみですね……すみません、鑑定屋として失格ですな。一応、他の鑑定屋に見てもらうのもいいでしょう」
スロザの古魔術屋でも解らないんだから、他の鑑定師に見てもらったところで……同じ結果だろう。
鑑定結果には個人差が出るのかもしれないけど。
「……気にしないでください。見た目から謎のアイテムですし」
店主は、俺の言葉を聞いても申し訳なさそうに、沈鬱な表情を浮かべながら口を開いていく。
店主も自分の仕事に誇りを持っているらしい。
仕事として鑑定は完璧にこなしたいのだろう。
「……面目ないのですが、次の四角い水晶体も神話級……と、だけしか分からないですね。この真ん中にある黒いモノから膨大な魔力が放たれているのは確実なのですが……鑑定眼が弾かれました。因みに呪いではないです」
最後は薄い鋼板か。
「別にいいよ。この薄い鋼板は?」
「これもランクは不明、名も不明。古代の【暁帝国】より古い証拠であるカギ付きの文字が刻まれてあるので……かなり古い物のようです」
古い物か。傷がついてるが……後々、個人的に調べるか。
店主が置いた鋼板をミスティが触りチェックしていく。
「……金属のようだけど、何かの魔道具かしら」
「ん、貸して」
ミスティはエヴァへ手渡す。
「……魔力をあまり感じない。分からない」
エヴァもミスティ同様に分からないようだ。
彼女は首を傾げながら、鋼板を机の上に置いていた。
さて、他にも鑑定してもらいたい品物がある。
「店主、実は他にも鑑定してほしいのがあるんだ……」
クナが持っていたアイテムボックスの中から、魔界セブドラの神絵巻、ヴァルーダのソックス、紅鮫革のハイブーツ、雷魔の肘掛け、影読の指輪、宵闇の指輪、祭司のネックレス、暁の古文石、古王プレモスの手記。
それから、俺のメイン武器である魔槍杖バルドーク、魔剣ビートゥ、胸ベルトに納まっている、ヤゼカポスの短剣、邪神ヒュリオクスの使徒だったパクスが持っていたオレンジの刃を持つ魔槍グドルルをカウンターの上と床へ置く。
魔竜王の臍から作られた侯爵家の紋章が刻まれている記念指輪、古竜の短剣、古竜の蒼眼は、別に鑑定しなくてもいいか……。
続いて、クロイツが持っていた緑の魔剣。
邪神ニクルスの第三の使徒リリザが持っていたアイテム群。
植物の種、長細い骨針、悪魔の尻尾、黄金の口と鼻の位置が大きく空いているマスク、胸元に黒曜石で天使のような象嵌が施され、ランジェリーなのを感じさせる黒布の前掛けが付いたコルセット鎧、ブレスレットと一体型の筒型腕防具、金色で縁どられてある漆黒のローブ、岩の心臓? 二頭の虎の置物、二重の腰ベルト、そのベルトには骸骨飾り、銀の飾り鋲がついた魔力漂う装丁本。
最後に、正義の神シャファが授けてくれたリュート。
を、出していく。
「大量ですな。では、これから……」
店主は右手で魔槍杖を持とうとするが重くて片手では持ち上げられず。
「こ、これは重い。このままの状態で鑑定しますね」
「どうぞ」
ザガ&ボンの名前が出るのだろうか。
「伝説級、名は魔槍杖バルドーク。魔宝石を超える価値がある巨大な竜魔石を元にザガ・アウロンゾとボン・アウロンゾが合同で作り上げた逸品のようです」
「アウロンゾ……」
ボンとザガのドワーフ一族の名前か。
彼らの一族も気になるな……今度聞いてみるか。
「……何か?」
「いえ、気にせず、続きを」
「はい……全体的に強大であまりみたことのない規模の付与魔法も混ざっているようです。先端が炎属性、後端の竜魔石が水属性で、相反した属性のギミックがあります。更に、紅色の矛、斧刃は、魔力で自動修復されますが、様々な魔力を吸い込んだというより叩き込まれたような形跡が見られますね。そのお陰で切れ味が増す効果が備わっているようです」
