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56話 拗らせストーカー女と童貞女装美少年の、不毛なる……

数日ぶりにお待たせしました。

今日はちょい早めに投稿です。



「うふふふふっ」


(…………嗚呼、嗚呼。楽しい、愉しいわ――――)


 カミラは今、ユリシーヌとアメリを二人同時に抱えながら、寄宿舎へと戻って行った。


「うふふふふっ、ふふっ、ふははははははははははっ!」


 思わず漏れ出る高笑い。

 周囲の生徒は何事かと視線を向けるも、相手がカミラ。

 しかも、人間二人を抱えてあるく異様な光景に、そっと目を反らす。

 ――彼らはただ、二人の冥福を祈るのみだ。

 触らぬ神に祟り無し、名言である。


「嗚呼、嗚呼……、戻ったら何をしようかしら? うふふふっ――――」


 高鳴る鼓動の衝動の儘に――この状況を貪る決意を秘めて。

 カミラはただ一人の、愛おしい人間の事を想う。


(嗚呼、ユリウス様は何を考えて手錠で繋いだのかしら? 何を思って、私と繋がっているのかしら?)


 多分、愛ではないだろう。

 けど、友情以上の何かである筈だ。


(支配欲? それとも情欲? ええ、ええしっかり見極めなくては。――そっちから飛び込んで来たんだもの、逃がさないわ。理性なんてドロドロにとかして、そして――)



「ふふふっ、世界に私と貴男だけ居ればいいのに」



「――――ッ!?」


「…………ぉーぅ」


 情熱と共に漏れた声に、ユリシーヌは戦慄し、アメリは何が何でも逃げる事を決意した。


 校舎から校庭へ、校庭から寄宿舎へ。

 一歩一歩確かに近づく試練の刻に、ユリシーヌはセーラの言葉を思い出した。


「いいユリシーヌ。あの女は、アンタを愛し蹂躙するのを至上の喜びとしている」


「けど、それじゃあ半分。――――あの女の本質は“愛されたい”事」


「それに本人が気が付いているかは、判んないけどね。でも、付け入る隙はそこにある」


「満更でも無いんでしょう、あのババアの事。なら何か面倒事が起こる前に“支配”するのよ、人類の、そしてアンタの為に、アンタという存在の全てで」


(――――本当にこれで、いいんだよな?)


 ユリウスは揺らぐ。


 魔法体育祭の夕方の屋上――――泣かせたくないと思った。


 タッグトーナメントでの魔族との戦い――――守りたいと思った。


 だが、どうすればそれが出来る?


(この“気持ち”の名前を知るのは怖い――でも、今なら“本当”の言葉で言える気がする)


 しかし、この遣り方が正しいのだろうか?


(俺は本当に“籠絡”できるのか、この女を。そもそも――)


 既に籠絡されている、と思い浮かんだ言葉に、ユリウスは唇を噛んだ。


(――ッ! コイツがいくら強かろうが、魔王だろうが、どうだっていいッ! 二度と泣かないように、傷つかないように“籠絡”してやるッ!)


 元はと言えば、そっちが先だったのだから、と揺れる心を理論で固め。

 ユリシーヌは自由な左手を握りしめた。


 ――――アメリと共にカミラに抱えられたままで。


 そして再びセーラの言葉が脳裏に蘇る。


「いーい、よく考えなさい。“籠絡”さえしてしまえば――あのそこそこでっかい乳が思いのままよ」


 こっそりとユリウスはカミラの胸へ視線を向けた。

 白い制服で包まれたそれは、アメリには負けるものの、窮屈そうに制服を押し上げている。

 柔らかさは先ほど迂闊にも堪能してしまった“それ”を凝視する。

 ――――ゴクリ。


「どうやって維持してるか解んないほっそい腰も、デカケツも、思い切り揉みしだいていいのよ!」


 続いてユリウスは、腰から、スカートに隠された臀部を透視するかの如くガン見する。

 ――カミラが浮かれててよかったな糞童貞、気づかれてないぞ。


「聞いたわよ~~、よくアイツから色仕掛けされているんだって? なら太股の触り心地もしってるわね…………想像しなさい“それに”思う存分頬ずりしている自分を!」


(そ、そうだッ! カミラだって何時もやってる事じゃないかッ! カミラに出来て俺に出来ない理由は無いッ! 例え色仕掛けで籠絡できなくとも、意趣返しをしてみせる――――ッ!)


 ユリウスは男の情欲十割で、カミラの裸体を想像した。

 あくまでこれは、カミラを守り、彼女が巻き起こす騒動から皆を守る為なのだ。

 ――――守る、為なのである!


