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16話 第二回悪役会議・前



 という訳で深夜に急遽、カミラのサロンにて開催された第二回悪役会議。

 ゲストはゼロス王子とヴァネッサ、そしてユリシーヌ。

 スタッフはアメリとヴァネッサの取り巻き三人集と寄りを戻したイケメン三人である。


「――由々しき事態、ですわぁ…………ううぅ」


 言うなり、ガクッとうなだれたカミラに、アメリがよしよしと頭を撫でる。

 麗しい主従の姿である。


「おいたわしやカミラ様、普段やり放題好き放題しているツケが回ってきたんですよ、ケケケ、ザマァ~」


 ――麗しい主従の姿である!


「アメリ! 貴女はいったい誰の味方なのよっ!」


「言うまでもなく、わたしはカミラ様の忠実な僕ですよ……」


「笑い顔で言わないでくれる……ううぅ」


「はいはい、じゃれているのもそれ位にして、いい加減、対策会議を始めましょう。私が進行役をしますがよろしいですね、ゼロス殿下、ヴァネッサ様、ついでにカミラ様」


「よいぞ」

「頼みますわ」

「ついでって言った。ついでって言われた。がーん……」


 半分ほど、否、半分以上使い物にならなくなっているカミラを呆れ半分、心配半分の気持ちで見守りながら、ユリシーヌはアメリに説明を求めた。


「カミラ様の“これ”は、ほっとけば治りますんで、申し訳ないのですが、皆様方、明日の縁談を破談にする方法を考えてはくれないでしょうか……」


 主を雑に扱いながらも恐縮しながら言うアメリに、同情の視線が集まる。


「その為のこの場だ、政治上のバランスを考えたらカミラ嬢が王室の入るのも良い手なのだが……」


「わたくしも、それには同意見ですけれど。絶対に必要な事でもありませんし、それになにより。――一人の女として、他の女性と愛する殿方を分け合うのは気が進みませんわ。……大貴族の娘として、あまり良くない考えである事は承知ですけれど」


「というわけだ。皆の者、これは俺の総意とも受け取って貰っていい」


 きっぱりと言い切ったゼロス王子に、ヴァネッサが熱視線を送る。

 ともすれば、そのままイチャつきかねない熱量に、ユリシーヌは先手を打って進行した。


「そういえばヴァネッサ様、ご実家に今回のことを伺ったとお聞きしましたが、どうでした?」


「ゼロス……。コホン。ええ、事の次第は、わたくしの父の政敵陣営から、ダメ元で出された案のようでしたの」


 ヴァネッサの言葉をリーベイが引き継ぐ。

 この陰が薄いショタは、ゼロス世代の宰相となるべき人物だ。

 これくらいの情報収集のお手の物である。


「今この国の政治勢力は、我らがゼロス第一王子を支持するヴィラロンド派、次点が幼いジーク第二王子を支持するエルロダー派、そして中立のまとめ役セレンディア派の三つが大きな派閥です」


「あれ? さっきヴァネッサ様はエルロダー派からの差し金と言いましたけど、何故ゼロス殿下との縁談話になるんです?」


 首を傾げるアメリに、リーベイは答える。


「ええ、普通ならジーク殿下との縁談となっていたのでしょうが、まだジーク殿下が幼い事と、その言いにくいのですが、カミラ様という存在が劇物過ぎて……」


「あー、カミラ様という地雷を送り込んだ方が、勢力を削る事が出来ると踏んだんですね……」


 一同の気持ちが、あー、となり同情と哀れみの視線がカミラへ向く。

 誤解なきように言うと、カミラは優秀なのだ、新たなる魔王である事は流石に公表していないが、近年、セレンディアの領地発展や経済の飛躍を成し遂げたのも、全てカミラがあってこそだ。

 ――カミラからしてみれば、前世の娯楽や居住性の良さを再現しただけなのだが。


「学業優秀は言うまでもなく、領地経営に非常に秀でていて」

「更に国一番の魔法の使い手であり……」

「美貌だって申し分ないですわ!」


 取り巻き三人が口々に褒めるが、アメリは容赦なく落とす。


「でもまー。いかんせん奇行が目立ちますからねカミラ様。欲望一直線で手段も選ばないし、黒幕っぽく振る舞うから誤解も多いですし」


 アメリの言葉を受けて、ゼロスは思い出したと笑う。


「そう言えば以前、王城のメイドの立ち話を聞いた事があるのだがな、どうやら俺とカミラは犬猿の仲で、ヴァネッサを取り合ってる、などと面白い噂話してたぞ、いやー、あの時は腹抱えて笑ったなあ!」


「そういえばカミラ様、ついこの前まで色恋沙汰ととんと無縁でしたので、女色だという噂もありましたっけ……、まあ、噂ではなかったようですけれど……」


 そこでヴァネッサは、ちらとユリシーヌを見た。

 アメリとしてはうっかり忘れそうになるが、ユリシーヌという女性が実は男であることを、ヴァネッサを始めほぼ全校生徒が知らない。

 誤解もやむなしである。


「――っと、皆さん。話題が逸れていますわ」


 迂闊に弁明をすれば、藪から蛇が出てきかねないので、ユリシーヌは話しを元に戻す。


「所で……素朴な疑問……だけど……、明日の席で……カミラ嬢が、直接断るのは……?」


 おずおずと出されたエミールからの意見を、アメリは残念そうに却下する。


「本来なら、そうするのが一番なのですが……」


 ちらりと、項垂れるカミラを一瞥して続ける。


「カミラ様はご両親をとても愛しているのもあるんですけど、どうやらそれ以上に、謎の引け目を感じているようで」


「成る程、今回この話しを受けたのは、セレンディア公の妻、セシリー様の強い希望があったからと聞いています。――つまり善意故に、ご両親を愛するカミラ様は断りたいけど、どうしていいか解らない、と」


