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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第六章 ブロンドの問題児
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探していたもの

 突然駆け出したミアを、社員たちが目で追う。


「トイレか?」


 みんなが不思議に思う中、ミアの向かったのは……。


「院長先生!」


 ミアは、食堂の片隅に立っていた院長のもとに駆け寄っていった。


「何ですか?」


 さすがの院長も驚いている。

 ミアは、院長の前に立ち、少し前のめりになりながら話し始めた。


「あの……私、本当に迷惑を掛けてばっかりで、十六になってもまだここにお世話になってて、それで、あの……」


 思いばかりが先走って、きちんとした言葉になっていない。

 それでも、ミアは言わなきゃダメだと思った。


 あの作戦を終えてからずっと考えていたこと。

 私が決めたこと。

 それを、今ここで言わなきゃダメだと思った。


「私、エム商会の面接に受かっても落ちても、ここを出ます! ここを出て、一人前の人間になれるように頑張ります! だから、その……ありがとうございました!」


 ミアが思い切り頭を下げた。十六年間の思いのすべてをその一礼に込めた。

 ブロンドの髪がサラサラと揺れる。子供たちまでもが、声を上げることなくその姿を見つめている。


 ごく短い、しかしとても静かな時間が流れた。


「ミア」

「はい!」


 返事と同時に顔を上げたミアは、そこで目を大きく開いて、固まった。


「あなたが今までここにいられたのは、例外中の例外です。今後も、あなたのような事例を簡単に認める訳にはいきません」


 院長が、相変わらず堅苦しいことを言っている。

 だが、ミアの頭にはその言葉があまり入ってこなかった。


「ただ」


 院長の声が、和らいだ。


「この教会を救ってくれたのは、あなたです。あなたには心から感謝しています」


 そう言うと、院長は、ミアの頬にそっと手を触れた。


「あなたは、本当にいい子ですね」


 院長は、笑っていた。

 初めて見る院長の笑顔。


 ずっと苦手だった。

 話し掛けるだけで、いっつも緊張した。

 だけど。


 その笑顔は、びっくりするくらい優しくて、びっくりするくらい素敵だった。


「院長先生……」


 院長の手が暖かい。

 ミアが、その手に自分の手を重ねる。


 嬉しかった。

 何だか分からないけど嬉しかった。


 ミアの頬を涙が伝う。

 院長が、それを指で拭ってミアに言った。


「さあ、社長さんが待っていますよ。いってらっしゃい」

「はい!」


 ミアが笑う。

 残りの涙をゴシゴシと袖で拭って笑った。


 その場で深呼吸したミアが、クルリと向きを変えて歩き出す。背筋をピンと伸ばし、腕を振って力強く歩く。

 そしてミアは、マークの前までやってきた。


 マークがミアを見つめる。

 ミアもマークを見つめる。


「準備はいいですか?」

「大丈夫です」


 その場にいる全員が固唾を飲んで見守っている。

 ピリピリした緊張感が会場を包んだ。


「では、面接を始めます」

「よろしくお願いします!」


 大きく返事をして、ミアが表情を引き締める。

 ミアの喉が、ゴクリと鳴った。


「質問です。あなたは、うちの会社に入りたいですか?」

「はい、入りたいです!」

「どうしても?」

「はい! 絶対絶対入りたいです!」


 マークがミアを見つめる。

 ミアもマークを見つめる。


 やがて。


「いいでしょう。合格です」


 ……………………えっ?


 そこにいる全員が、口をポカンと開けた。


「……あの、もう一度、おっしゃっていただけますか?」

「いいですよ。ミア、あなたは合格しました」

「……もう一度……」

「合格です」

「えへ、えへへへ」


 ミアが、壊れた。


「社長、もう一回」

「ミア、あなたは合格です」

「えへへへ、うふふ……。もう一回お願いします」

「ミアは合格!」

「合格ですか?」

「そう。合格だ」

「合格……合格……。えへ、えへへへ」


 謎のやり取りを眺めながら、社員たちが話している。


「あれは、漫才か何かなのか?」

「何言ってるんですか! 私、感動しました!」

「マジで!?」

「私も、感動した」

「お前もか!」

「うふふ。うちの会社らしくていいじゃない」

「らしいって、どういう……」

「ま、これが社長なのさ」



「ヤッター! ばんざーい!」


 ようやくまともな反応を示し出したミアに、ミナセが声を掛ける。


「ミア、良かったな。これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします! 社長、ありがとうございました!」」


 周囲にも、やっと合格の実感が湧いてきたようだ。


「ミア、おめでとう」

「ミア姉ちゃん、おめでとう!」


 ミアのもとに次々と人がやってくる。

 その中の一人、フローラが、嬉しそうにミアに言った。


「探していた答え、見付かったみたいね」


 十五才を過ぎても孤児院に居座り続けた。

 何かを探し、答えを探して悶々としていた。

 そんなミアを、フローラは、じれったい思いでずっと見てきた。


 だけど、やっと……


 ミアの手を握り涙ぐむフローラに、だが、ミアは予想外のことを言った。


「えっ? 答えなんて見付かってないよ」

「そうなの?」


 フローラが驚く。


「だって、念願のエム商会に入れたじゃない」


 訳が分からないという顔のフローラに背を向けて、ミアは、マークと五人の社員たちを順番に見る。

 そして、爽やかに答えた。


「私が見付けたのは、答えの探し方。答えはね、行動しないと見付からないってことが分かったの。私、何でも屋さんになって何でもやる。いろんなことをやりながら、答えを探していくわ。一生答えなんて見付からないかもしれないけど、それでもいい」


 振り返って、ミアが再びフローラを見た。

 そして、屈託のない笑顔で言った。


「だって、答えを探してる時の方が楽しそうなんだもん!」


 ミアの答えにフローラは呆れている。

 ヒューリとフェリシアは面白がっている。

 リリアとシンシアはニコニコしている。

 ミナセは穏やかに微笑んでいる。

 そしてマークは、とても優しい眼差しでミアを見つめていた。



 エム商会六人目の社員、ブロンドのミア。

 大きな試練を乗り越えて、入社。


 第六章、完結です。

 ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。

 この章のメインキャラクターのミアは、能力や環境は別として、どこにでもいそうな普通の女の子にしたいという思いがありました。その女の子が、事件をきっかけに決意をし、冒険を通じて成長して、最後にハッピーになる、というストーリーを目指しましましたが、果たして読者の皆様には楽しんでいただけましたでしょうか?

 これで、「入社編」とも言える部分が終わりました。次章からは、入社した社員たちが活躍(苦労?)していきます。

 今後とも本作品を、よろしくお願いいたします。

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