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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第二章 栗色の髪の少女
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大事な話

 自由になりたいと叫び、俺に任せろとマークに言われたリリアだったが、正直に言えば、事態が飲み込めていた訳ではなかった。

 だが、ミナセにもらったポーションのおかげで体の痛みがなくなり、ずぶ濡れだった髪を拭いてもらうと、気持ちもだいぶ落ち着いた。


「後は社長に任せて、お店に戻りなさい」


 微笑むミナセに言われたリリアは、二人にお礼を言って、そのまま店に戻った。

 ちょうど雨も止んだので、店の裏口に転がったままの買い物かごを持って急いで買い出しも済ませ、魔法で顔だけは治療をして、いつも通り接客もした。

 あの雨の出来事の実感がないまま、その日は過ぎていった。


 次の日。


 リリアの朝の日課は、お店側ではなく、住宅部分の掃除や洗濯をすることだった。

 いつも通り裏手の井戸で洗濯をしていると、そこに突然ミナセがやってくる。


「ミナセさん!?」


 急な来訪にリリアが驚いていると、辺りを見回しながら、ミナセがそっと近寄ってきた。


「悪いな、急に。傷はまだ痛むか?」

「いえ、大丈夫です」

「そう? よかった」


 ミナセが安心したように笑う。

 そして、リリアに顔を近付けて小声で話し出した。


「今日、リリアが買い出しに行っている間に、社長がこの店に来る。細かい話は今はできないけど、リリアは、社長が店から出てくるまで外で待っていてほしいんだ」


 なぜ? と聞きたいところだったが、リリアは素直に頷いた。


「分かりました。じゃあ買い出しが終わったら、店の出口が見える辺りにいて、社長さんが出てきたら店に戻るようにします」

「うん、それでいい。悪いな」


 そう言うと、ミナセは軽く手を挙げて立ち去っていく。


「じゃあまた」

「はい、また」


 リリアは、やっぱり事態の飲み込めないまま洗濯を再開した。

 そしてその後、ミナセの言葉通りに、マークが尾長鶏亭を訪問した。



 チリンチリン


 ドアの鈴が鳴る。

 内窓を拭いていた女将がそれに気付いて、ろくにそちらを見ずに、愛想のない声で言った。


「悪いね、まだ準備ができてないんだ。お昼くらいにまた来ておくれ」


 すると、入ってきた男が愛想のいい声で返事をした。


「すみません、お客じゃないんです。ご主人と女将さんに、大事なお話があって来ました」


 その言葉で、女将は初めてまともに男を見る。


 はて、どこかで見たような?


 ここしばらく店のホールに出ていない女将は、昔からの常連以外の顔はほとんど分からない。


「大事な話?」


 女将が聞き返すと、男はポケットから小さな何かを取り出して、近くのテーブルに放り投げる。


「はい、大事なお話です」


 黄金色に輝くそれを見て、女将が思わず声を上げた。


「金貨!?」


 この世界に流通している貨幣は、紙幣ではなく硬貨だ。硬貨には、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨の四種類がある。

 庶民の間で使われるのは銅貨や鉄貨ばかりで、銀貨は高額な商品の売買でしか見られない。ましてや金貨など、貴族や大商人しか扱わない、庶民には縁のない代物だ。


 それが一枚、無造作に転がっている。

 女将はごくりと唾を飲み込み、そして、男に愛想笑いを浮かべた。


「お話ってのは、何でしょう?」


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