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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第六章 ブロンドの問題児
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院長の依頼

 ミアとフローラが食堂で話をした翌日。

 教会の院長室に、マークがいた。


「お忙しいのに、お呼び立てして申し訳ありません」


 年配のシスター、院長が、軽く頭を下げる。


 この教会は、古くから女性のみによって運営されてきた。男性牧師しか認めない宗派も多い中で、珍しい存在と言える。

 代表者は院長と呼ばれ、教会組織のすべてを取り仕切っている。現在の院長は、三年前に今の地位についた。

 いつもニコニコと笑っていた前院長とは違い、まじめな、言ってみれば少しとっつきにくい印象もある。

 そんな院長に、マークが笑って答えた。


「いえいえ、いつもうちの社員がお世話になっていますから」


 ヒューリとフェリシア、そしてほかの誰かしらが毎週教会にやってきている。

 ボランティアとして働いた後は、教会の畑で採れた新鮮な野菜や産み立ての卵をたくさん貰って帰ってきていた。

 最近、事務所の台所で開かれている料理教室の参加者”四人”は、食材の充実を喜んでいる。


「ところで、ご相談というのは何でしょうか?」


 マークに促された院長が、眉間に刻まれた皺をさらに深くして、うつむく。

 そして、意を決したように顔を上げた。


「じつは、困っていることがあるのです」


 この教会では、お金を得る手段の一つとして、様々な薬草を使った薬作りが行われていた。

 薬を一般市民に販売するには許可が必要で、その許可を教会が取ることは政治的事情により難しいため、作られた薬は町の薬屋に卸されている。

 特にその中でも、”ロロの実”を使った薬は、非常に需要が高かった。

 魔力を宿すロロの実は、薬に加工してもその魔力を維持し続けるため、ちょっとした医療魔法と同じ効能がある。だが、ロロの実は扱いが非常に難しく、それを薬にできる者は少ない。教会は、昔から伝わる技術を使って薬を作り、それを比較的安価で提供していた。

 教会にとって薬は貴重な収入源だったが、一方で、薬屋にとっても、ロロの実の薬などを安定的に供給してくれる教会は貴重な仕入先だったのだ。


 ところが、最近ロロの実の入手が非常に難しくなってしまった。


 魔力を持つ薬草のすべてがそうであるように、ロロの実も、特定の場所でしか実を結ばない。

 ロロの実が採れるのは、アルミナの南、エルドアとの国境付近の山の麓だ。漆黒の獣が魔物討伐を行った地域に近い。

 そこに、強力な魔物が現れるようになったのだ。


 以前から魔物の出現はあったので、教会は、冒険者ギルドを通じて護衛を頼み、ロロの実の扱いに慣れたシスターと同行してもらって採取を行っていた。

 出現するのは下級の魔物ばかりだったため、Cランクの冒険者が一人いれば、あとはDランク中心のパーティーでも十分対応できた。従って報酬も安く済み、教会の負担も少なかったのだ。

 それが、新たに現れた魔物のせいで護衛が頼めなくなってしまった。


 ギルドが言うには、その魔物に対応できる冒険者となると、かなり高額な報酬が必要になるらしい。

 提示された金額は、一度ならともかく、定期的に頼むには厳しい金額だった。結果、貴重な収入源がなくなり、教会は今資金難に陥っている。


「その魔物は、ワイバーンというらしいのです」


 院長が、ギルドから聞いた魔物の名前を言う。


「ワイバーンですか」


 その名前を聞いて、マークは黙り込んだ。


 ワイバーン。

 二足の飛竜だ。


 ドラゴンよりはずっと小型で、ブレスによる攻撃もない。

 しかしその動きは機敏で、鋭い牙と爪、そして尾の先のトゲを使って、上空から獲物を襲う。

 しかも、ワイバーンは群でいることが多い。

 ランクBの冒険者でも、あまり積極的に戦いたくはない魔物として知られていた。


 マークも魔物に詳しくなかったが、フェリシアから、以前戦った時には死を覚悟したという話を聞いたことがある。

 腕を組んで考え込むマークに、院長が申し訳なさそうに言った。


「うちの教会では、ギルドに言われた報酬を毎回払う余裕はないのです。そこで、本当に勝手ながら、マークさんのところに護衛をお願いできないかと思って来ていただいたのですが」


 院長にも、無理なお願いをしている自覚はある。ただ、町の噂で、エム商会の社員がとんでもなく強いという話を聞いたのだ。

 来る度に、イヤな顔一つせずいろいろな手伝いをしてくれるマークと社員を見ていて、もしかしたらと、すがる思いで話をしている。


 じっと考えていたマークが、顔を上げて院長に聞いた。


「つかぬことを伺いますが、ミアさんは、ロロの実を扱うことができますか?」


 突然出てきたミアの名に院長は戸惑ったが、それでもきちんと答えた。


「はい。ミアはシスターではありませんが、ロロの実の採取にはよく行っています」


 治癒魔法が使えるミアは、ここ数年パーティーに同行することが多かった。シスターたちの手伝いをするうちに、いつの間にか、実の採取から加工までの十分な知識と技術を身に付けてしまっている。

 院長の答えを聞いたマークが、やや間を開けて、院長に言った。


「今回のお話、お引き受けいたします。報酬は、従来の護衛に支払っていた金額で結構です。ただし」


 続くマークの言葉に、今度は院長が考え込んだ。

 やがて院長は、しっかりとした声で答えた。


「それで結構です。ぜひお願いします」


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