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シンシアの質問

 大いに盛り上がったパーティーもどうやら終わりが近付いてきたようだ。

 料理がなくなってきた。みんなも、何となくそろそろかなと思い始めていた。

 その時。


「シンシア。今日は、リリアに聞きたいことがあるんじゃないのか?」


 マークがシンシアに声を掛けた。


「私に? なになに?」


 リリアがニコニコとシンシアをのぞき込む。


 シンシアは、ちょっと緊張した。

 マークに連れられてやってきたパーティー。とても楽しかったけれど、マークの言う通り、これだけで終わらせる訳にはいかない。

 シンシアはリリアを見つめた後、視線を紙に落として、真剣に何かを書き始める。


 シンシアは、書き終えた紙をリリアに渡した。

 それを読んだリリアは「んー」と言いながら、頬に指先を当て、首を傾げて考えこんだ。

 みんなもその紙をのぞき込む。

 シンシアの質問は、こうだ。


 リリアは どうして 私に 会いに来てくれるの?


 この質問には、みんなも頷いた。

 ミナセの見解その他、いろいろ想像はしているけれど、リリアからちゃんと聞いたことはない。

 リリアが考える。


「うーん」


 リリアが悩む。


「うーーん」

「そんなに考え込むことか?」


 ヒューリが突っ込むが、リリアは腕組みをして唸っている。

 やがてリリアが、にっこり微笑んで言った。


「分かんない!」


「えっ?」

「なに?」

「はぁ?」

「!?」


 全員が同時に反応した。


 分かんないって何だ!?


 そんなみんなに答えるように、リリアが話し始める。


「最初はね、シンシアが助けを求めてるに違いないって感じたんだ。だから、私が何とかしなくちゃって、思ってた」


 余計なお世話だとは思ったんだけど、と、リリアがはにかむようにうつむく。


「でもね、途中からどうでもよくなっちゃった」


 リリアが顔を上げる。


「持っていったお菓子とかをシンシアが食べてくれると嬉しかったし、シンシアが時間を作って私の話を一生懸命聞いてくれるのも、凄く嬉しかったし」


 リリアの瞳が、シンシアを優しく見つめる。


「シンシアと一緒にいると楽しかった。だから私はシンシアに会いに行った。そんな感じかなぁ」


 リリアの答えは、シンシアの予想と違ったようだ。

 何だかちょっと曖昧だけど、でも、ちょっと嬉しい。変に理屈っぽい理由よりよっぽど嬉しい。


 一緒だと楽しい。

 だから会いに来てくれる。


 シンシアがうつむいた。

 うつむいて、嬉しそうな、恥ずかしそうな顔で微笑んだ。


 そんなシンシアに、リリアが逆に質問をする。


「シンシアは、私と一緒だと楽しい?」


 シンシアがリリアを見る。

 そしてやっぱりうつむいて、嬉しそうな、恥ずかしそうな顔で頷いた。


「ほんと? よかったぁ」


 リリアが笑う。

 リリアも嬉しそうだ。


 シンシアが、左手の人差し指を立ててリリアを見る。


「もう一つ、聞きたいことがあるってこと?」


 コク


 シンシアは頷き、またペンを動かす。さっきよりも真剣に文字を書き込んでいく。

 少し書くと、手が止まる。また書き出して、手が止まる。言葉を選んでいるようだ。


 やがて書き上がった質問を、リリアに見せた。

 みんなもその紙をのぞき込む。

 その質問は。


 私は また旅に出る そしたらリリアは どうする?


 シンシアは、リリアを見ない。質問だけをリリアに見せて、目を伏せる。


 部屋に沈黙が訪れた。

 楽しかった雰囲気が、緊張したものに変わっていく。


 出会いと別れ。

 誰もが経験する出来事。


 そう遠くないうちに、シンシアはここを去る。

 リリアは何て答える?


 室内が静まり返る。

 その静寂を破って、リリアが叫んだ。


「社長!」

「俺!?」


 マークがびっくりしている。


「お願いがあります!」


 リリアが、立ち上がってマークに向き直った。

 そして、大きな声で言った。


「シンシアを、うちの会社で雇ってください!」


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