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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者

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第四十九話 流星襲落

 ――マランザード内・とある場所――


 辺りに瓦礫が散乱するこの場所で、

 大の字になり彼は寝転がっていた。

 その場所に、一人の女が歩みよった。


「ここに居たんですか、劉雷隊長。」


「んあ? レティシアか。

 悪いが俺は今、頭の頭痛が痛い。」


「そのようで。

 脳の言語を司る所がイカれてます。」


 二人にとっての日常的な時間が流れていた。

 だが、彼女はそんな話をしに来たのでは無い。


「現状報告です。魔王軍が出現しました。

 ドレイク隊長とフィオナも来ています。

 隊長もさっさと起きてもう一仕事を……」


「……なぁ、レティシア。今、一つ気が付いた。」


 劉雷は寝た姿勢のまま上を見上げている。

 とても真剣な眼差しに、レティシアも傾聴する。


「なんです?」


「この角度から見る黒ストッキングって、

 めっちゃエロいな。」


「死ね。」


 などと、ふざけていた劉雷だったが、

 その表情が一瞬にして切り替わった。

 レティシアもその変化を察知する。


「隊長!」


 劉雷は感知した。

 空気の流れ、そこに混じる異常な魔力。

 探る。出所を。そして見つける。あそこだ。



 ――星見展望台――


 その場所は、地震の如く揺れていた。

 ミサイルの発射地点を押さえに来た局員たちは

 その揺れに耐えきれずに倒れ込む。


 と同時に、地面に亀裂が走った。

 ピシピシと殻を破るようにひび割れ、

 中からその巨大な鋼の筒が露出した。


 戦争の遺物、決戦兵器『流星襲落の弓(サジタリウス)』。

 弓の名を冠しているが、その造形はむしろ大砲。

 満天の星空に砲身を向け、不気味に(たたず)む。


 と思った矢先、

 その巨大な大砲は鮮やかな緑色に発光する。

 電源が入ったかのように魔方陣が浮かび、

 強力なエネルギーが集約した。


 起動。充填。――発射。


 一筋の光線が、砂漠の街から吹き出した。

 雲を裂き、夜空を裂いて立ち昇り続ける。

 マランザードにいる全ての人間が、

 その光を目撃する。


 そして、流星が――襲落する。



 ――朝霧たちの戦場――


「総員退避――――ッ!!」


 局員が怒鳴る。

 彼らの遥か上空が赤く光るのが見えた。

 封魔局、そしてヘッジホッグの構成員は

 その場から離れようと動き始める。

 だが――


「――ッ!? 何故陣形を解かない。魔王軍!?」


 彼らの逃走を敵は許そうとしなかった。

 隕石が堕ちる。こんな状況でなお、

 彼らはその場の者の足止めを行っている。


魔王軍(こいつら)は魔王の為なら死ねる、

 そんな奴らだ! フィオナ、道を開くぞ!」


「了解!」


 ドレイクたちが包囲の一角を瞬く間に崩す。

 空いた穴に向かい、局員たちは一気に走る。


「朝霧! アリス! 急げ!」


「分かってる、アラン! ……って朝霧さん!」


 アリスたちも走ろうとする。

 が、朝霧の目はレベッカたちに向いていた。

 溶解液で今にも崩れそうなガイエスを、

 少女は必死に連れだそうとしている。


(助けなきゃ……!)


『逃がさねぇぜ! レベッカちゃん!!』


 突如、『合わせ鏡』が独りでに宙を舞う。

 と同時に魔力による障壁が周囲に展開される。

 それはガイエス、レベッカ、白狼、一部魔王軍

 そして、逃げ遅れた朝霧を閉じ込めた。


「しまっ!」


『便利過ぎるぜ、ドクター・ベーゼの遺産!

 車両とバリアの研究にご執心だったようで。

 これもその研究の成果、「障壁結界」!』


 展開されたバリアの効果は『封鎖』。

 出る者拒み、入る者も拒む。

 内部から朝霧が壁を斬り付けても、

 外部からフィオナやアランが攻撃をしても、

 傷一つ付かずに立ち塞がっていた。


(マズい……閉じ込められたッ!)


