第七十二話:私達が出来ること
すぐに手紙を書くのに必要な道具を揃えてもらい、騎士団本部の事務方のいる部屋に行き、空いている席へ案内してもらった。
そこで日没まで手紙を書き続け、屋敷に戻ることにした。
「本当に、書くのが早くて助かります!」
その後、再び会うことができたパーンは、私が薬師や魔術師に送る手紙を書くことを手伝っていると知ると、とても喜んでくれた。
「リストの一部をお預かりしていいですか? 屋敷でも書いて、ある程度まとまったら従者に騎士団本部に届けてもらいます」
「それは助かります。今日はみんなここで夜を明かすつもりです。事務方と言えど、気持ちは騎士の皆さんと変わらないですからね。まさに臨戦体制。従者の方には、いつでも来ていただいて大丈夫ですが……」
そこでパーンは気遣うように私を見る。
「あまり根を詰めないでください。ウィリス子爵令嬢が倒れては、困りますからね」
「ありがとうございます。ちゃんと睡眠はとるようにしますね」
こうして私は屋敷に帰り、夕食を摂りながら、ギルとミルリアに、レイノルドの無事を伝えた。二人はレイノルドの無事を知り、ひとまず安堵する。
キングの件をジーク団長は私に明かしてくれたが、機密事項であることに、変わりはない。ギルとミルリアに話すわけにはいかなかった。
「セドニック副団長は特別な任務についているの。だから王都にはまだ戻れないのよ」
これを聞くとギルもミルリアも寂しがるが「応援してあげましょう」と伝えると、なんとか納得してくれた。
その一方で、ヘッドバトラーのジョルジュとメイド長のマーサには、キングの件を含め、全て話すことが許されていた。二人はレイノルドにとって両親のような存在であり、もしもの時の代理人の役目を果たしていたからだ。
「セドニック様はその任務が終わったら、帰って来るの、お姉様?」
「ええ、帰って来るわ。だからギルもミルリアも。いつも通りで過ごしていいのよ。元々セドニック様は、来月末に帰還の予定だったでしょう。その頃には戻って来てくれるわ。きっと」
「任務、成功するといいね。僕やミルリアで、何かできることはある?」
ギルの言葉に胸が熱くなる。
まだ子供なのに、何かしたいと思う気持ちを持ってくれたことに。
「そうね。多くが大人がするべきことで、ギルやミルリアにできることは……」
「何でもいいのよ、お姉様。お姉様を手伝うことでもいいから、何かミルリアが出来ることはない?」
「ミルリア……」
そこで私は、封筒の宛名を書くことをギルに頼んだ。ミルリアには、ギルが書いた宛名と、リストの宛名が一致しているか、間違いがないか、それを確認してもらうことにした。
こうして夕食後。
代筆の仕事を素早く終わらせ、寝るまでの間に書き上げた手紙を、従者に騎士団本部へ届けてもらった。勿論、夜遅くに動く従者には、特別な手当を渡すことになっている。
従者を見送り、入浴しながら、改めて思う。
ギルが書いた宛名の字は、とても綺麗だった。間違いもほぼもない。レイノルドはギルの優秀さを見抜いていたけれど……。
それは間違いないと思う。
そんなことを考えながらの入浴を終えると、ナイトティーを飲みながら、再び手紙を書き始める。宛名さえ書けば、すぐに出せるようにしたのだ。
その後、ようやく就寝となる。
ベッドに横になり、ようやく全身から力が抜けた。
肉体的には疲れているはずだが、眠気は訪れない。
そこで先程まで書いていた手紙の内容を思い出す。
魔獣に効果があると、伝承されている毒を知らないか。
調合できないか。
薬師や魔術師に問う内容を、ひたすら頭の中で繰り返し、手紙を書き続けたが。
魔術師といえば、知り合いがいるではないか。
そう。
ウォーレン!
彼との契約は、髪を切ることであるが。
ウォーレンは魔術師なのだ。
回復のポーションだって用意できるのだから、毒も調合できるだろう。
よし。
明日の朝、あの碧いガラスの鳥を使い、ウォーレンに聞いてみよう。
そう思いながら、レイノルドは今、どうしているだろうかと考える。
キングは月の明るい夜に活発になるのだ。
そして月は今、満月に向け、満ちていく最中。
もしかするとレイノルドは、昼夜逆転の生活を送っているのかもしれない。
つまり夜は眠らず、キングから身を隠し、動きつづけているのではないか。
それにしても。
どうしてレイノルドは連絡をくれないのだろう。
ジーク団長経由で真実を聞くぐらいなら、レイノルドから知らせて欲しかった。
あ、でも。
ゆっくり手紙を書くような状況ではないのかもしれない。
ジーク団長によると、北東の地に駐留している騎士はおり、日中、レイノルドがいるあたりを警戒していると言う。だからもしもがあれば、すぐに分かると言っていたけれど……。
それでは遅いと思う。
とはいえ。
キングに立ち向かうのは無謀なこと。レイノルドにもしもがあった時、駆けつけて欲しいという思いと、無茶はしないで欲しいという思いが入り混じる。
とにかく願うのは、レイノルドの無事だ。
何よりも。
キングを倒す切り札を手に入れないと。
そのために私ができることは、ひたすら手紙を書くこと。
追加のリストがあれば、従者が受け取って戻ってくる。
明日も頑張ろうと心に誓うことになった。
そして翌日。
事態は大きく動く。