いつの間にそんな効果が……。
だが、分かる気がする。この魔槍杖バルドークを使い今まで人、モンスター、神の一部、邪界のモンスター、魔人、本当に様々なモノを突き、斬って、屠り続けてきたからな……。
だから、切れ味が増して変な意識とかが芽生えてもおかしくはないと思う。
と、俺が感慨深く……魔槍杖を見ていると、店主は淡々と次のアイテムの鑑定へ移っていた。
「次……赤みを帯びた刀身に紫色の魔法文字、赤黒くうっすらと刃の表面に纏う闇色の靄。パッと見ただけで魔剣と分かる代物……名は魔剣ビートゥ。伝説級です。魔界の八賢師セデルグオ・セイルが作り闇神へ捧げられた逸品です。効果は装備した者の身体能力が微上昇と魔力上昇。闇神の恩寵を齎す可能性があるとか」
能力が上がる効果があったのか。
闇神の恩寵を齎す可能性の方は、いまいち、分からない。
「次はオレンジの刃を持つ槍。伝説級。名は魔槍グドルル。【霊霧島】と呼ばれる島で、グドルルという女性が自らの命を犠牲にして島を救った際、その命がオレンジ刃となったとか。このオレンジ刃には強い命の灯といえる火属性効果があります」
そんな物語がこのパクスが持っていた魔槍に……。
まだ彼が人族だった頃の名残だろうか?
パクスはグドルルという女性と親しい仲だったとか?
蟲になる前のパクスにも、何か悲しい過去があったのかもしれないな。
「……続きまして、この短剣ですが、名はヤゼカポスの短剣、伝説級。効果は、相手の体力、魔力を吸い取る効果があります。ヤゼカポスという伝説の鴉モンスターを元に作られたようですが、作成者は不明ですね」
そんな鴉が居るんだ。
店主は、魔界セブドラの神絵巻を鑑定。
「おぉ……これは懐かしい。過去に地下オークションで出品された神話級アイテム魔界セブドラの神絵巻。魔界と地上に対して影響力が強い神々の姿がしっかりと映し出されるという……とんでもないモノ。確かこれを買われたのは……【茨の尻尾】の幹部クナさんでしたな。最近はめっきりと連絡をしてこなくなりましたが……はて」
「……」
この店主、クナと知り合いだったのかよ。
「ゴホン、ではこの黒いタイツ系ソックス。名はヴァルーダのソックスです。ユニーク級、体力、精神力、魔力を微上昇させる効果ですね。次のブーツは、紅鮫革のハイブーツ。ただのマジックアイテム。魔力微上昇のみ。この肘掛けの名は雷魔の肘掛けでこれも同様。雷の精霊ローレライが近寄る可能性が高くなるとか」
続いて、影読の指輪、祭司のネックレスも大したことないアイテムだったので、省略。
「次の指輪は……神話級。名は宵闇の指輪。これは宵闇の女王レブラと吸血神ルグナドが契約を交わした際に、零れ落ちた体液が元となり生成されたモノらしいです。効果は三回のみ。この指輪に魔力を込めてヴァンパイアの皮膚へ押し込み、レブラとルグナドの名を叫び唱えると、ヴァンパイアの血だけを、抜き取る効果があります」
血だけを? 血を抜く=人族に戻す?
「……ヴァンパイアを人族へ戻す効果があるアイテムという認識で合ってますか?」
「その通りです。ヴァンパイアとして得た能力はそのままで元の種族へ戻ることが可能とか。しかも、この指輪は未使用です。今まで、あまり見たことのない部類のアイテムですねぇ……地下オークションで出品されていてもおかしくない貴重なアイテム……迷宮産とは思えないです」
鋭い。魔族のクナが持っていた物だからな。
「これはヴァンパイアハーフ、ダンピールとかでも可能ですか?」
「どうでしょうか、ルグナドに関わる者ならば多分可能だと思いますよ」
ヴァンパイアを人に戻すか……。
レブラとルグナドの契約。
ということは魔界の神同士で仲がいいのか?
