第三話:その確認が今、この瞬間
「意識を……変える?」
「はい。婿養子だから何も言えないという考え方から変える必要があります」
「でも……それは」
「はい。そうは簡単に変えられないでしょう。よって私も無理にはお勧めしません。私の本業は代筆業。お客様が求める手紙を、文字としてきっちり書くことが、本来すべきことです。『誕生日プレゼントはいらない』という趣旨の手紙、ご希望であればご用意できます。それでいいですか」
三男は唇を噛み、考え込む。
大切なのは自身が決断したと実感できること。
人から言われてこうした――という意識がある限り。
何かうまくいかなかった時。
その責任を他者に求めてしまう。
でも自分でこうすると決めた。
そうハッキリわかる状況を認識すれば、その決断とその先の責任は、自分自身にあると理解することになる。
その確認が今、この瞬間だった。
勿論、「そうしてください。手紙さえ書いてくれれば、それでいいです」になる可能性もある。だがそれも一つの決断。彼が選んだ選択であり、その後、悩みは尽きないだろうが、そこに干渉するつもりはない。
「婿養子だから何も言えない……そう思うのを止めたら、何が変わるんですか? 婚約者が、リーゼが変わってくれるんですか!?」
「今、ご自身が感じているように。他者から変化を求められることは、ストレスです。ゆえに誰かを変えるのではなく、まずは自分が変わる。ご自身の変化は、相手との合わせ鏡。あなたの変化を見て、相手も変わる可能性がある――ということです」
令息の顔つきが変わった。
そして――。
「……なるほど。理解できました、ウィリス嬢が言わんとすることが。婿養子だから何も言えないという考え方から変える必要がある。考えを変え、その次のステップがあるのですよね? それをお聞かせいただけませんか」
これまでは。
自身が婚約者のプレゼントで苦しめられる被害者という意識が強く、どこかで同情して欲しいという気持ちがあったのだろう。
でもいくら同情されても何も変わらない。聞いた相手が何かしてくれるわけでもない。何も出来ない──ということもあるだろう。
結局のところ、状況を変えるなら、自身が変わるしかない。そう理解できたのだと思う。
同情の言葉をかけない私への苛立ちもあったはず。口調が厳しく、声を昂らせていたのだから。
しかし今、令息の声は落ち着き、表情も穏やかになっている。
ようやく。
建設的な話し合いができる状況になった。
「おっしゃる通りで、次のステップがあります。婿養子になる。これは事実です。ですからはこれはこれとして受け入れる。でも何も言えない? そんなことはないと思います。婚約者に伝えていいと思います。その根拠を少し説明しますね」
「はい! ぜひお願いします」
令息が笑顔になり、私も一旦羽根ペンを置く。
「婚約者にとってあなたは年上で、まだ学生の彼女からしたら、『大人』です。本当は聞けたらいいでしょう。『誕生日プレゼント、何が欲しいのですか』と。でも彼女は聞けない。あなたと別の意味で、一つの考えに囚われているのでは?」
令息は膝に両手をきちんと置き、背筋を伸ばして真剣に耳を傾けている。
「男爵位を継げるから私と婚約した。どうせ好きになってもらえない。でも……なんとかうまくやっていけたら。振り向いてもらえたら嬉しい。そこで懸命に秘伝のレシピのクッキーを焼いた。喜ばれるのは大型の鹿や熊の剥製であるとは知らず、野ウサギの剥製を送ってしまった。もしかすると老齢の執事にアドバイスでも受け、古風で的外れな柄のネクタイを選んでしまった。刺繍も得意ではないけれど、想いは込めたと思います。香水も、何も嫌がらせをするため、選んだわけではないのでしょう」
「……。婚約者がどんな想いでその品を用意したのか……。正直、そこまで考えていませんでした」
「それは仕方ないです。最初のプレゼントで三日間も寝込んだのです。ある意味トラウマとなり、用意される誕生日プレゼントに、拒絶反応が出てしまったのでしょう」
少し冗談めかして言うと、令息も笑顔になる。
「そうなのかもしれませんね。……考えを変え、話すということは……」
「婚約者がなぜその品を誕生日プレゼントに選んだのか。まずはその話を聞くのがいいと思います。そしてそれをもらい、どんな風に感じたのか。相手を傷つけることが目的ではありません。そのプレゼントをもらうことで、どう困ったのか。言葉を選んで伝えてみるのです。その時、合わせて『こうしたら嬉しかったと思います』と言えれば、次の誕生日プレゼントが変わるかもしれません」
「こうしたら嬉しかった、ですか?」
「そうです」と私は頷き、話を続ける。














