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52話 カミラ様に餌を与えないでください

何か投稿時間夜にしてから、文字数増えてる気がするぞ!

どういうことだワグナス!




「馬鹿な……どうして、俺を、庇って…………」


 

 血溜まりに倒れ伏すカミラに、ユリウスは呆然と呟いた。



(確かに俺はカミラを庇った筈だッ! なのに、なのに何でッ!?)



「カミラ……おい、嘘だろカミラ。カミラ……カミラぁ……目を開けてくれカミラ――――」



 ひたすらに名前を呼びながら、流れ出た血を集め。

 けれどそれは無駄で、衝動的に抱き抱え、その傷の深さに、心臓が壊されている事実に直面してしまう。



「――ッぁ。ああああああああああああああああああああああああああ! カミラッ! カミラぁ!」



 その慟哭に、フライ・ディアが冷たく言い放つ。



「無駄だ聖剣使いの兄ちゃん。そいつはもう――――死んでいる」



「――――――――ぁ。くッ……、あ、あ、あ、あぁ………………」



 急激に冷たくなっていくカミラの体を、ユリウスはただひたすらに抱きしめる。



「何でこんな所で死んでいるんだよ…………、俺を幸せにするって、心を堕とすって、言ってたじゃないかぁ…………お願いだ、目を覚ましてくれ……」



「……その嬢ちゃんも。誰かに泣いてもらえるだけ幸せってもんさ。オレ達は、魔王サマの死に目にすらあえなかったからな」



「だからといってッ! だからといってッ! 何も殺す事はなかっただろうッ!?」



「いいや、俺達の無念を、死んだ魔王サマの、散っていった仲間の怨念を晴らすたぁ、コイツが死ぬしかなかったのさ」



 フライ・ディアの言い分は道理だった。

 けれども、ユリウスには到底納得出来るものではなかった。



「――――許さない。絶対に許さないッ!」



 ユリウスは静かに、そして大切そうにカミラを地面下ろし。

 憎しみに澱んだ瞳で、フライ・ディアとセーラを睨んだ。



「もう勝負はついてんだ。命が惜しければこれ以上の抵抗は止めな」



「――本気で言っているのか?」



 ユリウスは、側に落ちていたカミラの魔銃剣を拾い、ゆらりと立ち上がった。



(この命、たとえ尽きようともせめてコイツだけは――――ッ!)



 フライ・ディアはユリウスの様子に、軽くため息をつくと魔力をセーラに向けて流した。



「言ってみただけだ……、オレがアンタでも、そうするだろうからさ。――――だが、その前にこのイカレ女を、お前は殺せるかな?」



「何を――――ッ!?」



 ユリウスが問いかける前に、カミラが血溜まりに沈んでから黙り込んでいたセーラが、フライ・ディアを庇うように前にでた。

 しかし、何か様子が変である。


「あくまで魔族に着くかセーラ! お前とカミラの間に問題があった事は知っている! だが何故お前はカミラを殺す必要があったんだッ!?」



 ユリウスは、相手が人間であるセーラであるにも関わらず。

 容赦なく銃口を向けた。

 同時に、カミラを撃った魔銃の様な何かを警戒する。

 


「…………」



「どうした……? 何故黙ったままだ。何故それを撃ってこない?」



 怒気に溢れた声で問いながら、ユリウスは違和感を感じていた。

 先ほどからセーラの顔は真っ青で、銃を持つ手は震えている。

 そして、何かを言おうと口を開いては、悔しそうに唇を噛んでいた。



「う……ぁ……、あ…………、た、す…………けて……」



「――――ッ!?」



「あ~あ、専門じゃねぇし、この辺が限界かよ」



 面倒臭そうに言うフライ・ディアに、ユリウスは怒鳴った。



「お前ッ! セーラに何をしたッ!?」



「何をした……というか利用した。だな」



「利用だと……?」



「誰がやったか判らねぇがな、その忌々しい始祖の装束には、着たものを魔族にする“仕掛け”がされてたのさ。オレはそれをちぃと弄くって、欲望を肥大化させ、今みたいな時の壁になる様にしたって訳さ」



