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果たすべき責

 自分の過去をひけらかしたいわけじゃなかった。

 テレシア以外の誰かに聞いて欲しかったという気持ちがなかったとまでは言わないが、カタリナの成長に必要なものであると思ったことが大きい。


 カタリナの学び方は人を以て鏡と為すだ。


 まだまだ長いとは言えない付き合いではあるが、それでもわかることはある。

 カタリナの中にある判断の基準、それが、こうはなりたくないと、こうなりたいっていうものだ。


 以前アルル様やメルを反面教師にしてるんじゃないかと思ったのは恐らく正解で。

 現実の中に具体的な実例を用意し、提示することでカタリナは大きく成長する。


「――先生、どう?」


「あぁ、意外と中は広いみたいでな。もう少し待ってくれ」


「わかったわ」


 現に、カタリナは昨日の夜を超えてから、凄みとでも言うのか纏う雰囲気を一つ強者の物へと近づけた。


 覚悟を改めたとも言えるだろう。

 俺の話をどう受け止めたのかはわからない、というより知る必要はない。


 反面教師にしようが、どうしようがカタリナの成長する糧になったことは確かなのだから。


 ――ご主人様、中にいる人間は(・・・)死んでいます。毒の種類もアナライズ完了しました。


「よし、戻ってこい」


 見つけたダストコープス製造所は洞窟のような場所だった。

 ここに来るまでの道中に俺たちへの襲撃は無かったし、バレていないと考えるべきか罠だと考えるべきかは判断がつかなかった。


 ただ、入り口を見つけた時、漏れ出していた魔力を見て予感が奔った。

 こうして入り口でテレシアを抜剣し、糸刃化して予感を確信に変えるため中を探らせているが……。


「カタリナ」


「うん、どうだった?」


「全員死んでいる」


「……そう」


 返事を聞いたカタリナは片眉をぴくりと動かした後、奥歯でなんらかの感情を噛み殺した。


 漏れ出していたものは一言で言えば毒だった。

 テレシアからの報告もそうだが、おそらくはダストコープスが液状を維持できなくなって気化してしまったんだろう。


「中に入れそう?」


「全員は無理だ。毒無効(ポイズンブロック)を維持しながらになるから……いけて俺を含めれば四人だな」


「ん……じゃあ、お願い先生」


「わかった、毒の内容をテレシアが解析してくれている。戻ってきたら無効化の魔法を作るから、準備しておいてくれ」


 小さく頷いて近衛が待機している場所へと向かっていく背中を見送って。


「ぶち切れ案件をこうも簡単に用意しちゃうか……ガイとノルドラは、ろくな死に方出来ねぇだろうな」


 元将軍様と元帥様の、哀れにも思えない死に様を想像した。




「む、ごい……」


「姫様、お気を確かに」


「大丈夫……私は、大丈夫よ」


 カタリナの両脇を兵士二人が固めて、俺が先導する形で中を進んでいく。


 中々に酷い有様だ。

 そこら中に転がっている人間の死体。

 ビーカーの破片か、ガラスが肉片と共に散らばり、魔法陣が血塗られ使い物にならなくなっている。


「惨状からの推測は必要か?」


「べ、ベルガ殿っ!」


「ううん、いいの。ありがとう。先生、聞かせて?」


「服用できるダストコープスを奪い合ったんだろうな。外にこいつらが出なかったのは幸運と言えるだろう、あるいは外に出た中毒者は捕まえられて王都に送り込まれたってセンも考えられるが……ここにいた人間には悪いが、こうなったことを喜んでいいと思う」


 近衛の視線が痛いが、誤魔化しても仕方ない。


 ダストコープスは麻薬等の原材料に使われる植物を魔力によって加工したものだ。

 本来強力な痛み止めとして製造され、主に医療手術と言った場面で使われるような薬だが、一歩間違えれば中毒性の高い毒となる。


 無理やり引き出される力と、湧き上がる陶酔感に全能感。

 一度味わってしまえばもう一度と後戻りできなくなり、やがては理性や知性、王都に現れた中毒者のようにまでなってしまう。


 まさに人間やめますかってなもんだ。


「恐らく、ここは非合法ではあるものの真っ当な薬を作る場所だったんだろうな。死体を見ても傭兵だなんだとは思えないし、むしろ研究者然として人間ばかりだ。ガイ……いやノルドラだろうな、自分の懐へと金を仕舞うための施設って感じかね」


「そうね。あいつに集まるお金は一部不透明なところがあったし、そうだと思う。できれば、ここでノルドラが関与しているとわかる証拠が見つければいいんだけど」


「姫様……はい、まさしく。何としてでも、見つけ出しましょう」


 拳を震わせながらだけど、カタリナは目を背けなかった。


 死体をじっと見て、胸元で十字を切った後瞑目して何を想ったのか。


 それはわからないが、再び開かれた目には強い意思の光が宿っていた。


「関与を証明できるモノは見つかるかわからないが……そろそろ注意しろ。蠱毒の主が、出てくるぞ」


「こどく……?」


「ここでダストコープスの奪い合いという名の殺し合いがあった、それは確かだ。ならば当然、生き残りダストコープスを勝ち取った存在がいる。もう、人間なんて言えないような、化け物がな」


「っ! 全員警戒!!」


 カタリナの鋭い声が響いた。

 そして、その声で意識を取り戻したのか、奥の方から。


「あ゛ー……?」


「こ、いつ、はっ!?」


 近衛たちが一歩後ろに退いた。


 無理もない。

 理性を失っているとひと目見てわかる瞳、垂れ流され続ける涎と排泄物。

 薬によって人間の何倍もの大きさに膨れ上がった丸太のような腕と脚。


「皆、下がりなさい」


「姫様っ!?」


 そんな中でカタリナは一歩前へ出た。


 脚は小さく震えている、目の端には小さく涙が浮かんでいる。


 それでも。


「コレは国が。ひいては私が生み出してしまったモノです。私は、王族たる私こそが。果たすべき責を、果たします」


 強く、宣言した。


「先生、そういう、こと、だから」


「御心のままに」

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