第四十話:その姿はまるで……
令嬢姿のウォーレンは、出されたスイーツを綺麗に平らげると、きちんと屋敷の門から帰って行った。つまりレイノルドの屋敷がある敷地内では、魔術を行使しなかった。誰にも見られない場所で魔術を使い、自分の家まで戻るのだろう。
何かと気遣いができるウォーレンは帰り際、ある物を私に手渡す。
「これは一見するとただの碧いガラスの小鳥で、オブジェに見えますよね。でもこれには魔術が込められています」
「つまり魔術アイテムなんですね」
「はい。領主様を認識するようになっています。顔を近づけ、息がこの小鳥にかかるようにして、わたしに伝えたいことを話してください。話を終えたら、背中を三回優しく撫でる。そうすると小鳥は生きているように飛び立ち、わたしのところへ飛んできます。これでいつでもわたしと連絡がとれますよ」
この世界にスマホはなく、メールもメッセージアプリもない。
郵便はあるが、王都からウィリス領まで手紙を届けるには、とにかく時間がかかる。早馬もあるが、結局、汽車が走るような長距離ではあまり意味がない。
汽車が走っていないような場所、短距離であれば俄然早馬ではあるが……。
ということでこの魔術アイテムは、実に便利だった。
「こういうアイテムが大量に出回ったら、私の始めた代筆業は廃業ね」
「それはないですよ、領主様。そもそも魔術師なんて数が少ないです。それに魔術師の腕次第なんですよ、こういう魔術アイテムの質や量は。わたしのそれはたっぷりの魔術が込められているので、王都との往復も問題ないですし、耐用回数も相当です」
「それってつまり……ウォーレンさんが優秀ということよね? それに私が領主だから、特別に渡してくれたのかしら?」
ウォーレンは可愛い令嬢姿なのに、ドヤ顔になる。
「まあ、そう思っていただければ。わたしは、ハイ。優秀ですからね。それに領主様はわたしの雇い主ですから、特別です」
「ありがとうございます、ウォーレンさん。髪を切るぐらいで呼ぶのに使うのでは、申し訳ないけれど」
「べ、別にいいんですよ、領主様。髪を切る以外の用事で呼んでくださっても」
もじもじする令嬢姿のはウォーレンは、やはり愛らしい。
「髪を切る以外の相談事も、していいのかしら?」
「相談内容と、何のお菓子をくれるかによりますが……」
やはりそこはお金ではなく、お菓子でいいんだ。
「分かったわ。その時はウォーレンさんが喜びそうなお菓子を用意するわね」
これにはウォーレン令嬢の目が、キラキラと輝く。
その目がキラキラの状態で屋敷を去ったのだから、メイド達は……。
「なんて愛らしいご令嬢でしょう」
完全に私を訪ねてきたのは、銀髪の可愛らしいご令嬢となっている。レイノルドもこれで変に心配しないで済むだろう。
未婚の令嬢の元に、わざわざ領地から令息が訪ねてきたとなれば、何事!?と思われかねない。でもそうはならずに済んだ。
ウォーレンが帰った後。
届けられた代筆業の依頼の手紙に、返事を書いた。具体的に訪問希望日を書いて来た令息には、その日時での面談を返信。そうではない令息には、希望日を尋ねる手紙を書くことになった。
するとこの日の勉強を終えたギルとミルリアが、私の部屋にやって来た。手紙を書く私に今日の勉強について話し、その後は二人でダンスの練習をしている。
ミルリアが練習したいとせがみ、ギルが「ええ、ダンス!?」と言いつつも、応じた形だ。なんだかんだで二人はとても仲が良かった。
こうしてこの日は、夜勤でレイノルドは不在だったが、問題なくギルとミルリアと夕食をとり、休むことができた。
レイノルドがいないと、寂しい気持ちにはなる。それでもこれまでは、この三人で食事をしていたのだ──そんな風に自分自身に言い聞かせ、過ごすことになる。
そして翌朝。
夜勤明けで帰宅したレイノルドは、疲れて眠いだろうに、朝食の席に顔を見せた。
朝から元気いっぱいのミルリアの話に応じ、ギルとは夕方、剣術の練習をしようと約束している。
その姿は実に甲斐甲斐しく、なんだか子煩悩なパパみたいだ。
「さすがにいろいろと疲れたので、もう休もうと思いますが、何か困ったことや心配事はないですか?」
朝食を終え、自室に戻る前に。
私のことまで気遣ってくれた。
それは子煩悩なパパからの延長で、多忙ながら妻を気遣う愛妻家に見える。
本当に。
レイノルドは良き夫であり、良き父親になりそうだった。
そんな微笑ましい気持ちになりながら、彼が安心できるよう、現状を伝える。
「特に問題はありません。今日は午前中と午後に代筆業の依頼がはいっていますが、騎士の方が中心。いつも通りかと思いますので」
「なるほど。それならば安心です。爵位に関する書簡は昨日提出したので、近日中に宮廷へ向かう日が決まるでしょう。なるべく自分も同行できるようにします。とはいえ謁見の場で、ウィリス嬢が何かする必要は、基本的にありません。構える必要はないと思います」
「分かりました。私は大丈夫ですので、セドニック副団長はゆっくりお休みください」
改めてそう伝えると、レイノルドは肩の力を抜き、ふわっと柔らかい笑みを浮かべる。
「心配いただき恐縮です。……夜勤自体は魔獣討伐に比べると、大したものではなく。むしろ……」
そこで何か言い掛けたが、レイノルドはなぜか言葉を呑み込んでしまう。
「ともかく自分も問題ないです。代筆を依頼する騎士に、悪さをするような者はいないと思います。ですが何かあれば、自分のことは遠慮せずに起こしてください」
そう言うとレイノルドは、自室へ引き上げる。
ギルとミルリアが家庭教師に勉強を習っている間、代筆業を依頼したいという騎士が、屋敷へやって来た。
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【お知らせ】新作スタート
『陛下は悪役令嬢をご所望です』
https://book1.adouzi.eu.org/n0021jx/
「……君との婚約は破棄させてもらう! ここにいる男爵令嬢を君は深く傷つけた!」
婚約破棄された悪役令嬢に、取引を持ち掛けたのは、血塗られた玉座に君臨する王だった――。
前世知識と機転で、困難を乗り越える私だけど、恋心には鈍感です!?
ページ下部にリンクバナー設置済。
初日は増量更新です。
ぜひお楽しみください☆彡














