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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第二章 栗色の髪の少女
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自由

「お願い……助けて……」


 泣きながら救いを求めるリリアを、ミナセは抱き締め続けていた。


 どれくらいそうしていたのだろうか。

 ふと、何かで雨が遮られる。

 ミナセの背中、リリアの正面から傘を差し出す人物に、リリアがわずかに反応した。


「社長さん?」


 その声に、ミナセも振り返る。


「社長……」


 マークが、静かにリリアを見つめていた。

 リリアが、焦点の合わない目でマークを見つめ返していた。

 その目に光はない。

 マークを認識してはいるが、それ以上には何も感じていない目だ。


 そのリリアの頬に、マークが優しく手を添えた。

 驚いたように、リリアがピクッと震えた。


 大きな手のひらが、冷たい頬を暖めていく。

 その手が、そっとリリアの頬を離れ、顔の正面に向かっていく。

 そして、突然、リリアの鼻をつまみ上げた。


「ふぎゅぅ!」


 今度こそ本当に驚いたリリアが、顔をしかめながら可愛い声を上げた。


「ちょっと社長! 何してるんですか!」


 同じく驚いているミナセを横目に、鼻から手を放して、マークが言った。


「リリア。今から一つ質問をする。気合いを入れて答えなさい」


 いつもの優しい顔とは違う、真剣な表情。

 驚きで完全に現実に引き戻されたリリアは、その顔を見て、よく分からないながらも姿勢を正す。

 そんなリリアに向かって、マークが聞いた。


「リリア。自由になりたいか?」

「自由……?」


 リリアは、理解ができないままその言葉を繰り返す。


「そう、自由だ。伯父さんたちや借金から解放されて、自由に生きる。自分の意志で働き、自分の力で未来を切り開いていく。そんな人生を送ってみたいと思うか?」


 リリアは、マークの言葉の半分も理解できなかった。

 急にそんなことを言われても、よく分からない。


 ただ。


 伯父さんたちや借金からの解放。

 それは、リリアが求めてやまないものだった。


 大好きだった両親を辱めないために、借金を返すと決めた。

 でも、本当はそんなものに縛られないで生きていきたかった。


 ほかに行くところがないから、ひどい目に遭っても我慢してきた。

 でも、本当は心安らぐ場所で暮らしていきたかった。


 心から人のことを好きになりたい。

 心から笑っていたい。


 自分の人生を、自由に生きていきたい。


「私は」


 リリアが顔を上げる。


「解放されたいです」


 リリアの瞳に生気が戻る。


「笑いながら暮らしていきたいです」


 リリアの声に力が戻ってくる。


「私は、自由になりたい」


 リリアは繰り返す。


「私は、自由になりたいです!」


 リリアが叫んだ。

 マークを真正面から見つめて、切実に叫んだ。


 何年もの間、無理して、我慢して、押さえ込んできた気持ち。

 誰にも言えなかった本当の気持ち。


 大きな声で、リリアは叫んだ。


「私は、自由になりたい!」


 マークがリリアをじっと見つめる。

 黙って強く見つめ続ける。


 そして、大きな声で言った。


「よし、分かった!」


 続けてリリアの肩をポンと叩いて、にっこりと笑う。


「俺に任せろ」


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