ベルガ流死者蘇生
「こここっ、この人は、えと、人? て、てれし、あ? ――ひぅっ」
「わたしの名前を呼んでいいのはご主人様だけだ。殺されたいのか? 下等生物」
「はいはい落ち着け落ち着け。名乗っておいてそれはないぞ、テレシア。メル様、申し訳ありません」
「ごっ、ご主人様っ!? あ、頭をお上げ下さい! くっ! おいそこの下等生物、許してやるからお前も謝罪しろ、地に額を擦りつけ許しを乞え」
「え、え、え……えぇ?」
なんで逆に謝らせようとしてんだよ……。
あぁっ!? メル様もほんとにやろうとしないでいいですから! 俺は何者ですか!?
「テレシア。お座り」
「はいっ!」
しゅばびっとメル様に突きつけていた爪を引っ込め、隣に来てお座りするテレシアの頭を撫でる。
この変わり身の速さよ……昔からこうなんだよな、俺以外には厳しいと言うか排他的というか。
メル様はもう完全に困惑顔だ、本当に申し訳ない。
死者蘇生を説明するために仕方ないとは言え、やっぱりテレシアを誰かに会わせるのは大変だよ。
「え、えぇと?」
「改めて申し訳ありません。こいつは先の紹介通り、俺の愛剣であり愛犬のテレシアといいます」
「愛人が抜けておりますよ! ご主人様!」
「あ、あい、あいあい……はぅ」
確かに肉体言語で調伏したのは事実だけどさぁ! ややこしくなるからちょっと黙ってなさい!
メル様も顔を赤くしない! 王族でしょ! カタリナ様も似たような反応しそうなのが怖い!
「はぁ……ともあれテレシアといいます。そして言い換えましょう、こいつは私式の死者蘇生の結晶です」
「き、キミ流の、し、死者蘇生、魔法?」
「はい。聞いたことがあるかも知れませんが、私達は死ねば肉体は大地に還りますが精神は違う。精神の霊、つまりは精霊となって精神世界に還るのです」
「え、えと、クルーエルブックの一節、だよね? ほ、本当、だったんだ」
生者が知りようの無いことが記された本、クルーエルブック。
中には死者の書なんて呼ぶ人もいるし、大概が信じられないような内容ばかりだが、精霊と精神世界に関しては真実だった。
俺としても、実際テレシアを召喚できるようになったからこそ信じられたもんだから、メル様の気持ちもわかる。
「こいつは昔、俺の飼っていた犬です」
「わ、わんちゃん?」
「はいっ! ご主人様が生まれたと同時に生まれました! まさしく運命の人です!」
「はいはい、そうだね」
「はいっ!」
だからだろう、こうして実体化したら獣耳と尻尾が生えているのは。
ウルフカットとか言うのか、茶髪頭にちょこんと乗った獣耳と、同じ色で俺の隣にいる時は常時振られているふっさふさ尻尾。
よくよく思えば体型は胸以外メル様と似たような感じだな、胸以外は。
本人曰く、ご主人様の願いがーとか言ってたけど、別に巨乳が好きというわけじゃない。おっぱいに貴賤はないのだ。ほんとだよ?
「な、なな、何か変なこと、か、考えてる?」
「滅相もない。ともあれ、テレシアは俺のペットであり、俺が殺してしまった犬です」
「はいっ! わたしはご主人様に殺されました!」
「えぇっ!?」
調子に乗った魔法の練習による事故で、俺が真面目に訓練をし始めるきっかけになった事故。
混成魔法を初めて使った時の魔力暴走で、氷の槍を降らせてしまった。その時テレシアは俺を庇って死んだ。
「当然後悔しました、自分の未熟を呪いました。生き返らせたい、そう思いました。そうして死者蘇生の魔法を調べている内に辿り着いた結論が、精神世界からテレシアの精霊を喚ぶというもの」
すなわち、召喚。
精霊を降ろすためのマジックアイテムを創造し宿らせ、テレシアは記憶するモノになった。
「こうして実体化するのには魔力を消費しますが……そうですね、メル様の内包魔力量から考えれば、今でも三日は顕現を維持できるでしょう。この方法でよければ、伝授することを約束します。如何ですか?」
「あたしが、キミが認めるく、くらい、強く、なれば、だよね?」
「その通りです」
俺ではなく、じっとテレシアを見つめるメル様。
何を見ているのか、言うまでもなくテレシアのように自分の隣に再び母親が立っている光景だろう。
「あえて言いましょうか。この魔法は大したものではありません」
「たいした、ものじゃない?」
「やろうと思えば今すぐにでも出来る。それこそ、今のメル様であっても。ですが、召喚には契約が必要なのです」
「け、けいや、く……」
精霊を喚ぶために、何を差し出すか。あるいは、何を約束するか。
「テレシア。お前と結んだ契約は?」
「はいっ! いつかご主人様をわたしの手で殺すことです!」
「っ!?」
俺はテレシアを召喚するためにそう約束した。
俺が殺したのだから殺されても仕方ない。そういう思いもあるが、何より。
「私には超えたい人がいます、ですがもう直接超えられたかどうかを確かめる術はありません。だからテレシアを一つの基準としたのです」
「き、じゅん」
賢者になれた、その時は。
「来るべき日が来た時、俺はテレシアと全身全霊を持って戦い、超えられたかどうかを確かめたいのです。故に、そう契約を結びました。メル様? 私はあなたに死者蘇生の魔法をいつか教えるでしょう。そしてその時、あなたが最善の選択を手に取れるように、剣を通じて鍛えたいと思います」




