55.『鉄壁令嬢』、忠告を聞かない者達を迎え撃つ ③
「うーん、今日も来てる? 私が居るのを知っているはずなのに、無謀」
ドゥニーが襲撃者たちを迎え撃った後も、まだまだ襲撃者は居た。これまでの襲撃者たちは全員ドゥニーの手によって確保されている。殺していないのは、捕えた方がいいと判断しているからである。
彼女は別に人の命を奪うことに躊躇しているわけではない。殺した方がいいと判断した者の命を奪うことはある。ただ、今回はその必要がないというそれだけの話。
しかしこうして何度も何度も来られると、ドゥニーは少しだけ面倒な気持ちになっていた。彼女は身体を動かすことは好きなので、適度にこうして襲撃者が居ることは問題ない。ただしこうも毎日毎日来られると何だかなぁというそう言う気持ちになっていた。
(それにしてもこんなにもどんどん襲撃者を寄越してくるってことはよっぽど商人たちを始末したいものなんだろうなぁ。……うーん、どうせ陛下に伝えられてばっせられるからって自棄になっていたりする? そう言う人ほど、想像しないことするし。陛下相手にも同じように強硬手段をする気だったりするのかな。それだったら国を敵に回すことになるけれど、それでもいいって思っている?)
ドゥニーは、国を相手でも戦いきることは出来るだろう。彼女自身が生き延びることだけを望むならば国とやりあうことなど出来るのだ。ただし、それはあくまでも一人で生きて行くのならばである。
彼女が孤独であることを望み、たった一人で好き勝手に生きて行くことを決めたのならばまた別だった。きっと彼女は討伐対象にさえなり得ただろう。
ただドゥニーは家族が好きだし、周りの人々のことを大切に思っている。彼等を傷つける気もなければ、国を敵にしようなどという気はない。
(悪いことをしたら、ごめんなさいをすればいいだけなのだけど……。それが出来ずに突き進んでしまっている人って結構いるのよね。なんというか、何処で立ち止まれるかって重要! そもそも普通の感覚の人ならば私と敵対しようと思ったりしないはずだものね。もっとこう、私の強さを広めたら名前だけで悪いことしなくなってくれたりするかしら?)
ドゥニーは呑気にそんなことを思考していた。
「ドゥニー様、連日のように戦っておられるようですが大丈夫ですか……?」
さて、ドゥニーからしてみると毎日のように戦うことはそこまで苦ではない。ただ自分に降りかかるものへの対処を進めているだけであり、それ以上のことはないのである。そして戦うことに対して彼女は恐怖心などは感じてない。
強いことと、恐怖をしないことは別であろうが……、ドゥニーの場合はその加護と性格が一致していると言えるだろう。
心配されて、きょとんとした表情のドゥニー。
ぼーっとしながら、空を見上げていた様子が毎日の襲撃に苦悩しているように見えたらしい。
彼女は表情豊かで、よくにこにこしている。ただし澄ました表情をしている場合にはそう見えても仕方がない。
「大丈夫よ。ただ面倒だなって思っていただけ。こんなにどんどん来られても向こうも疲れるだろうになぁって」
あくまでのんびりとそう答えるドゥニー。
向かってくる者達への、悪感情などは全く以ってないようである。自分を殺そうと、害そうとする相手も『鉄壁令嬢』からしてみれば特に感情を揺さぶる相手ではない。
――彼女は強者であるがゆえに、あまり感情が揺さぶられることはない。
「……そうですか。ドゥニー様が、苦しまれていないのならば本当に良かったです。このような事態が起こるなんて、私は恐ろしいです」
「そんなに怯えること?」
ドゥニーと話している者は、狙われている商人に仕えている存在だ。彼からしてみると、今の状況は不本意なのだろう。そしてその顔が青ざめるのも……当然と言えばそうである。
ただしこれまで生きてきて、様々な出来事に巻き込まれ続けていたドゥニーはこの程度で恐ろしく思う気持ちは理解出来ない。
『鉄壁』の加護はそれだけ強大なものであり、彼女は基本的に恐怖心などを感じることはなかなかない。
「はい……。私達にとってはそうです」
「そっかー。恐ろしくて仕方がないなって怯えてしまうのは大変だよね。私がなるべく早急に解決させるつもりだから、少しだけ我慢してもらえると助かるわ。それが終われば……こういった状況はなくなるけれども、いつかはこういうことがまた起こるかもしれないから色々対策はしていかないとね」
軽い調子で、ドゥニーはそう言って微笑んだ。
基本的にドゥニーは、善意をもって行動している。怖がっている人が居れば、どうにかしていきたいなと当たり前のように思っている。
ドゥニーの言葉を聞いて、彼は頷いた。
――そしてそれから少しして、ようやく貴族や国に正式に報告がなされた。表向きは問題は解決したとされた。
が、当然のことだがそれでは終わらなかった。




