表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/666

第二十六話 カジノ潜入

 ――アンブロシウス北方・浮遊補助機構――


 アンブロシウス本土から僅かに離れた機械の塊。

 複数の封魔局員たちがそこにはいた。

 もうじき夕刻。辺りに闇が広がる時間。


「……夜だ。はてさて今夜も来るかね、魔王軍?」


 昨晩起きたトロールの襲撃。

 ここの浮遊補助機構はあくまで予備動力だが、

 破壊されるのは街にとって痛手である。

 アンブロシウス周辺に浮く四基の重要機構だ。


「…………なぁ? ここは昨日襲われたんだよな?」


「ん? そうだが……それがどうした?」


「いやな……なんで()()()()襲撃を……?」


 ――瞬間、人体が大きく揺れるほどの衝撃が轟く。

 戦闘慣れした封魔局員たちなら

 瞬時に『攻撃』であると理解出来るほどの異常な振動だ。


「のこのこ来やがったな! 迎え撃つぞ!」


「敵影捕捉! 数はイチ! 周囲を高速で飛行中!」


「おい、待て。あれって……?」


 飛行物体は濃い青色の閃光となり移動している。

 中心には術者であろう影が見えた。

 こちらを確認したのだろう。影と目が合うのが分かる。


「女性……! それにあの光……!?」


「特攻して来るぞ! 衝撃に備えろ!!」


 閃光が金属の壁を突き破る、と同時に魔力を放った。

 周囲に乱射されたビームが隊員たちを次々と貫く。

 流れ弾で照明が割れた。暗闇の中で攻撃のみ光る。


 それはさながら、死に踊る悪趣味なクラブハウス。

 人間の叫び声と不快な貫通音が閃光で輝らされる。

 やがて悪夢のような音楽が鳴り止むと

 女は一人、真っ赤な血肉たちの中に立っていた。


「うっ…………ぐっ……! 貴様……!」


「…………」


「貴様! 貴サマ! キサマ! キサマァッ!

 何故だ……!? 何故こんなっ……!」


「…………」


「答えろよ……! ()()()()()()()()()()()ァッ!」 


 女は黙って指先に魔力を貯めた。

 先ほどよりも更に濃い魔力が何の躊躇も無く放たれると、

 唯一生き残っていた封魔局員は絶命してしまった。


「…………」


 守護者は静かにその場から立ち去った。



 ――三日目・夜――


 辺りはすっかり暗くなっていた。

 やはりアンブロシウスの夜は冷える。

 だが、そんな寒さを物ともしないのがこの街だ。

 慣れているとか、そんな話などでは無い。

 いくら慣れていても寒いものは寒い。


 だが彼らはその分酒を飲む。人肌に触れる。

 そして……熱中出来るにギャンブルに明け暮れる。


「これはこれはマダム。今宵もお美しい。」


「あら! 社長さんったら口がお上手ですこと!」


「如何です? 今宵はご一緒しませんか?」


「あらまぁ! 情熱的ですわね!」


 ギャンブルをする者は大きく分けて二種類。

 人生が掛かっている者とゲームとして愉しむ者だ。

 今夜、このホテルに集まっているのは後者だ。

 富裕層、と言い換えてもいいほどの金持ちである。


「おやぁ……? あのリムジン……」


「まぁ! もしや『息災』の社旗では……!」


 小さな旗をなびかせて、大きなリムジンは停まる。

 するとそれを待っていたかのようにホテル側から

 スタッフたちが列を為すように迎え出た。

 そして、その奥にはオーナー本人が立つ。


 バタンとリムジンが開くと、現れたのは老人だった。

 腰は曲がり杖をつかねば歩行が危ういほどの老人だ。

 白髪の頭部はかなり禿げ上がっていて、

 残った毛も今にも抜け落ちてしまいそうだったが、

 それとは真逆に髭と眉毛は長く、長く伸びていて、

 まるで荘厳な滝のようであった。


 そんな老人の脇には少女のようなメイドが一人と

 ボディーガード風の黒服男性が二人控えている。

 そんな彼らにオーナーは自ら出迎えた。


「お待ちしておりました。()()()()()()百朧(びゃくろう)殿」


「ひっ! ひっ! ひっ!

 わざわざお出迎えせんでも、オーナー殿。」


 百朧は菩薩のように柔らかい笑みと口調で話す。

 ゴエティアに海を挟んで隣接する都市ミラトス。

 中央都市繁栄のおこぼれで育った灰色の街。

 朝霧の初陣。ボガートと戦闘した街である。


「何を仰いますか!

 世界最大手の製薬会社『息災』の会長にして、

 一代で都市ミラトスを()()()()鬼才!