 愉しそうに笑うフライ・ディアにユリウスは激昂する。



「――――お前は人間を何だと思っているんだッ!」



「敵さ――憎むべきな」



「この外道があああああああああああああ!」



 とうとうユリウスは衝動のままに、一直線に走り出した。



「――くッ、邪魔をするなセーラッ!」



「はははッ! 殺してみろよ聖剣使い! そいつも可哀想だなぁ! 無理矢理憎しみを増幅させて、同族殺しの片棒担がされた挙げ句、殺されちまうんだものなぁ!」



「チィッ――――!」



 フライ・ディアを狙おうとすると割って入り、直接斬りに行くと、抱きつくように纏わり付く。



(殺せるものかッ! 殺せるものかよ――――ッ!)



 セーラを殺す事は、きっとカミラは望まないだろう。

 殺して、その上で仇を取った所で、カミラは悲しむ筈だ。

 だが、だが、だが――――。



「邪魔だああああああ――――がッ!?」



「迷い過ぎだ馬鹿が。――――だからお前は未熟なんだぜ」



 覚悟を決めて、セーラに剣を振り下ろした瞬間。

 割って入ったフライ・ディアに、ユリウスはカミラの側へ弾き飛ばされた――――!



「悪いな、こんな変態女でも。まだ使い道はあるんだ……、せめて惚れた女の側で殺してやるよ」



 今までの疲労に加え、落下の衝撃で動けないユリウスは。

 一歩一歩、確かに近づくフライ・ディアを前に。

 ただカミラへと、手を伸ばす事しか出来なかった。





 知っているだろうか。

 死というのは誰にでも平等に訪れ、その瞬間は安らかだ。

 ――カミラと言えどそれは例外ではない。



(ああ、また“こう”なってしまったのね……)



 いったい何度目の“死”だろうか。



(でも、いいわ。……“今度”は悲しい顔で見送られる訳じゃなくて、初めて、ユリウスを守って逝けるのだから)



 いい人生だった、とは言わない。

 けれど、後悔はしてはいない。



(でも、これが本当に、本当に。私の終わりなのね……)



 予定とは違った死に方をしてしまったけれど。

 まだまだ、したい事は沢山あったけれど。



(やっと……、私にも終わりが……)



 カミラはこの安寧に、身を任せようとした。

 静かに、深く。

 全ての熱情を忘れ、意識を闇へと落ちようとした。



 しかし――――。



(…………………………あら?)



 その“時”は、何時まで立っても訪れなかった。

 その事実を認識した途端、カミラの意識が安寧から浮上する。



(――――これは“違う”前の“それ”と違うわ)



 絶望と諦観に満ちた覚醒では無い。

 もっと別の、そう、例えるなら“現状”を維持している様な何か――――!



(真逆、まだ死んではいない!? 魔力はもう尽きて、心臓を無理矢理動かす事など出来ない筈!)



 カミラは闇の中で、必死に自分の状況の把握に努めた。



(そもそも仮に、心臓が動いていたとして血は、血液は? あの魔族の一撃は、肉所か骨まで砕き裂き、深く広く私を傷つけていた。それならば、出血多量で血が足りず意識不明の状態として説明できる?)



 だが、カミラはその結論を自ら否定した。



(駄目だわ、仮にユリウスが何か処置したとしても、彼に治療の魔法は使えない。聖剣にそんな機能は無いし、物理的手段でこんな事が出来るとは思えない)



 そもそも、カミラの傷は間違いなく致命傷だ。

 仮に治癒魔法が使える者が居たとしても、首を横に振る度合いだ。

 それに――――。



(私を殺したと判断して、セーラとあの魔族は結界を解いて、ユリウスを見逃すかしら。聖剣を持った、勇者と成り得るかもしれない人物を、そのままにする?)



 あり得ない。

 そう結論づけると同時に、カミラに再びユリウスへの深い、深すぎる熱情が炎の嵐となって――――情動を呼び起こす。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! ユリウス、ユリウス、ユリウス、ユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウスユリウス――――――――!)



