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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第二章 栗色の髪の少女
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どうしても

 ミナセは、集金代行の仕事で町を歩いていた。依頼主は、最近よく仕事を回してくれるようになった衣料品問屋だ。

 継続して依頼がくるということは、それだけ信頼されているということだ。だからと言って、油断はできない。


「信頼を得るには時間が掛かりますが、信頼を失うのはあっという間です」


 マークもよく言っている。そもそもミナセは、別の問屋の集金代行で苦い経験をしているのだ。


「同じ失敗はできない」


 ミナセは、気合いを入れて集金を続けていった。


 支払いを渋る相手に、粘り勝ちでお金をもぎ取ったミナセが、次の集金先を目指して尾長鶏亭の近くまで来た時。

 小さな宝飾店の店先に張り付いている一人の少女を見付けた。


「リリア?」


 栗色の髪に、いつも着ているアプリコットのワンピース。

 間違いなくリリアだ。


 リリアは、大きな買い物かごを脇に置いて、ショーウィンドウの中をじっと見つめている。

 ミナセは、驚かさないようにそっと近付いて、リリアの後ろからその視線を辿った。

 その先にあるのは、ペンダント。細めのゴールドチェーンの先で、小振りのイエローサファイアが輝いている。リリアに似合いそうな、とても可愛らしいペンダントだ。


「ペンダント?」


 思わずつぶやいたミナセの声に、びっくりしてリリアが振り向いた。


「ミナセさん!?」


 リリアが目を丸くして驚く。


「ごめん、驚かせてしまって」


 ミナセが申し訳なさそうに謝った。

 そして、ストレートに尋ねる。


「そのペンダントが気になるのか?」

「えっと、まあ、そうですね、はい」


 少し恥ずかしそうに、リリアが答えた。

 値札には、四万リューズとある。非常に高価という訳ではないが、リリアくらいの少女がとても払える金額ではない。

 今のミナセでも、分割でならどうにかという金額だ。


「結構いい値段だな」


 ミナセが思ったままを言う。


「そうなんです」


 リリアも頷いた。


「でも」


 リリアが、ペンダントを見つめる。


「もう少しで、お金貯まりそうなんです」


 嬉しそうにリリアが笑った。

 意外な言葉にミナセは驚き、素直に感心する。


「へえ、凄いな。小遣いでも貯めたのか?」

「いいえ。私、お小遣いはもらってません」


 じゃあどうやって? と聞くと、リリアが説明した。


「お客さんからもらったチップとか、買い出しの時におまけしてもらった分とかを貯めたんです。あと、常連さんから内職の仕事をもらって、空いてる時間にこっそりやったりとか。ちょっとずつ、ちょっとずつ、四年くらい」

「四年も!?」


 ミナセが、先ほどのリリアと同じくらい目を丸くする。

 チップやおまけなど、大した金額ではないだろう。

 内職の仕事をどれだけやったのかは分からないが、リリアの話を聞く限り、空いている時間などほとんどないはずだ。

 わずかな休憩時間を使うか、あとは睡眠時間を削るくらいしか……。


「私、お店に出てるから、最低限のお洋服や靴は買ってもらえるんです。だから、お金を使うことってないんですよ」


 リリアは相変わらずニコニコと笑っているが、ミナセは笑うことができなかった。

 このペンダントを手に入れるために、どれだけの我慢と苦労を重ねてきたのだろう。


 いったいなぜ?


「そんなにこのペンダントが欲しいのか?」


 ミナセは聞かずにいられなかった。


「はい、欲しいです」


 リリアが即答する。


「どうしてこのペンダントなんだ?」

「それは……気に入っちゃったからです。私、どうしてもこれが欲しいんです」


 リリアの言葉には、力がこもっていた。


「どうしても?」

「はい、どうしてもです!」


 迷いのない、まっすぐな目でリリアが答える。

 ミナセは、それ以上何も聞くことができなかった。


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