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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第十二話 価値ある物

「――ッがぁ!?」


 フィオナの声が壁に反響する。

 片腕を弾かれ、姿勢が大きく後ろへ崩された。


(これは……マズイな……想像以上の強さだ……ッ!)


 フィオナは対峙する敵に視線を戻す。

 それは先ほどよりも禍々しい魔力に包まれていた。

 戦闘モード。そう呼ぶに相応しいほど

 それまでとは比較にならない魔力量だ。


(強さはドレイク隊長……いや劉雷隊長レベルだ……!

 これほどの出力は桃香でも出せないだろう。)


 魔法使いの戦闘において、

 魔力量の差は勝敗を分かつ要因の一つである。


 魔力量の差は、魔法行使における出力の差に繋がる。

 また、精神干渉や呪術などは魔力量の多寡(たか)により

 その成功率が大きく変動してしまう。


 即ち、対峙する敵の魔力量が大きいほど

 火力においても手数においても不利となるのだ。


(……だが、不利な戦いなど幾度も越えてきた……!)


 フィオナは上に向け糸を放つ。

 三次元的な動きで守護者の頭上を跳び回る。

 気付けば、路地裏には再び糸の結界が張り巡らされた。


(魔力量の差は勝敗の要因の()()でしか無い!

 地の利を活かし、好機を逃さなければ……!)


 フィオナは守護者の出方に注意を向ける。

 異様な魔力に包まれた彼女に安易な接近は禁物。

 フィオナの動きを追おうとする隙を狙う。


 だが、守護者の指は別の人物に狙いを定めた。

 そう、殺害対象である店主の娘だ――


「――! させるかッ!!」


 フィオナ自身、その行動の可能性は考慮していた。

 すぐに反応し、攻撃を防ごうと守護者に飛びかかる。


「――()()()()()()()。」


 刹那、守護者を中心に魔力のドームが浮かび上がる。

 たちまち狭い路地裏を満たすように拡大し、

 接近していたフィオナごと糸の結界を消し飛ばした。


「ッ!? これほどとは――ッ!?」


 フィオナの掴まっていた糸が音を立て千切れ始めた。

 そのまま壁に打ち付けられ地面へとずり落ちる。


「ぐっ……! まんまと一杯食わされたか!」


「うん、上手くいった。糸はいつでも払えたけど、

 確実に君を狩るにはあのタイミングがベスト。

 これで……心置きなく敵を排除出来る。」


 冷たくそう呟くと、守護者は再び娘に向かう。

 殺意を向けられた少女はヒッと声を上げた。

 どうやら腰が抜けてしまい動けないようだ

 そんな彼女に、守護者はゆっくりと歩み寄る。


 しかし、その歩みは突如止まる。


「…………ねぇ、邪魔しないでよ。」


 守護者の服に何本もの糸が縫い付けられていた。

 ピンと張り詰め、付したフィオナの手に収束している。

 それ以上一歩も前に進ませまいと、

 守護者をその場に食いとどめていた。


「させるか……!」


「別にいいよ。僕には遠距離もある。」


 指を娘に向けた。魔力が渦巻き黒く色づく。

 その脳天に狙いを定め、今にも放たれようとする。


「死ね――」


「――ど、けぇえええーッ!!」


 瞬間、娘と守護者に割って入る形で朝霧が飛び降りた。

 地面に亀裂を走らせ、衝撃で守護者を妨害する。


「フィオナ! 無事!?」


「あぁナイスタイミングだ、桃香!」


 朝霧は周囲を見回し状況を整理する。

 ボロボロの友人と恐怖で震える娘。

 血を流し倒れるチンピラたちと、謎の女。


「とにかくこの人が敵ってことね?」


「次から次へと邪魔が入る……」


 朝霧は目の前の禍々しい気配を放つ女に対峙する。

 守護者は糸の拘束を抜けながら愚痴っていた。


「桃香、気を付けろ!

 その女性がアンブロシウスの守護者だ!」


「――!? じゃあ……この人が……ニックさんを……!」


 朝霧は守護者の顔を見ながら腕を震わした。

 そして、ゴクリと息を飲み彼女に問う。


「教えてください、アンブロシウスの守護者。

 どうしてニックさんを……昨日の男を殺したんですか?」


 真剣な眼差しで、守護者の目を見ながら返事を待つ。

 しかし、帰って来たのは彼女の予想に無い物だった。


()()()()。害があったんじゃない?」


「………………は?」


 困惑――最初に朝霧に芽生えたのはその感情。

 思考は一度停止し、言葉のみが脳内を回る。

 次第に言葉の意味を理解し始めるが、

 理解すればするほど困惑が押し寄せた。


「知らない……ですって?」


「うん、というより……

 覚えていない、っていうのが正しいかな。」


「昨日の…………昨晩の……事だよ?」


「知らないよ。けど識っている。

 僕が排除するのは、この街の敵だ。

 ならその男も、当然敵に決まっている。」


 怒り――次に朝霧を埋め尽くしたのはその感情だった。

 噛み千切らんばかりに歯を食いしばり、

 目を血走らせて守護者を睨み付けた。


「ふざけるな……ふざけるなぁーーあッッッ!!!!」


 狂気限定顕在・≪(ザ・ファースト)≫。

 瞬き一回の間に風を切り裂き距離を詰める。

 そして、禍々しい魔力の壁を貫き

 守護者の顔面を殴りつけて吹き飛ばした。


「がっはッ!」


「フィオナ! この女を……っ! 無力化するッ!」


 フィオナも立ち上がり守護者を挟む。

 二体一での挟み撃ち。朝霧たちが有利である。

 二人で呼吸を合わせ、同時に畳み掛けた。

 しかし――


「「――――ッ!!!?」」


 黒い魔力が吹き出した。

 先ほどまでと同じ、守護者の魔力。

 だがその量はこれまでの比では無かった。


(コイツ! 実力を隠していた……!?

