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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者

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第十四話 領主殿

 ――マランザード・領主邸――


 砂漠の街で最も大きな石造りの建造物。

 手入れの行き届いた植物と

 涼しげな噴水が封魔局員を出迎える。


 先頭はミストリナ。

 その後に朝霧、アラン、アリス、

 ハウンド、ジャックの五名は追従する。


「これから会いに行くのは

 マランザードの()()殿()だ。

 皆くれぐれも無礼の無いように。」


「……前から気になっていましたが、

 街のトップは()()とかじゃなくて

 ()()なんですね。」


 朝霧が述べた感想にジャックが答える。


「魔法連合発足前の名残だな。

 元々は土地を占拠した魔法使いたちが

 勝手に名乗ったのが領主だ。

 そんでもって、そいつらが結託して出来たのが

 今の行政組織、魔法連合だ。」


 ミストリナが話しに割って入る。


「――そして、その成り立ちからか、

 魔法連合は共通の法のみを与え

 実際の統治を全て領主に委任している。

 最低限の契約に抵触しなければ

 どんな法令を布いても良い、という具合にね。

 だからそのあり方はどちらかと言うと……

 ()()()()に近い。」


 国王。その言葉に朝霧は今更ながら緊張する。

 今からそれほどの立場の人間と面会するのだ。


 正面玄関に目をやると、

 出迎えの使用人たちが並んでいた。

 先頭の老執事が会釈する。


「お待ちしておりました、ミストリナ様。

 本来はこちらから出向くべき所を……」


「おいおいよしてくれ、マッケンフロー。

 ()()()は封魔局隊長。

 立場はそちらが上だ。」


「何を仰いますか!

 とにかく中へお入りください。」


 言われるがまま隊員たちは入って行くが、

 朝霧はミストリナへの対応に疑問を抱いていた。


(ジャックさん、ジャックさん!

 今のどういう事ですか?)


(ん? あぁ、ミストリナ隊長って

 結構()()()の出身なんだよ。)


(あぁそれで……

 確かにお嬢様って感じがしますね!)


(まぁ……家の人とは

 疎遠になっちまったがな……)


「――どうした?

 二人とも早くしないと置いて行くぞ。」


 ミストリナに急かされ、

 二人は領主邸の中へと入っていく。



 ――――


 招かれたのは応接室。

 入室早々ミストリナは、椅子の後ろで

 立っていようとしていた朝霧とアリスを

 椅子に引きずりこんだ。


 隊長の行動に多少困惑しながらも、

 流されるまま二人は座り、

 代わりに男性陣が後方で待機した。


 そこへ、一人の男性が入室する。


「やぁミストリナ! 久しぶりだね。

 ……聞いてはいたが酷い怪我だね。」


「お見苦しい物を見せて申し訳ありません。

 おじ様。しかし、任務に支障はありません。

 それに、頼もしい精鋭も連れてきました。

 皆、この方がマランザード領主。

 アシュラフ殿だ。」


 朝霧ら一同の礼にアシュラフは頷く。


「みんな、いい戦士の顔だ。

 これなら娘を任せられるな!」


(娘? 今回の任務は要人護衛、てことは……)


 後方の扉が開く。

 先ほどの老執事マッケンフローに連れられ、

 十五、六程度の少女が入室した。


 仏頂面ではあったが、

 整った顔立ちであることが見て取れる。

 少女はただじっと、封魔局員たちを睨む。


「こら! マナ! ちゃんと挨拶をしなさい!」


 マナと呼ばれた少女はフンと首を振る。

 マッケンフローに娘を任せ、

 アシュラフはミストリナたちの方へと向き直す。


「いや、お恥ずかしい。今だ礼儀を知らずに……」


「お気になさらないでください、おじ様。

 私にもあんな時期がありました。」


(――!! マジか!?)


 朝霧の心の声が聞こえたのかのように、

 ミストリナはその腹を小突いた。



「ミストリナ……ミストリナ隊長には

 お話した通りですが今回の依頼は

 娘を都市ゴエティアまで護送することです。」


 紅茶をすすりアシュラフは話を続ける。


「……というのも、先日のベーゼの()

 マランザード地下の下水道の

 一部破損が確認されました。

 ここ領主邸も含め、都市全体は

 しばらく不便な生活が続くでしょう。」


 朝霧たちの顔が曇る。

 先ほどのテント内での

 子供たちの「ごっこ遊び」を思い出したのだ。


 そんな彼らに気づかずアシュラフは続ける。


「さらにマランザード在駐の封魔局員も

 減ってしまいましたし、ここは一度、

 娘だけでも安全なゴエティアへ

 避難させようかと思いまして――」


「――嫌!!」


 マナが話を遮った。

 邪魔してはいけないと静止する

 マッケンフローを押しのけ、依然意思を示す。

 アシュラフはため息を吐いた。


「何が嫌なんだ?

 ゴエティアには勉学中の兄がいるだろう?

 それにマランザードより発展している。

 住んでみればすぐに馴染むさ。」


「嫌なの!!」


 強情に、そして感情的に抵抗する。


(十五歳くらいだとしたら、

 日本じゃ高校生になるかどうかってところよね?

 ……少し子供すぎない?)


 朝霧がそんな事を思っていると、

 彼女とアリスの肩をミストリナが抱き寄せる。


「なーに、ほんの少し旅行するだけだよ!

 それにほら!

 六番隊(うち)でも特に綺麗なお姉さんたちも一緒だ!

 マナちゃん、好きだったろ、顔の良い人?

 前みたいに一緒に遊ぼう!」


 ミストリナの言葉に

 アシュラフは安堵の表情を見せた。

 しかし――


「――嫌い。」


「え?」


「今のミストリナは嫌い! なんなのその顔の傷!

 ()()()()()!!」


 ミストリナの表情が固まる。


「――ッ! マナッ!!

 お前、なんという事をッ!!

 マッケンフロー、その大馬鹿者をつまみ出せ!」


 老執事はまるで自分の落ち度かのように、

 申し訳なさそうな顔でマナを連れ出した。


 領主は、怒りで震える肩を、

 歯の隙間から抜け出る荒い呼吸と共に整える。


「すまない、ミストリナ!

 あの子があそこまで恩知らずだったとは!!

 よく遊んでくれた君に、

 まさか……まさかあんな!」


「気にしないでください、おじ様。

 むしろこんな傷を隠さず

 放置していた私に問題があります。

 …………任務の話に戻りましょう。」


 ミストリナの冷静な対応に、

 朝霧を始め隊員たちは

 悔しさに似た感情を覚えた。

 なおも謝罪の言葉を述べながら、

 アシュラフは依頼を話す。


「……あんな子ではあるが、私の大事な娘だ。

 こちらからも衛兵は付ける。

 無礼を承知でもう一度お願いしたい。

 ……どうか、あの子を……

 ゴエティアまで護衛してくれ!!」



 ――――


『……どうか、あの子を……

 ゴエティアまで送ってくれ!!』


 機材をいじる。周波数を合わせる。声を盗む。


『もちろんです、おじ様。

 六番隊の精鋭たち全員でお守りします!』


「うん! 読み通り、読み通り!

 さっすが()()!」


 道路を挟んで反対側の建物内で、

 少女は喜びを口にする。


 ――悪意は続く。陰謀は繋がる。影は暗躍する。

 ドクター・ベーゼとの戦闘より一週間。

 前哨戦が終わり、既に()()が始まった。

 特異点たちは己が勝利を求めて暗躍する。

 そう――


「楽しみだなー! 始まるぞー! 頭領の大一番!

 合い言葉はもちろん――」


 ――強欲に。

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