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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第六章 ブロンドの問題児
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ごめんなさい!

「おら、どけよ!」


 列の後方から、怒鳴り声が聞こえてきた。


「俺たちが優先だぜ!」

「ちょっと! みんな並んでんだよ!」

「何だと、このクソババア!」


 見れば、体格のいい、そして柄の悪い二人の男が、列を無視して前に進もうとしていた。


「日曜日にまで……もうイヤ!」


 フローラが小さくつぶやく。

 それをさりげなく耳に捉えながら、ミナセは男たちを観察していた。


 武器は持っていない。

 それほど強くもない。


 あの程度なら……


 ミナセはそこから動かない。同じくヒューリも動かない。二人が動かないから、シンシアもフェリシアも動けない。

 冷静な二人と落ち着かない二人の視線の先、怒鳴りながら向かってくる男たちの前に、一人の少女が立ちふさがった。


「皆さんきちんと並んでいるんです。並べないならお引き取りください!」


 毅然とした言葉に男たちが怯む。

 栗色の髪の少女、リリアが、男たちを睨み付けていた。


 可愛らしい少女の気迫のこもった表情には、なかなか迫力がある。男たちは、何も言えずにリリアを見つめていた。

 だが。


「お嬢ちゃん、俺たち腹減ってんだよ。こんな奴らより先に、俺たちにご馳走してくれない?」

「何なら、お嬢ちゃんが食べさせてくれてもいいよぉ」


 男たちが、ニヤニヤしながら話し始めた。

 たかが小娘。よく見れば、手が小さく震えている。その気迫に一瞬押されはしたが、所詮腕力では圧倒的だ。

 男たちは、余裕をもってリリアをからかい始めた。


「お断りします! お願いですから、もう帰ってください!」


 リリアは、必死になって男たちを追い返そうとしている。

 その姿が、かえって男たちの嗜虐心を刺激したようだ。


「可愛いなぁ、お嬢ちゃん。俺、君が食べたくなっちゃったよ」


 男の一人が、右手を伸ばしてリリアの髪に触ろうとした。


「いやっ!」


 リリアが鋭く叫ぶ。

 その瞬間。


 チーン


 そんな音が、聞こえたような……。


 見ると、リリアの右足が、見事なまでに男の股間を蹴り上げていた。


「あっ、ごめんなさい!」


 蹴ったリリアが驚いている。


 男は、目玉が飛び出るんじゃないかと思うほど大きく目を見開き、股間を押さえながらその場にうずくまってしまった。

 額には脂汗が浮いていて、口がパクパクしている。

 男なら誰もが想像できる、どうしようもない痛みと苦しみ。行列に並ぶ男たちが、こっそり合掌していた。


「いいぞ、リリア。もっとやれー!」


 遠くでヒューリが喝采を上げる。

 残った一人が、逆上した。


「てめぇ、何しやがる!」


 男が、凄い勢いでリリアに掴み掛かってきた。


「いやっ!」


 再び鋭く叫びながら、リリアが右手を振り上げる。


 ガコッ!


 今度は、はっきりと鈍い音がした。

 リリアの右手が、見事に男の顎を捉えていた。


「あ、ごめんなさい!」


 謝るリリアの目の前で、男が崩れ落ちる。


「どうしよう、やっちゃった……」


 大の男二人をぶちのめしたリリアは、困ったようにオロオロしていた。

 そんなリリアを、フェリシアが驚きの目で見つめている。


 一人目の男が手を伸ばした時、リリアは”男が手を伸ばす前から”左足に体重を乗せ始めていた。

 避けてもいないのに男の手がリリアに届かなかったのは、届く前にリリアの右足が急所を蹴り上げていたからだ。


 二人目の男が掴み掛かってきた時、リリアの体は”男の両腕が動き出す前から”沈み始めていた。

 男の両腕が伸びた時、リリアの体はすでにその懐にあって、顎に狙いを定めている。


 ミナセが満足そうに微笑んでいた。ヒューリは大きく頷いている。

 反対側のシンシアは、自分のことのように得意げだ。


「やだ。リリアったら、強いじゃない」


 朝の修行に参加し始めたばかりのフェリシアは、手合わせで負け続けるリリアしか知らない。


「油断してると、そのうち追い抜かれるぞ」


 ヒューリがニヤリと笑う。

 集まってきたシスターたちに何故か謝り続けるリリアを見ながら、フェリシアが言った。


「燃えてきたわ!」


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