73話 今かあされる衝撃の…………何だっけ?
「――――では、話を再開しようではないか」
ガルドは真面目な顔をして、カミラ、ユリウスの二人を見渡した。
アメリはすぐに回復したがカミラの命により、大事をとって奥のソファーで寝ころんでいる。
セーラは、一応アメリの看病で側に付き添っていた。
「再開? これ以上話すことがあったかしら。私は貴男の提案を却下したのだけれど」
「カミラ……、せめてどの同盟の理由とやらを聞いても遅くはないと思うのだが」
「そうだぞ! ユリウスの言う通りだ。せめて此方の話を聞いてから判断して欲しい。」
頑なな態度のカミラに、ユリウスが宥め、ガルドが同調する。
「言っておきますけど、この男が今は魔王でない事は解りました」
その事は、密かに“世界樹”にアクセスして確認済みだ。
だからと言って――――。
「ですが、一度確かに殺した相手に、しかも復活してきた相手に対し、話を聞く窓口は私は持っていません」
「そう言われると…………そうだな。ガルド、悪いが諦めてくれ」
「諦めるの早いではないかユリウス!? 余とそなたの中じゃないか! もうちょっと粘ってくれ!?」
「いや、会って数時間の他人だし、何よりカミラの敵は俺の敵だから」
「ユリウス…………」
きっぱりと言い切ったユリウスの姿に、カミラはぽわんと頬を赤く染める。
だが、ドゥーガルドとしてはそれで納得がいく筈もない。
今度は矛先をユリウスに変えて再チャレンジ。
「カミラの言い分は理解した。ならばユリウス――――」
「――――ああガルド、その前に。お前がカミラを名前で呼ぶな。それは恋人である俺の特権だ。せめて敬称か何かをつけるか姓で呼べ」
「そうよそうよ! 慣れ慣れしいわよ!」
「うぐっ…………、そ、その話は後だ後! 今はユリウス、そなたと話そうではないか!」
「ほう、俺と話。いったい何を話すんだ?」
訝しげな視線を送るユリウスに、ガルドは襟を正しニヤリと笑う。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、その為には“世界”の事から話さなければならない。
「先ずは、余達。魔族の事から知ってもらいたいな」
「ユリウス、聞かないでいいわよ」
「いや、聞いておくよカミラ。ヤツの言い分が全て正しい訳では無いだろうが、情報は多いほどいい。――というか、お前が話さな過ぎなんだ馬鹿女」
「ぐぅ……」
「うむ、茶番はよろしいか?」
「ああ、始めてくれ」
カミラとユリウスのやり取りを、どこか羨まし気に見ながらガルドは口を開いた。
「魔族というのは、何だと思う? 獣か、それとも邪悪極まりない何かか?」
「人類の敵、それ以外無い」
端的に答えたユリウスに、ガルドは目を細める。
「それもまた一つの正解である。――――だが、それは“与えられた役目”だ」
「“与えられた役割”? それはいったい誰に、何の為に? 真逆、神とでも言うのか?」
ユリウスの発言に、カミラの視線が少し座った。
何故ならば、カミラもまた、正しい答えを知っていたからだ。
「“世界樹”――――我ら“ネセサリーエネミー”の真の敵であり、そなたら“新人類”の敵」
「…………何を言うかと思えば“世界樹”が敵? 世界を作りだし、人類に魔法を与えた母なる大樹が敵?」
まったく、お話にならないと、ユリウスは肩を竦めた。
そもそも、人類を作りだし、魔法を与えた、と言ったが、それも王国に伝わる神話であり、その世界樹自体、誰も見たことの無い存在だ。
「だいたい、それが“正しい”として。その“ネセサリーエネミー”とか“新人類”とはいったい何なんだ、どういう風に関係して、何故敵対する」
可哀想な狂人へ諭すように出されたユリウスの言葉に、しかしてガルドは怒る事もせず、ただ淡々と続ける。
「“ネセサリーエネミー”で解らないなら、必要悪と言い換えてもいい。…………我ら魔族は、人類の敵として“世界樹”に作られた存在なのだ」