そういえば、レブラの使徒であるコレクターことシキの配下にヴァンパイアらしき人物が居た……何か関係があるのかもしれない。
そして、これがあればヴェロニカも……。
人に戻れば、眷属化は可能。
しかし……彼女の想いもある。
彼女の血、スロトお父さんとの絆もなくなってしまう。
一応、暇な時に聞くだけ聞いて判断をゆだねるか。
「次の形が揃っている石ですが、ランクは不明、名は暁の古文石。古い【暁帝国】時代の物と推定されます。古代文字なので、今、解読できたのは一部のみです。“透明な膜に覆われた箱物”と、一つの古文石に刻まれていますね。次の古い紙片ですが、これもランクは不明。名は古王プレモスの手記。解読は“青の髪、湖”ぐらいしか分からないです」
石板と手記は、ずっと前に見た通りか。
「次のアイテムへ移ります」
店主は骨針を手に取る。
その時、俺の新しい指の内奥で魔力が蠢いた気がした。
店主は渋い表情を浮かべた状態で俺の新しい指を見てくる。
しかし仕事に徹しているのか、新しい指を一目チラッと見ただけで深くツッコんではこない。
「……長細い骨針は伝説級アイテム。名はセレレの骨筒。効果は骨針を自動的に生み出す効果があり、その骨針の複数射出が可能。中距離から遠距離用の武器です。そして、この武器を扱うセレレ族専用の独自スキルがあるようで、セレレのご先祖様が宿る代物とか……」
骨針か。ピュリンが使うかも。
店主は黙々と次の鑑定作業へ移る。
牛顔の魔術師クロイツが持っていた剣身が緑色の魔剣を鑑定していく。
「……この緑色の一対の剣。ランクは伝説級、名をランウェンの狂剣。効果は狂乱の魔界剣士ハザンが生み出したといわれる<剣凪・速王>を獲得することができる可能性があり、身体速度微上昇効果を使い手に齎します。更に斬った相手へ、毒、未知の闇世界に伝わる皮膚病を与える場合が稀にあるとか。製作者は魔界八賢師ランウェン。そのランウェンが作り上げた魔界六十八剣の一つです。魔界大戦時に於いて、狂乱した魔界騎士ハザンが愛用して無数の上等戦士、魔界騎士、一部の魔界公爵を斬りあげたという伝説があります」
呪いの品のような感じだが、違うらしい。
六十八剣もあるんだ。
「これも凄い」
これで訓練を重ねて<剣凪・速王>の獲得を目指す?
王子に売るのもいいかもしれない。
或いは、ユイ、カルード、ヴィーネ、サザー辺りにプレゼントか。
だけど皆、新しい武器を持っているので……保留かな。
「……植物の種の名前は、魔王種の交配種。分類は鑑定不可。元々は迷宮十五階層!? の魔王種モンスター同士から生まれた異質な物らしいです。種に魔力を込め土に埋めると、その魔力と、土の一定の範囲を吸収しながら固有のモンスター、或いは何かが生み出されるとか。詳しくは不明です」
また、不可思議なアイテムを。迷宮の十五階層か。
店主は十五階層と分かり驚いていたが、鑑定人らしく仕事に徹し努めて穏やかに話している。
そういえば……<光邪ノ使徒>のイモちゃんが、邪神の第三使徒リリザであった頃の記憶に十五階層で行われていた三つ巴の大激闘の内容があった。
ということからして、過去にリリザが十五階層で手に入れた物だろう。
「……続いての長い尻尾ですが……これも、不思議なアイテムですねぇ」
……段々と、この店主の溜める反応にも慣れてきた。
これは神話級のアイテムと判断。
「ランクは神話級……」
やはり、ビンゴ。
「どうしました?」
俺がニヤついたのが気に障ったらしい。
「いや、気にしないでくれ、続きを」
そう促すと店主は鑑定モードへ移っていく。
「……アイテム名はヒュプリノパスの尾。効果は血の盟約? を行い、盟約者の血、大魔術師級の魔力と精神力が必要なようです。魔界セブドラとは違う、魔人界からラー族、ヒュプリノパスという名のモノを、この地上に復活させる魔神具系のアイテムのようです……」
百日紅の鼈甲にも見える尻尾を調べている店主の声が、語尾のタイミングで震えていた。
凄まじいアイテムなのは間違いないだろう。
そんなアイテムを解析しちゃうアンタも凄まじいと思うが。
「しかし、これほどの神話級アイテムを……シュウヤさん、この品を地下オークションへ出品したら目玉商品になりますよ! というか、わたしが欲しい!!」
「店主が興奮、珍しい……」
レベッカが呟いたように、何気に、今日一番興奮している?