 夜空は赤く色づき、その下で緑の半球が輝く。

 即ち、落下する隕石から()()()()()()状況だ。

 そんな朝霧たちに向け魔王軍が襲いかかる。


「こんなッ! 時にッ!」


 朝霧は大剣をなぎ払いながら、

 周囲の状況を確認する。

 レベッカと狼がガイエスを守り、

 そして、空中では鏡が輝いている。


(あれを……壊せれば!)


 障壁の外でも戦闘が起きる。

 アランやフィオナを中心に対応していた。


「ドレイク隊長! 朝霧隊員が!」


 この間も隕石は迫っている。


「分かってる! お前らは先に避難を……!」


 この間も隕石は殺しに来る。

 すると――


『――お前も逃げな? ドレイク。』


 無線から響く声に合わせ、

 少し遠くの地上から物体が飛翔する。

 声の主は封魔局最強、劉雷だ。


「劉! お前、まさか!」


『まさかって何だ? 死ぬ気はねぇよ!』


 迫る巨大な隕石に、劉雷は躊躇無く衝突した。

 隕石と激しい衝撃波を生みながら拮抗する。

 その身を以て押し留める事に成功していた。

 だが……


(砕く気で飛んだんだが……これ無理だ。)


 破壊までは出来ない。解決までは出来ない。

 劉雷の全力でも、時間稼ぎがやっとだった。

 朝霧は障壁の中からその様子を見上げる。


(とにかくここを抜けだしないと……!

 けど、(これ)壊してもいいの?)


 朝霧は僅かに迷いがあった。

 この鏡がマナたちと守った秘宝。

 この戦いの勝利条件だ。


 だが、この鏡のせいで朝霧は逃げられない。

 なのでフィオナたちも離れられない。

 壊せば全て解決するわけでは無いが、

 今の状況ではどうあがいても死んでしまう。


 心を決め、朝霧は大剣に力を込めた。

 その時――


『朝霧、そっち状況のは!? 何が起きている!』


「――! ミストリナ隊長!!」



 ――領主邸――


 隕石に気付き、ミストリナは無線を繋ぐ。

 朝霧は状況を端的に伝え、許可を求める。


『鏡によって閉じ込められています!

 責任は負います。鏡の破壊許可を……!』


「――! ならんぞ、ミストリナ!!」


 朝霧の声を遮ったのは、アシュラフだった。

 傷に構わず、身を乗り出して駆け寄る。

 ミストリナの両肩を掴み、壮絶な表情を見せる。


「分かっているのだろう!? あれは秘宝だぞ!

 この私の……ッ! 勝利の()なんだぞッ!!」


「お、おじ様。落ち着いて……ッ!」


 ミストリナは今まで見たことも無かった

 アシュラフの形相に酷く困惑してしまっていた。

 そんな彼女に、アシュラフは怒鳴った。


「必ず取り返すと言っただろ!?

 このゴクツブシ!」


「なッ!?」


 アシュラフの目が血走る。

 威圧的。感情的。狂的。病的。


「……っ! しかしおじ様!

 今は私の部下の命が掛かっています!」


 ミストリナはそれでも言い返す。

 だが彼の優先順位は決まっていた。


()()()()()()()()()()()()……ッ!!

 結局お前もあのバカ娘と一緒だったか!?

 鏡一つ守り切れないのか――!」


 その発言に、ミストリナは一瞬黙り込む。

 そして――


「……おじ様。いえ、アシュラフ殿……」


 ――ミストリナはアシュラフを殴り飛ばした。

 殴られた事が本人には意外だったのか、

 領主は腰をつき頬に手を当て驚いていた。


「貴方の御家庭やご心情については、

 私の干渉すべき事柄ではございません。」


 顔の仮面に手を当てる。

 大切な部下を守って出来た名誉の傷。

 大好きな親友から貰ったプレゼント。


「だが……ッ! 私の部下とッ!

