45話 予選サバイバル中止のお知らせ。……やり過ぎたんだよアイツ等は(ハードボイルドな口調で)
全カミラ様の崇拝者の皆さま、お待たせしました!
……あれ? 崇拝していない? またまだそんな照れちゃって
ユリウスが自爆しながら、カミラに甘い言葉を囁いていた一方その頃。
学院の隅にある懲罰房は修羅場だった。
――否、聖女セーラが修羅場を起こしていた。
「さ、手を動かしてっ! トーン張って頂戴」
「ディジーグリー! 何度言ったらわかるのっ! ベタははみ出さないっ!」
「いや、私はこの様な事をしに来た訳じゃ……あ、はい」
懲罰房の中は激変していた。
ベッドと机しかない部屋は、本棚と机が増やされ、更に紙屑や収納しきれなかった本――それも特殊なモノが散乱。
有り体に言って、汚部屋である。
しかも、そればかりではない。
「なぁ、聖女の嬢ちゃん。オレはこの真っ黒のを塗ってればいいんだ?」
うんざりした声の持ち主は、先日カミラとユリウスによって捕らえられた魔族フライ・ディア。
どう考えても、この場にいるべき人物ではない。
そして、BL漫画を手伝っている様な人物では、ない。
「……フライ、お前が居ながら、どうして止めていな――っ!? 指を切ってしまったぞ……」
「ちょっと!? 原稿汚していないでしょうねっ! これからの活動資金になるんだから、もっと丁寧にやってよ!」
「いやいやいや!? クソッタレのディジーグリーとはいえ指の方を心配しろよ!?」
「なによ文句あんのっ! アタシは聖女様なのよっ! アンタらだって救ってみせる最強の聖女様なんだから、ちょっとは役に立ちなさい、そもそも、アンタ達は頑丈なんだから、指切ったくらいで直ぐ治るでしょ」
「……いや私の身体は人間を使ってるから、簡単には治らないんだが」
「気合いでなんとかしなさい。さ、手を動かす」
お互いに不憫そうな顔を向けながら、男二人は作業に戻る。
かりかり、ぺたぺた、がりがり。
「――あ、構図わかんなくなったから、今度は二人で絡んで」
「マジか……マジかよ……」
のろのろと立ち上がるフライ、その哀れな姿に学園長の中の人、ディジーグリーは涙した。
これがかつてのライバルなのか、人類抹殺の超タカ派のフライは何処に行ってしまったのだろう。
「ほら、ディジーグリーも早く!」
「うむむ、承知し――――あ、あああああああああああああああああ! 時間! ああっ! もうこんな時間じゃないかっ!」
「お、どうした。顔青いぞお前」
「おい! この腐った聖女! 今日がトーナメントの開始日だっていってあっただろっ! 後五分で始まってしまう……ああ、開幕の挨拶があるのにっ!」
「おー、おー。それはご愁傷様。まぁ人間達に怪しまれない様に、言い訳でも考えておくんだな」
正に人事なので、ケラケラと笑うフライ。
慌てるディジーグリーとは正反対に、落ち着き払ったセーラは、丁寧に筆を置く。
「成る程――つまり、あのモブ女をぎゃふんと言わせる準備が出来たって事ね! こっちには始祖シリーズがあるんだから、目にモノみせてやるわっ! クケケケケケケケケケケッ!」
「三下みたいな笑い声してないで、急げ腐聖女! 仮面をつけるのも忘れるなよ!」
「ま、がんばれや、オレは朝寝とでも――――おい、なんで肩を掴む」
「逃がさん……お前だけは逃がしてなるものか!」
一人だけ優雅に朝寝とか許してなるものか、とディジーグリーはフライのも仮面をぐいぐいと押しつける。
「おいっ! この仮面なんなんだっ! オレはこんな男狂いと一緒に戦わないぞ! オレの神聖な戦いが汚れてしまう!」
「男狂いとは人聞きの悪い…………アタシはねっ! ちゃんと、男にちやほやされるのが好きなのよ! ――後! ちょっと男同士の絡みも好きなだけよっ!」
「「それを男狂いと言うんだ大馬鹿!」」
タッグトーナメンが始まろうとする裏で、セーラのどことなく腐臭のする陰謀が始まろうとしていた――――!
