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85話 幼馴染にだって、秘密はあるのだ……

皆、知っているかもしれませんが、ちょっと嬉しいお知らせがあります。




「いえ、此度は殿下にも迷惑をかけました。誠に申し訳ありません」



「…………お前も、大変だなユリシーヌ」



「頭を上げてユリシーヌ。貴女の責任ではないのだから」



 ふかぶかと頭を下げた親友に、ゼロスとヴァネッサは苦笑した。

 時は少し戻り就寝前。

 ユリシーヌは夕方まで続いた追いかけっこの疲労を、深く引きずりながら王子の部屋を訪問。

 ひとまずの、現状報告である。



 王子であるゼロス部屋の中に、当然の如くヴァネッサの姿。

 その仲睦まじさに、これが普通の恋人だよな、と遠い目をするユリシーヌに、それを感じ取ったゼロスが肩を叩く。



「まぁ、その、なんだ? そういう奴を選んだのはお前だからな?」



「慰める気無いだろうゼロ!」



「カミラ様は悪い人ではありませんが、伴侶とするには苦労しそう…………というか今まさに苦労してますものね。頑張りなさいユリシーヌ」



「ネッサまで!?」



 おほほと、楽しげに笑うヴァネッサの姿に、がっくり肩を落とすユリシーヌ。

 まったくもって、薄情な幼馴染み達である。



「それで、今日はどうした? 何か進展でもあったか?」



「いえ、進展が“無い”事を報告に」



「あら、進展が“無い”?」



「そうか、我らが“魔女”でも手こずる事態か…………おっと、ネッサには説明がいるな」



 首を傾げたヴァネッサに、ゼロスは思い至った。

 そもヴァネッサは、今回の詳細を知らない。



「ふむ、ユリウスが再びユリシーヌに戻ってしまった事は知っているなネッサ?」



「ええ、折角、カミラ様と結ばれて。男性に戻れましたのに…………」



 顔を曇らせたヴァネッサに、ゼロスは優しく、かつ簡単に説明する。



「その綺麗な顔を悲しみに染めないでくれネッサ…………お前には笑顔でいて欲しいのだ……」



「…………ぽっ。殿下ったら…………」



「いえ、説明する気があるなら、キチンと説明してくださいゼロス」



 横道に逸れた会話を、ユリシーヌが冷たく元に戻す。

 決して、目の前でイチャつかれてムカつく、などという臣下にあるまじき感情など、当然無い、無い、無いったら無い。



「おっとそうだった。それでだな…………」



「きゃっ」



「もしもし殿下、殿下? ネッサの腰を抱き寄せて、耳元で囁く必要はありませんよ?」



「何!? 説明はそうすると伝わり易いと、カミラ嬢から教わったが、違うのか!?」



「ついでに肌と肌を直接触れ合わせる事で、親密度アップと聞きましたが間違いなのですか!?」



「あの馬鹿女あああああああああああああああああああ! 殿下とヴァネッサ様に何教えてるんですかあああああああああああああああああああああ!?」



 ギャースと淑女らしからぬ叫び声で失意体前屈を疲労するユリシーヌに、ゼロスとヴァネッサも流石に顔を見合わせて謝罪する。



「あ、あの。……本当に苦労してますのね貴女。申し訳なかったですわ」



「うむ。あの常に冷静沈着なユリシーヌが、ここまで面白おかしくなっていたとは。正直すまなかった。出来心だった」



 なお、カミラに教えられたという事実は、何一つ変わらなく、しかもまだまだある模様。



「――――ぐッ。こ、こちらも、少し取り乱しました。申し訳ありません」



(少し?)



(これを少し…………本当に苦労なさっているのねユリシーヌ)



 アイコンタクトで齟齬無しに無言の会話に成功したカップルは、立ち上がってぐぬぬと顔を歪めるユリシーヌを、両側から寄り添い、その手を取る。



「ユリシーヌ――――いや、ユリウス。我らは少し心配していたのだ」



「わたくし達の親愛なる幼馴染みが、本当に幸せであるのか」



「殿下…………。ヴァネッサ様…………」



 優しい言葉と、繋がる手から伝わる暖かな温度に、ユリシーヌの涙腺が緩む。



(ああ、そうだ。そうだな、二人は俺の事を大切に…………)