 私の親友を侮辱しないでいただけたい!」


 再び無線を握り絞める。


「朝霧! 私が許可するッ! 鏡を破壊しろ!!」



 ――――


「了解!」


 朝霧は振り返る。

 目標の鏡を見据え、大剣を構えた。

 その時――


「――な!? ガイエス!?」


「頭領ッ!」


 ガイエスが立ち上がっていた。

 顔は大きく(ただ)れ、右手は取れそうだ。

 満身創痍。そんな姿で朝霧を見る。


「退いて……」


「鏡を壊すか……それは困る。」


 ギリッと朝霧は睨む。

 この期に及んで何を、と訝しむ。

 そんな彼女にガイエスは語った。


「俺も、この鏡に固執している……

 というより、『勝利』に固執している……

 貪欲に、強欲に求めた……」


 ガイエスの目は真剣だった。

 確かにまだ、まともな理性を備えていた。


「なのに何故、強欲は負ける? 無欲が勝つ?」


「……は?」


「以前見た、寓話(ぐうわ)の話だ。」


 勝利に貪欲であれ、と人は教える。

 しかし、その本では無欲な者が勝った。

 事実、強欲のサギトはもうじき死ぬ(まける)


「これは……どういう事だと思う?」


「そんなの……ッ! 今はどうでも……」


「答えろ! 朝霧ッ!

 これは俺に取ってのケジメなんだ……」


 ガイエスは既に知っていた。

 自分の体ではもう生存出来ない、と。

 だから、彼はどうしても知りたかった。

 なぜ強欲(じぶん)は負けたのかを。


 朝霧は少し焦りながらも、答えを返す。


「……私の世界と同じ話か分からないけど、

 その無欲な人って、大体人助けをしている。」


「?」


「動物だったり、お地蔵さんだったり。

 彼らは、無償で他者を助けた。

 善意から、それこそ……無欲に。」


 自身の経験を振り返り、答えを探す。

 思い起こすのは、二人の人物。


 一人は、ドクター・ベーゼ。

 彼は最低最悪の性格だったが、

 彼の部下は誰一人裏切らなかった。

 それどころか、命を掛けてベーゼを守った。


 もう一人は、マナ。

 彼女は過ちに対し謝罪の出来る人間だったが、

 それまでの横暴な態度が災いし、

 取り巻きに裏切られ、父に嫌われた。


「――結局は『人望』なんだと思う。

 絵本の人たちは善意から他者を助けた。

 そこに報酬を望む気持ちなんて無かったはず。

 それこそ『無欲』に。」


「…………」


「完全な善意で、心から助けられたから

 周りはその恩返しをしたくなる。

 時には命を掛けられるほどのね……」


 ガイエスの脳内であの言葉が繰り返される。

 ――人は『力』には屈しない。

 であるならば……


「人としての魅力『人望』に従う、か。

 なんだよ、最初(ハナ)から多対一。

 そりゃあ……勝てねぇ訳だ。」


 ガイエスの表情が、和らいだ。

 繰り返される言葉は、もう不快では無くなった。

 そして……


「最終決戦だ、朝霧ッ!!!!

 俺を倒して、宝を壊せ!!」


「――そうさせて貰う!」


 両雄、激突。

 ガイエスの攻撃を大剣で防ぐと、

 彼の頭と肩を借りて上へと飛ぶ。

 その勢いのまま、鏡に向かって剣を振るう。


「いっけぇぇえええ――――ッ!!!!」


 鏡を破壊した。同時に障壁も砕け散った。


「よし! あとは……!」


 隕石の対応だ。

 そう思い朝霧が顔を上げると、

 劉雷が力尽き、再び落下するのが見えた。


 その場の誰もが戦慄する。

 他の誰にも、打つ手が無い。


「勝者が慌ててどうする……?」


 朝霧を後ろからガイエスが小突く。

 その表情は憑き物の落ちたように爽やかだった。

 迫る隕石に、彼は立ち向かう。


(よぅ……謎の声。聞こえてんだろ?)


 ガイエスは、心の中で声を出す。


()()()、お前は言ったな?

 サギトである限りこの権能は俺の物って。

 なら……俺はもうサギトじゃ無い。)


 これまでの人生に分かれを告げるように、

 ガイエスは強く望む。


(俺の祝福、返せよ。)


 確証は無かった。

 空しい独り言で終わる可能性もあった。

 だが、ガイエスは確信していた。


『――願いを承諾。権能を返上。

 祝福を、返還します。』


 声が聞こえる。

 その声は、ガイエスにしか聞こえていなかった。

 だから皆、まだ慌てている。

 朝霧とレベッカだけが、ガイエスを見ていた。

 その口元の笑みを見ていた。


「あばよ、強欲……。

 祝福――『神秘崩壊(クロノス・アダマス)』!!」


 ガイエスの人生が、思いが、最期の灯火が、

 輝く光の柱となって隕石を貫いた。


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