第七十一話:まさか
魔獣は本能で、騎士を敵とみなし、襲い掛かる。
だが執拗に追う相手が一人だけいた。
まさか。
「それがレイノルド・ソル・セドニック侯爵。セドニック副団長です」
「そんな……!」
そこで私がまず思いついたのは、サイレンジン公爵の画策だ。
意に沿わないレイノルドなら、いらない。
「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」と前世では織田信長の気質を現わす歌が残されているが、まさに公爵はそのタイプに思えた。
喉から出かかっていた。
「キングにレイノルドを追うように仕組んだ黒幕は、サイレンジン公爵なのですね」と。
だが。
「これはセドニック副団長自身が分析したことです。その言葉をそのままお伝えすると『自分はマトリアークを殲滅しました。キングはマトリアークの伴侶。マトリアークの伴侶になることで、キングは通常の魔獣とは違う特性を備えます。その力が増すことなどがそれでしょう。そう言った特性の中に、マトリアークの何かを感じ取る、特殊な力もあるのかもしれません。例えば自分についたマトリアークの血。見た目にはどこにも残っていません。ですが微弱な匂いが残っているのでは? キングはその匂いを追い、自分を攻撃しようとしているのかもしれません』――そうセドニック副団長は言っていました」
この分析は……大いにあり得ると思った。
人間に比べ獣は鼻が利くものが多い。
つまり鋭い嗅覚を持つ。
それにキングが強くなるのは、妊娠中のマトリアークを守るため。
マトリアークの匂い、特に血の匂いに敏感になるのは……。
きっとマトリアークの死を感知したのも、大量の血によるものなのかもしれない。
「キングの攻撃が、自身に向かっていると分析したセドニック副団長は、王都への帰還を断念。北東の地に残ることにしたのです。もし騎士団と共に王都へ移動すれば、キングがついて来る。決して倒せないがキングが。王都へキングを連れて帰るわけにはいかないと」
「そんな……。ではセドニック副団長は今……」
「一人で北東の地で、キングの相手をしています。『倒せないと分かっているのです。仲間を巻き添えにしたくありません』と」
衝撃的だった。
たった一人で、他の魔獣より強いキングの相手をするなんて。
しかもキングを倒せる毒や聖剣も持っていないのに……!
「そんなことは無謀だと、勿論、反対しました。でもセドニック副団長は『一か月弱なら生き延びて見せます。自分は死ぬわけにはいかないのです。王都へ帰りたい理由もあるので』そう言っていました」
それは……そうだろう。
レイノルドには想い人がいるのだ。
本来なら笑顔の帰還で、プロポーズをするはずだった。
「北東の地には、騎士達が用意した多数の罠もあります。セドニック副団長も、自ら攻撃を仕掛けるわけではありません。防御に努めると言っていました。そして持参していた食料と武器、ポーションは彼のために置いてきています。あとはセドニック副団長の言葉を信じるしかありません……」
「見捨てたのですか、セドニック副団長のことを!」と言いたくなるが、それは違う。ジーク団長としても、苦渋の判断だったのだ。
キングがレイノルドを追うなら、一緒にいる騎士達は巻き添えを食う。
いくらマトリアークの討伐を経験しているとはいえ、キングは……復讐心で動いている。
自身の伴侶と子供を殺されたのだ。その殺意たるやすさまじいものだろう。
そんなキングの攻撃に巻き込まれたら、ポーションを飲むことすらできない状態にされてしまうかもしれないのだ。
ジーク団長はその立場からして、部下の騎士達を守る必要がある。
一人の犠牲で多くの命を救えるのなら。
団長という立場では、多くの命を救う選択をするしかない。
「我々としてはセドニック副団長を見捨てるつもりはありません」
「!」
「キングを倒すのに必要とされている、毒と聖剣。その名前などは、分からないのですよね?」
「……はい。伝承で聞いた話では、ただの毒と聖剣でした。名前は含まれていません」
これにはジーク団長は残念そうな顔になるが、すぐにキリッとした顔つきになる。
「ならば見つけ出すまでです。既に陛下の許可を経て、捜索を始めています。事務方は王立図書館や王家や騎士団の書庫で、魔獣に関わる文献をあらいはじめました。毒と聖剣の情報を得るためです。騎士達は屯所へ連絡を飛ばし、それぞれの地の聖職関係者に、話を聞いてもらっています。所持している聖剣に、魔獣に関する伝承がないか。もし魔獣と関連する聖剣であれば、騎士団へ一時的に預けるよう、お願いするつもりです。毒については薬師、魔術師へ、手紙を送り始めたところです」
つまりキングを倒すため、毒と聖剣を見つけ出そうとしている。
レイノルドを見捨てるつもりはないのだわ……!
「私も協力させてください。文字を書くのは早い方ですから」
「! それは助かります。騎士団として正式に依頼を出しましょう」
「お金より、大切な友人を助けたいのです。紙と羽根ペンとインクがあれば、いますぐ手伝います!」














