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理解者は愛犬

 状況が動き始めたと思う。


 アーノイドさんとシェリナが東部前線視察から帰ってきたは良いけれど、中々に厳しい顔をしていた。

 顔に出やすいアーノイドさんはともかくとしても、あのシェリナをして見て取れるほどなのだ。

 具体的なところはわからないが、厳しさの加減は想像に難しくない。


 今はアルル様、メル、カタリナの三姫を交えた報告の場が会議の場へと変わっていることだろう。


 俺はというものの、城下街の一件をアルル様へと報告しに行けば即回れ右を促され、休養を言い渡された。

 俺に使えない聖魔法を使えるようになったトリアとのパスを、反動がないように解除するのは骨が折れる。

 だから肋骨やら顎やらの折れた骨をそのままに、着替えだけして報告に行ったらこうなった。


 まさに骨折り損のくたびれ儲けである。


「む~! 笑いごとじゃないんですよご主人様っ!」


「はいはいごめんなさい」


 挙句、トリアとのパスを何とか無事解除して、自分の怪我を治したらそのままテレシアが無理やり顕現してきて抱っこをせがまれた。


 ちなみにやり始めてから今で三時間が経過した。それでも離してくれない、困ったね。いい加減心頭滅却じゃあ辛いものがありますよ、この胸の感触は。


「ご主人様」


「うん?」


「旅に出ましょう? いえ、再開しましょう? わたし、やっぱりご主人様以外のニンゲン、キライです」


 ようやく拗ねたような声色から変わったと思えばこれである。


「我慢できなくなっちゃったか」


「だってそうです。ご主人様のお弟子様を悪くは言いたくありませんが、あのメスが居なければこうして怪我をされることはありませんでした。もっと言えば、あぁ言ったゴミに絡まれることも、ニンゲンと生活を共にしているからです」


 いつもの駄々をこねるという感じではない。

 俺の目を真っすぐに、真剣な表情で、ただただ俺のことを想って言っている。


「だが、あいつらが一つの分野においてか総合的にか。少なくとも俺と同等の力を持てるようになるとはテレシアも思っているだろう?」


「であれば国を滅ぼし必要なモノを拉致しましょう。ご主人様が強くなるため、わたしと契約を履行するに値する域へ達するためだけに使い潰しましょう。多くのゴミが、ご主人様を利用しようとしたように」


 まさに名案と言わんばかりにテレシアは言う。

 あるいは、そうされてきたんだからやり返してもいいじゃないか、だろうか。


 どちらにしても、他人にされて嫌なことを自分がするなと言うほど俺はお行儀がいいわけじゃない。

 むしろ、されて嫌なことをやり返した時、どれだけ昏い気持ちよさに浸れるのかも知っている。


 だけど。


「テレシア」


「……言葉が過ぎました。ですが!」


「だからこそ、だよ。多くの人は俺に縋ったし、未熟だった俺は良い気になって力を貸した。その結果どうなったかは、今でも痛いくらいに覚えている。けど」


「あの者たちは、違うと?」


 それはまだわからない。

 ただ、違うかもしれないと思う、思いたいだけなのかもしれないけど。


「短気は損気ってやつだよ。それに、今の俺はアルル様の剣だ。姫様たちの剣術指南役でもあるけれど、結局道具を使うものが愚かなら、勝手に自滅する。俺としては愚かではないと願いたいところだけど、結末を見てからどうするか決めても遅くないさ」


 今はもう良くも悪くも大人になって。

 それ以上に楽しいことを見つけて、知っているから。


 この国へ忠誠を誓ったわけじゃない。

 言い訳に過ぎないのかもしれないが、今のところ俺は姫様たちやトリアに対して強くなれる、強くしたいという己の願いで動いていることは確かだから。


「……むー」


「嫉妬するなって。今後はどうかわからないけど、本音を言えるのはテレシアだけだ。今もこうして助けてもらってる、ありがとうな」


 抱きしめる腕に力を込めて、背中を軽くさすってやれば、ようやくテレシアはしっぽを振ってくれた。


「テレシア。お前は俺の愛剣で愛犬の愛人。そして一心同体の相棒であり、同じ死の時を約束した相手だ」


「はいっ! その通りです!」


「俺はお前の考えを頭ごなしに否定しないし、肯定するかは別としても必ず受け入れる。だからと言ってテレシアが俺に対して同じように振る舞えとは言わない。けど、少なくとも今の環境は俺にとって必要なものになりつつあることは覚えておいてくれ」


「はいっ! 覚えます! わたしは! 記憶するモノですから!」


 むふーっとした笑顔のテレシアは可愛いね。


 未来なんてものは誰にも約束できない。

 もしかしたら、俺がこの国に忠誠を誓う光景があるのかもしれないし、アルル様が言ったように王なんてイスに座っている未来があるのかもしれない。


 どれもこれも否定はできない。

 あるかもしれない未来として受け入れて心を定めていくことしかできない。


 ただ、どんな道筋を歩むことになっても。

 俺とテレシアが最後に戦って、どちらかが死ぬという終着点は、変わらない。


「それまで、日々進歩のため努力するしかない、な」


「はいっ! 精進あるのみです!」


 アルル様たちへ教えているようで、アルル様たちから学んでいることもあるのだから。


 ……あぁ、そうだな、だったら。


「テレシア」


「はいっ!」


 テレシアにも、学んでもらうとしようか。


「ちょっと散歩に行ってこい」


「さんぽっ!? さんぽですか! やったあああっ――え? いって、こい、ですか?」


「あぁ、俺抜きで。社会勉強、しておいで」

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