 リーベイの出した答えに、アメリが頷く。

 再び一同の注目がカミラに集まり、この唯我独尊な女に弱みなんてあったのか、と生暖かな視線が送られた。


「はい、ですので。何かこう、セシリー様やクラウス様が納得なさる理由をですね……、ぶっちゃけ下手にカミラ様をこのままにすると、何するかわからないもので」


 実感の籠もった疲れた言葉に、一同は沈黙し考え込んだ。

 この劇物を不発弾にしたまま、なおかつ、ご両親を安心させられる案。

 この場にいる殆どの者が一度は思いつき、ユリシーヌに視線を向けては反らす。

 真逆そんな、ベタな手で……。


 嫌な予感をユリシーヌがビンビンに感じている中。

 その『意見』を誰がだすかで、視線による押しつけあいが為される中。

 わくわくと瞳を輝かせ、遂にヴァネッサが沈黙を破った――!


「皆様ももう、お気づきの事でしょう? ――これしかありませんわ」


「それはとても楽し――、いえ酷な事ではないか?」


「そうして下さると、とても助かるのですが……」


「な、何故私を見るのですか!? 私には解りませんともッ! やりませんともッ!


 逃げ出すように腰を浮かせたユリシーヌに、ヴァネッサがピシャリと言い放った。



「ユリシーヌ、貴女は明日。例の『ユリウス』となって、カミラ様の偽装恋人として、縁談に乱入なさい!」



「――ネッサッ!」


「おお、それは良い案だ。――これは命令だぞユリシーヌ、お前は明日『ユリウス』となって縁談に乱入しろ! ……面白くなってきたじゃないか!」


「――ゼロッ! くッ……貴男まで……絶対やりませんからねッ!」


「ユリシーヌ様の男装姿が見られるのね!」

「僕は前回あまりよく見てなかったので、楽しみですねエリカ」


「エミール、カミラ様考案の録画魔法使えたわよね?

「ああ……、使えるよフラチェスカ……。ユリシーヌ様……ご愁傷、様……」


「――ウィルソン、解ってるわね」

「ああ、我らの総力を結集して支援しようではないかっ!」


「あ、貴方達ッ! 絶対楽しんでいるでしょう。――くっ、こんな所いられませんわ……、って逃げられない!? 誰が魔法を――」



「――今、とても良いお話を聞かせて貰ったわっ!」



 懸命に抵抗しようとするユリシーヌの前に、とうとう最後の刺客が現れた。

 ――そう、復活のカミラである。

 ユリウス大好きストーカー狂人であるカミラが、ヴァネッサの言葉を聞き逃す訳がなかったのだ。


「カミラ様、また貴女は魔法で……ッ!」


「そんな事はどうでもいいのよユリシーヌ様!」


「ち、ちかッ! 顔が近いです手が痛いですカミラ様ッ!」


 カミラはユリシーヌの手をがっしり掴み、きらきらと上目遣いをする。


「お願いです私の一番の友達ユリシーヌ様、お願いですうううう、後生ですからぁ、何とぞ! 何とぞ!」


「か、カミラ様! 私は女なんですから、胸を押しつけても効果はありませんよ、ありませんよ! 殿下、助けて殿下――!」


 カミラに縋りつかれ、助けを求めるユリシーヌを余所に、外野は言いたい放題する。

 だって他人事だもの。


「必死ですねぇカミラ様」


「ふむ、あの女傑も人の子だったと言う事だな。つまりこれからは……」


「殿下、自殺願望がおありで? 流石にわたくしも付き合い切れませんわよ?」


「はっはっはっ、言ってみただけだ。誰が自分で自分の死刑宣告などするものか」


「何呑気に話しているのですかッ! 貴方の忠実なる配下の危機ですよッ! ちょッ! やめッ! 変なところ触らないで頂けますカミラ様――――!」


「げっへっへ、良いではないか、良いではないか――あべしっ!」


 とうとうスカートの中にまで延びた手に、ユリシーヌはペシっとパリィした上、拳骨を脳天に一発。

 当然の報いである。

 なお殿下配下の三人集は、突如として始まった百合百合しい光景に釘付けになり、婚約者達によりお仕置き中である。


「はぐぅ…………、乙女の頭に容赦のない一撃、でもそこが素敵よユリシーヌ様……あいたたた」


「カミラ様、ちょっと我を忘れすぎですよ。冷静になって下さい」


「……あれの何処が“ちょっと”なのですか」


「そうね、ちょっとはしたなかったわね」


「おいヴァネッサ、淑女の世界では、あれが“ちょっと”なのか?」


「おほほほ、殿下はご冗談がお上手なようで」


「だよなぁ」


 ユリシーヌ以下外野のツッコミも何のその、カミラは顔をキリっとさせて、宣言した。


「――アメリ“あれ”をやるわ」


「そ、そんなカミラ様! “あれ”をやるだなんて!?」


「止めないでねアメリ、私は――本気よ」


 ポンコツ主従が繰り広げる茶番、その隙にユリシーヌは逃げようとするが、未だ足の拘束魔法は解けず。

 結果、カミラの必殺を目の当たりにしたのだった――!

明日は後編、昼12時ごろ更新です

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