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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第四話 休暇開始

 旅客機は間も無くアンブロシウスに着く。

 ハイジャック騒動もあったが、

 犯人グループはすぐに無力化され

 現在は無事に目的地に近づいていた。


「朝霧、窓の外を見てごらん?」


 フィオナに誘われるまま、朝霧は頬を窓に当てる。

 そこから見える景色は、正にファンタジー。


 逆さ円錐状の土台の上に都市が君臨する。

 さらにその周囲を無数の浮遊物が囲んでいた。

 都市の下ではのっぺりと広がる分厚い雲の海。

 上では細い筋のような雲の隙間で日が差し込む。


 太陽、雲海、人工浮遊物。

 それら全てが鮮やかな風景を演出していた。


「綺麗……」


「さぁ、いよいよ着陸だ。」


 その浮遊物の一画に設けられた滑走路に

 旅客機はまっすぐと向かって飛ぶ。

 振動はあまり無く、極めて快適に着陸した。


 朝霧らは犯人グループを警備員に引き渡す。

 その後、乗客たちは空港の一室へと導かれた。


「ここでは何を?」


「空中都市の環境に慣れるための調整だよ。」


 アンブロシウスの位置する高度は

 上空約八千メートル。エベレストと同等だ。

 アンブロシウス本土には

 気温や気圧の整備システムが稼働しているが、

 観光客にはより安全を配慮した形を取っている。


 適応プロセスを終え、二人は外へと向かう。

 外の空気は透き通り、涼しい風が爽やかに吹く。

 まるで歓迎するかのように風が二人を包み込んだ


「……そこのお二人さん、少し時間をいただけるかな?」


 その時、朝霧たちに声を掛ける人物が現れた。



 ――とある都市――


 暗い空の下、工場群が(せわ)しなく稼働し続ける。

 従属する者の血と汗が、夜景となって都市を彩る。

 汚れて曇った空を競うように、ビルが高く乱立する。

 都市としての発展度合いでいえば、

 魔法連合中央都市ゴエティアにも匹敵する。


 この都市の名は――高度魔界文明『ホロレジオン』。

 暴食の魔王が統治する、この世に顕在した魔界である。


 その中のビルではある会議が行われていた。


「魔王執政補佐官第五席。ジン様がご到着です。」


 メイドの女がその男を案内する。

 ツンと立った金髪のオールバック。

 地肌に直接革のジャケットを羽織った筋肉質の男だ。

 部屋には既に、三人の男女が座っている。


 魔王執政補佐官。

 朝霧は過去に対峙したボガートもその一人だった。

 そして、この場で行われる会議とは正にその

 執政補佐官にまつわるものであった。


「ようこそ、ジン。

 では始めようか……次の()()()()()()()()を。」 


 薄い金髪の青年が司会に回る。

 その目は白目の部分が黒く染まり、

 瞳は真っ赤に変色していた。


「待ってくれ、()()()。参加者はこれだけか?」


 ジンは部屋を見回した。

 その場にいるのは執政補佐官が四名とメイドが一人。

 現在魔王執政補佐官は全部で八名である。


「半数しかいないのか? 残りはどうした?」


「第三席と第八席はいつもの事として……

 あの第一席(むっつり)は例の征伐に出かけちゃったよ。

 そして第四席は……娯楽の街に行っている。」


「……アンブロシウス? ついに(はかりごと)に疲れたか?」


「アハハハ! 確かにアイツにとっちゃ息抜き(あそび)かもね?

 まぁ……ちょこっと危険な火遊び、だけどね?」



 ――アンブロシウス――


「あなたは……さっき人質になっていた方ですね?」


 フィオナは声を掛けて来た青年の顔を注視する。

 それは、朝霧と同様にハイジャック犯の人質となった、

 騒々しい青年であった。


「あぁ! 俺の名前は……ニック!

 君たちのお陰で無事にここまで辿り着けたよ!」


 ニック、そう名乗る青年の容姿は茶色い髪と青い目。

 服装や髪型から、ややチャラついた印象を与える。

 それでいて、人質の時とは打って変わっての

 落ち着いた口調で朝霧たちと接している。


「人質の時と随分印象が違いますね?」


 フィオナは躊躇い無く問いただす。

 その質問に対してニックは照れ臭そうに微笑んだ。


「いやー……人間ピンチになったら

 何をしでかすか分からないモノなんだね。

 自分でもまさかあそこまで取り乱すとは……」


 頭を掻きながら視線を逸らす。

 細かい所作が無害そうな印象を与え、

 やたらと警戒心を解いていく。


「それで、私たちに何か?」


 フィオナが質問を続けると、

 ニックは嬉しそうに、身振りを添え語りだした。


「そうそう!

 そのピンチを救ってくれたお礼をしたいんだ!」


「そんな、お礼なんて! 気持ちだけで結構です!」


 朝霧は思わず彼の誘いを断る。

 だが彼も引き下がろうとはしなかった。

 なんとしても礼をしたいようだ。


「二人は……アンブロシウスは何回目?」


「私は始めてです。フィオナは?」


「仕事で数回、休みでは……始めてだな。」


「そうなんだ! なら観光名所は知ってる?

 穴場スポットは? 地元の土地勘は?

 俺はアンブロシウスにはよく来ている!

 ぜひ! 案内させてくれないか!?」


 どうやらお礼を返すまでは動かないらしい。

 朝霧とフィオナは目線で相談する。

 アンブロシウスの知識は決して豊富では無い。

 この休暇の主目的は『朝霧の父の捜索』。

 土地勘を持つ現地ガイドは正直欲しい。


「分かりました。

 じゃあ少しの間ガイドをお願いします!」


「あぁ、もちろん! 任せてください、お二さん……!」



 ――アンブロシウス・小汚い酒場――


「――ダウト。クイーンを二枚で僕の勝ちだ。」


「ひゃー強ぇな兄ちゃん! 負けた負けた!

 大した情報じゃねぇしくれてやるよ!」


 男たちがテーブルを囲みカードゲームに勤しむ。

 彼らを囲むギャンブラーたちが勝者の男に対して

 思い思いの掛けを持ちかけては騒いでいる。


「おい、アンタ! 今度は俺とポーカーだ!」


「ページワンなら負けねぇぜ! 金掛けよぅ!」


 周りのバカ騒ぎに苛立ちながら、

 ゲームに負けた情報屋は紙に情報を書き記す。


「ケッ。気狂い共が! ところで兄ちゃん。

 ゲームの腕といい、こんな情報といい……

 一体、何者なんだい?」


 男は紙にサッと目を通すと無言で席を離れる。


「ハッ! 言うわけねぇか!

 そりゃ情報はカネになるもんな!」


 男はそのまま、酒場を後にする。


(一体何者なのか……か。)


 外の空気は透き通り、涼しい風が爽やかに吹く。

 しかし、男はそれを肌寒く感じる。


「僕は……世界唯一の探偵だ。」


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