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苦難の愛し方

「お父様っ!!」


「来たか」


 もう何度か入ったことのある陛下の私室。

 一人で眠りにつくには大きすぎるベッドの上で上半身を起こし、何かを悟った表情を浮かべている陛下がおられた。


「お、お身体の具合は……?」


「すこぶる好調だとも」


「よ、よかった……よかったよぅ、お父さん」


 メルが一番最初に陛下へと抱きついた。

 カタリナは安心したのかベッドの傍らで腰が抜けたように床へとへたりこむ。


 アルル様は……気持ちは察するなんて言うのはダメか。

 でも、改めて起こってしまった出来事を事実として受け止めてしまったんだろう、小さく肩を震わせている。


 ただそれでも、三人共が皆、この部屋に入った瞬間に姫としての仮面を投げ捨てて娘になった。


「ふはは、こうしていると王ではなく父親としていられる気がするな。まったく、可愛い娘たちだ」


 メルの頭を撫でながら、言葉通り父親の表情になっている陛下は穏やかで。

 だというのに胸が締め付けられるような思いを抱いてしまうのは、やっぱり。


「すまんな、ベルガよ。薄らぼんやりとではあるが覚えておるぞ、世話をかけた」


「勿体なきお言葉です。この程度、世話というのも憚られるというもの。むしろ、陛下に刃を向けた無礼をお許し下さい」


「クク、だから後は家族でごゆっくりとでも言いたいのか? 逃さんよ、ベルガ」


 自分の身体について、理解を及ぼしているからだろう。


 俺に対しても王というよりは、更生しそこねた大人とでもいうのか、ちょい悪オヤジみたいな笑顔を向けてこられた。


「自分の身体だ、具体的にどうとは言えぬが、恐らく普通では無くなったことはわかる」


「……はっ」


 説明を、と口にしかけたが雰囲気で断られた。

 今はそういうことを聞きたいがために俺をこの場に呼んだのではないんだと。


「ベルガよ。ぬしはどう思うか」


「陛下、それは」


「よい。元から決めていた事、参考になどせん。聞きたくなっただけだ」


「お、おとう、さま?」


 だからだろう、空気が変わった。

 これから大切な話をすると、人だけではなく、国が変革の時を迎えたのだと。


 アルル様も、メルも、カタリナも。

 全員が肌で感じ取った。察しているのはアルル様だけだろうが、二人も居住まいを自然と正した。


「……アルル様、かと」


「っ!?」


 責任なんて持たないって思っているのに、何故だろう心臓がバクバクしていて。

 絞り出すようにそう言えばアルル様が信じられないと言った表情で俺を見てきた。


「理由は」


「メル様であれば鋭利過ぎる、カタリナ様では苛烈が過ぎる。お三方とも揺るがぬ芯を持っておられましょうが、清濁併せ呑み、それでも前を見ようとすることができるのはアルル様かと」


 誰もが王の器、人を統べる素質や才能を有していると思う。

 俺に剣や魔法ではなく人を見る目があるのかは自信がないけど、僅かな時間であっても三人と接してきて感じたことだ。


「ふむ」


「ベルガ様っ!?」


「アルル、少し黙りなさい」


「う……」


 そう言って陛下は瞑目し腕を組んだ。


 とても想像できるとか、理解できるなんて言えないけれど。

 カタリナは剣に逃げ、メルは魔法へ逃げた。

 アルル様だけが、もがき苦しみ果てなき迷走の末に今を迎えられた。


 優劣を言っているわけではない。

 三人ともそれぞれ自分で解決しようとした結果がそうだったというだけの話。


 そして。


「王たるもの、苦難を愛せ。さすれば道は拓かれん」


「それは?」


「王家に伝わる口伝のようなもので、ルリアが好きだった言葉だ」


 ……いい言葉だ。

 苦難の先にこそ道があるとは思わないが。

 道を、未来を切り拓くものは未踏に挑まなければならない。


 解釈が正しいかはわからない。


 だけど、この言葉は、とても胸に染み込んでくる。


「余は、王の座から退く」


「っ!」


 苦難を愛していても、応えられなくなってしまったから。


「次の王は、アルル。お前だ」


「なっ――何故ですかお父様! わたくしは、わたくしはっ! ベルガ様を排するために! 多くの人を、お父様までをも巻き込んだのですよ!? そんな、そんなわたくしがっ!!」


「全てを許そう。ベルガも良いな」


「御心のままに」


 狼狽えているのはアルル様だけ。

 カタリナも、メルも、納得したかのように小さく頷いて瞑目した。


「許されるわけがありませんっ! め、メルも! カタリナも! わたくしを凌ぎ遥かに優秀な王に相応しき妹たちです!! わ、わたくしは――」


「アルルちゃんが、良いと思う」


「そうね、メル姉。私もそう思うわ」


「どうしてっ!? わたくしが一番無様だった!! 変えられないと思い込んで! 自分で自分を振り回して! 醜くもがいて失敗して! そんなわたくしが王になどなれません! 国を潰すつもりですの!?」


 狼狽は錯乱に変わった。

 自分で言った通り、まさに今ももがき苦しんだままなのに、そんな自分を受け止められていることが理解できないんだろう。


「だからこそ、だ。苦難を愛せ、そしてお前の(つるぎ)で道を切り拓け。のぅ、ベルガよ」


「政治、軍事には役に立てませんし、そのつもりもありませんが」


「ふははっ! 良い、それこそ担い手の使い方次第というものだ!」


 まぁ、そうだな。

 剣にも魔法にもまったく適性を持たないアルル様だけど。


「わたくしは、わたくし、は……」


 俺を振るうには、相応しいほどに強くなる人なのかもしれないから。

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