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87話 カミラ様はまるっとお見通し



「…………ねぇ、アンタいったいどうしたのさ?」



「んー? 何か変な事しましたか?」



「変な事って言うか…………」



 その光景に、セーラは言い淀んだ。

 今は放課後、カミラのサロンにユリシーヌとガルドと――――そしてアメリ。



「アメリ、貴女がスキンシップ好きなのは知っているが…………何かあったのか?」



 男として反応するアメリの体の柔らかさ、そしてもう一つの思惑を隠し、カラミティスは問いかける。



「えー? 何かって、何もないですよぉ…………むふぅん…………」



(やはり…………“そう”来るのね…………)



 アメリの言葉と態度に、その他の全員が顔を見合わせた。

 何故ならば今、アメリはカラミティスの膝上に横抱きの形で座っていたからだ。



「ふむ。アメリ嬢もカミ……カラミティスも顔立ちが整っているから、絵になってはいるが…………」



「いや、そーゆー問題じゃないでしょガルド。いくら仲がいい主従でも、距離が近すぎるにも程があるっつーの!」



「えーと、アメリはお昼に告白をお断りして、少し人恋しくなって…………いる、可能性が?」



「それさ、本気で言ってるユリシーヌ?」



「…………やっぱ近いですよね」



 その異変は、アメリが昼休み終了間際に戻ってきた時からであった。

 授業中にカラミティスに熱い視線を送るのは当たり前。

 授業間の短い休みには、昼食を食べ損ねたとか何とかで、菓子をあーんでカラミティスの手で。

 しかもその“おねだり”を、色仕掛けで成功させる始末。



(最初は私も、ユリウスと同じ意見だったわ。…………でも)



 カミラは目の奥に、燃えさかる心を押さえながら、アメリへと微笑む。



「まぁいいじゃないか。さ、アメリ。今日は好きなだけ甘えていいぞ」



「えへへ、カラミティス様だーいすきー!」



 可愛いは正義、そして男となった身では巨乳はもっと正義。

 という事だひと先ずは。



「ええいっ! アンタの考えが読めるのが恨めしいわ! ユリシーヌもいいの!? 恋人があんなにデレデレ鼻の下伸ばしちゃって!」



 折角のイケメンが台無しである。

 ユリシーヌといえば、セーラの言葉にはっとなると、わなわなと肩を震わす。



「た、確かに…………これは由々しき事態ッ!」



「大げさだな二人とも、これは只の主従のスキンシップだし、私の本当の性別は女だから、色々ノーカンだノーカン」



「そうか、成る程。こういうケースはノーカウントなんだな」



「この馬鹿の戯言を真に受けるんじゃない馬鹿ガルドっ!」



 説明するからちょっとこっちに、とガルドはセーラに手を引かれて部屋の隅に。

 それをユリシーヌは横目で見ながら決意した。

 ――――今こそ、女に偽装する為に受けた百八の教育の一つを披露するべきだと。



「――――女は度胸ッ! さぁ見なさいカラミティスッ!」



「おう、どうかしたか? ユリシー…………ヌ? ユリシーヌううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?」



 瞬間、カラミティス。

 もといカミラの全身に電撃が走った。

 四人をここに集めた目的を、思わず忘れつつ“それ”を凝視する。



「どうしたんですカラミティス様? ユリシーヌ様がどうかしたん…………!? ず、ズルいですよそれぇっ!?」



「こ、心が狭いとか何とか言われようが、カラミティスは私の恋人…………たとえそれがアメリであっても、イチャラブは譲る事は、で、出来ませんッ――――!」



 そう言ったユリシーヌの姿は鮮烈だった。

 男であった時は、女装であった時は絶対にしなかった、出来なかったであろう。

 これこそが、対男性用誘惑術――――!



(ぐおぁっ! な、何という破壊力なのユリウス…………いいえ、ユリシーヌ!)



 彼女は今、少し俯いていた。

 白い肌を、顔や首筋を、大きく開かれたデコルテを羞恥で紅潮させ。

 ハーフカップブラが見えそうで見えない所まで、制服を。



(あ、あざといわユリシーヌ!? 私以上にあざといわっ!)



 更に言えば、下半身はパンツが見えそうで見えないくらいに、スカートをたくし上げている。

 そう今のユリシーヌは、恥辱を強いられている銀麗の美少女そのもの。



 態とだと解っているものの、元よりユリウス/ユリシーヌ大好き人間であるカミラが、それに食いつかない筈が――――無い。




「――――すまないアメリ。私は今、とても大切な用事が出来た様だ」




「鼻血出しながら言わないでくださいカミラ様の馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 耳元で叫ぶアメリの事など何のその。

