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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第八話 「良かった」

 ――二日目・午前――


 二人の男女が欠伸をしながら大通りを進む。

 男の方は髪を白く染めた恵体の黒人。

 女の方はを額を出し後ろ髪を纏めたブロンズヘアー。

 頭を掻きながら目的の場所に向かう。


「……ったく。事件発生につき封魔局員出動ォ……?

 どうせ呼ぶなら最初から支部を置けって話だ!」


「そこ、愚痴んない。……まぁ同感だけど?」


 二人の視界に人集(ひとだか)りが入る。

 確認するまでも無くあそこが目的地だと理解できる。

 ため息を吐きながら人混みを抜ける。


 その先にあったのは路地に続く道と死体。

 そしてそれを囲む現場保存の結界であった。


「ほぉー、上等な結界じゃねぇか。

 この街には腕の良い結界技師がいるらしい。」


「アンブロシウスじゃあ通報してもすぐ来れないからね。

 封魔局から、連携している結界技師に依頼するのよ。

 現場を荒らされないように封印してね、って。」


「ケッ! だから支部置けゃ全部解決なんだよ。」


 男はさらに愚痴を吐きながらも死体の方へと目を向ける。

 軽装な若い男。黒くなった血の道が路地に伸びている。


「脳天と……肺をそれぞれ一発……か。

 殺ったのは相当殺し慣れてる奴だな。」


「第一発見者は近くに住む骨董品店の店主。

 この通りが早朝のジョギングコースだったみたい。

 死亡推定時刻は今日未明――」


「――いや、日が跨がる前でしょうね。」


 二人の会話に割って入り、人混みから若い男が進み出た。

 男の局員が眉間にシワを寄せながら詰め寄る。


「あー……お兄さん。ここは遊び場じゃないんで。」


「待って。その人は捜査協力者よ。」


 女が肩に手を置き引き止める。

 若い男はニコリと笑い自己紹介を始めた。


「失礼……僕はECS加盟の降霊術師、硝成(しょうせい)です。」


「ECSゥ? あの外部連携システムって奴か。」


 封魔局とあらゆる専門家が連携し捜査する機構。

 それこそが外部連携システム『ECS』である。

 今回は封魔局本部が事前に要請したようだ。


「ほー、降霊術師なら手っ取り早いな!

