表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第八章 怖いもの知らず
173/419

ファルサ

 魔石を拾い、短い休憩を取った後、パーティーは再び前進を始めた。

 進むに連れて、森の様子が少しずつ変わっていく。木々の間隔が広くなり、先が見通せるようになってきた。地面に生える草もせいぜい膝丈くらいで、歩くのに支障はない。

 辺りに目を配りながら、マギがマシューに声を掛けた。


「ねぇマシュー」

「なんだ?」

「あの魔物たち、なんか不自然だと思わない?」

「不自然?」

「生息地を無視してるっていうのもそうだけど、奴らのアジトのすぐ近くにあんな魔物がいたら、奴らだって危険だよね?」


 マシューも、それは考えていた。

 アウァールスのアジトはもう目の前のはずだ。その近くに強力な魔物がいる。アジトができた後に魔物が住み着いたのか、魔物の近くにアジトを作ったのか。


「エイダ、反応は?」

「ない」


 マギの問いには答えずに、エイダに確認をしてからマシューが言った。


「とにかく、慎重に進もう」


 後ろを振り返って、ミアたちに声を掛ける。


「この先何があるか分からない。何か見付けたらすぐに……」

「くっ!」


 突然、マシューの隣でマギが呻いた。


「どうした!?」


 マギは、顔を歪めながら足を押さえている。


「ごめん、油断した」


 そのふくらはぎには、鋭く加工された木の枝が刺さっていた。


「トラップ!」


 ガロンが鋭く叫ぶ。

 次の瞬間。


 キィン!


 マシューが、飛来した矢を剣で弾いた。


「反応は!」

「ない!」


 エイダの声がうわずっている。

 全員が慌てて戦闘態勢に入った。



 マギが気付かないほどの巧妙なトラップ。

 エイダの索敵に引っ掛からない敵。


 まずいな


 マシューが、周囲を警戒しながら考える。

 矢は前方から、屈んでいたマギの頭を正確に狙って飛んできた。それほど離れていない場所に、強力な隠密魔法の使い手がいる。


 ファルサってやつか?


 マシューは、ギルドで聞いた話を思い出していた。


 

 ランクAのもと冒険者。

 性別は男。

 名前はファルサ。


 ギルドからの情報はそれだけだった。


「そいつの職業は何なんだ?」

「それが、はっきりしないんです」


 マシューの問いに、職員が申し訳なさそうに答える。

 職員の説明によると、ファルサの登録上の職業は、剣士となっているらしい。しかし、パーティーを組んだことのある冒険者の話では、長剣よりもリーチの短い武器を得意としていたようだ。

 だが、そもそもファルサは、あまりパーティーを組むことがなかった。にも関わらず、次々と高度な依頼をこなしていき、ついにはランクAにまで登り詰めている。


 そんなファルサを、冒険者たちは気味悪がった。


 滅多に組まないパーティーを組んでダンジョンに潜り、ファルサだけが秘宝を持って帰ってきた。

 盗賊討伐に失敗して全滅したパーティーの所持品を、なぜかファルサが持っていた。

 追求されて、ファルサが答える。


「強力な魔物に遭遇して、命からがら逃げてきた」

「闇市で売られていたものを偶然買った」


 疑われながら、それでも困難な依頼を達成していく。


 限りなく黒に近い、灰色の男。

 決定的な証拠はないが、明らかに怪しいファルサを、ギルドはついに除名した。

 そして、ファルサは行方不明となった。


「依頼主からの情報と、我々が知っているファルサの特徴が一致していますので、彼がアウァールスにいることは間違いないと思います」


 マシューは、その後もファルサについて質問を重ねたが、結局大した情報は得られなかった。


 謎だらけのランクA。

 マシューも警戒はしていた。しかし今回は……。


 安易に近付き過ぎたか?