□
時刻は開会式の後。
割り当てられたカミラの選手控え室に、カミラ、ユリウス、アメリの三人は居た。
「いやー、間に合って良かったですねカミラ様。もう少しで出場者参列に間に合わなかった所ですよぅ……ですよ、ですよ?」
にこにこと笑いながら、額に青筋を浮かべるアメリに、カミラはたじたじとなった。
隣ではユリウスも、同じ様にばつの悪そうな顔をしている。
「……その件については大変申し訳なく思っているわアメリ」
「あー、辛かったなぁーー。砂糖がじゃらじゃらする中で一人だったし、言っても聞こえてなっかったもーん。あー、辛かったなー」
「いや、その。俺からもすまないアメリ嬢」
「いいえー、いいんですよぅ。なんと言っても“婚約者”で父親に許可を求めて戦うぐらい“お熱い”関係なんですしぃー、愛す二人は時間の感覚なんて、忘れてしまいますよねぇーー」
「きゃっ、そうよねアメリ。私達はラブラブカップルなんですの、時間の感覚なんてないのですわ!」
「皮肉ですよカミラ様! ちょっとは反省してください、そして調子のんな色ボケ女!」
「ふふっ、今の私は、何を言われようとも! ユリウス様が抱きしめてくれた事実だけで、無敵だわ!」
「――違うッ! 違わないけど違うぞ……。くそッ! なんで俺はこんな女に……」
くねくねするカミラと、悔しそうなユリウスにアメリは盛大な溜息。
――やっぱりこの女、どうしようもなく手遅れである。
「あー、もー。……まぁ、それでこそカミラ様と言えばカミラ様なのですが……、これからはユリウス様、貴男にも止める責任が出てくるので、ちゃんとしてくださいよ……」
「……何を言う、何を言うんだアメリ嬢。俺はまだカミラと恋人にも婚約もしてないのだぞ……そんな責任など……」
「声が震えてますよユリウス様。陛下によって表に出されて、現状に口出しさせずにいて。更に事情に気づいているクラウス叔父様に結婚……交際の許しでしたっけ? まぁそれを求めに行くのです…………どっからどう見ても“詰み”では?」
「…………まだ、まだ、何もしてないし、そんな関係になってないから」
往生際悪く言い募るユリウスに、アメリは慈悲の心で以て指摘しなかった。
(“まだ”って言ってる時点で、この状況を断固拒否していない時点で、心が傾いている事に気づいているんですかね? ……気づいてないんでしょうねぇ)
「何だアメリ嬢、その気持ちの悪い笑顔は……」
「いいえ~、敢えて言うならこの先楽しみだなって……っていうか、カミラ様いつまでクネクネしてるんですか気持ち悪い」
口を挟まずに静かだと見てみれば、この有様。
いったい何を企んでいるのかと、二人が注目すると――。
「んもう。人が折角、子供は三人居て白い大型犬を飼って過ごす幸せ家族計画を練っていたのに……」
「――ガンバ! ユリウス様! わたしの手には負えません!」
「良い笑顔で言うな押しつけるな諦めるなッ!?」
「――諦めていいんですよア・ナ・タ」
「寄り添うんじゃない頬を染めるな馬鹿女ッ!」
「――――その若造の言う通りだ。離れなさいカミラ…………、パパはまだお前をお嫁に行かせた覚えは無いぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「パパ様!」
「ママも居るわよカミラちゃん」
「勿論忘れてませんわママ様っ!」
突如として控え室に現れたセレンディア夫妻に、ユリウスは動揺を隠せない。
カミラと言えば、顔を見た途端ユリウスから離れ、クラウスに抱きついた。
(お、俺は残念がっていないんだからなッ!)
(なんて考えてるんでしょうねぇ……ユリシーヌ様と違ってユリウス様はお顔に出ますねぇ……)
「パパ様!」
「おおカミラよ!」
――ちらっ。
「パパ様!」
「カミラよ!」
――ちらっ。
「いやいやいや! 言い終わる度に、つっこみはまだ? みたいにこっちを見ないでくださいよお二人とも!」
「ごめんなさいねアメリちゃん。あの子一人でも面倒くさいでしょう?」
「ママ様酷いっ!」
「面倒くさくない子なら、まだ恋人でないヒトを巻き込まないものよ」
「――うぐっ、気づいていたんですかママ様」
「ええ、若い頃の私そっくり」
「貴女譲りなんですか、この女の仕業はッ!」
思わずユリウスがツッコんだ。
実際の所は、前世の業+現世の血の合わせ技なので、責任は半分という所である。
「それで、何しにきたのパパ様。そろそろ予選のサバイバルが始まるのでは?」
カミラとユリウスは一応学生なので、特別シード枠で予選無しで決戦トーナメント行きなのだ。
「それがな……朗報と言っていいのやら……」
「アナタ、はっきり言った方がいいのでは? 昨日やりすぎた、と」
何やらはっきりしない夫妻に、アメリが続きを促す。
「つまり、何かあったんですね叔父様叔母様」
「うむ……実はな、昨日のお前達の戦いを見て、参加者が激減してな……」
「ましてや今回は、魔法有りの戦い。予選のサバイバルに残っても、確実に負けるだろうからって……」
「優勝の可能性が皆無なら、出ないと言う人達が続出したんですね、わかります」
「…………てへっ?」
「…………申し訳ない?」
気まずそうに顔を見合わせ、縮こまる二人にセシリーがフォローを入れる。
「気にしなくていいわ、有象無象がいなくなっただけよ。優勝候補達はもとより、気合いのある腕自慢は残っているから」
「だが、予選は必要なくなってしまってな。その分の時間が空いてしまったのだ」
「でも、観客を待たせる訳にはいかない――ああ、見えてきましたよ叔父様叔母様」
「――成る程、それで相手は誰です? 直ぐに終わってしまうかもしれませんが、観客の目を楽しませる事くらいはしましょう」
「微力ながら、協力いたします」
「話が早くてたすかるわ、二人とも……、じゃあ、正々堂々と勝負しましょうね」
「うむ、エキシビジョンマッチは、私たち夫婦が相手だ――――恐れずににかかってこい未熟なる戦士よ……!」
「――――はいっ、パパ様! …………はい?」
「胸をかりるつもりで、全力で挑ま――――?」
「いやはや、エキシビジョンで結婚許可バトルをみれるのですか! こうしてはいられませんっ!皆に伝えなければ――――」
とまぁ。
つまりは、そういう事となった。
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評価欄は最新話下
は兎も角、遅くなりましたすいまそん。
個人的な事情により、明日の投稿もこの時間帯だと思われます。
もし夕方七時に投稿してたら、超無理して頑張ってると思ってください。
月曜以降の平日は、変わらず夕方七時の筈です(時間がとれる筈のですので)
では、明日もお楽しみください!




