第七十三話:碧い小鳥
翌朝。
いつもよりも早く起きてしまった。
体力の温存が必要と分かっており、本当はまだ寝ている方がいいと思うのだけど……。
やはりレイノルドのことが心配で、目が覚めてしまった。
とはいえ、使用人は朝食の準備もあるため、既に起きている。
そこでヘッドバトラーであるジョルジュに昨晩、騎士団本部に向かった従者の件を尋ねると……。
「きちんと全ての手紙を届けたと、報告を受けています。本部に詰めていた職員……シュワルツ伯爵令息が受領し、大変丁寧な御礼の言葉を賜ったそうです。その上で追加のリストも受け取っています。こちらです」
そう言ってジョルジュはリストを私に手渡しながら、尋ねる。
「使用人一同も主のことを心配しており、何かできることがないかと思っているのですが……」
「! でもみんな、それぞれの役目があるのでしょう?」
「はい。ですので時間外を使うつもりです。皆、主に恩義を感じていますし、何かしたい気持ちがありまして……。特殊任務なんて初めてのことで、みんな心配しているんですよ」
これには胸が熱くなる。
レイノルドの性格の良さが、主と使用人という枠を超えた絆を、みんなと結んだのだろう。
とはいえ。
魔獣に効くかもしれない毒や聖剣。
有能な使用人のみんなでも、こればかりは準備できない。
気持ちだけ受け取り、今の役目を漏れなく果たしてもらうことが、一番と伝えることになる。
こうしてリストを受け取り、少し早いが、リーフグリーンのドレスに着替えた後。
朝食までまだ少し時間があった。
魔術師ウォーレンは起きているかしら……?
時間としては、多くの人がそろそろ朝食を摂る頃合いだと思う。
ならばいいだろう。
碧いガラスの小鳥を取り出し、手に載せる。
魔術アイテムとはいえ、小鳥になって飛んで行くなら、ある程度時間がかかるはず。
今、飛ばしてお昼ぐらいに着くイメージ?
そのあたり、ウォーレンにちゃんと詳しく聞いていなかった。
だがしかし。
私は基本的に迷うなら、えい、やー!でやってしまうタイプ。
そこでウォーレンに習った通りに実行する。
顔を近づけ、息が小鳥にかかるようにして、ウォーレンへの言葉を声に出す。
「ウォーレンさん。髪とはまったく違う件での相談です。ウォーレンさんは、長生きをされていますよね。特定の魔獣に効く毒があると、聞いたことはありませんか。もしその毒について知っていたら、教えていただきたいのです。勿論、報酬は払います。何か知っていたら、連絡をください。ちなみにものすごく急いで知りたいと思っています。返事を早くいただけたらその分、報酬ははずみます! 王都で見つけた美味しいティールームへ招待し、スイーツ食べ放題です」
もし何か情報を提供してくれたら、サイレンジン公爵令嬢と行ったティールーム「デメール」に、ウォーレンを招待しようと考えていた。
ということでメッセージは完了。
碧い鳥から顔を離し、背中を三回優しく撫でる。
すると……。
それはまるで前世のCGや特殊効果映像を見ているようだった。
ガラスで出来ているはずの碧い鳥が、徐々に命の気配を感じさせたのだ。
硬質なガラスの質感から、柔らかさと体温を感じさせる羽が生え、あっという間に生きている小鳥の姿に変わっている。くりくりと動く瞳、ちょこん、ちょこんとステップを踏む足。さっきまでガラスだったとは思えない!
手乗りの碧い小鳥にしか見えなかった。
「魔術師ウォーレンさんに伝言を頼める?」
「チチッ」と短く碧い鳥は鳴くと、素早く飛び立つ。
私は慌てて窓を開ける。
すると碧い鳥は、勢いよく外へと飛んで行く。
「!」
外へ出た瞬間。
その速度は前世で言うなら新幹線!
「あ、新幹線が来た!」と思ったら、ものすごい勢いで走り去っていく。
あのような勢いで、碧い鳥はあっという間に遠ざかっていった。
伝書鳩の比じゃない。
ハヤブサと同等、いやそれ以上。
もしかすると私が想像しているよりうんと早く、ウォーレンの所へ着くかもしれない。
でもそれは悪いことではなかった。
返事は早ければ早いほどいい。
早ければいいし、できればウォーレンが何か知っていてくれたらいいのに。
そう思いながら、リストに従い、手紙を書く。
そして時間になると、朝食の席に向かう。
ギルとミルリアも、朝から手伝う気満々であるが。
ここはその本分である勉強を、頑張ってもらうことにする。
「私も代筆業の依頼をまずはしつつ、隙間時間で頑張るわ。だから二人もいつもの勉強が終わったら、また手伝ってね」
こう伝えることで、二人は「「分かった!」」と応じ「ミルリア、今日はいつもよりスピードアップだ!」「分かったわ、お兄様!」と、どうやら勉強を早く終わらせようと、頑張るつもりらしい。
今のこの状況、レイノルドにとっては、実に困った事態。
だが奇しくもギルとミルリアの勉強熱を高めることになるなんて。
そんなことを思いながら朝食を終え、部屋に戻った私も。
代筆業の依頼をこなしつつ、リストの手紙も書き上げる。
そうして一時間程経った時。
「領主様!」
可愛らしい令嬢の声が聞こえた。