(死んでなんて、いられない――――!)



 このまま、終われるものか。

 何一つ手に入れる事が出来ずに、大切な者一人護れずに、死んでいけるものか。



(その為だったら、地獄にすら堕ちてみせるわ――――!)



 決意の瞬間、カミラは“懐かしい”光が、心の臓に集まっているのに気付いた。

 この光こそが、カミラの体を死の淵に留めているのに違いあるまい。



(――――、そう。そうなのね……、結局、私は棄て切れてなかったのね。最後の最後には、この力にまた、頼る事になるなんてね)



 皮肉気に、しかしてある種の絶望に心を染めながら。

 カミラはその光を、周囲から強引に吸引し始める。



(来なさい、タキオン――――)



 心臓を、体を“停止”させているだけのタキオン粒子では足りない。

 もっと、もっと――――!



(この先は踏み込んだ事は無かったけど、今の私なら――――出来るっ!)



 心臓を、体を“戻す”だけのタキオンを。

 もっと沢山。



(今度こそ本当に“終わらなくなる”かもしれない、けどっ、今っ! ユリウスの為ならばこの身が異形に成り果てても構わないわっ――――!)



 常人には、魔法が使える才ある人間、魔族にすら見えない光がカミラを包み――――。



 やがて、カミラの指先がぴくりと動いた。





 意識を肉体に復帰させる事に成功したカミラは、ユリウスの窮地に安堵と焦りを覚えた。



(良かった! まだユリウスは無事、無事だけどこれは不味い――――)



 聴覚は辛うじて復活したが、その他の感覚。

 ましてや肉体の損傷など、まだ“戻って”はいない。



「もはや、これまでなのか…………。俺はきっと、お前を護りたかったんだろうな……」



(ユリウス!? 何を言ってるの!? まだ諦めては駄目よっ!)



 カミラは必死になって、触覚を取り戻す。

 途端、激痛が全身を蝕むがそれどころではない。



「聖剣使いの兄ちゃんよ、お前とはもっと違うやり方で殺し合いたかったぜ。……何か、言い残す事は無いか」



「――――せめて、コイツと同じ墓に入れてくれ」



「…………わかった。後で掘り返してでも、やっておくわ」



(だから諦めないでって、あれ、もしかして私ユリウスに抱きしめられてる? というかこれって!?)



 一緒の墓に入りたい。

 即ち、恋人、否、それ以上の夫婦の関係。

 つまり――――。



(ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!)



 聴覚触覚に続いて、視覚嗅覚味覚と全五感を取り戻す。



(夫・婦! 夫・婦! 私とユリウスは最早夫婦うううううううううううううううううううう!)



 周囲のシリアスな空気など何のその。

 自分が、絶望混じりの決意を抱いた事など即座に忘却の彼方へ押しやり、カミラはタキオン凝縮し始める。



(これをこうして――――こうよっ!)



 そして、カミラの傷口が、流れ出た血液が光を帯びて“戻ってくる”



「――――はぁ!? 何が起こっているんだっ!」



「真逆――――カミラッ!?」



 汚れた顔を喜色に染めるユリウスの目の前で、カミラがゆっくりと立ち上がり。

 まるで“時を巻き戻す”様に、体を再生させていく。



「――――何なんだお前えええええええええええ!」



 直感的に事態の不利を悟ったフライ・ディアが、その鉤爪を振り下ろすも、時は既に遅し。

 視認、知覚すら出来ない速度で懐に入ったカミラのグーパンによって、結界の壁まで吹き飛ばされる。





「――――――私っ! 完・全・復・活!」




 洗脳され動けないままのセーラは、死よりも恐ろしい惨劇を予想して、またも顔を青くした。



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評価欄は最新話下


面白いと欠片でも思ったなら、迷わずボタンをぽちっと押してくれよな!(少年漫画風に)


どんどん明らかにされていいく、カミラ様の秘密。

メンドクサイ女だなカミラ様!


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