第五十二話:まるで
「お姉様、すごかった。どうやって聖剣を手に入れたの?」
「ミルリア、聖剣の話は作り話だ。実際はセドニック様の剣は折れていない。それに僕達はマトリアークに会ってもいない。舞台を盛り上げるための演出だよ、全部。聖剣も」
「ええ~、お兄様、それは本当? お姉様、聖剣はないの?」
小劇場を出ても、ミルリアの興奮は収まらない。
それはそうだろう。
登場人物の中に、自分と思われる少女がいた。
さらにレイノルドと私は実名で登場していたのだ。
ギルはそのあたりの区別がちゃんとついている。だがミルリアは、劇を観たと分かっていても、どこか現実と重ねて考えてしまう。
そして「毒を飲んだの、もう大丈夫なの?」「お姉様は本当は聖女なの?」と可愛らしく質問していたのだ。その問いにレイノルドも私は「あれは劇の中の出来事で、現実とは違うのよ」と答えていたが……。
ギルがずばり全部演出だと明かし、ミルリアは驚きを隠せない。そんなミルリアを抱き上げると、レイノルドはこんな提案をする。
「この近くに洋食屋があります。庶民向けですが、美味しいと評判で、子供向けのメニューもあるそうです。行ってみますか?」
どうやらレイノルドは今日の外出にあわせ、食事をするお店もちゃんと見つけてくれていたようだ。ここは「ぜひそのお店に行きましょう」と移動を開始。
通常のランチ時間より三十分ほど早いので、予約なしでも並ばずにお店に入れた。でも今日は日曜日で天気もいい。外出している家族連れも多かった。
すぐに満席になってしまう。ここは早めに入店できて良かったと、思わずにはいられない。
「これが子供向けの人気メニューです」
着席すると、すぐに給仕の男性がやって来て、メニューブックを広げてくれる。そして季節限定メニューなどを紹介すると、一旦席を離れた。
そこでレイノルドがパラパラとページをめくり、ギルとミルリアに見せたのが、子供向けメニューだ。
「お兄様、これ、見て! 汽車の形をしているわ!」
「そうだね。鉄板プレートを汽車の模型に飾って提供するのか。これは子供が喜びそうだ」
ギルはしっかりしているが、社交界デビュー前。
まだ世間的には子どもなのに、大人のように分析している。
「鉄板プレートにステーキ、ハンバーグ、グラタン、豆のサラダが全部のっている。白パンがついて、デザートとジュースもつくって。そして値段は……。コストパフォーマンスもすごくいいよ。僕、これにするよ、姉様」
「ミルリアはこっちにする~!」
ミルリアもまた、お子様向けメニューを選んだ。それは鉄板プレートに、ギルの言っていた通りの肉料理が並ぶが、汽車ではなく、花やリボンで飾られたトレーで提供される。
ということで二人は仲良くお子様向けメニューを、レイノルドと私はステーキを頼んだ。
お子様プレートにはオモチャのおまけがついており、料理が出るまでギルとミルリアはそれで遊んでいる。人形が持つ様な小さな剣と盾をもらえたから、二人はマトリアーク討伐ごっこをしていた。
「お待たせいたしました。お子様プレートとステーキでございます」
お店は混雑しているが、ちゃんと全員分を同時に出してくれる。
「お料理を食べる前に。お子様プレートが美味しくなるおまじないをかけましょう。お二人とも、一緒に唱えていただけますか?」
女性のスタッフが突然そんなことを言いだしたが、小劇場で演劇を観た後なのだ。
ギルとミルリアは「はーい」と応じ、スタッフの女性とおまじないの言葉を唱えている。
一体なぜそんなおまじない?と思ったが。
鉄板プレートはアツアツなので、子供が火傷しないよう、ワンクッション置いたのだと分かる。
さらに。
「ファミリーのお客様にはこちらをプレゼントしています!」
それはミニピザで、四等分にされており、リコッタチーズと蜂蜜がのせられている。オードブルの一品のようで気軽に食べられ、美味しそうだ。これを最初に食べることで、さらに鉄板プレートの温度も下がる。
子供に配慮したこのお店、私は俄然気に入ってしまう。
それに。
スタッフの口から自然に言われた“ファミリーのお客様”。
冷静に考えれば、レイノルドの若さでギルのような息子はいない。
でも見えるんだ。周囲からは。家族みたいに。
それは……とても嬉しい。
そこでニコリと笑うミルリアと目が合う。
「家族みたいに見えて、お得になったね~」
無邪気にミルリアが言うので、レイノルドも「そうですね。せっかく厚意でいただけので、チップをはずむことにして、いただきましょう」と困ったような、嬉しいような顔をしている。
日曜日の洋食屋で四人で食べるランチ。
それは本当に家族の団欒みたいで楽しかった。
そのランチの後は、街を散歩した。
今日はまさに春の陽気で、散歩には最適。
スタンドショップもあちこちに出ており、通りを歩いている間、飽きることはない。
噴水のある広場に着くと、レイノルドと私はベンチに座った。
ギルとミルリアは渡したコインを握りしめ、噴水のそばにいる大道芸を眺めている。
二人の様子を見ながら、冬とは思えない暖かな陽射しを受け、すっかり気持ちが緩んでいたが。
「ウィリス嬢」
「はい」
「一か月ほど、屋敷をあけることが決まりました」
「え……」
「ダークウッド連山の端、北東部へ魔獣討伐の遠征を行うことが、決定しました」














