第六十九話:安堵とドキリ
お爺さんは、この博物館の主と思える程、詳しい。
いつ、どこの誰がこの品を、何という騎士に渡したのか。
来歴や年代が分かっているものは、一つ一つ丁寧に説明してくれる。
その記憶力には脱帽だ。
「こちらのアーモンドの花のような色合いのマント。少し黄ばみもありますが、二百年前に寄贈されたと言われています。寄贈したのは聖女!」
「聖女!」
「ええ。かつてはこの世界にも、聖女が存在していたそうです。もはや伝承の中での存在ですが。そしてこのマントは、魔獣討伐に参加した聖女が、共に戦った騎士達のために縫い上げたと言われています」
寄贈されたマントは複数枚あった。だがそれらは実際の魔獣討伐で使われた。この博物館に残るのは、この一点のみだと言う。
パーンは地味だと言っていたが、すごいものがある!
「聖女が作ったマントなら、何かしらの力が込められていそうですね」
「そうですな。でも聖女が失われた今、これは大変貴重ですから。ここにこうやって展示されているのです」
もし本当に何らかの力が込められているなら、実戦で使ったらいいのに……なんて思ってしまうが。
「そしてこの剣」
お爺さんが立ち止まり、私を見た。
ガラスのケース越しに見えるのは、随分と古びた剣だった。鞘やグリップなどに宝石が埋め込まれているが、そちらもかなり傷んでいる。
「これはシスマリーナ聖堂に長らく保管されていました。この剣自体がいつ作られたものなのか。それは定かではありません。ですが大変珍しい剣で、その刃は硬く、貫けぬものはないと言われていたそうです」
今の状態からは想像できないが、実はかなりの名剣なのかもしれない。
「聖堂のあった村が魔獣に襲われた時、アルセン聖騎士団がいち早く駆けつけ、村を救いました。そこで村長が司祭にも相談し、当時の騎士団の団長カナールにこの剣を捧げたのです。カナール団長は、何度かの魔獣討伐でこの剣を使い、大切にしていたのですが……」
そこでお爺さんは肩をすくめる。
「いずれかの遠征時に剣を失うことになり、そこから長い年月が経ち、偶然沼地で発見されたのです。というのも柄頭に、カナール団長は自身の名を刻んでいたのですよ。こうして再び騎士団に献上されましたが、このようにボロボロで……。お役目を終えたのだろうと、ここで展示されることになりました」
こんな感じでお爺さんが説明をしてくれるので、展示品の数としてはそこまで多くないのに、あっという間に三十分が過ぎていた。
出入口のところまで戻ると、お爺さんはしみじみとこんなことを言う。
「先程、お嬢さんが言っていた通りだと思います。物と言うのは、鑑賞目的で作られたのではないのなら。有用に活用した方がいいと思います。このような年寄りでも、ロッキングチェアで日向ぼっこするより、こうやって説明をさせることで、役に立っているでしょう。使える物は活用する。真の価値を見過ごさないことが、大切と思います」
お爺さんの最後の話は、深イイ話だった。
聖女が作ったマント、活用できるなら活用した方がいいと、このお爺さんも感じていると理解できた。
そしていわゆる箪笥の肥やしはダメよね……としみじみ考えてしまったが。
再び騎士団本部に戻ると。
背筋が伸びる。
ジーク団長に会えるのか。
ドキドキしながら、まずはパーンの姿を探すが……。
残念!
パーンはここにはいないようだ。
でも通りがかった別の職員に例のメモを見せると……。
「すぐに団長に確認してきますので、そちらのソファに座ってお待ちください!」と言ってもらえた。
そこでロビーのソファに腰かけ、彼が戻るのを待つ。
その間にロビーの様子を見ると、やはりバタバタしているのに代わりはない。
ジーク団長は会ってくれるだろうか。
いや、私に会う時間はあるのだろうか。
でも。
ギルとミルリアとも約束したのだ。
「お姉様、どうしてセドニック様はいなかったの? 王都に戻っていないの? ミルリアはセドニック様に会えないの?」
「姉様、どうしてセドニック様はいなかったのかな? あまりにも人気だから、遠慮して別の門から王都へ入ったのかな?」
「そうね。どうしたのかしら。……騎士団本部に行って聞いてみるわ」
そう応じた私に二人は「「セドニック様の無事を確認して!」」と声を揃え、「ええ、分かったわ。必ず確認してから戻るわ」と約束していたのだ。
約束をすることで、強い気持ちを持てたのだ。
絶対に、レイノルドがどうしているのか、確認すると。
それでも気を抜くと、強い気持ちより、心配する思いが勝りそうになる。
「お待たせいたしました。十五分でしたらお会いになることができるそうです。この後、宰相との会談もあるので」
これには安堵とドキリが同時に込み上げる。
ジーク団長と話せるのは嬉しい。
でもサイレンジン公爵……。
公爵は婚約話を断ったレイノルドを、快く思っていなかった。
さらには今回の魔獣討伐が、失敗に終わればいいと考えていた。
ところが討伐成功の名目で、騎士団は戻ってきた。
しかもキング討伐は不要である、四月末には自滅するという情報を得て戻ったのだ。
公爵としては大いに不満だろう。
だからレイノルドが王都に戻れないよう、何か画策した……?
だから隊列に、レイノルドはいなかったの……?