 いやらしい話、今宵一番のVIPですぞ?」


 耳元に囁くようにオーナーは世辞を言うと中へと導く。

 そんな彼らを周りの客は珍しそうに見物していた。


「まぁ百朧様! 優秀で素敵な殿方!

 やはりご一緒するならあのくらいの方でなくては!」


「え?」


 リムジンが正面玄関から離れていく。

 すると今度は四人の男女が歩いてくるのが目視出来た。


(――来ましたか。)


 オーナーは横目で彼女たちを視認しながら、

 歓迎すること無く百朧と共に中へと入っていった。

 対して周りの関心はその四人の男女に移っていた。


「なんか見られてるな。俺たち浮いてるんじゃ……」


「心配いりません! 堂々としてください、アラン君!」


 四人の男女とは朝霧たちだ。

 主にアリスが選んだ正装に着替えまっすぐ進む。


 アランの服装は白と黒で纏めたタキシード。

 その上から膝下まであるコートを羽織っている。

 高身長なのでスラッとした雰囲気で決まっている。


 アリスの服装は緑と白のワンピース。

 (たけ)は膝下まであり、胸元に大きなリボン。

 小柄な彼女が着れば幼く可愛らしい印象を与える。


 フィオナの服装は赤いロングドレス。

 それを彩る黒い羽織、長手袋、バック。

 元の大人な雰囲気が更に際立ちクールである。 


「バックまで買う意味あったか?」


「オシャレですよ! カッコいいです!」


「……ねぇ、アリス? 私のこれも……おしゃれ?」


 朝霧は照れくさそうにモジモジとしていた。

 そんな朝霧の服装は……とにかくセクシー。


 鎖骨より上を露出させた黒いベアトップドレス。

 肩を魅せるかのように透けた薄いストール。

 そして上と合わせた黒のホットパンツだった。


 ちなみにもう一度言うが、選んだのはアリスだ。


「……アリス、これ寒い!」


「オシャレとは――『大変』なんですッ……!」


「名言っぽく言うな。」


 そんな彼女たちに周囲の人々は注目していた。

 朝霧は恥ずかしがりながらフロントへと進んでいく。


「若い子たちですね……美しかった……」


「あら、カジノに入って行きましたわ!

 最近の子たちは生意気ですわね。」


「……やはり、若い女性は良いですな。」


「まぁ!」



 ――カジノ――


 中はやはりと言うべきか、綺羅びやかであった。

 カジノではあるので騒がしさは有している。

 だが、元領主邸由来の内装と客の正装により

 さながら気品溢れるパーティー会場のようだった。


(なるほど、ドレスコードは気品さを出すための……

 ならオーナーとやらは今でも貴族的な上品さに

 こだわっているのかもしれないな。)


 フィオナは早速潜入捜査員のような目で周囲を観察する。

 一目見るだけで理解出来るのは、ここの客層だ。


(政治家。実業家。貴族。……あ、記者だな、アレ。)


 陰謀渦巻く、とまでは行かないが、

 曲者揃いのその会場には独特な緊張感が感じ取れた。

 恐らく、それすらも彼らにとっては娯楽なのだろう。

 ワイングラスを片手に談笑をしている。


「クシュン! うぅ……寒い。」


 会場は温かいが、朝霧はまだ少し寒そうだ。

 そんな彼女をアリスは休憩用の長椅子に座らせた。


「会場を見回りたいが……桃香は少し休ませるか。

 どちらか、彼女の側にいてやってくれ。」


「じゃ、じゃあ私が!」


「わかった。ではアランはついて来てくれ。」


 そう言うと朝霧とアリスは二人きりになる。

 風邪でも引いてしまったのか、

 朝霧はまだ少し寒そうにしていた。


「朝霧さん……私が薄い服を選んだから……!

 私、ちょっと温かい飲み物を貰ってきます!」


 そう言うとアリスは飛び出して行った。


(あっという間に独りになっちゃった。)


 鼻を鳴らしながら朝霧は待つ。

 しかし、くしゃみは止まりそうに無い。


「クチュン!」


「――大丈夫か? これ使え。」


 誰かが朝霧の横に座ったのだろう。

 隣からポケットティッシュが差し出される。


「あぁ、すみません……

 見ず知らずの人なのにありがとうございます。」


「は? ふざけるな。社会人なら人の顔くらい覚えろ。」


 朝霧は思わず横を振り向いた。

 聞き覚えのある声から発せられた、

 聞き覚えのあるトーンでの嫌味。


 そこにいたのは見知った探偵。

 黒い髪に黒い瞳の東洋人。いや、日本人。

 焦げ茶色の服装からは羽振りの良さが伺える。


「久しぶりだな、朝霧桃香。」


「――! 森泉さん……!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