第四十六話 佳境
――星見展望台・頂上――
雷鳴が轟く。低空に漂う雲が見える。
レティシアたち一番隊員はその意味を理解する。
「劉雷隊長! 戦闘しているの……?」
レティシアは辺りを見回す。
ここへ来たのはミサイルの祝福を持つ男の制圧。
しかし……
(私たちが来たときには既に消えていた……
完全に制圧下に置きたい所だけど……)
「加勢に行くかい? レティシアちゃん?」
隊員の一人が語り掛けた。
レティシアはその言葉に頷く。
「ここにいた敵は手負い。少数でも問題ない。
半数は私に続いて、隊長の援護を!」
隊員たちは動き出した。
レティシアは、頬に汗を掻きながら駆け抜けた。
(相手はサギト……ッ! 一人ではダメです!!)
――――
「頭領ッ! 起きて頭領ッ!!」
銀髪の少女が、地面に寝転がる男にすがり、
必死に呼び掛けていた。
胸部を圧迫し、人口呼吸で生還を助ける。
そんな彼らのもとに、劉雷が降り立った。
この献身的な少女の気持ちは分かるが、
放置しては危険であることも理解している。
「ちょっとそこ、退いてもらえるか。」
劉雷は念動力で少々を退かす。
――と、その時。少女からナイフが飛んできた。
「危ねぇな……君結構、強かだね。」
空中でナイフがピタリと止まる。
レベッカは体勢を低く構えた。
(戦る気満々か……やっべ……頭痛ぇ……)
劉雷は分子レベルの動きを知覚出来る。
また、それらを精密に動かし戦っていた。
その力が及ぼす脳への負荷は想像を絶する。
(普段はここまでの事にはならないが……
それだけ強欲のサギトの相手は厳しかったか。)
頭を抑え、体が大きくフラついた。
それを隙と捉えたレベッカが襲い掛かった。
しかし、頭痛に悶えながらも
劉雷はその手を掴み、彼女を投げ飛ばした。
自身の脳を労った、念動力無しの技術だ。
背中から地面に叩き付けられた少女が
激痛から声を上げる。
「そのまま……寝てろ。」
重たい足を動かし、ガイエスに向かう。
だがそれを、レベッカは必死に止めた。
「離れろ! 頭領から離れろ!」
投げられ、弾かれ、倒されるが、
その度に起き上がり、劉雷に向かう。
彼女のしぶとさに、彼は遂に念動力を使う。
その時――
バコンッ!
背後から音がした。劉雷は振り向く。
バコンッ!
ガイエスからだ。彼の胸元に電気が走る。
バコンッ!
劉雷は駆け出した。すぐに仕留めねば、と。
状況を理解し、レベッカは叫ぶ。
「おいで、ヘラウス!」
何処からともなくやや大きな狼が現れた。
銀色の毛並みが美しい、凛々しい狼だ。
それが劉雷へと噛みつこうと飛びかかる。
劉雷は容易に対処するが、
時間稼ぎには十分だった。
バコンッ!
瞬間、大きく口を開けた竜の牙が襲いかかる。
劉雷が回避した先へ追跡し、光線を放つ。
彼が張ったバリアごと、そのまま噛みついた。
バリアごと劉雷を捕らえると、
ビームを放ちながら竜の首がのたうち回る。
周囲の建物を薙ぎ払いながら攻め立てた。
そして、遂にバリアを突き抜けた。
「これはッ!? マズイ……ッ!!」
「面白い故事だったぜ、劉雷?
――そのまま死んで、偉人になりなッ!!」
竜の顔ごと、周囲を巻き込む爆発が起きた。
――――
「頭領ッ……! 生きてて良かったぁ……!」
涙目になりながら、少女はガイエスに抱きつく。
その衝撃に、ガイエスは大きくぐらついた。
「頭領!?」
「すまん……流石に危なかった。
お前のお陰で自己蘇生までありつけた。
助かったぜ、レベッカ?」
少女は心底嬉しそうに頷く。
涙を拭うと、狼の背に乗った。
その時――
「――! レベッカ、急ぐぞ。車両が来ている。」
ガイエスが追っ手の接近を認識する。
落雷に大量破壊。かなり目立ちすぎた。
そして、多大なダメージが残っている。
とにかく逃げようと、彼らは先を急いだ。
「そういえば頭領。一つ聞いてもいい?」
「手短にな?」
「うん、頭領が船に行っている間に
ちょっと領主邸を調べてみたんだよ。
そしたらね……」
――とある場所――
暗い場所だ。だが外では無い。
夜の暗さでは無く、無灯の暗さである。
そこに、手負いの男が歩いていた。
彼の片手は撃ち抜かれたような穴があり、
もう片方の手には、鏡を持っていた。
暗く細い道を抜けると、
同じく暗い、広い空間へと辿り着く。
そこには大きな、大きな兵器があった。
「おはようさん、『流星襲落の弓』。」
――――
「やっと追いついた……ガイエスッ!!」
朝霧の声が響く。
封魔局の車両群を引き連れ盗賊たちに辿り着く。
アリス、アラン。その他の封魔局員。
一斉に、ガイエスを目がけて突き進む。
「レベッカ……話は後だ。
まずはここを逃げ切るぞ!!」
――とある談話室――
「一つ……二つ……三つ……」
悪魔が指を曲げては伸ばす。
「ねぇサマエル? 何してんの?」
アンドロイドが椅子を揺らしながら問う。
「数を数えております。フロル嬢。」
「見たら分かるっての!
ウチが言ってるのは何の数、てこと!」
ふーむ、と顎に手を当てながら、
悪魔は画面を眺め続ける。
「フロル嬢、演算をお願いしても?」
「無回答はムカつくけど、いいよ。何知りたい?」
「では、僭越ながら……
今回の戦い、参戦勢力はいくつですか?」
封魔局とマランザード勢力は一つでいいだろう。
ヘッジホッグは今まさに渦中にいる。
亡霊達もどこかで機を伺っているのだろう。
「それ数えてたの? なら、四つだね。」
「ベーゼの勢力とは?」
「別。あの有害ジジイたちはもういない。」
ふむ、と考えながら悪魔の口元は緩む。
「んーっ! 愉快! 勝利に飢えた転落者。
言うなれば、『負け知らずの敗北者』!
人の心とは複雑怪奇。この戦況もまた然り。」
「アハッ! でもキーワードは沢山あったね!
無欲な勝者! 強欲な敗者!
人が持つ負の要素と承認欲がもたらす力!
凄いから特別という訳じゃない事と、
そして……人は力に屈しない!」
「えぇ! 正にその通り!
――そして、役者は既に揃っている。
ここから先は、いよいよクライマックス!」
他より高い視点から、人外たちは高笑う。