「でも、安心したぞユリウス。お前が以前“ユリシーヌ”であった頃よりも――」



「――ずっと、ずっと良い顔をしていますわ」



「ありがとう、ございます…………」



 ユリウスの頬に、一筋の滴が流れた。



「俺は、我らの“魔女”が、お前と“魔女”がいれば、此度の件も無事解決できると信じている」



「ええ、だから。出来る事があるなら遠慮なく仰って、協力は惜しまないわ」



 二人は大切な幼馴染みの涙を、優しく拭う。

 それに答える様に、ユリシーヌは笑顔で顔を上げた。



「はい…………はいッ!」



 その何よりも綺麗な笑顔に、ふと、ヴァネッサは疑問を覚えた。



「それにしてもユリシーヌ、貴女、以前より美しくなったのではなくて?」



「……美しい、ですか?」



「言われてみれば確かに…………うん? そうか?」



 ヴァネッサの言葉に、首を傾げる元男と男。

 ユリシーヌは、ただ本当に女になってしまっただけだ、何か特別な違いがあるのだろうか?



「いえ、確かに以前より美しくなりましたわ。……前は、こういっては何ですが、どこか、怪しげな色気がありましたが、全体に良い意味で、女性らしい“丸み”が…………」



「太ったか? ユリシーヌ」



「幸せ太り…………というか、女になってからまだそんなに経っていませんよ、男の時でも体重の変化はなかったのに」



 ユリシーヌは、ぺたぺたとお腹周りを触るが。

 喪った筋肉の代わりに、女性らしい柔らかさがあるだけだ。

 特に太った様子もない。



「殿下。ユリシーヌは仮にも今は女の子です、間違っても太ったとか、言ってはなりませんことよ」



「そうですよゼロス」



「ふむ、そういうものか」



 ゼロスへのプチ女性講座が終わった所で、ヴァネッサは疑問点を更に上げる。



「その、胸だって。以前はどこか柔らかさに欠けていた印象でしたが。その、ユリシーヌが男に戻っていた期間は半年くらいでしょう? だからって、こんなに肉感的になるとは…………」



 ヴァネッサの指摘に、ユリシーヌは冷や汗をかいた。

 真逆、違和感を覚えられていたとは。



(いや、逆に考えれば。長い間側にいたネッサが、違和感だけで済んでいたんだ。俺の女装は完璧だった筈だ!)



 などと、ユリシーヌが苦悩している間に、ゼロスはポンと手を叩き一言。





「ああ、以前は只の女装だったからな。ヴァネッサが違和感を覚えてもしょうがな――――」





「ゼロ、お前――――――ッ!」



「………………女・装?」



 あ、とゼロスが口を噤み、ユリシーヌが慌てて遮るも時は既に遅し。

 女装の二文字は、ヴァネッサの耳に届いた。



「え? え? 以前のユリシーヌが女装? 女装? え、え?」



「聞き間違いだヴァネッサ! ジョーン・ソゥだ! かの有名な女装騎士ジョーン・ソゥ!」



「誤魔化しに――――違うッ! ヴァネッサ、ジョ・ソーン男爵ですあの女装趣味のあるジョ・ソーン男爵!」



「ユリウスっ! もっとマシな言い訳を言えっ!」



「ゼロスッ! 貴男こそ、もっと考えて言い訳をッ!」



「わざとですの!? 二人とも!? というか、聞いてません事よそんな事!? え、というかユリシーヌが女装でしたら、本当は男なのに、女子トイレとか更衣室とか…………ユリシーヌ!? ゼロス!?」



 ユリシーヌの真実がここに、バレてはいけない人の一人にバレた。

 ヴァネッサは眉を釣り上げて、二人を睨む。



「ネッサ、お前にはそんな顔は似合わないぞ!?」



「そうですネッサ! もっと楽にいきましょうッ!」





「――――――――お黙り」





「「はい」」





「説明、していただけますわよね?」





「「喜んで!」」



 座りきったヴァネッサの声に、二人はそろって正座。

 流石は未来の王妃、悪役令嬢をカミラに取られ愛され令嬢だったヴァネッサは、見事にその貫禄を見せつけていた。

 ――――その夜は、朝まで長い時間になったと言う…………。




粗筋や割烹でも報告いたしましたが。

この度、HJネット小説大賞の一次選考を通過しました。

有難うございますm(__)m


これも、皆さまの応援あっての事です。

今後も、カミラ様をお楽しみください!


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