10話 カミラ様の濡れスケ描写? そんなものないです
読んで下さる方、ブックマークや評価なさってくれる方が増え続け、驚きつつも超喜んでいます(*^^*)
今後とも、楽しんでくれたら幸いです。
それはカミラにとって、至極の時だった。
学院の白い夏服は透けて肌に張り付き、所々肌色を染める、スカートからは水が滴り、腰や臀部の形をいっそう引き立たせる。
上は黒いブラが透け、濡れた髪が頬や首筋に張り付き、数本の髪の毛が唇あたりに留められているのは、とてもセクシーだ。
(これで、あの綺麗な青い瞳に睨まれているんだから。背筋がぞくぞくしちゃう……!)
謝りにすっ飛んできた男子生徒も、謝罪を繰り返しながら唾を飲んで熱い視線を送っている。
お行儀の良い貴族の子弟すら、我を忘れる絶景。
――なお、同じように濡れ透けしているカミラは眼中に無い模様。
「事情は解りました。失敗は誰にでもあるものです、もう気にしないで下さい。――それはそれとして、そんなに凝視しないでくださいませんか?」
「――――はっ、はいいいいいぃっ! 申し訳ありませんでしたぁあああああああああああ!」
目だけは笑わないでにこやかに言われた言葉に、我に返った男子生徒は、逃げるように去っていった。
否、逃げたのだろう。
残るは相変わらず凝視しているカミラのみ。
「……貴女もですよカミラ様。まったく私などを辱める様に見て、何が楽しいのですやら」
「ふふっ、突き抜けた美は見る者の性別を越える、と言うことですわ」
「カミラ様の様にですか?」
「ええ、勿論ですわ」
「頭が痛くなってきました……」
(――あれ? 何故ユリシーヌ様は、先程より私と目を合わせないのでしょう? ……真逆)
視線を合わせぬまま、何気ないふりで後ろを向いたユリシーヌの姿を、カミラはじっくりと観察した。
(…………相変わらず羨ましいくらいに白い肌、でも気のせいかしら、耳が赤い?)
もしかして、気のせいではないのであろうか。
これは、つまり、そういう事なのであろうか。
嬉しい疑問を確かめるべく、カミラはそっと近づく。
「ユリシーヌ様っ! ……もしかして、見ました?」
「み、見てなどいないっ! いやっ、決して見てはいませんからねっ!」
「ふふっ、嬉しいですわ。私のカラダに魅力を覚えてくださったのでしょう――ふうっ」
「――――ッ!? うわッ! わわわわッ! 耳に息を吹きかけるな性悪魔女よッ!」
吃驚して素が出ている事にも気が付かないユリシーヌは、思わず振り返ってカミラを見てしまう。
「いいんですのよ。私達『女』同士ですもの、いくら見ても、触ってもよろしくてよ」
生まれて初めて受ける直接的な誘惑に、慌てふためくその姿に、カミラは潮時を悟って、アメリの出動を要請する。
「~~~~ッ! ば、馬鹿者がッ! 着替えに戻――」
「大丈夫ですかカミラ様! ユリシーヌ様! あちらに着替えをご用意いたしましたっ! どうぞお使い下さい!」
「――感謝するわアメリ様」
アメリが来た途端、ユリシーヌの姿に戻るその一部始終を目撃したカミラは、笑いを堪えながらアメリの案内に着いていく。
無論の事、ユリシーヌが逃げないように手を引いて、
である。
「さ、さあ……ぷっ、くすくすくすくす……、い、行きましょうユリシーヌ、様。くすくすくす……」
「ぐ、う……、頼みますから笑わないで下さいカミラ様」
アメリに案内され二人がたどり着いたのは、演劇部の倉庫だった。
言うまでもなく、カミラの仕込み百パーセントである。
「では、この衣装をお使いください。古くなって廃棄処分するやつで申し訳ありませんがで……」
「いえいえ、ではわたしは……。あ、そうそう、もし気に入ったのであれば、そのままお持ち下さい、ユリシーヌ様ならそのお姿も大歓迎です、と有志からの言葉です」
「はい、ありがとうございます……?」
「ご苦労さまアメリ」
「カミラ様も、ユリシーヌ様にご迷惑ばかりおかけしないでくださいね。ではっ!」
たったったと軽やかな足取りで、アメリは去っていった。
「では着替えましょうかユリシーヌ様、ああ大丈夫ですよ、今回は録画しときませんから」
「何やら引っかかるモノがありましたが、よしとしましょう……、何故神は、貴女に録画の魔法などというものを閃かせたのか……理解にくるしみます」
この世界において、元来「録画」という技術はなかった。
魔法で「写真」を作り出す技術なら既に存在していたが、不思議なことに動画までは至っていなかったのだ。
「録画」という魔法は、カミラの現代チートで発明されたモノの一つで、後世において、だいたいカミラの所為、と言われたオーパーツ群の一つである。
そんな些末な事はさておき、万が一見られても良いように、とストリップさながらの着替えを行っていたカミラの努力……努力? も空しく。
ユリシーヌは手に取った衣装で、困惑していた。
「…………カミラ様『また』仕込みましたか?」
「いいえ、どうしたのですか? ユリシーヌ様」
言うまでもなく、嘘である。
「いいんです。きっと着るしかないのでしょう、この外道…………はぁ」
ユリシーヌとカミラに用意された衣装は、男装用の派手な王子様衣装である。
「振り返ってもよろしくて? 中々面白い格好になったでしょう? ユリシーヌ様はどうかしら?」
カミラの衣装は、赤を基調とした軍服風の衣装だった。
ベルベットのマントが、如何にもといった所である。
「ええ、大丈夫ですよカミラ様。どうです私の男装もにあっているでしょう」
