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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第四十四話:緊張の本当の理由

 視線を床から上へと移動すると。


 パウダーブルーの隊服を着たレイノルドが、明るい笑顔を浮かべ、私を見ていた。そして落ち着いた様子で尋ねる。


「早く到着されていたのですね。お待ちになりましたか?」


「いえ、ちょっと前に着いたばかりです」


「そうですか。では少し早いですが、待機部屋に行きましょうか。三十分以上前に待機部屋に着くと、とても香りのいいハーブティーを出してもらえます。リラックスできますよ」


 私をエスコートしながら歩くレイノルドは……とてもご機嫌に思える。


 さっきまでサイレンジン公爵令嬢と話していたのだ、レイノルドは。その上でこれだけ嬉しそうに見えているということは……。


 近々発表されるかもしれない。


 レイノルドとサイレンジン公爵令嬢の婚約発表が。


「ウィリス嬢、大丈夫ですよ。謁見の時間は、そう長くはありません。挑んでみると、あっという間だった――で終わると思います。それに国王陛下は賢王と評されるぐらいの方であり、人徳者。ウィリス嬢に緊張を強いるようなことを言ったり、行動することはないですから」


 私が黙り込んで考えていたのは、レイノルドとサイレンジン公爵令嬢のことだった。でもレイノルドは、これから私が国王陛下に会うことに、緊張していると考えたようだ。


「国王陛下よりも宰相がいるので……。宰相は……その政治手腕は確かなものです。公爵でもあるので、顔も広く、王家とのつながりも深い。それでも陛下もいるので、特に何か言うこともないかと」


 そうか。謁見の間には宰相もいるのね……。

 でも貴族の爵位の授与なのだ。

 宰相がいてもおかしくはない。


 舞踏会でレイノルドとのダンスを終えた後、怖い顔で睨まれたことを思い出す。


 でも、サイレンジン公爵令嬢とレイノルドはさっき、大変いい雰囲気だった。私は何も邪魔をしていないし、当事者も上手くいっているのだから、今さら私を……。


 でもそこで再び気が付いてしまう。


 客人としてレイノルドの屋敷に滞在していること。これを宰相が気にする可能性は……ある。宰相としては屋敷から出て行け……と思っているかもしれない。


「さあ、着きましたよ、ウィリス嬢」


 結局、私は悶々と考え事をしていた。

 せっかくエスコートしてくれているのに、レイノルドとろくに会話ができていない。そして待機部屋に到着し、ソファに腰を下ろすことになった。


 そこで私はお詫びの気持ちを口にする。


「セドニック副団長、申し訳ないです。指摘された通り、緊張しているみたいで……」


 ここはもう、こう言うしかなかった。


「ええ、分かります。ですが安心してください。舞踏会では、緊張する自分を助けてくれましたよね、ウィリス嬢が」


 そう言うと、レイノルドは自身の隊服の上衣のポケットから、鮮やかなサファイアブルーのリボンを取り出した。


「もしもウィリス嬢が緊張していたらと思い、持参して良かったです。これは隊服の端切れ布で作ったリボンで、自分はしおり替わりで本に挟むのに使うのですが、こうすれば……」


 私が着ているドレスの身頃には、コサージュが飾られていた。


 王家の紋章には、白いユリがデザインされている。

 そこでそのユリをモチーフにしたコサージュを私はつけていた。

 このコサージュにレイノルドは、取り出したリボンを結わきつけてくれた。


 その上でソファに座っていた私を立ち上がらせると、壁に飾られた絵画の横の鏡の前へと連れて行く。鏡に映るのは――。


 ドレスはミモザ色で、コサージュは白いユリ。そこに飾られたサファイアブルーのリボンは、とても映える。


「そもそも青色は、気持ちを落ち着かせる色です。このリボンを見ることで、ウィリス嬢のそわそわした気持ちは緩和されるはずですよ」


 これにはなんだか心がぽかぽかと、温かい気持ちになる。


 舞踏会では私が母親の形見のブレスレットをレイノルドに渡し、「このブレスレットは緊張を緩和する効果があるんです。卿にお貸しします」と伝えたのだ。


 勿論、ブレスレットは魔術アイテムではないし、そんな効果はなかった。それでも緊張というのは、意識レベルで作用するもの。ブレスレットを持っていれば緊張しない――そう信じるだけで、緊張の緩和につながる。それをレイノルドは実感できたのだろう。


 だからこそ。


 あの時と同じことをして、私の緊張を取り除こうとしてくれていることが分かった。


「ありがとうございます。セドニック副団長」


「いえ、自分はウィリス嬢に教えていただいたことと、同じことをしているだけです。それに謁見の場に自分は立ち合えませんが、このリボンが代わりにウィリス嬢と一緒にいられます」


 レイノルドの気遣いに嬉しくなり、そんな彼から一心に愛されるサイレンジン公爵令嬢は……。


 羨ましいなんて思ったら、罰が当たるわ。


 そこで「失礼します」とノックと共に扉が開いた。その瞬間、スッキリとしながらも、華やかな香りを感じる。待機部屋に入って来たメイドは、銀のトレンチにティーセットを載せている。


 この素敵な香りは、このハーブティーね。


 レイノルドの言う通りで、運ばれてきたハーブティーは、とてもいい香りで……。


 緊張していたわけではなかった。


 ただ、サイレンジン公爵親子のことを考え、少し気持ちが沈んでいた。


 でもハーブティーとレイノルドがつけてくれたリボンで元気を取り戻し、国王陛下との謁見に臨むことになった。

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