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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第二章 栗色の髪の少女
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理由

「何やってんだい!」


 今日も女将のヒステリックな声が響く。

 リリアは耐える。叩かれ、罵られ、それでも耐える。

 そんな光景を冷めた目で見ていた主人が、珍しく割って入った。


「その辺にしとけ。早く買い出しに行かせないと、仕込みが間に合わねぇ」


 その言葉に「ちっ!」と舌打ちをして、女将はリリアを解放した。


「さっさと行っといで!」


 リリアは、小さく「行ってきます」と言いながら、かごを持って買い出しに向かった。

 その背中を見ながら、主人がぼそっと言う。


「お前、適当に手は抜けよ。いくらあの子が治癒魔法を使えるからって、やり過ぎたら死んじまうぞ」


 女将が、吐き捨てるように答えた。


「あたしゃね、あの子が大嫌いなんだよ! まったく、近頃ますます母親に似てきやがって」


 収まらない怒りをぶつけるように、持っていた雑巾をテーブルに叩き付けると、女将は店の奥に消えていった。



 女将とリリアの母親は、幼なじみだった。家同士の付き合いもあったため、二人でよく遊んだ記憶がある。

 だが、大きくなるにつれ、女将はリリアの母親と距離を置くようになっていった。


 リリアの母親は、とても美しい人だった。

 だが、それ以上にとても優しい人だった。

 困っている人には積極的に声を掛けた。ケガをした人を助けたいからと、教会に通って治癒魔法を学んだりもした。


 当然近所でも評判の娘で、小さい頃の女将は、よく母親から「あんたも少しはあの子を見習いなさい」と叱られたものだ。


 見た目では勝てない。引っ込み思案の自分には、困っている人に声を掛けることもできない。

 女将は、彼女を見る度、比較される度に、彼女のことを嫌うようになっていった。


 そんな二人に決定的な溝を作ったのが、リリアの父親の存在だった。

 二人は、リリアの父親のことを同時に好きになってしまった。


 引っ込み思案の女将は、リリアの父親とまともに話をすることもできない。反対に、リリアの母親は次第にその距離を縮めていく。

 そしてついに、二人は結婚した。


 失意に沈む女将がその頃出会ったのが、今の夫、リリアの父親の兄である。

 その兄は、リリアの母親に恋心を抱いていたが、弟に先を越されてしまい、やはり失意に沈んでいたところだった。

 二人は何となく付き合い始め、何となく、結婚した。


 リリアの両親が亡くなった時、誰も引き取り手がいなかったリリアを、夫婦は引き取ることにした。

 家と土地、そしてそれなりの貯金。

 正直に言えば、遺産目当てだった。


 それでも、子供がいなかった夫婦は、最初のうちリリアを可愛がった。


 主人は、リリアに母親の面影を見て淡い恋心を思い出す。

 リリアに好みの服を着せて、満足そうに眺めたりもした。


 女将は、そんな主人の想いを知りながらもリリアの面倒をみた。

 リリアを助け、育てることで、リリアの母親を越えられるんじゃないか。

 リリアの母親が得られなかった幸せを、自分が手に入れられるんじゃないか。


 二人はリリアに、漠然とした”何か”を求めて家に迎え入れたのだった。


 だが、夫婦は徐々にリリアを疎ましく思うようになっていく。


 リリアは美しかった。

 リリアは賢かった。

 そしてリリアは、優しかった。


 主人は、そんなリリアを見て、想い人を取られた悔しさを思い出す。

 女将は、そんなリリアを見て、リリアの母親に抱いていた劣等感を呼び覚ます。


 リリアが成長するにつれて二人はリリアにきつく当たり始め、そしてそれは、徐々にエスカレートしていったのだった。


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