「それが本当だとしても、小説でよくある創造主への反乱か? 何故それを俺たちに、カミラに持ちかける?」
ガルドはそれに答えず、やはり淡々と進めた。
「“新人類”とはそなたらの事だ。自らを生み出したシステムに囚われ、文化の進化を禁じられ、思考にさえ枷が加えられた哀れなる存在」
「ガルド。お前は本当に狂人なのだな。俺にはお前の話が欠片も理解できない。なぁカミラ…………カミラ?」
そこでユリウスは、厳しい顔をしているカミラに気付いた。
それに揺らぎを覚えたユリウスではなく、今度こそ、ガルドはカミラに話しかけた。
「そなたには理解できる……、否。理解していたであろう? “偽りの魔王”カミラよ」
カミラは暫く沈黙し、目を閉じた。
そして、深いため息を出した後、ゆっくりと瞼を開ける。
「例え“偽りの魔王”でも、かつての“記憶”を持つ者として。今を生きる“新人類”として――――私は、今の平和と安寧を尊ぶわ」
それは、確かな決別の言葉であった。
そして、同時にガルドの言葉が正しい事を肯定した言葉でもあった。
納得のいかない顔をしているガルドは、カミラに今一度問いかける。
「余は、そなたの歩んできた“道筋”を知っている。その全てを理解したとは言わない。だが、その苦労は解るつもりだ。だから――――何故だ。“世界樹”を解き放たれる事を望んで、そなたは魔王であった余を殺したのでは無いのか?」
カミラは瞳を憂いで満たし、返答した。
「かつて、魔王ドゥーガルドであった者よ。私の望みはただ一つ。愛する者と安らかに暮らすだけなのです。それが叶うのなら、例えこの世が壊れたユートピアでも、崩壊したディストピアでも構いません」
その答えに、ドゥーガルドは静かに戦慄した。
苦虫を噛み潰した表情で、しかして頬を恍惚に赤らめ熱い眼差しを送る。
「そうか。そうであったか。…………何だ、そなたこそ狂っておるではないか。ふはははははははっ! たったそれだけの為に、十六を千回以上繰り返したのかそなたはっ! ははははははははははははははっ!」
「何なんだ……、何なんだお前等はッ! いったい何を話しているッ!?」
非道く恐ろしい事実を話している事だけ、ユリウスには理解できた。
険しい顔で狼狽える愛おしい男の姿に、カミラは手を延ばし、だが途中で力なく下げた。
「――――糞ッ! だからその手を下げるんじゃない馬鹿女! 俺はお前の側にいるんだッ!」
ユリウスは席を立ち、カミラを強く抱きしめる。
その痛いほど強い抱擁に、カミラは壊れた瞳のまま、安堵してその身を任せた。
二人のどこか歪だが仲睦まじい姿に、ガルドは今日は無理だと判断して立ち上がる。
「余は、この辺でお暇するとしよう。考えも変わらぬ様だからな」
「何時来たって、私の考えは変わらないわ」
「仮にもクラスメイトになった身だ。警告するぞ――――次は無い」
ドゥーガルドは、残念そうに笑って扉に向かう。
そして戸を開いて振り向く。
「こちらも宣戦布告だユリウス。――余は諦めないぞ、カミラの力も――――そして心も」
「なッ! ――――うん?」
「心?」
最後の言葉に仲良く首を傾げるカップルへ、ガルドは更なる爆弾を落とす。
「ではまた明日だ。――――余の愛しいカミラよ!」
「い、愛しッ!? おいッ! ま、待つんだガルドッ!」
「はぅあっ? ええっ? ど、どういう事!?」
「ユリウス様に恋敵が来たああああああああああああああ!?」
「うわっ! ちょっと! いきなり大声だすんじゃないわよアメリ! …………しかし、なんつーベタな。驚愕の世界の真実より、そっちの方が驚きだわ。これなら、糞ババアの方を最初から主人公に置いときなさいよ世界樹とやら」
戸惑う二人を置いて、サロンの扉はパタンと閉じられる。
後には、混乱する空気だけが残された。
予定では、来週平日に少しこっちをお休みし。
新作の様な旧作品を投稿する予定です。
まぁ、乗せる経緯は割烹に書いてますが。
以前、乗せたとき読んだ人も、まだの人も、投稿したらどうぞ。
完結済み長編、現代伝奇(恋愛)ですん。




