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71話 カミラ様は自重しない。

実は○○○○してません。

○○の話で、実は○○です。


○の中に入る文字を答えよ。

……正解しても何もありませぬが。



 封印されし魔王。

 そう表現するのが陳腐だが、一番正しい表現だった。


 黒の無骨なパワードスーツは、ユリウスからつながれた特段に太い一本だけでは足らず。

 足下に現れた魔法陣から、何本も絡みついてカミラを拘束していた。


 焼けただれ、赤い炎がちらちらと草花を犯し。

 焦げた風が漂う東屋周辺に、ユリウスの言葉が響きわたる。



「――――重ねて言うッ!“止まれ”“指一本動かすな”」



「邪魔をっ! 邪魔をするなああああああああああああああっ!」



 実体を持たぬ鎖が、金属の鎧と擦れ合い、ギシ、ギャリ、と不協和音を奏でる。



「落ち着けッ! 落ち着くんだカミラッ!」



「ふざけるなっ! 私は冷静よっ! だから――――コイツを殺させなさいっ!」



 少し離れた場所で、困ったように微笑むドゥーガルドに、カミラは殺意と共に魔力の重圧を叩きつける。

 巻き込まれたセーラは気絶寸前だ。



「カミラ…………頼むから落ち着いて俺の話を聞いてくれ……」



 ドゥーガルド達を庇うように、カミラと向き合っていたユリウスは、魔力の重圧に負けじと、一歩一歩確かに踏み出した。



(――本当に、アメリ嬢が居て助かった。俺だけではセーラまで護りきれなかった所だ)



 あの後、カミラに向かって駆けだしたユリウスとアメリ。

 随伴の傀儡兵を自爆命令で全て犠牲にして、ビームライフルを無効化。

 その隙を付いて、カミラを“絶対命令権”で拘束。

 それでも指一本動かし、ビームサーベルを手に取ったカミラに、アメリが取り付いて奪う事で、無力化に成功。



(――俺は信じていたよ、お前の意志の力を)



 絶対命令が発動しているのにも関わらず、剣を奪ったアメリを振り飛ばした、カミラの“意志”の強さを信じていた。

 だからこそ――今からの説得に掛かっている。



「カミラ、話し合おう。だから――――“そこ”から“出てこい”」



「ぐ、ぐぐぅ…………っ! ユリ、ウスっ……様っ!」



 ユリウスがカミラの目の前に来たと同時に、黒いパワードスーツが、カタカタカタ、と音を立てて折り畳まれ、ペンダントサイズまで小さくなる。



「――――何故、止めたの?」



 閉口一番出された言葉に、ユリウスは眉をしかめた。

 何も、この女は何も解っていない。


 ユリウスを複雑そうに睨むカミラ。

 パワードスーツから出てきたその姿は、体のラインに沿ってぴったりと張り付いている、これまた黒のインナースーツ。

 また、中は蒸れていたのか汗塗れで、しっとり塗れて顔にへばりつく水色の長い一筋の髪が、この場に相応しからぬ淫靡さを与えていた。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! もう少しで、もう少しで殺せたモノを――――!)