というか全員が店主の反応に驚いていた。
「……売らないと思う」
ヒュプリノパスの尾というアイテムはそれほどの価値か。
「……そ、そうですか。では、次の品を……」
断られた店主は気を取り直し、鎧、マスク、筒型腕防具、ローブを鑑定していた。
「次のコルセット鎧は伝説級、名はヒュプリノパスの専用鎧。魔力&精神力上昇効果。更に、黄金の口と鼻の位置が大きく空いているマスク、ブレスレットと一体型の筒型腕防具、金色で縁どられてある漆黒のローブもヒュプリノパス専用です。魔力&精神力上昇効果も変わりませんが、全部を装備しますとセット効果で、アンチマジックフィールドを二重に展開可能のようです。ただし、本人以外が装着しますと、重量が増すようにセキュリティが施された特殊な鎧セットですね」
ヒュプリノパス専用なのか。
「それらはキープ、俺が預かろう」
いつか、血の盟約とやらを試してみるか。
ん、血の盟約? どこかで……まぁ、アイテムは複数ある、後回しだ。
「では、次の、岩の心臓のような品。伝説級、名はムンジェイの心臓。亜神ムンジェイを祭る【ローレンドの祠】にて魔力の器としてシャーマンオークたちの魔力が込められていたアイテム。現在は魔力の大半を失っています。魔力を溜められるアイテムのようですが“亜神ムンジェイ”を蘇らせるのに使う魔神具系の道具でもあるようですね」
亜神? 亜人かもしれないが。
「……それは売る相手にもっていこうかな」
「マスター、そのアイテムは魔導人形作りに応用が可能かもしれないから、欲しいかも」
ミスティが欲しがったのであげよう。
「いいよ」
「やったぁ、ありがとぉ」
ミスティがレベッカ並みの反応で喜ぶ。
「それでは、次を鑑定します……これも、また……凄い。この二頭の大虎の置物。伝説級ですが、神話級ともいえるクラスの古のアイテムですね。名は、アーレイとヒュレミの魔造虎。暁の時代の前のようですが、詳しくは不明です。未知なる<古代魔法>で製造された魔道具と推察されます。この大虎へ大魔術師級の魔力を送り契約に成功した場合のみ、この二頭の魔造虎を扱えるようになるとか……」
また、震えながら話す店主。
アーレイとヒュレミの魔造虎か。
そこで香箱スタイルで黙って見ていた黒猫へ視線を向ける。
「ンンン」
喉声のみの返事だが、俺の視線に気付く可愛いロロ。
愛くるしい紅い目で見つめてくる。
少し違うかもしれないが……これで兄弟ができるかもしれない。
ただ、魔力を送り契約に成功した場合だが……。
「最後の、この二重ベルトですが、大したことはないですね。霊銅糸を用いて作られているようですが……銀の飾り鋲がついた魔力漂う装丁本だけの、名もないマジックアイテム。効果も、魔力を微上昇のみ」
なんだ、てっきり魔造書の類かと思っていたのに。
「いや、ちょっとお待ちを……このベルトのバックル部分に仕掛けがあるようです……」
本当だ。小さい貝殻の形だが、回るネジが施されている。
そのネジを回すとバックルの中央部位が捲れて三つの数字が表れた。
そのバックルの下に小さいスペースがある。
小さな宝箱か。
「このネジを回すと数字が切り替わり、押すと、数字が決定するようですね。鍵の暗号のようです。この持ち主の名前……云われはご存じですか?」
「持ち主はリリザという名前だったが、このベルトの主と関係があったかは分からない」
