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邂逅

 森の中にどよめきが広がる。


「今、何があった?」

「分かんねぇよ、そんなの!」


 山賊たちは、ゆっくりと自分たちに近付いてくる女を凝視している。

 あまりのことに、体が動かない。


 やばい!

 あいつはやばい!


 全員が恐怖を感じ、全身に冷たい汗を感じる中、一人の山賊が女に向かって歩き出す。


「久し振りの強敵だな」


 布で隠されて表情は窺えないが、その声は少し嬉しそうだ。


 覆面の山賊が、ゆっくりと女に近付いていく。女も変わらず歩き続ける。

 その距離が五メートルほどになったところで、二人は同時に歩みを止めた。


 しばらく二人はそのまま睨み合っていたが、ふと黒髪の女、ミナセが山賊に話し掛けた。


「なぜ顔を隠している?」

「!」


 突然の問いに、山賊が大きく目を開く。


「顔を隠していれば、何をしてもいいとでも思っているのか?」


 冷静な声が続く。


「それとも、自分の行いを恥じているのか?」


 山賊の目に動揺が走った。

 無意識だろうか、拳を開いたり閉じたりしている。


「いずれにしても」


 ミナセが、剣を山賊に向けて言った。


「お前は、道を踏み外している」

「!」


 山賊の拳が強く握られた。目に怒りのような感情が走る。

 次の瞬間、山賊は”両手で”剣を抜いた。


「双剣!?」


 後ろで見ていたシュルツが声を上げる。

 一本の鞘から二本の剣を抜いた。小振りの剣が一振りずつ両手に握られている。


「そんな話、聞いてないぞ!」


 驚くシュルツの前で、ミナセは静かに剣を構え直した。


 覆面の山賊がミナセを睨み付ける。その体が、わずかに沈み込んだ。

 直後。

 一陣の風のように、驚異的な速さで山賊がミナセに襲い掛かっていった。


「速い!」


 シュルツが驚愕の声を上げる。声を上げる以外、まったく反応できない。

 声が発せられた時には、すでに山賊はミナセの目前に迫っていた。


 一本の剣が、ミナセの顔面目がけて一直線に突き進む。

 わずかに動いてそれをかわしながら、ミナセは自分の剣を、下から斜め上に振り上げた。


 キィーン!


 山賊のもう一本の剣が、火花を散らしながら弾かれる。

 顔面への突きは陽動。本命は、死角から迫るもう一本の剣だ。

 ほぼ同時に行われた二つの攻撃を、ミナセは見事に防いでいた。


「さすがだ!」


 ミナセの防御にシュルツが感嘆の声を上げる。

 しかし、山賊の動きは止まらなかった。


 弾かれた勢いを利用するかのように体を回転させながら、恐るべき速さでミナセに体を寄せる。

 かわされた最初の剣が、予定通りとばかりにミナセのわき腹を狙っていた。

 剣を振り上げているミナセの脇はがら空きだ。


「まずい!」


 シュルツが叫ぶ。

 だが。

 体を寄せてくる山賊に対して、ミナセは前に出た。

 まるで最初から予定していたかのような、躊躇いのない動き。


「!」


 驚く山賊の真横を、ミナセが高速ですり抜ける。

 ミナセがいたはずの空間を、山賊の剣が虚しく斬る。


 真後ろに回り込まれた山賊が慌てて体制を整えようとするが、遅かった。

 ミナセの剣が、山賊の真後ろから振り下ろされる。

 至近距離、かつ死角からの振り下ろし。

 防ぎようのない決定的な一撃。


 それなのに。


 ガキィィーン!


 ミナセの剣は、交差した二本の剣によってがっちりと受け止められていた。

 今度はミナセが驚く。


 これを防ぐだと!?


 ミナセが剣を引いたその隙に、山賊がミナセの近くから飛び退いた。

 そして、再び二人が対峙する。


 瞬時に行われた高度な攻防に、シュルツは唸るしかなかった。


「こいつら、化けもんか?」


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