第一話:春からの新生活
「「行ってきます!」」
スカイブルーの明るい軍服に白のマント姿のレイノルド。
白シャツに赤のタイ、濃紺のブレザーに、濃紺×赤のチェック柄の制服姿のギル。
二人はこれから同じ馬車に乗り、学園でギルを下ろし、レイノルドはそのまま宮殿の敷地内にある騎士団本部へと向かう。
「お兄様、セドニック様! いってらっしゃいませ」
令嬢教育が順調なミルリアは、ピンク色のデイドレス姿で綺麗に背筋を伸ばし、大人の女性のような微笑みを浮かべる。ちゃんと手をお腹の辺りで合せているところも、とてもエレガント。
ミモザ色のドレス姿の私の方が「いってらっしゃい、気を付けてね!」と元気いっぱいで言いそうになり、そこはミルリア同様で姿勢を整え、軽くお辞儀をしながら「セドニック副団長、ギル。お気をつけて。いってらっしゃいませ」と告げる。
二人はミルリアと私の見送りにそれぞれ頷くと、順番に馬車へと乗り込む。
馬車が動き出すのに合わせ、エントランスに出ていたヘッドバトラーのジョルジュ他、使用人も一斉に頭を下げる。ミルリアと私も頭を下げ、ガラガラという馬車の車輪が回転する音。パカパカという馬の蹄が遠ざかっていくのを確認し、ゆっくり顔をあげる。
ギルがアルセン王国高等学院へ通うようになり、レイノルドと共に屋敷を出る。二人をエントランスでみんなで見送るのが、この春からの新しい日課になっていた。
「さあ、ミルリア。家庭教師の先生が来るから、部屋に戻りましょう」
「はーい!」
ミルリアを部屋へ連れて行き、その後、私は……依頼のあった代筆業に対応する。
午前中の依頼者は、子爵家の三男。
マウントをとる兄嫁を、ぎゃふんと言わせたいと私を訪ねた伯爵夫人の紹介でやってきた。現在二十歳の彼は、男爵家の長女との結婚が決まっている。
つまり将来的に婿養子となり、男爵家を継ぐことが決まっている、運のいい三男坊だった。
ということでその令息がやって来ると、エントランスホールでお出迎えした後。
応接室は挟まず、そのまま書斎へ向かい、そこで紅茶やお茶菓子を出してもらい、早速本題へ入った。
「今回はどなたへの手紙の代筆をご希望ですか?」
「はい。僕の婚約者であるリーゼへの手紙です」
「なるほど。どういった内容の手紙でしょうか」
すると令息は出された紅茶を飲み、明るいブラウンの癖毛をかきあげるようにして、ため息をつく。
「リーゼとは十歳の時に婚約しました。親同士の話し合いで決まった婚約者です。私は三男ですから、子爵家を継ぐことはない。でもリーゼと結婚し、婿養子になれば……。将来、男爵家を継げます。彼女は二人妹がいますが、兄弟はいないんです。つまりリーゼとの婚約は私にとって、僥倖でした。それに彼女自身、美人ではないですが、愛嬌はあるんです。リーゼとなら上手くやっていける。そう思っていました」
そこで言葉を切り、令息が黙り込むので、「何か問題でも起きたのですか?」と促すと「待ってました!」とばかりに彼はヘーゼル色の瞳に力を込める。
「リーゼと婚約してから、誕生日が憂鬱なんです」
「誕生日が憂鬱……なのですか? それはご自身の誕生日が?」
「そうです」と示すように、令息は何度も首を縦に振る。
「リーゼは恐ろしい程、センスがないのです」
「センスがない。それは一体、どういうことでしょうか?」
すると令息は「聞いてください!」とばかりにソファに座る体を、書斎机で羽根ペンを走らせている私の方へと向ける。
「婚約してから毎年。この八年間。私の誕生日にリーゼはプレゼントをくれるのですが、それが本当にもう、受け取っても困るものばかりなんです。最初のプレゼントは手作りのクッキー。リーゼの実家は男爵家ですが、歴史ある家門というわけではないそうです。曾祖父が医者をしており、疫病が流行った時に活躍し、男爵位を授かった平民の出。そして彼女の家では秘伝のレシピとかいうクッキーがあるそうで、それを作り、プレゼントしてくれたのですが……」
その時のことを思い出したのか。
令息は身震いしている。
「薬草入りというそのクッキーは、ただの草入りの生焼けでまずい。私はお腹を壊し、三日間寝込みました」
手作りというのは一長一短。きちんとした物を用意できれば喜ばれる。
だが令息の婚約者であるリーゼの場合は……。
もしかすると初めて焼いたクッキーだったのかもしれない。レシピ通りに作ったのか。ちゃんと味見をしたのか。
疑問の余地はある。
ともかくそれでお腹を壊した時、それを本人に伝えたのかと言うと……。
「言えるわけないじゃないですか! 私は婿入りの身なんですよ? リーゼを怒らせ、婚約破棄でもされたら困ります。以後、狩りで仕留めた野ウサギの剥製とか、変な柄のネクタイとか、下手くそな刺繍入りのハンカチとか、薬品みたいな匂いの香水とか、毎年毎年、誕生日に届くんです。香水は使ったことにして中身は捨てました。でも他のものは捨てるに捨てられないし、本当に困っているんです!」
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その後の物語、毎日連載スタートです。
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