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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者

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第十六話 希望

 ――船内・とある一室――


 男が一人。

 部屋の明かりは消しカーテンは締め切っている。


 上等なベットに腰掛け、

 暗がりに馴染むようにうつむいていた男は、

 その黒髪を掻き分けた。


「一人、捕まった……?」


 男の他に誰もいない部屋、独り言を漏らす。

 足下の()が、ユラユラと黒い煙のように揺らぐ。


「フフ、面白くなってきた!

 ()()なんてケチ臭い仕事より、

 暗殺ってカッコいい仕事の方が俺に合ってる!」


 男の気分が上がる。

 座りながら両手を広げ、体全体で喜びを表す。

 ――瞬間、足下に漂っていた煙が、

 複数の柱状に吹き上がった。


「いいぞ! ()()()に会ってから、

 ()()()に来てから良いことばかりだ!

 見ててくれよ、黒幕様!」


 渦巻く黒煙の柱から数体の人影が形成される。

 やがて、狩人のような見た目の、

 全身黒ずくめの影たちが出来上がった。


「いけ、『ファントム』!

 俺に栄光を持って来い。」


 影は床に染み込み、やがて消えた。

 再び男は独り言を呟く。


「もう少し……()()()()を稼ぎにいこうかな?」


 男は、外への扉に歩みを進める。



 ――同船内・三○三号室――


 豪華客船のスイートルームにあたる部屋は、

 拡張魔術といくつかの結界術により

 外見以上の空間を有していた。


 今回マナの部屋となった三○二号室。

 そしてハウンドとジャックの部屋兼指令室の

 ここ、三○三号室もそのようになっている。


 さらに人払い、防音、対魔術、対物理の魔術も

 掛けられ、この周辺は半ば要塞と化している。

 そんな部屋の中でハウンドは

 ジャックと連絡を取っていた。


「そうか、刺客が来たのか……」


『あぁ、今近くの部屋に拘束し、

 隠蔽魔術と人払いの術で隠している。

 今から尋問する所だ。』


「分かった。朝霧に連絡してマナさんを

 部屋に戻すように伝える。

 アリスは朝霧と合流させよう。」


『……正直、アリスはマナとは……』


「護衛にアリスの祝福は重要だ。

 実際、その刺客は彼女が見破ったんだろ?」


 通話越しにため息が漏れるのが聞こえた。


『分かった。任務は完璧にこなすぞ。』


「あぁ、お前もそろそろ……

 ミストリナ隊長に追いつかなきゃな?」


『うるせぇよ、おっさん!』


 通話を終え、ハウンドは時計を見つめる。


(出港から一時間たった午後十八時……

 ゴエティア到着は明日の早朝四時。

 即ちあと()()()の船旅。

 刺客が一人とは限らねぇよな……。)



 ――甲板――


「……で? またコイツが私を護衛するわけ?」


 マナが合流したアリスを睨む。

 アリスはアリスで冷めた視線を送り、

 マナを刺激していた。

 

「嫌なら外れましょうか、()()()

 ミストリナ隊長も外されましたし?」


「貴女またっ――!」


「わーあーあー! 落ち着いてください!」


 間に挟まれる形になった朝霧は

 困惑しながらも説得を試みる。


「えと、部屋までの移動の間だけです!

 そこからはえっと、周囲の警戒? をします。」


「何? 部屋の中は守らないわけ?」


「いや! もちろん中は私が護衛を!」


 たじろぐ朝霧をアリスはただ眺めていた。

 そして一言。


「一々構って無いでさっさと移動しません?」


 アリスの刺のある言い方にマナは再び苛立つ。

 取り巻きの男たちに諭されその場は収まったが、

 やはり護衛任務に支障が出かねない。


 朝霧はアリスを連れ一旦マナたちから離れる。


(アリス! お願いだからこの場は大人しくね?)


(…………)


(アリス? 聞こえてる?)


 マナに聞こえないようにささやくが、

 アリスからの返事は無かった。

 出会った時の無垢な笑顔を思い出し、

 少々打算的に話をする。


(おかしいな?

 アリスならてっきり……私の話、

 少しは聞いてくれると思ってたんだけど?)


「……してないんで。」


(何?)


 顔を上げ、朝霧と目を合わせる。


「……私、正直もうあなたの事を

 尊敬していなんで、離れてくれます?」


「…………は?」


 その表情は、まるで別人だった。


 以前、朝霧を見て思わず飛び出し、

 指導員に叩かれていたアリスでは無い。

 以前、朝霧の部屋に潜り込んで、

 就寝時間ギリギリまで居座ったアリスでは無い。

 以前、朝霧を見るたびに目を輝かせていた少女は

 いつの間にか居なくなっていた。


 その事に動揺を隠せず、朝霧は硬直した。

 そんな彼女にアリスはため息を漏らす。


「ほら、今も。動揺なんかしている。」


「……え?」


「正直、あなたは()()()()でした。

 ≪魔獣使い(ビーストマスター)≫ボガートを撃破した、

 隊長たちに匹敵する封魔局員。

 それがあなたを尊敬していた理由です。」


 露悪的な態度でアリスは続ける。


「私、封魔局の『隊長たち』が大好きなんです。

『隊長たち』は戦後の魔法世界にとって

 正に希望なんです。

 ミストリナ隊長はその希望として

 ふさわしい活躍をしました。

 けど……あなたはどうです?」


 朝霧の顔が曇り始める。


「ベーゼを逃し、誘拐され、

 希望であるミストリナ隊長に大火傷を負わせた

 ……ミストリナ隊長が馬鹿にされたのは、

 あなたのせいですよね?」


「……それは……」


 朝霧に否定は出来なかった。

 内心、朝霧自身にも負い目を感じていたからだ。

 アリスの本心を知り、打ちのめされる。

 心がすり減る。その時――


「がぁ!?」


 後ろから声がした。

 見るとマナの取り巻きの一人に

 黒い(もや)のような影が纏わり付いていた。


 影はやがて形を成し、

 狩人のような姿形となって男の首を斬り裂く。


「キッ! キャァア――――ッ!!!!」


(しまった! 任務中に、バカか私はッ!)


 朝霧が駆け出す。

 その後ろ姿を見ながらアリスも走る。

 正確には、その背中の大剣を見ながら……


(赫岩の牙……

 なんで死んじゃったの? 隊長さん。)


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