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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第四章

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第八十三話:私にできることは

 レイノルドは持参していたキッチンクロスで、私の手を優しく拭くと、しみじみと言葉を紡ぐ。


「自分がいない間、心労をかけたと思います。ギル令息やミルリア嬢にも、寂し思いさせてしまい、申し訳ないです」


 何だかその言葉は。

 自身は戦地に赴き、残してきた妻と子供を気遣う言葉のように思えてしまう。胸に沁みるし、ドキドキしてしまう。


 そのドキドキする気持ちを抑え、言葉を口にする。


「大丈夫ですよ。元々四月いっぱいでの遠征だったじゃないですか。心配はしましたが、ギルもミルリアもちゃんと勉強もしながら、手伝いをしてくれていたので……」


 レイノルドは甲冑ではなく、胸当てや脛当てなどの軽装備。そして着ている隊服の上衣のポケットから、平べったい缶を取り出すと、それはハンドクリームだ。


「どうぞ使ってください。自分は武器を扱うので、手がガサガサしやすい。ゆえにこれが手放せなくて。仲間の騎士からは、“戦場のお嬢ちゃん”と笑われていますが……」


 戦場のお嬢ちゃん。

 どう見ても立派な騎士にしか見えないのに!


 思わず微笑みながら、缶を受け取る。


「ありがとうございます」とクリームをつけると……。


 ほんのりグリーンティーのような香りがした。


 そこで思う。


 今後もし、この香りを感じることがあったら。

 今日という日を思い出すのだろうと。


「……セドニック副団長。毒と剣は手に入りました。ですが一人で倒すことはできるのですか?」


 缶をポケットにしまうと、レイノルドはそのまま草の生えた地面に腰をおろした。


 私もその隣に座る。


 ドレスだと、こうはいかない。

 やはりズボンは……楽だ!


「倒すしかない……と思います。ウォーレンさんの協力を得ることで、マトリアークの匂いを消すことが出来れば。自分が追われることは、なくなるでしょう。でもそのことでキングがこの地から移動し、自分を探し回る可能性は、ゼロではありません。元々ウィリス嬢の領地もある北部にいたはずなのに、北東へ現れたのは、自分を探した結果だと思うのです。ゆえにこの地で倒す。今月末まで自滅するのを待つことはできません」


「武器は整ったとはいえ、それでもキングは強いんですよね……。一人で倒し切るのは……」


 やはり心配なので、重ねて尋ねると、レイノルドの顔には、覚悟の表情が浮かぶ。


「ただ、やるしかないと思っています。例え騎士団が来てくれても、彼らの武器では歯が立ちません。危険に晒すだけになると思います。それに連日キングに追われることで、奴の動き方、行動パターンも理解できました」


 彼らの武器では歯が立たない……。それが分かっているので、ジーク団長も自身ではなく、私をここへ向かわせたのだろう。本気で自身がこの地に来た方がいいと判断していたら。ジーク団長は、力づくでもウォーレンに自身をここへ運ぶよう動いただろう。そうしなかったのは、自分が向かったところで、やれることは少ないと判断した結果だと思う。


「何より、匂いでどこにいるかバレるリスクが減れば、攻撃もしやすくなります。背後をとったり、奇襲もかけられるようになる。勝算が高まります。毒は……難しいですね。毒の入った水でも飲ませることができればいいでしょうが……」


 そこでレイノルドはよく晴れた空を見上げる。


「今の時期、雨は少なく、水たまりで喉を潤すこともない。それにこの辺りは川もあるので、水に毒を混ぜるのは無理でしょう。では彼らの食料に毒を混ぜる。それこそ生贄が必要なので、できません。あとはチャンスがあれば、蓋を開けた状態の瓶ごと呑み込ませるという方法もありますが……それこそ難しいでしょう」


 そうなると騎士であり、剣の扱いに長けるレイノルドは。


 剣によりキングを倒すしかなかった。


「そんな心配な顔をしないでください。ここにはポーションもあり、何度かヒヤッとしたこともありましたが、こうして生きていますから」


「! ヒヤッとすることがあったのですか!?」


「……なかったとは言いません。そのため、ポーションは肌身離さずで持っています」


 そう言うとレイノルドは、今持っているポーションを見せてくれたが……。


 何か、できないのか。

 私にできることは、何かないのか。


 この後、ウォーレンがポーションを用意したら。

 安心安全な王都に、レイノルドを残したまま帰る。


 それが正解だと分かっていても……。


「ウィリス嬢は芯の強い方です。ご両親が亡くなった後、必死にギル令息とミルリア嬢を、ご自身で守って来た。領主として領民を守ろうとされた方です。そんなウィリス嬢だからこそ、このまま自分を残し、王都へ戻ることに罪悪感を覚えるかもしれません。でもそれは間違いです」


 レイノルドがキッパリ言い切る。


「団長が自身ではなく、ウィリス嬢をここへ向かわせたのは、自分への配慮でしょう。そしてウィリス嬢をちゃんと王都へ帰すと、団長は自分を信じてくれたのだと思います。それを裏切るわけにはいきません」


 レイノルドの言うことは、まさにその通りだった。


 ここで私がなんだかんだと理由をつけ、残るわけにはいかない。信じて送り出してくれたジーク団長を裏切ることにもなる。


 それに。


 どんなに考えても。

 私は武器を扱えるわけではなかった。

 女性用の近衛騎士の隊服なんて着ているが。

 例え剣を持てても。

 戦場で戦える程の腕ではない。


 レイノルドの武器が剣なら、私の武器は羽ペン。

 彼は騎士で、私は代筆業をしているに過ぎない。

 残ってもできることはなく、ただ、足手まといになるだけ。


「分かりました。セドニック副団長を信じ、王都で帰還を待ちます」

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