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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第四章

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第八十七話:そろそろ

 炭焼き小屋には、不釣り合いなほど立派な時計が置かれていた。騎士団が時間を正確に把握するために用意したのだろう。


 おかげで時間をきちんと知ることができる。


 かれこれ十五分が経った。


 解毒は進み、そろそろウォーレンは目を覚ます頃合いのはず。


 念のためで呼吸や脈を確認するが、安定している。

 やはりポーションはすごい。


 その時だった。


 外で物音が聞こえた。


 まさかもうレイノルドが戻って来た……とか?


 だがその物音は、炭焼き小屋の周囲を取り巻くように聞こえる。


 もしレイノルドなら、すぐに扉から入ってくるはず。


 ということはまさか……。


 レイノルドが……キングに……?


 そんなはずは……それにあまりにも早過ぎる。


 心臓がバクバクとしていた。


 落ち着いて。

 落ち着くの。


 レイノルドは強い。

 そう簡単には負けないはず。

 これまで重ねた戦闘経験もあるのだから。


 それでも、もしも……。


 ウォーレンのことは守らないといけない。

 匂いは消した。

 ウォーレンを見ない限り、キングがその存在を感じることはないはず。


 そうなると……。


 そうか。


 私だ。

 私だけ、ポーションを使っていないのだから、匂うはずだ。


 深呼吸を一つする。

 そして覚悟を決めた。


 そっと扉に近づき、耳を当てる。

 風の音がするが、何かの気配はない。


 ゆっくり扉を細く開ける。


 暗くて外の様子は細部までは分からない。

 それでも月明かりは昨日以上にある。

 その事実にもドキリとしてしまう。

 月が明るければキングの力はさらに増す……。


 扉を出て、まっすぐ行けば小川。

 右手は山頂へ向かうことになる。

 左手に行けば下ることになるが……。


 下った先は、落とし穴も沢山ある。

 左には行かない方がいい。

 右手の山頂へ向かうと、上りになるため、息も上がり、すぐに追いつかれるかもしれない。


 それならば小川で背水の陣だ。

 キングもその状況なら……毒を持った腕を喰らうはず。


 細めに扉を開け、炭焼き小屋から出て、一目散に小川を目指し、駆け出す。


 すると。


「おい、誰か出て来たぞ、あっちへ駆けて行く」

「どうする、追うか?」

「追え、追え、俺が中に入る」


 聞こえたのは男性三人の声。

 まさか!だった。

 てっきりキングだと思ったのに!

 なぜこんな場所に!?


 魔獣がいるからと、村人は勿論、ならず者さえ、姿を消したはずではなかったの……?


 そこでもしやと思う。

 日中、駐屯地にいる騎士が、レイノルドの様子を確認しに来ると言っていたが。

 今日、彼らに会っていない……と思う。


 いや、分からない。


 レイノルドは炭焼き小屋に現れる前に、会っている可能性もあるのだ。


 それでもこの場所に一般人がいるとは、やはり考えられない。


 騎士なのではないか。


 日中に来られなかったので、こんな時間ではあるが、様子を見に来た。普通なら日没後、明かりがついていない炭焼き小屋。今日に限って明るいのだ。


 何かあったのかと心配しつつ、警戒し、小屋の周囲の様子を伺っていたのでは……?


 そう考えると、それが正解に思える。


 そんな風に考え事をしながら、走っていると。

 石に躓いた。


 暗くなければ避けられたかもしれない。

 でも今、頼りになるのは月と星の明かりのみ。


「なんだ、転んだのか?」


 離れた場所で声が聞こえる。


 前世でアスファルトの道で転んだら、声を上げ、しばらく動けなかっただろう。

 でも今は違う。

 下草も生えた山の中。

 しかもズボンを履いている。

 なんとか立ち上がり、動き出そうとした時。


「そこに誰かいるのか。あの炭焼き小屋、古そうで寂れているのに。お前、あそこに住んでいるのか? もしかしてお前も追われている身か?」


 今の言葉にギクリとして、動きが止まる。

「お前()追われている身か?」と問われたのだ。


 つまり今、私に話しかけている男は「追われている身」と判明した。


 そうなると騎士ではない……!


 まさかと思うが、こんな場所に迷い込んできた、ならず者なのではないか。


 そこでハッとする。

 ウォーレンが危険だと。

 私を追って来たのは二人。

 もう一人は「俺が中に入る」と言っていた。


 ウォーレンは毒牙による傷が癒え、解毒が終わる頃合い。まだ意識が戻っていなかった。そしてその姿はまだ、お嬢さんのままだ。


 男に襲われてしまう可能性がある……!


 炭焼き小屋に、速やかに戻らないといけない。


 男二人はこちらに向かって来ていた。

 月がさらに上り、明るくなってきている。


 それでもドレスも着ていないし、近衛騎士の隊服姿。本当に近くに来るまで、私が女であるとは分からないだろう。


 何とか二人をすり抜けて、炭焼き小屋に戻るには……。


 前世を思い出す。


 そうだ。


 バスケの要領で突破すればいい。

 フェイントをかけ、男達に隙が出来たら、そこをすり抜ける!


 出来るだろうか?

 いや、やるしかない。

 ウォーレンが襲われてしまう!


 丁度その時、月に雲がかかり始めた。

 これなら接近しても、正体もバレにくい。


 ゆっくり立ち上がる。


 男二人がシルエットで見えてきた。


「なあ、あの炭焼き小屋に隠れているんだよな? 俺達も今晩も、あの小屋に泊まらせてもらえないか? 俺達は隣の国から逃げて来た」


 この言葉にハッとする。

 不法入国者だと。


「ブローカーに金を払ったら、ここに連れてこられた。この辺りはつい最近まで騎士達がいたが、今はその姿がなく、警備は手薄。簡単に入国できると。確かに誰もいない。だからここまで来れた」


 それはそうだ。魔獣討伐、そしてキングのせいで、皆、避難したのだから。


 だがそんな作戦を決行していると、いちいち隣国には報告しない。何も知らず、ここへ連れて来られたのだろう。


「だがあまりにもここには誰もいないんだよ。村があると聞いていたけど、村なんてない。無人の家がポツポツあるだけだ。でもあの炭焼き小屋にだけ、明かりがあった。なあ、泊めてくれないか?」


 事情は分かった。

 でも不法入国をするような訳ありの人間。

 すぐに全面的に信じるわけにはいかない。


 それに今は私を男性だと思っている。でも女性と分かったら……。


「困った時は、お互い様だろう? なぁ」


 男の声がそこで途切れ、夜の闇が濃くなったように感じた。


 さらに「うわぁっ」と悲鳴が聞こえ、雲に隠れていた月がその姿を表した。


「!」


 逆光の中、キングの姿が見えた。

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