「そうですか。少し構造を分析します……」
店主は渋い口調で語りながら、スムーズに魔力操作を行っていく。
頭部に魔力を集中させると片眼鏡へ魔力を送っていた。
既に鑑定作業中なので、歪な暗視スコープの形となっていた片眼鏡だったが……。
新しい魔力が注ぎ込まれた瞬間――。
眼鏡の表面に亀裂のような青白い線が走り無数の小さい機械蛇のようなモノへ変貌する。
それらの小さい機械蛇の触手たちはバックルへ緑色の光線を当ててスキャンして触っていた。
「……なるほど」
その特異なる片眼鏡の効果なのか。店主は暗号の仕組みが分かったらしい。
頷くとネジを回し操作。
あっさりとベルトの暗号を解いていた。
バックルの表面が開かれる。
そこには白銀色のメダル。
真ん中に、蒼色でキラキラ光る蝶の絵柄が刻まれたメダルがあった。
綺麗な色合い……モルフォ蝶に似ている。
「わぁ……」
「レベッカの瞳より緑が強いけど、凄く綺麗な蒼い蝶々」
「ん、蒼い蝶、魔力もある」
「興味深いです……」
ヴィーネは自身の銀仮面を触りながら語る。
そうだな。彼女の頬には綺麗なエクストラスキルがあった。
「……鑑定します」
店主は渋い口調で小さいメダルを直に掴む。
見た目的にも分かるが、呪いの品ではないらしい。
「……名前のみ、ゴルゴンチュラの鍵ですね。後は不明です。綺麗なメダルだけに、詳細が知りたいですが、すみません、力不足です」
店主は語尾で、残念そうにポツリと呟く。
「メダルで鍵ですか」
師匠から貰ったネックレスも鑑定してもらうかと思ったが、別にいいか。
「はい、どこの鍵なのか。魔力が封じられている状態なので、マジックアイテムだとは思うのですが」
最後に正義の神シャファが授けてくれたリュートを鑑定してもらう。
「この楽器は、またしても神話級……正義の神シャファが……え?」
「え?」
店主が楽器と俺の顔を交互に見る。
「楽器の名前は、正義のリュート。シュウヤ・カガリに与えられた物とありますよ?」
店主は片眼鏡を嵌めた状態で俺を見つめてきた。
特殊な片眼鏡の触手たちが蠢いているので不気味だったが、店主が驚いているのは分かる。
「……説明を先に」
無難に促した。
「分かりました……このリュートの後継者のシュウヤが弾くと、正義の心に同調した魔音が周囲へ展開。曲を聴いている者たちの心を癒し、関心、好意、神界セウロスに至る道の恩恵を齎すとあります……そして、聴かせた女性、同調した女性限定で、秘術系カウンターマジックである《正義の反銀剣》を心の内包に宿らせることができるようです」
店主は説明を終えると、片眼鏡を畳み頭の上に回す。
両眼でアピールをするかの如く、再度、俺を見つめてきた。
この楽器のことは真実。素直に話そう。
「……その通り、正義の神シャファとは話したことがある」
「「ええ?」」
エヴァ以外の選ばれし眷属たちも驚く。
「邪教から女性たちを救った中に、正義の神シャファの関係者、戦巫女が居たんだ」
「ふーん。何か違う女の匂いを感じられたけど、そういうことだったの」
「……やはり」
あーだこーだと、選ばれし眷属たちは話していく。
……切り替えよう。ヴィーネの持つ弓も鑑定してもらうか。
「ヴィーネ、その弓も鑑定をしてもらう?」
「あ、はい」
