第七十九話:愛くるしい。
ウォーレンが見つけた洞窟。
確かに身を潜めるには良さそうだ。
「こういう時にはこれです」
そこら辺に落ちている木の枝だった。
すこし大き目の。
それを拾うと、ウォーレンは自身のスカートのポケットから、石を取り出した。その石を魔術を使い、木の枝の先端に括りつけると……。
石が輝きを放つ!
こうして明かりを得て、洞窟の中に足を踏み入れると……。
ヒンヤリしている。
洞窟の中はじめじめしているイメージだが、この洞窟はそうではない。
「風通しがいいのでしょうね」
そう言って前を進むウォーレンは、ドレス姿のまま。
「ウォーレンさん、ドレスで歩きにくくないのですか?」
「実は魔術でドレスの丈を短くし、足元はブーツに変えています。それにこの洞窟はじめじめしていないので、滑らない。大丈夫です」
魔術は便利だわ……と思いつつ、そこまでするなら元の姿でもいいのでは?と思うものの。もしかすると結構この可愛らしい令嬢の姿を、ウォーレンは気に入っているのかもしれない。
「あっ!」
その考えが中断されたのは、前を歩くウォーレンが立ち止まり、光る石で照らした先に……。
沢山の枯れ葉が窪みに敷き詰められていた。そしてその枯れ葉を包むように、布が敷かれている。そこに体を横たえ、重ねた毛布にくるまるようにして眠っているのは……。
レイノルド!
その姿はさながら冬眠するリスのように、愛くるしい。
もしもいろいろと弱った姿だったらどうしようかと思ったが。痩せ細った感じもなければ、肌に疲れを感じることもない。
「怪我や病気を癒すポーション以外にも、疲労回復に効くものもありますから。それを飲んでいるのでしょう」
「なんだかぐっすり寝ているので、起こすのが可哀そうになります」
「というか、多分、疲労回復に効くポーションを飲んだなら、一定時間は目が覚めません」
これには軽い気持ちで「あ、なるほど」と思ったが、次のウォーレンの言葉で「えーっ」と驚くことになる。
「疲労回復に効くポーションは、生命活動を強制的に抑え、回復に向けるようなものもあるんですよ。ものにもよりますが、強力なものだと、そんな感じです。疑似冬眠状態での強制回復……とでも言えば分かりやすいでしょうか」
通常、冬眠をした場合。
少しずつ蓄えたエネルギーを消費するから、目覚めると痩せていることもある。さらには腹ペコ状態。対して、疑似冬眠状態での強制回復……。冬眠している間に回復してくれるなんて! 便利だと思う。
「さらに生命反応が微弱になるので、わたしのように魔術を使わないと、居場所をつかむこともできません。匂いも香水を使い、消しているでしょう。これなら万一にキングが日中に現れても、副団長を見つけることはできません」
「そうなのですね。ではセドニック副団長が起きるのを待つ間、昼食にしましょうか。なんだかんだでそんな時間なので……」
レイノルドがここを寝床としているのなら、この近くに食料や武器など置いてあるのでは?と思ったのだ。
「了解です。では少し、この辺りで食料が置かれた場所を探しましょうか」
洞窟から少し離れた場所に、小川を発見した。
その小川沿いを歩いて行くと……。
昔、使われていたらしい炭焼き小屋を発見。
そしてそこに食料と武器やポーションが置かれていた。さらにこの小屋には、五右衛門風呂のようなものもあり、どうやら入浴もできるようだ。
薪もあり、煙突も見え、暖炉もある。
洞窟ではなく、ここで休めばいいのにと思ったが……。
「人工物があれば、キングの警戒対象になりやすい。よってあえてあの洞窟で休んでいるのでしょう。距離もちょうどいいですし……副団長は野戦慣れしているようですしね」
野戦慣れ……。それはそうだろう。
数えきれない程の魔獣討伐に出る中で、様々な知恵と経験を得ているはずだ。
小屋の中に勝手に入ってしまったが、そこで鍋やフライパンなどを発見した。
「昼食は私が作るわ。……甘いものではないけど、いいかしら?」
「勿論です!」
ウォーレンの顔が輝く。
それを見てさらに理解する。
私の揚げパンというより、誰かの手料理を食べること。それをウォーレンは欲しているのかもしれないのだと。
ともかくいろいろ頑張ってくれたウォーレンと、目覚めたレイノルドが食べられるように、昼食を用意することにした。
小川でウォーレンに魚を釣ってもらい、それは保存バターを使い、香草と一緒にソテーする。小屋にあった干し肉、ジャガイモ、ニンジンで、これまた香草を使ったスープを作ることに。堅いパンは少し水を含ませ、火であぶる。これでスープに浸せば食べやすいはずだ。
さらに。
リンゴと蜂蜜があったので、コンポートを作ることにする。通常は砂糖で作るコンポートなので、水の量と火加減に注意しながら、作り上げることになった。
「できたわ!」
炭焼き小屋には小さなテーブルと丸椅子があった。
丸椅子の一つは脚が折れていたが、それはウォーレンの魔術で直してもらい、使える状態にしている。
こうして出来上がったものをテーブルに並べると。
「すごいですよ、領主様!」
すごい……でもこんな山の中に、川魚のバターソテー、干し肉と野菜のスープ、パン、リンゴのコンポートが並んだのだ。すごい程ではないが、一品料理というわけではない。良しとしよう。
「貴族の令嬢とはいえ、ウィリス家は自給自足が基本。弟や妹にも料理を作って出していましたが、『美味しい』と言ってくれていたので、食べれないことはないと思います。良かったらお召し上がりください」
「領主様の手料理。美味しくないわけがないです! いただきます!」
ウォーレンが笑顔で丸椅子に腰かけた。