 だがしかして、今のカミラの姿は内面を考えれば非常に“らしい”姿だった。

 黒き憎悪に自己を塗りつぶし、水気の多い女の情念を体現した姿は、ユリウスに不安しか与えなかった。



「…………駄目だよカミラ。今、誰かを殺してしまえば。お前は本当に“魔王”になってしまう」



 体の震えを隠さないまま、ユリウスはカミラを優しく抱きしめる。

 瞬間、命令の効果を切り、解放されたカミラはおずおずとその腕を回して抱き返した。



「知っているでしょう…………私は“魔王”よ、この身も心も全部」



「ああ、そうだな。そうかもしれない。…………だが忘れないでくれ、お前は一人の女の子で、俺の愛するただ一人の女だと言う事を…………」



 漆黒の闇に染まったカミラの心に、ユリウスの“言葉”という光が照らす。



「ごめんなさいユリウス。でも解って、これは二人の、いいえ。…………私の為なの」



「それでも、駄目だよカミラ。――俺は、お前に誰かを殺して欲しくない」



「ユリウス……」



 泣きそうな、困った様な声。

 だが、その奥底には怨念が支配しているのだろう。

 そう感じ取ったユリウスは、真摯に言葉を重ねた。




「俺には、アイツが本当に魔王なのか、殺すべき魔族なのか解らない。…………でもさ、もし俺の為なら、そしてお前の為に誰かを殺す、というなら尚更だ」




「お前の問題は俺の問題、一人で抱え込まないで、どうか俺にも話して欲しい…………」




 その言葉に、カミラは歯を食いしばった。

 涙が溢れてしまわないように、必死になって我慢した。



(駄目よ、駄目。……駄目なのよユリウス。そんな優しい言葉は…………嗚呼、嗚呼)



 そう言って貰えて嬉しかった。


 そう言われた事が悲しかった。


 けれど何より――――。



(駄目なのよ…………全てを話したら、きっと私は嫌われてしまう。そんなの、そんなの――――)



 度重なる繰り返し、その積み重ねだけは絶対に話してはいけない。

 それは、カミラの罪。

 罪、なのだ。



(嗚呼、嗚呼――――)



 魔王が、ドゥーガルドが恨めしい。

 その者さえ来なければ、カミラは何食わぬ顔で幸せを享受できていただろう。


 忌まわしき過去の全てを忘れ、幸せという泥濘の海の中で人生の果つる時を待っていられただろう。



(嗚呼、嗚呼)



(私は、どうすればいい――――)



 もう一度やり直す事など論外だ。

 時空を司る銀時計は、もう壊してしまった。

 第一、今更全てを無かったことにして投げ出すなど、もう御免だ。

 最早、進むしかない。



(なら――――、巻き込むしかないと言うの?)



 悲鳴を上げる心が、喉から迸ろうとする。

 きつく目を閉じそれを押さえてから、カミラはあらためて愛おしい男を見た。



「――――もし」



「もし、世界全てを敵に回しても――――」



 震えそうな声を隠して、頷いて欲しいと、頷かないで欲しいと。

 相反する願望を抱えながら、最後の言葉を紡ぎ出す。




「一緒に、居て、くれますか?」




 燃えさかる闘志を、確かに静かに瞳に込めて。

 言葉ははっきり、しかして押さえ切れぬ震えを肩に出すカミラの姿に。

 ユリウスは、カミラと出会ってから何度目かの覚悟を決める。

 そんなこと、今さら問われるまでも無く――――。




「――――ああ、二人に死が来ようとも、未来永劫、来世でもお前の側にいるよ」




 ユリウスは、カミラの唇にキスを落とした。

 ゆっくりと五秒数えて、名残惜しそうに離した後、カミラはユリウスに言う。



「ありがとう、ユリウス…………。まだ、全てを話せないけれど、話すわ、魔王の事、世界の事。――私の過去も。だから、絶対私の事を離さないでいて……」



「ああ、絶対に離すものか。――――でも取りあえず今は……」



 凛々しい顔で頷いた後、苦笑して周りを見渡すユリウスに釣られ、カミラを見る。

 暴れていたカミラ自身は気が付かなかったが、東屋周辺が、荒れ果てた戦場跡。

 ドゥーガルドのの目的であった、話し合いをするには非常に不向きだ。



「このまま此処に居たら、間違いなく面倒になる。――――責任は後で取るとして、今は誰かのサロンにでも移動いないか?」



「ううっ…………はい。私のサロンに行きましょう……」



 つまりは、そういう事になった。



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そろそろブクマや評価してない人は、してくれてもいいのよん?

私のモチベをガンガン上げるのだ!

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