彼女は翡翠の蛇弓を店主に手渡す。
店主はまた片眼鏡を目元に嵌めなおし、魔力を込めていた。
「では、鑑定します……」
歪な暗視スコープ状態の片眼鏡の先端から小さい緑色の魔力光が発生。
店主は鑑定していく。
「……これも神話級。名は翡翠の蛇弓です。魔毒の女神ミセアの祝福が……混沌たる主の行動に対する対価と思え。これを鑑定した者、ソナタの鑑定眼は優れたモノだ。だが、我の気持ちを愚弄すると心得よ……これ以上はそれ相応の覚悟で視るがいい……とのことですので、見るのは止めておきます」
顔色を悪くした店主。
翡翠の蛇弓を素早い所作でヴィーネへ返却してから、片眼鏡を外し頭に乗せてから、顔を左右に振り蟀谷に指を当てていた。
何か疲労したらしい。
……さて、これで、全てを鑑定してもらったかな。
鑑定料金を用意。
「……鑑定のお金をここに置きます」
「……はい、確かに。それでは、これを――」
白金貨が連なった束がカウンター上に置かれる。
「呪いの人形を含めたアイテム類の買い取り料金です。どうぞ、お受け取りください」
頷きながら白金貨の束を受け取ってから、皆へ顔を向け、
「皆、自分の物を回収してくれ」
「うん、装備しちゃう」
「では、この赤いガドリセスを……」
「この神鬼・霊風を中心に、アゼロス&ヴァサージの片方は封印かなぁ」
「わたしは幻鷺だが、魔剣ヒュゾイもある。二剣、三剣も視野に入れて研鑽を重ねていくつもりだ」
「ん……」
エヴァは全身から紫魔力を放出しながらアイテムを仕舞う。
「エヴァ、興奮しているのね」
レベッカの言葉を聞いたエヴァは笑顔で、
「ん、バレた。新しい金属で試したいことがある」
小さい唇から、ちょびっと舌を出して答えている。
「うん。わたしも興奮……これを使いこなせるようになりたい」
レベッカは伝説級の武器、ジャハールを片手に持ち、決意の籠もった目で見つめながら語る。
その蒼い瞳には蒼炎が宿っていた。
「――アイテムボックスは便利ね? こんな大きい金硬魔鉱を超える虹柔鋼のインゴットと、ムンジェイの心臓を仕舞えるんだから」
ミスティは軽快な口調で語るとアイテム類を仕舞っていく。
そんな皆に続いて俺も、ハルホンクのコート服、アーゼンのブーツ、神槍ガンジス、鋼板、四角い水晶体、魔法印字の石板、トフィンガの鳴き斧、魔王種の交配種、ランウェンの狂剣、ヒュプリノパスの尾とその専用類、アーレイとヒュレミの魔造虎、などと他にもある各種アイテムを、アイテムボックスの中へ仕舞った。
セル・ヴァイパーは売るか保留。
不思議な心臓も保留。
ミドルガの書は王子に売る。
カシーンの剣はルビアのお土産へ。
帽子、特殊インク、釣り竿はザガ&ボンへのお土産かな。
シシクの矢とハヴォークの弓をママニへ。
ジャージャーの靴はサザーへ。
セボー・ガルドリの魔盾はビアへ。
ゴッドトロール製一式はフーとママニへ。
装備するかの選択は彼女たちに任せるとしよう。
巨大冷蔵庫も寄宿舎用にするか。
売るか、プレゼントのアイテム類は、違う袋に纏めてからアイテムボックスの中へ仕舞った。
「ねね、化粧品を少し試す?」
「ん、塗るっ」
「了解~」
「エヴァッ、ツルツルしてるー。ゆで卵を剥いた時みたいにツルツルー」
ゆで卵か。今日の夕飯はゆで卵を使ったものにしようかな。
18日、0時更新予定です。




