第七十六話:衝撃は七回やってくる
「……ウィリス子爵令嬢、誰と話しているのですか?」
ジーク団長のこの言葉に、衝撃を受ける。
「え、こちらに守衛のお爺さんが」
「博物館の守衛は、若手の騎士見習いが交代で行っています。今は聖剣を預かることになったので、警備のため、中堅どころの騎士を置いていますが……老人を働かせるなんてしませんよ」
「えっ」とお爺さんを見ると、ちゃんとそこにいる。
足だってあった。
私はウォーレンを見る。
「ウォーレンさんはこのお爺さんが見えるわよね?」
「ええ、見えていますよ。よぼよぼでしょう。弱そうに見えますよね、この剣の精」
これには二度目の衝撃。
まさかこの好々爺が剣の精だったなんて……!
驚き過ぎて言葉がでない私の代わりにジーク団長が口を開いた。
「なるほど。ここに剣の精がいるのですね。なぜウィリス子爵令嬢に剣の精が見えるのかはともかく。我々は今、聖剣を必要としています。罪のない若者が、魔獣キングにその命を狙われています。彼は多くの人々の命を救った英雄です。どうかそのお力を貸して下さらないでしょうか」
ジーク団長はそういうなり、私が見ていた方向……つまり好々爺に向け、片膝をつき、跪いた。
「ふむ。カナール以来の礼儀正しい人間の男のようですな。しかも騎士団長でありながら、膝をついて私の力を請うと」
そこでお爺さんは、ウォーレンをジロリと見る。
「どごぞやの失礼な魔術師とは大違い」
この言葉にウォーレンは肩をすくめる。
「お嬢さん。この高潔な騎士に免じ、不遜な魔術師のことは不問に処しましょう。そしてこの博物館での日々も、いささか飽きたので、久々に外に出ることに決めました」
そうお爺さんは言うと、「しかと見よ、魔術師」と一喝。
すると室内が閃光に包まれ、目を閉じることになる。
これは……三度目の衝撃だった。
まだ目がチカチカする感覚があるが、目を開けると……。
好々爺の姿はない。
代わりにそこには、すこぶる美形な青年がいる。
流れるような長い銀髪、尖った耳、月光のような輝く肌。瞳もまた澄んだ銀色で、まとう衣装は、ギリシャ神話の神々が着ているようなもの。
トータルで言うと、エルフみたいだった。
「剣の精、我が名はティルムンク。この名を再びこの世界に知らしめようぞ」
ティルムンクはまるで映画のクライマックスシーンのようにそう言ったが。
その姿は足元から銀色に輝き、なんだか消えそうになっている。
せっかく剣の精に出会えたのに!
これは四度目の衝撃。
「ティルムンク、消えないでください!」
思わずそう声をかけたが、その姿は銀色の粒子になり、吹かれた風に流されたと思ったら……。
聖女の作ったマントのそばに展示されていた、古びた剣。そちらへと流れていく。そして古びた剣を包み込んだ。そしてその銀色の輝きが収束すると、古びた剣は、嘘のように立派な姿に変わっている。
グリップは立派な黒革で、剣全体は銀色をしているが、シルバーではなさそうだ。鞘や柄を飾る宝石もキラキラと煌めいている。
まさかの五度目の衝撃だった。
「一体何が起きたのですか。古びた剣が突然、あのような姿になるとは」
立ち上がったジーク団長は、今起きたことは、全て見えていなかったようだ。
そこでことの次第を私が説明する。
「なるほど。そうだったのですね。つまりこの博物館にあった聖剣こそが、本物だった。そして剣の精は聖剣に戻ったと。その名はティルムンクは、本来の力を取り戻した。魔獣キング殺しの聖剣になったわけですね」
「感謝してくださいよ、団長さん。誰のおかげで聖剣を取り戻したと思っているんですか?」
ウォーレンの言葉にジーク団長はニヤリと笑う。
「君が愚かな魔術師を演じてくれたおかげで、剣の精は本来の姿に戻ってくれました。感謝していますよ」
「それだけではないですよね。わたしにどれが聖剣であるかを答えさせるため、領主様を利用しましたよね」
これには内心で「ええっ、そうなの!?」と驚いてしまう。
これは六度目の衝撃。
でもそう言われると、私をここに連れてくる理由なんてなかった。それでも連れてきたのは……。
私がここへ来れば、ウォーレンはついてくると、ジーク団長は考えた。
さらに私が沢山の聖剣を見て、なんらかの反応をすると考えたわけだ。
それを見たウォーレンは「聖剣はこれですよ、領主様」となると、団長は考えたと。
ジーク団長、飄々としているけれど、抜け目ないわ!
「わたし、領主様以外にサービスするつもりはありませんから。ちゃんとお金で請求しますからね」
ウォーレンは令嬢の姿で頰を膨らませる。
さらにジーク団長に要求した金額は、かなりのもの!
と言うか私が揚げパンで済んでいたのは、完全にサービスだったのね。
「必要経費です。探し回るはずだった毒と聖剣が一気に手に入ったのですから。ちゃんと一括で全額を払いましょう」
ジーク団長は太っ腹だった。
その後、団長は見習い騎士を呼び、ガラスケースを開けさせた。そしてついに聖剣をその手にとった。
「魔術師ウォーレン、追加料金を払います。セドニック副団長のところまで、連れていっていただけませんか」
これを聞いた私は、思わず声を上げていた。
「私も連れていってください」と。
するとウォーレンが困った顔になる。
「転移の魔術は魔力を使うんですよ。今日は何度も使っているので、二人を転移させるのは無理です」
これは……七度目の衝撃だった。