 じゃあそのお得意の術でガイシャを喚んでくれ。」


「それが、今回はどうやら出来ませんね。」


 局員たちは怪訝な顔を向ける。

 その表情を気にも止めない様子で硝成は語った。


「僕の降霊は残留思念を集める簡易な物です。

 ですがこの場に残留思念がありません。

 残留思念は『時間の経過』と『当人の未練』によって

 消える速さが異なってしまいます。」


「つまり……?」


「最低でも昨夜遅く、彼は一切の未練無く逝ったかと。

 どうあれ、僕の降霊術では情報は出ません。」


 はぁー、と男の局員は深いため息を吐く。

 対する硝成は気にも止めない様子で平謝りをしていた。

 その時――


「――すみません! 退いてください!」


 必死な若い女の声が人混みを掻き分け接近する。

 現場の封魔局員たちの前に進み出てきたのは、

 朝霧であった。


「――ッ! ニックさん……! そんなっ……」


「おいアンタ、ここは関係者以外……」


 朝霧に気付かない男性局員だったが、

 彼女の後方から続くフィオナの顔を見てハッとする。


「ご苦労、ケイル隊員。メアリー隊員。

 彼女は朝霧桃香。六番隊の封魔局員だ。」


「フィオナ隊員!? これは失礼しました!」


 フィオナは二人に事情を話し、

 代わりに現場の詳細と捜査の現状を把握する。

 その間も朝霧はニックの死体を眺めて動揺していた。


「仏さんと知り合いでしたか……

 ニック、ね? とにかく名前が判明して良かった。」


 立ちすくむ朝霧に気を使いながら

 ケイルと呼ばれた男は手帳にメモを書き加えた。


「……だが、犯人の手がかりは今の所無いのだろ?」


「ですね。まぁこの血の道を辿れば何か――」


「――守護者だよ! それ!」


 フィオナたちの会話を遮るように、

 人混みの中から声が若い子供の声がする。

 みれば少年が局員たちをジッと見ていた。


「……ったくッ! 今日は横槍が多いな!」


「でも本当だもん! その傷は守護者が付けたものだよ!」


 親と思わしき大人の静止を振り切り少年は叫ぶ。

 そして、その言葉に同調するように周囲も声を上げた。


「間違いねぇ! この街の人間ならよく知っている!」


「守護者のだ! アンブロシウスの守護者の攻撃だ!」


「え? じゃあ……守護者が殺したその男……」


 その言葉を皮切りに、群衆の視線はニックに集まる。

 アンブロシウスの守護者は、その肩書きに従い

 アンブロシウスの街を守護している。

 その攻撃は街を守るために必要なのだろう。

 その追撃は害を排除するために不可欠なのだろう。


 そんな人物が……殺害した男。


「――そいつはきっと悪人だ! 害だったんだ!」


「チャラついてそうだしな。

 気持ちが増長して、変な野望を抱いちまったか?」


「少なくとも守護者の目に止まるほどの

 悪行を計画していたのは間違いないだろうな。」


「どうあれ…………()()()()()()()()()()!」


 野次馬たちのボルテージが上がる。

 慌ててメアリーが(なだ)めているが収まらない。

 朝霧は彼らの声を背中で聞き、拳を握って震えていた。


「フィオナ隊員……! 情報提供ありがとうございました。

 ここは俺たちがやるので後は……!」


 ケイルは朝霧の事を気遣い、

 二人をこの場から逃そうとしてくれた。


「……すまない。行くぞ、桃香。」


 無言の朝霧の手を引き、フィオナはその場を後にする。



 ――――


 フィオナは大通りを進み、ホテルの方へと歩く。

 ひとまず朝霧を休ませようと必死だった。

 だが朝霧はその手を振り払った。


「――! …………桃香?」


「……ねぇフィオナ? ニックさんは……悪人なのかな?」


 俯いたまま、フィオナの顔を見る事無く

 朝霧は震えた声で質問した。


「それは……」


 分からない。フィオナには答えられない。

 アンブロシウスの守護者が殺したのであれば、

 少なくともこの街に取っては悪だったはずだ。


 だが、そんな答えを朝霧には言えない。


 加えて、フィオナは彼を疑っていた。

 何か裏があるのだろうと。……あったのだろうと。

 そんな彼女の考えは変わっていない。

 むしろ、今回の件で疑念を後押しする証拠が増えた。


 だが、そんな理論を朝霧には言えない。


 フィオナが黙り込んでしまったのを見て、

 朝霧は自分の思いを吐露する。


「もしかしたら……フィオナの言う通り

 ニックさんは本当に悪い人だったのかもね……?」


「…………」


「けどさ……? 『死んで良かった』って……!

 血塗れの死体を前にさぁ……! そんなこと……!

 そんなこと言われなきゃいけない人だったのかな……!」


 分からない。フィオナには答えられない。


 朝霧の瞳に溜まった熱いモノを、

 彼女は零すまいと必死に堪えている。

 肩も声も震わし、握った手がプルプルと揺れていた。


 たった一日、共に行動しただけの関係性。

 それでも彼の死を嘆く事が出来る彼女に、

 かけられる言葉は何もない。


「ねぇ、フィオナ? 今日の予定、変えていい?」


「どう……変える?」


 涙を拭い、決意を新たにフィオナを見つめた。

 その目に宿った感情は……


「アンブロシウスの守護者を探す……!

 探して問いただす! どうして彼を殺したのかを!」


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