 再び握られる拳は、先ほどより、強く、そして堅い。


(あ、これ駄目なヤツですね。ご健闘をお祈りしますユリシーヌ様――――多分、無駄な足掻きでしょうが)


 同じくカミラに抱えられているアメリは、純で不純な闘志を燃やすユリシーヌに、早々と結婚式の算段を考え始めた。





「――――さあ、これからどうするんだカミラ」


「さて、どうしましょうか?」


 寄宿舎のカミラとアメリの部屋には今、妙な緊迫感が漂っていた。

 一人用のベッドの上で、カミラとユリシーヌは隣り合って腰掛けている。

 なおアメリは、寄宿舎の玄関に着いた途端、逃亡済みだ。


(嗚呼、嗚呼、これよこれっ!)


 何時も通りの余裕な笑みの下で、カミラは身悶えた。

 二人っきりの部屋で女生徒姿のユリウスが、男言葉で挑むようにカミラを見つめている。

 無論、ユリウス的には隠している情欲の色は、カミラに隠し通せる筈もなく。


(そう――――そうっ! これは何時もの“仕返し”なのねっ! なら受けて立ちましょう! 私の理性は薄皮一枚よ!)


 ユリウスの行動の意図まで察したカミラは、即座に今日の下着の色を思い出す。


(ええと…………ええ、大人しめだけど、過激すぎたらユリウス様、固まってしまうかもしれませんし。ああでも、いざその時の前はシャワーに…………うん?)


 その瞬間、カミラの頭脳に電撃が走る。

 そうだ――――その手があった。

 ユリウスが何処まで本気で“仕掛けて”くるか把握出来、かつ、その反応まで愉しめるたった一つの冴えた“手”が。


「…………どうしたカミラ。急ににやにやして黙り込んで」


「ふふっ、ごめんなさいねユリウス様。――少し、これからの予定を考えていたの」


「――――これからの、予定?」


 その不吉な響きにユリウスは、カミラが自身の目的を察した事を悟った。

 だが慌てる事はない。

 この事実は、籠絡作戦の奇襲性が無くなっただけで。

 最初から織り込み済みの事態である。

 ユリウスは悠々と、カミラの罠に飛び込む。


(だが先制はさせて貰う――――ッ!)


「……いいだろう、聞かせてくれ。――ああそうだ、言っておくと。この手錠には希少金属であるミスリル製で出来ている。魔法を“無効化”する金属であるミスリルだ。そして鍵はセーラが持って――」


「――ああ、別にいいですわ鍵なんて」


「ほう余裕だな、お前なら鍵を奪いに行って。鍵と引き替えに何かを要求すると思ったが?」


 無論、嘘である。

 カミラがこの状況を利用しないなんて、予想できない方が愚かだ。

 ――――だが、カミラはその予想すら先ほどの一瞬で看破していた。

 故に、こう答える。


「私――――、反省してますの」


「……何?」


 ユリウスは困惑した。


(馬鹿なッ!? いつもなら肯定しながら押し倒す所なのに、言うに事欠いて“反省”だってッ!? ……いや、騙されない――)


 カミラはユリウスが我に帰る一瞬の隙を尽き、手錠で繋がれた手を、自身の制服の釦に導く。


「何時もごめんなさい、ユリウス様。私からばっかり迫ってしまって――――さあ、お好きに脱がしてくださる?」


「――――は? え?」


「魔法が効かないのなら、私にはどうする事もできないわ……」


 悲しいかな、童貞故に戸惑いを隠せず固まるユリウスの指を、カミラは巧みに導いて制服の釦を外させる。


「おおおおおお、おまッ!? 何ッ!?」


「そして、貴男を傷つける事なんて出来ない……さあ、今まで鬱憤が溜まっていだでしょう?」



「先ずはお好きに、――――脱がせて下さいな」



「~~~~~~~~ッ!?」


 ユリウスは口をぱくぱくさせて、指の先まで真っ赤になった。

 どこまでも不毛な籠絡合戦、初戦をもぎ取ったのはカミラ。

 だがユリウスとて、引くわけにはいかない。


「こ、こ、こ、後悔す、するなよ?」


「ええ、ユリウス様こそ」


 ユリウスはごくりと唾を嚥下し、震える指でカミラの制服に手をかけた――――!



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さあ、面白いと思ったなら遠慮なく、カミラ様を応援するのだ!

というか、私に限った事じゃないけど。

皆様の応援は、本当に作者の活力になります。

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