やけっぱちな声にカミラが振り向くと、そこには漆黒の王子がいた。
制服だとスカートでわからない、すらりと延びた足。
服の上からでも、逞しさを感じさせる胸板。
肩幅は誤魔化される事なく、男のモノだと主張し。
女性として化粧された顔と長い髪が、元は女? だという事を証明していた。
――これこそが、カミラだけの王子様。
ユリシーヌも彼の半分で好きだが、やはり、男としてのユリウスを好きになったのだ。
「――王子様。ああ、ああ、夢見ていたわ『ユリウス』。貴男はどうあっても、男の格好をしてくれなかったもの。こんなに簡単なんだったら…………ああ、ちなみに胸がストンとしていらっしゃいますけど、その、どうしたのです?」
怖いぐらいに陶酔していると思ったら、後悔に満ちた死んだ目で苦虫を潰した様な顔へ、かと思えば、可愛いらしく首を傾げ、くるくると表情を変える彼女に、ユリシーヌ/ユリウスは確信した。
「きっと、貴女は。私だけには表裏のない人なのでしょう。……その善悪は定かではありませんが。――あと胸の事は聞くな馬鹿、解っているだろうに」
軽いため息と共に出された言葉に、カミラは胸を押さえた。
「ご理解頂けて、非常に嬉しいですわ。――そのついでと言っては何ですが、少しいじらせて貰っても?」
「嫌だと言っても、貴女はどんな手を使ってでも実行するのでしょう。――好きにしろよ」
「ええ、私の我が儘を『いつも』最後には聞いてくれる、そんな貴男が好きですわユリウス。ええ、男前にして差し上げますわ」
「お前好みの、と言う前置きが付くだろうに……」
そう苦笑しながらユリウスは、カミラが遣りやすい様に背の低いチェストに座る。
「段々と『また』私を知って頂けている様で、嬉しいですわ」
楽しそうに出された言葉は、その裏で泣き出しそうな顔だった。
ユリウスはその事に気づいていたが、踏み込まなかった。
カミラの言葉の端々に出てくる違和感、狂気すら詰まったそれに、今は触れるべきではない。
「……私が、踏み込んでいいかも判らないしな」
「何か言いました?」
「いや、上手いものだな、と」
カミラが聞き取れなかった事をいいことに、ユリウスは誤魔化した。
――実際、カミラの手際が見事だった事もあるが。
「この数秒で、メイクを男モノに変えたのもそうだが、髪を切った様子もないのに、どうやって短くしたんだ?」
ユリウスは短くなった己の髪の先、見えない髪を手に取った。
近くの鏡で見たところ、普通の男性の様に短くなっているのに、変わらず重く、確かな感触がある。
「『光学迷彩』の魔法を使いましたわ、魔法をかけた所をガラスよりも水よりも透明する魔法です」
「また危ない新しい魔法を…………、もしかしてあの盗撮写真はそれで?」
「ふふっ、さあどうでしょう。――これこそがユリウスですわ」
「……この様な姿になったのは、もしかして初めてかもな。で、私――いや俺に、こんな格好をさせて何がしたいんだ? こうなったら最後まで付き合うさ、カミラ嬢なら、今更周囲にバラして、私を破滅させるような事はしないだろう」
挑むように向けられた視線に、カミラは宛然と微笑んだ。
――アメリがいたら、何故そこで悪役ぶるのだとツッコミが入ったであろうが。
「勝負を」
「勝負?」
「今から貴男は、ユリシーヌの親戚の『ユリウス』ですわ。ユリシーヌと約束があって迎えに来た、とでも言っておけばバレません」
万が一、億が一、真実に気づいた勘の良い者はいたならば、その時はカミラが責任を持って『転校』させるつもりである。
なお先に言っておくと、目的地に向かう道中の人間は全てアメリの手が息が掛かっており、ユリシーヌだと判らないフリを強制させられているのだが。
「成る程、もし俺がユリシーヌだとバレれば俺の負けか?」
「いいえ、その時は私の負けですわ。――その時は、貴男から一つ罰ゲームでも受けましょう」
「バレなければ俺の勝ち、と。その場合はどうする?」
「――貴男の望むモノをなんでも一つ」
「なら先程の『光学迷彩』とやらを教えてくれ、あれは俺の様な人間には非常に有効な魔法だからな」
ユリウスの望みが想定とは予想外で、カミラは肩すかしをくらうが、それもまたよしと考え直した。
ドキドキ蜂蜜個人授業美味しいです。
(ふふっ、ユリウス様も甘いわね、勝っても負けても私に得しかないのよっ……!)
「では行こうかカミラ嬢、いやこの場合は……カミラ、君を呼び捨てにさせてもらおう。その方がらしい筈だ」
「呼び捨てなんて、恋人になった様で嬉しいですわ。私、死んでもいい」
恍惚となるカミラに、ユリウスが真実の一端を言い当てる。
「…………解りたくないが、だんだん解ってきた。カミラ、お前俺のこと好き過ぎじゃないのか?」
「告白の返答を頂けるのでしたら、私の全てを晒しますが?」
くるりと正気に戻り抱きつくカミラを、ユリウスは邪険に払った。
――しかし何故この女、雑に扱われて喜んでいるのだろうか?
「答えないと言った筈だぞ、性悪魔女め……。はぁ、では行くとしよう、目的地はあるのか?」
「この部室棟から、大回りで校庭、庭園、門、寄宿舎へ、よろしくて?」
「ああ、では勝負だ――!」
ユリウスは力強くその一歩を踏みだし、カミラはユリウスの尻を堪能するため、後ろから付いていった。
でも、ちょっと寂しいので、一言でもいいので感想下さい。
感想が一杯きて、全てを感想返しするのは大変なので〜〜、とか割烹に書くのが夢なんで(笑)