 ランクA二人を擁するパーティー。

 実力も経験も十分の、地元ウロルでは有名なパーティー。


 奢っていたつもりはないが、エイダの索敵に頼っていたのも事実。

 それが役に立たないというだけで、メンバー全員が動揺している。


 前方に注意を払い、どうすべきかを考えながらふと隣のマギを見ると、その額には脂汗が浮いていた。


「マギ!」

「たぶん、毒ね」


 荒い息の中、抜いた枝を忌々しげに睨みながらマギが言った。

 それを聞いて、ミアがすぐに魔法を掛ける。


「キュアポイズン!」


 マギの体に魔力が流れ込み、そして、その表情が和らいだ。


「ありがと」


 マギが礼を言う。


「待っててください。今ヒールも……」


 キィン!


 再びマシューが矢を弾く。今度の矢は、ミアを狙っていた。

 驚くミアの前に、シーズが立つ。


「ミア、マギにヒールを。ミアが魔法を掛け終わったら後退だ。一旦出直す」

「了解」


 相手はおそらく少人数。もしかすると一人。強引に突破はできるかもしれない。

 だが、今のメンバーの心理状態では危険だとマシューは判断した。


「ガロン、シーズ、前を行け。エイダとミアはその後ろ。俺とマギはしんがりで矢を防ぐ」


 マシューの指示に従って、それぞれが動き出す。

 しかしパーティーは、残念ながら、そこから一歩も後退することができなかった。


「反応! 後ろと左にそれぞれ二十前後!」


 エイダの声に、全員が動きを止めた。


「近付いてくる!」


 何かが来るのはみんなも感じていた。だが、その姿は木々に隠れて見えない。


「これは……たぶん人間!」

「人か!」


 強力な魔物でないのなら何とかなる。多少強い相手だろうと、人間ならうちの敵じゃない。


「突破するぞ!」


 マシューが号令を掛けた瞬間。


 ヒュンヒュンヒュン!


 大量の風切り音が二方向から聞こえてきた。


「みんな集まって!」


 エイダの声でメンバーが身を寄せ合った直後、エイダが魔法を発動した。


「シールド!」


 周囲に魔力の壁ができる。

 その壁に防がれて、飛来した矢はボトボトと地面に落ちていった。


「助かったぜ!」


 ガロンが礼を言った。

 しかし、状況はよくない。

 後ろと左から男たちが姿を見せた。矢が弾かれたのを見て射掛けるのはやめたようだが、いつでも矢を放てるように、全員が弓を構えている。


 剣で斬り掛かって来てくれたのなら何とかなっただろう。だが、離れたところから、しかも二方向から矢で狙われるのは対処が難しい。

 前方には、索敵に引っ掛からない面倒な敵がいる。

 ならず者の集団を相手にするつもりだったのに、まるで軍隊を敵に回したかのようだった。これほど統制された攻撃は、完全に想定外だ。

 さらに。


「あの矢にも、毒が塗ってあるってことか?」


 呻くようなガロンの声が、みんなの気持ちを代弁している。

 全員がこの状況に浮き足立っていた。


 エイダが張れるシールドの範囲は狭い。身を寄せ合っているこの状態を守るのが精一杯だ。このままでは後退ができない。

 そして、シールドでは攻撃魔法を防げない。物理攻撃と魔法攻撃の双方を防げるのは、上位魔法のマジックシールドのみだ。

 すでに、弓を置いて詠唱を始めている敵が二人ほどいる。

 マシューは決断した。


「エイダ。ファイヤーボール、威力を落とせば両手でも撃てたよな」

「問題ない」

「よし。シールド解除と同時に、ファイヤーボールを左と後ろにぶちかませ。混乱に乗じて、全員で右側に走る。隠密野郎の矢は俺が防ぐから、みんなはとにかく全力で走るんだ」

「分かった」


 全員が呼吸を整える。ミアも大きく深呼吸をした。


「エイダ!」

「ファイヤーボール!」


 エイダの両手から火球が放たれた。

 不意を突かれて、男たちが慌てているのが見える。


 ドガーン!


 着弾とともに、数人の男が吹き飛んだ。

 両手で同時に撃つために魔力を抑えてはいるが、エイダはランクAの魔術師。しかも、使い慣れているファイヤーボール。その威力は並の魔術師以上だ。

 続けて。


 ドガーン!


 男たちがなぎ倒される。完全に体制が崩れた。


「今だ!」


 マシューの声で、全員が一斉に駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