 しかも何だ!? この魔力の……()()()!!)


 冷たい。寂しい。重い。暗い。そして黒い。

 少し触れるだけでも不快な魔力が、

 二人を押し飛ばす勢いで溢れている。

 それでも、朝霧は足を前へと踏み出した。


「クッ! アァアァアア――――――ッッッッ!!!!」


 吹き出す魔力を掻き分け守護者の体を掴む。

 朝霧を押し流そうと襲う激流に耐えながら、

 両手の手首に掴み掛かり動きを封じる。


「しつこいなぁ。でも、僕の目的は君じゃあない……!」


 朝霧の剛力も物ともせず、守護者は指を娘に向けた。


「――ッ!? 逃げて!!」


 娘は未だに動けないでいた。

 ただ守護者を見つめ涙を流しながら停止している。

 朝霧も必死に照準をズラそうとするが敵わない。


「排除。」


 一閃。黒い魔力が一筋、真っ直ぐ娘に向かう。

 そして人間の肉を抉るように貫いた。


「「――なっ!?」」


 しかし貫かれたのは娘では無かった。


「そ、そんな……! ()()!?」


 貫かれたのは店主であった。

 自らの娘を庇い肩から血を流していた。

 動揺しながらも守護者は再び魔力を貯める。

 しかし、それを朝霧たちは許さない。


「やらせない――ッ!」


 発射、再装填で魔力が乱れた隙を付き、

 朝霧は守護者の体勢を崩すことに成功する。

 守護者もすぐに朝霧から離れたが、

 その着地隙を狙いフィオナが糸で斬りつけた。


「ここで捕らえるぞ、桃香!」


「了解、フィオナ!!」


 二人は一糸乱れぬ連携で守護者を襲う。

 路地裏の空間を満遍なく、最大限に利用した

 互いに息つく暇も無い激しい攻防戦。


 守護者は彼女たちの攻撃は全て躱すが、

 反撃をする余裕もまた、存在していなかった。


(これ以上は無理…………か。)


 僅かに二人から距離が離れた刹那を狙い、

 守護者は一瞬で上空へと飛び去った。


「――!? 逃げられる!」


「追うな、桃香! 私たちでは倒しきれない!」


「ッ! けど……ッ!!」


「十分な戦果だ。それより今は……」


 フィオナは目線を別の方向へと向ける。

 釣られて見てみると、その先には店主たちがいた。


「店主さん……!」


「パパ……! パパ…………ッ!!」


「神妙な顔すんじゃねぇ。撃たれたのは肩だ。

 別にこれくらいで死にゃしねぇよ……」


 店主は自身の傷など構わずに、

 娘を抱き寄せ頭を撫で続けていた。

 その腕の中で娘は大粒の涙を流していた。


「ごめんなさい……ごめんなさい!

 私が良くない人たちと付き合ってたばっかりに!

 パパに怪我を……! お店もメチャクチャに……!」


「ハ! お前、俺を舐めてんじゃねぇぞ?

 怪我なんか屁でもねぇし、店だってどうでもいい!

 それよりも()()()()()()()が無事なんだからな!」


「……でも、あのお店の商品はとっても高価って……?」


 父親はニカッと笑顔を向けた。


「お前だよ。骨董品よりも高価な俺の宝物だ。

 たとえ金の園だろうが銀の園だろうが敵わねぇ、

 ずっと、ずーっと価値のある、ただの俺の娘だ。」


 なにそれ、と娘は笑いながら泣いていた。

 そんな彼らに朝霧とフィオナが歩み寄る。


「封魔局! 娘を助け出してくれて感謝する!」


「いえ、むしろ守り切れていなかった……」


「結果無事なら問題ねぇよ! 本当にありがとう……!」


 店主の笑顔に感化され朝霧たちも笑みが溢れる。

 ひとまず、人質となった娘の奪還には成功した。


(でも……アンブロシウスの守護者。

 あの女をこのまま放ってはおけない……!)


 朝霧の顔から笑みが消える。

 その表情の変化をフィオナは見逃さなかった。



 ――立体道路――


「えぇ、はい。そうです。

 ただのチャチな殺人かと思いましたが、違うようだ。

 もしかしたら……俺たち二番隊が追っている敵かも?」


 ケイルは路上の犯人たちを車へと乗せながら、

 ある人物に向かって連絡をしていた。


「とにかく合流しましょうぜ……()()()()()()。」


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