 カラミティスは自らの従者を、ぽいっと膝上から降ろすと、ふらふらと夢遊病者の如くユリシーヌに近づく。



「さ、さあカラミティス。今なら貴男のお好きな事をし、していいんですよ…………」



「くぅっ! 天晴れですよユリシーヌ様…………男に戻った時、のたうち回る精神的ダメージ覚悟で女の武器を使うとは…………」



「苦節千年以上…………これがヴァルハラなんだな…………」



 我が世の春はここにあった、と元カミラは躊躇の欠片も無く、ローアングルでユリシーヌを眺め始める。



「なぁセーラ。元は女とは言え、今はユリウスも女なのだろう? ――――アレは論理的にいいのか?」



「テメェら盛るなら二人きりでやれやボケぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」



 セーラの絶叫が響きわたった直後、ドタバタと言う足音と共に、スパンと高らかな音が三回。

 結果だけ言うと、ユリシーヌは処女で童貞のままであった。





「それで、いい加減本題入りなさいよバカミラ。アメリの色ボケ見せたくて、今日の東屋修復作業を止めた訳じゃないでしょ?」



「おお、そうだったな! 余はすっかり忘れていたぞ」



「そうですね……何の目的で私達をここに集めたのですかカラミティス」



 全員が再び席に着いた所で、セーラを筆頭に切り込む。

 だがカラミティスは、呆れた顔で三人を見て言った。



「何? 皆、気づいていないのか?」



「気づいてって、何か変な事があった? 精々アメリが人肌恋しいぐらいじゃない」



 叩かれてなお、アメリを膝の上に乗せるカミラに、セーラ他、ガルドとユリシーヌの視線が集まる。

 アメリと言えば、我関せずとカラミティスをキラキラした目で見つめるばかりだ。


 そんな四人に、カラミティスはやれやれと肩を竦める。



「…………はぁ、まったく。セーラやユリシーヌは兎も角、貴男は気づいておけガルド。変だと思わないのか?」



「何よもったいぶって、分かんないから聞いてんじゃない。とっとと言えっつーの」



「…………私達を集める必要がある異変が、今この学園で進行している、という事ですか?」



「うーん、面目ない。余は何も異変とやらが感じ取れぬが…………」



「ね、ね、カラミティス様。そんなのどうでもいいから、イチャイチャしましょうよ」



 全員の意見を聞き終えた元カミラは、険しい顔で言う。





「本当に、――――解らないのか?」





 その怒気の籠もった言葉に、全員の顔が強ばる。



 実の所、カミラは最初から気づいていた。



 アメリが昼休みの終わりに、教室に帰ってきた時から――――気づいていた。



(アメリの様子が愛くるしかったから、暫く堪能したけど…………)



 無論、関係者を集めその動向を確かめる目的もあったが、動かないのならば、此方から動くのみである。



 親友として。



 主として。



 きっちりケジメは着けなければいけない。



(例え彼らに、私へ直接言えない事情があったとして――――でも駄目よ、許さない)



「ふふふっ…………ふふふっ…………」



 激情の込められたその笑い声に、ユリシーヌ達は元の姿のカミラを幻視した。

 アメリもその気迫に飲まれ、思わず膝から降りて自分の席に座る。



「あ、わ、わたし自分の席に戻りますねっ!」



「(お、おいセーラ! この笑い方はかなり駄目なのではないか!?)」



「(ちょっ!? 話かけんな馬鹿! 目付けられたらどうすんのよガルドっ!?)」



「セーラ、ガルド。意見があるなら聞こう。でなければ――――黙りたまえ」



 カラミティスになり、より鋭さを増した眼光に小声で離していた二人はビシッっと固まる。



「はいっ!」

「うむっ!」



 コメディリリーフと化したセーラとガルドを横目に、元ユリウスは考える。



(カミラが怒る時は何だ? 俺への危機? いや、それならばもう対処している筈だし、こんな暢気に集まるなんて事はしない)



 では、カミラ自身の事であろうか。

 それも違う、とユリウスは結論を出した。



(今のカミラなら、俺に少なくとも一言ある筈だ。ならば俺では無く――――)



 ユリシーヌはゆっくりと、カラミティス以外の三人を見渡した。



(ガルド…………は、関係しているのかもしれないが、今無事でこの場にいる以上、怒りの原因では無い。同じ理由でセーラも違う。では――――)



「――――ごめんなさいカラミティス。“誰か”は検討が着いたのだけれど、その理由までは解らない。教えてくれる?」



 あえて最後の一人は一瞥するだけで、ユリシーヌはカラミティスに顔を向ける。



「ああ、流石ユリシーヌだな。では答え合わせと行こうか」



 そう言い終わるや否や、カラミティスから魔法が放たれた。

 刹那もかからず発動し終えた魔法は、ガルドやその他の者達が認識するより早く、アメリを絡め取って拘束する。




「何が目的だアメリ――――いや、学園長」




 カミラの言葉に、ユリシーヌ達の目が見開かれる。



「はぁ!? アンタいきなり何――――って、ああっ!?」



「ぬおっ! セーラいきなり立たないでくれ吃驚する…………」



「カミラ、いったい何を――――」



 三者三様の反応をする中で、当のアメリの口元が、ニヤリと歪んだ事を、カラミティスは見逃さなかった。

 故に、駄目押しの一言を告げる。





「今すぐアメリにかけた魔法を解け。さもなくば殺すぞ――――魔族ディジーグリー!」





 その言葉で漸く、ユリシーヌ達三人は事態を把握した。



そう言えば、以前の様に毎日更新を望む方はいらっしゃいますか?

いえ、参考までに。

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